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03.下校時刻は危険が一杯

「主任、さっきの会議、すっごく時間の無駄じゃ無かったですか?」


後輩クンは、参加人数ばかり多くて、それぞれが報告書を読んで、質疑応答をするスタイルが気に入らないらしい。


「現場改善で良いアイデアが無いか話し合ってみるか。ただ、報告書を出すのがそもそも遅い、出された報告書に前もって目を通しておく事ができてない上役も多い、後に残るからと議事録の表現の枝葉末節に拘ると、まぁ病巣は根深く、その範囲も広い。結局、手が回って無いんだ」


指折り数えて、山積みな問題点を示すと、後輩クンも深く溜息をついた。


「主任なら、どこから手を付けます?」


そりゃまた、難しい問いだ。


「より良い睡眠の講習受講と、ストレス測定器の職場導入辺りだろう」


「皆さん、お疲れですものね」


そして、どちらからともなく苦笑するのだった。開発を担うシステムエンジニア達の闇は深い。心身共に問題無しなどと言う者は絶滅危惧種並みのレアさなのだから。





会議中に参戦する訳にもいかず放置していたミッションだが、そのせいで難易度が普通(ノーマル)に変わっていた。このペースだと、明日の朝には難しい(ハード)に届きそうだ。


会議も終わって移動と休憩の時間なので意識も切替えやすい。片付ける事にしよう。



 戦闘領域「東京都北区飛鳥山公園付近」

 難度:普通(ノーマル)

 時間制限:30分

 エリアボス:クレイフィッシュ(ザリガニ)



ボスは定番だが、戦闘エリアがかなり広い。北区と言いながら、境付近だからか板橋区もエリア対象だ。


まぁ、いい。俺は、通常装備を選んで、目の前に浮かんでいる命令書にサインした。



眼下に広がるのは、河岸をコンクリート壁で覆い尽くして、後は川底しかない石神井川だ。広域レーダーを見ると、石神井川に沿って、敵の反応が続き、春日山公園付近に敵勢力本体が陣取ってるようだ。


ざっと見た感じ、石神井川沿いに敵航空戦力は無し。


俺は石神井川沿いに素早く敵を撃破し、敵が春日山公園付近にいる間に叩く事にした。


さて、先ずは渓谷沿いの高速ミッションだ。


高度を下げつつ川沿いを進んでいくと、川底に二台のテクニカルがいて、橋に向かってバラバラとエネルギー弾を撃ちこんでいるのが見えた。


「おら、優先目標のお出ましだぞ!」


移動できる範囲の狭い川底にいる彼らに避けられる恐れはない。俺は最遠距離からシングルショットを撃ち、彼らの認識範囲内に飛び込んで、攻撃を自分に惹きつけつつ、通過するまでに二台とも撃破した。


奴らの戦闘ロジックはシンプルだ。十行もあれば記述できる程度であり、認識範囲内に目標がいれば近付いて攻撃、複数の目標があれば優先順位の高い方から撃つ、対象がないなら移動すると。


急いで次に向かうが、今度は位置が悪い。下手をすると流れ弾が埼京線にぶち当たる。そうでなくとも架線を切って運行が止まる。


仕方なく、ギリギリまで高度を下げて接近、曲がりくねった川筋を進み、川壁の向こうに互いが見えた時には、もう互いの射程距離内だ!


シングルショットを撃ちながら一台を撃破し、もう一台の至近距離まで近付いて、一気に急上昇!


流れ弾が上に流れる状況を作り出しつつ、シングルショットを撃ち続けて撃破した。





その後も同じように、橋を壊そうとするテクニカル達を撃破しながら進んで、俺はヤバい時間帯である事に気付いた。


川沿いに続く道を歩く学生達が目に入ってきたからだ。


ゲームチックなエネルギー弾の発射音や、ガリガリと削られる橋への着弾音も聞いてるだろうに、川底が見えない程度の位置まで寄って歩く程度で、こちらを見つけると、手を振って応援してくる有様だ。


戦乙女ヴァルちゃん、カワイイ〜」


「こっち見て〜」


無視すると、愛想が悪いとか言われるし、彼女達のネットワークは頼りになる。だから、愛想程度に手を振りつつ、彼女たちの近くで空中停止飛行ホバリングした。


「ここから石神井川沿いと春日山公園に敵がいるから、離れるよう、友達に伝えて。あと、流れ弾が危ないから、遠くにいても安全とは思わないように!」


指差しつつ、そうお願いすると、ノリの良さそうな一人が、了解、ガンバって、とサムズアップで応えてくれた。


俺は手を振って応えると、一気に高度を上げた。


この辺りからは、もう石神井川の川底を彷徨うろつくテクニカルは居ない。その代わり、道路沿いを我が物顔で歩いており、上空にはファンファンがワラワラと浮かび、こちらを認識すると高度を上げてきた。飛鳥山公園の上には、二本のアームを構えてこちらを威嚇してくるクレイフィッシュの姿も見えた。





交戦距離に入る迄の僅かな時間に、戦域マップを出して、敵地上戦力の配置を確認する。


やだやだ、路面電車の都電荒川線が進路を変えるT字路に三機のテクニカルが陣取ってやがる。


オマケにエリアボスは高所に位置して、見晴らしの良さを活かして、もうエネルギー弾をばら撒いてきた。


俺はわざとファンファン達と、クレイフィッシュの間に割り込んで、背後から撃たれるエネルギー弾を避けつつ、動きの鈍いファンファンを撃ち始めた。


背後と言っても人と違って、戦乙女ヴァルキリーは全周視界を持ち、死角はない。


人の多い繁華街を流れに逆らって歩く程度の難度で、ばら撒かれるエネルギー弾を避ける!


哀れなファンファンは、クレイフィッシュが動き回る俺目掛けて、散弾銃のように撒くエネルギー弾に右往左往し、運の悪い奴は友軍誤射フレンドリーファイアで自滅し、そうでない奴は俺の撃つシングルショットで爆発四散していった。





そんな危険なダンスを踊り終えて、さあこれからと言う内に、事態が急変した。


都電荒川線の車両が何故か、T字路にいるテクニカル達の射界内で停まってしまったのだ。


【架線切断発生。電力停止】


支援AIが直ぐに欲しい情報を示してくれた。


「南無三!」


俺は、大盾シールドを持つ左手側にクレイフィッシュを捉えつつ、テクニカル達のいるT字路に一気に近付き、奴らの認識範囲に身を晒した!


より優先順位の高い目標を見つけた事で、テクニカル達は荷台に据え付けられた銃座をこちらに向けて、火を吹き始めた。


痛い、痛い!


横からはクレイフィッシュが、前下方からはテクニカル達による十字砲火となれば、いくら空中と言っても限度がある。仕方なくボスからの攻撃を大盾シールドで防ぐのを優先し、結果として大盾シールドがない前下方からの攻撃を何発も受ける事になった。


被弾を認識できるよう、ゴリゴリと削れる耐久値に合わせて、平手打ちのような痛みが襲ってきて、めっちゃ痛い。


それでも我が身を盾に、攻撃を惹き付ける作戦は功を奏し、動き回りながらロックオンしてはホーミングショットを撃って、何とかテクニカル達を撃破した。





さぁ、恨み骨髄、料理してやると、クレイフィッシュに向き直ると、俺が動き回るのに合わせて歩いていたせいで、奴のアームの目と鼻の先に、飛鳥山公園の人気者、蒸気機関車D51を見つけやがった。


しかも、あろう事か、射程内に俺がいるのに、奴はアームをガチガチ鳴らしつつ、D51に向けて歩き出した。


「バグったか、このポンコツ!」


子供達のアイドル、D51を壊そうとは、その振る舞いは、万死に値する!


多分、射撃系より、近接系の評価値が高いんだろう。糞ったれ!


俺は奴の直上まで近付くと、そのまま、シングルショットを撃ちながら、奴の背を蹴り飛ばすように急降下した。


そうして、向きを変えればアームで叩ける距離まで入り込むと、優先順位が変わったようで、アームで頭部を守りながら、ノロノロと向きを変えた。


「鬼さんこちら、手の鳴る方へっと!」


下手に誘導すると、飛鳥山から転げ落ちて王子駅へと真っ逆さまだ。


そして、王子駅から遠ざけ過ぎれば、今度は動けない都電荒川線の車両にご招待。


そんな悪条件が重なる中、俺は無駄弾でも気を惹けるからとシングルショットを撃ち続けて、時にはアームの間合いに入って、方向を直してと、苦労の時間が続き……大盾シールドのエネルギー量が心許ないレベルまで入り込もうとした頃、何とかクレイフィッシュを撃破する事ができたのだった。





ホーミングショットは山なり弾道のせいかアームに邪魔される事が多く、動き回っていてはシングルショットもなかなか当たらない。それよりは回避に専念している間、エネルギーを貯めて、大弾を撃つチャージショットを装備すべきか、しかし、ロックオン系との切り替えが面倒――などと考えていると、道に停まっている車両の窓を開いて、中にいる学生達が皆で、近くに来るよう呼んでいるのが聞こえた。


「「「戦乙女ヴァルちゃん、こっちに来て!!!」」」


仕方ないので、彼女達の間近まで降りて空中停止飛行ホバリングした。


既にミッション達成画面は出ており、ポイント減少なしに留まれる時間は残り二分ちょい。


その中の一人が狭い窓枠から身を乗り出してきそうな勢いで、声を掛けてきた。


「護ってくれてありがとうございます! うちの生徒達への声掛けもあって、多くの生徒も逃げられました」


「それは良かった」


「私達の学校には、二十年の戦いを纏めたサイトがあります! きっと力になれます! 一緒に戦わせて下さい!」


いかん、目がマジだ。


時間も無い。えーと、どうする!?


戦力としては、せめて自衛隊くらいの火力が無いと話にならない、警察官の拳銃で有効打を狙うのすらリスクが大き過ぎる、学生にできる事なんて、あー、学生って言うけど。


「ゴメン、どちらの学生さん?」


そう問うと、信じられないとか、区別付かないんだとか、中の人が三十路ならそんなものかも、などと姦しい!


そりゃ、十年前から戦ってるんだ、学生時代なんて遠い昔、学生達の制服なんざいちいち区別できるかっ!


それでも、驚きを捻じ伏せて、彼女は必要な情報を話してくれた。


「情報技術高等専門学校、略して情技高専です。ググればトップに出てきます! ご当地戦士、研究、支援、老舗、二十年、そんな単語で調べてみて下さい!」


こちらの時間が無い事を理解しているようで、印象的な単語を解りやすく列挙してくれた。そこまで言うなら調べてみるか。あんまりその手のサイトにいい印象は無いんだが。


「掲示板とか、炎上してたり――」


「入口でご当地戦士と一般を分けてあるので大丈夫です!」


打てば響くとばかりの反応だ。心遣いは有り難い。


「それじゃ、後で覗いてみるよ。さぁ悪夢は終わりだ」


延長操作のボタンが誘うが、俺はそれを無視してミッションを終えた。





面倒で神経を使う費用計算やら、進捗率の計算やら、管理職の悲哀を感じながらも仕事を片付けて、それとなく後輩クンに、件のサイトについて聞いてみると、念の為、秘密保持アプリ経由でのアクセスを勧められた。


「老舗ですし、他よりはかなりマシなんですけど、学生が運用してて、あの年代の子達って、とかく情熱が暴走しがちですから。まぁ念の為です」


紹介されたアプリは、夢幻情報保護法に準拠している事を示す認証を受けているし、ダウンロードするプログラムは熱狂的なマニア達が怪しいコードが無いか調べ尽くす昨今なので、公開からある程度の日数が経過してれば安心だ。


「でも、主任はその手のサイトは見ないって言ってませんでした?」


よく覚えてるな。


「どうせ裏の取りようもない、記憶しか残らず証拠も出せないのに、口煩い連中が多くて気が滅入るし、延々と争ってるのが目に入るのは勘弁して欲しいが、それを目にしないでいい工夫があるとかで――」


「そうなんですよ。アクセス数稼ぎに終わらないレスバを仕掛けたり、燃料投下ネタを使いまわしてたりするサイトも多い中、あそこは――」


どうも、俺は後輩クンの心のトリガーを引いてしまったらしい。


面倒事を避けたい気持ちを見透かされ、結局、その日は夕食を奢ることを引き換えに、後輩クンが満足するまで、御高説を賜ることになった。

ブックマーク、いいねありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

2022年2月25日までは毎朝7:05まで投稿していきます。

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『ゲームに侵食された世界で、今日も俺は空を飛ぶ』を読んでいただきありがとうございます。
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