交霊会
「私は今、神戸市内のとあるビルの地下にやってまいりました。今夜、この地下室で交霊会が開かれるということです。 メンバーは男性三人、女性一人の計4名。皆さん、かなり年配の方ばかりです。参加者の代表、津久茂重蔵さんにお話を伺ってみましょう。
まずは、今回交霊会を開催される目的はなんでしょう?」
「こんばんは、交霊会を主催している津久茂です。霊というものは全ての人に宿っております。それは、この世にいる人、あの世にいる人全ての人です。今この世にいる霊が、今あの世にいる霊と交信しあえれば、お互いが知らなかった情報を得ることが出来るわけでして、言わば遠くにいる人同士がメールやSNSですぐに情報交換するのと同じですね。交霊会というのは、霊のインターネットのようなものです」
「なるほど、霊のインターネットですか。で、そのインターネットで津久茂さんはどのような情報を手に入れたいとお考えですか?」
「そうですね、人間はどのように生まれ変わるのか。親しかった人が今どうしているのか。あっちではどんな曲が流行っているのか、とか…」
「あの世でも流行の曲などがあるんですか?」
「もちろん、この世もあの世も同じような人間の魂が支配している世界なので対して変わりはありません。音楽もあれば映画もある。政治、経済、芸術、スポーツなど、あらゆる分野の活動は同じように行われています。この世とあの世が交流すれば、さらにそれぞれの分野で刺激を与えあえるのではないでしょうか?」
「津久茂さんはどんな分野の霊と交流されたいのですか?」
「映画関係の方ですね。若い頃から映画が好きだったものですから」
「どういう作品がお好きでした?」
「阪東妻三郎ですね。『雄呂血』の立ち回りなんて素晴らしかった」
「随分、昔の作品ですよね」
「私、阪妻と同い年なんです。明治34年生れ、彼は昭和28年に亡くなりましたが、私は39年の暮れに死んだんです」
「死んだって、どういうことですか?」
「みぶさんには話してませんでしたが、ここにいるのは死んだ人間ばかりなんです。我々、映画好きが集まりまして、映画関係者でまだ生きてる人の霊を呼ぼうということになったんですよ。だから、この世からあの世の霊を呼ぶ交霊会ではなく、あの世から生きてる人の霊を呼ぶ交霊会というわけです」
「じゃ、こちらの皆さんも死んでる…というか、つまり故人さんなんですか?」
「ええ、こちらの紳士は上田直正さん。こちらの女性は伏見直江さん。で、こちらが田村傅吉さん」
「はあ、どうもはじめまして… えっ!伏見直江さんって時代劇の大女優じゃないですか。上田直正さんは市川百々之助、田村傅吉さんは阪東妻三郎の本名。
そうですか、皆さん、あの世で元気にされてたんですね」
「私も、生前スクリーンで見て憧れていたスターの皆さんと、こちらへ来ておつきあい出来るようになって嬉しいんですよ」
「皆さん、長く活躍されて天寿を全うされた方ばかりですね。ところで、もっと若くして亡くなった方、例えば赤木圭一郎さんとか、そういう人もこちらにはいらっしゃるんですよね」
「ええ、若い方は、こちらでも映画を撮ったりされてますね」
「この会は、たまたま年配の方ばかりがお集まりになったというわけですか?」
「こういうことには、我々年寄りしか興味を持たないんですよ」
「お年寄りしか集まらない?」
「ええ、何しろ コウレイ会ですから」