006 お金がない!
「それで、どうすんだよ」
「新着チェック〜」
「ごるぁ!!」
水晶玉を操作し、動画の新着チェックしようとする私に、ぶにょりとクロスケの体当たりが炸裂する。
しかしながら、冷たいゼリーが顔に当たったところでノーダメージだ。
「もう私は、朽ち果てるまで動画を見続ける人生を送るのです!!」
「お前さ、骨だけだから、すでに朽ち果ててるじゃん」
「せやなー」
「はぁ……。まあ、俺は別にどうでもいいんだけどさ。
それにしたって、なんで勇者は魔王城に来なくなったんだ?」
「おや、ご存知ない?」
「俺は魔王様の愛玩魔族として飼われてるだけだしな。
最近は飽きたのか、俺にも構わなくなってるけど」
「そっか。前線に立つわけでも、内政を担当するわけでもないもんね」
「そそ。んで、なんで勇者来なくなったん?」
「あー……。それねぇ……」
一番大きな理由は、魔王様に話たのと同じだ。
魔王軍が人間世界に侵攻しないため、危険だとみなされなくなったことが大きい。
けれど、他にもいくつか理由はあった。
「ほら、魔王様ってさ……。リフォーム好きじゃん?」
「みたいだな。ちょくちょく手を入れてるみたいだし」
「そそ。んで、その結果……。攻略不能の魔王城になっちゃったのよ」
「…………。それは、いいことじゃないのか?」
「ま、そうなんだけどね。けどさ、攻略できないなら、攻略しようとしないよね?」
「まあ、うん。そうかも?」
「なんたって、仕掛けられたトラップを熟知している私ですら、時々引っかかりそうになるんだから」
「そりゃ、初見で挑まないといけない侵入者にとってみれば、無理ゲーだわな」
「でしょでしょ? しかも攻略したところで大した見返りがない。確実に放置案件でしょ」
「わかる」
異世界のゲーム実況を見続けた私たちにとってみれば、今の魔王城は、クリアしてもなんの達成感もない、一度のミスが死に繋がるクソゲーにしか見えなかった。
まあ、勇者なら死んでも蘇生する方法はあるものの、それにかかる費用は相当大きい。そんなのに挑もうとするのは、よほどのクソゲーマニアだけだろう。
「それじゃあさ、見返りを用意すればいいんじゃね?」
「うん。そう思って、魔王様に黙って、色々とアイテムを各所に隠してあるんだよね」
「あ、もしかして、俺の部屋の前の廊下にある宝箱って……」
「あれは確か……。ああ、回復薬入れたような気がする!」
「お、マジか。あとで飲んどこ」
「使用期限が70年前くらいに切れてると思うけど」
「おい。ちゃんと管理しろ」
「いや、ほら。予算がね……」
「まーた予算か。ん? 薬の交換に魔力はいらんだろ?」
「こっちは、金がかかってるんよ。
本当は、侵入者の身包み剥がして稼いでるんだけどね。
まあ、侵入者が居ないと買い出しもできないし」
「収入ゼロの魔王城。これは魔王様討伐しなくても、いずれ勝手に滅ぶな……」
「もしかすると、人間はそれが狙いなのかも?」
「ずる賢い奴らだ」
まさかそこまで考えての人間の行動ならば、舌を巻くしかあるまい。舌はないけど。
まあ、多分考えすぎだ。そんなに頭のいい相手だとは思えないし。
「結局あれか、問題は人間が来ないことなんだな」
「そうなるねー」
「人間を呼び寄せるには……。やっぱ魔王軍を再編成して、攻めるしかないかな」
「魔王様にやる気があればねー」
「ないだろうな」
「ないだろうね」
「それで、人間を釣る餌を置くにも金がないと……。
それなら、さっき襲った農村から金品強奪するか?」
「農村にある金程度で、餌になるアイテムを買えるとお思いで?」
「そんなに高級品置いてるのかよ」
「クロスケちゃんさー、ゲーム実況見てわかるっしょ?
魔王城と言えばラスダンよ、ラスダン!」
「最近知ったばっかの言葉でイキるな」
「そんな場所にさ、初期装備とか置いてあっても、誰も欲しがらんでしょ?」
「まあ、それは分かる」
「あー、金が欲しい。5000兆円欲しい」
「やっぱ動画に毒されすぎだな」
ぐでーっと椅子でダレれば、スライムはぷぅと妙にかわいいため息をつく。
こういうあざといところが、魔王様に気に入られたのだろうか……。
「じゃあさ、投げ銭で稼ぐか」
「…………。はい?」
「ほら、動画で見てただろ? 投げ銭機能」
「ああ、あの配信の時に時々表示されてるやつ?」
「そう! 俺たちも配信して、投げ銭で稼ごうぜ!」
「稼げるのかー? というか、異世界の金貰ってどうすんのよ?」
「何言ってんだ? 動画システム自体は、こっちの人間にはすでに浸透してんだぞ?
もちろん異世界とは繋がってないけどな」
「えっ……。人間界の魔法技術、魔王軍抜いてない?」
「娯楽方向にはそうかもな。俺の持ってる水晶玉も、元は人間が持ってたやつを改造したものだし」
「魔王城に引きこもっている間に、文明はどんどん発達していく……」
「そうだな。お前もさ、引きこもってる場合じゃねえぞ?」
「でもなー! 魔王城って居心地いいもんなー!」
「クソニート気質め!」
まさか、ぷよぷよと跳ねるスライムに説教される日が来ようとは、思いもしなかったなぁ……。