030 厳重警戒
「命からがら逃げてきたならまだしも、魔物を倒しただと!?」
「まあ、そういうこともあるんじゃないですかねー?」
「人をおちょくるのもたいがいにしろー!!」
(人間おちょくるのは楽しいな)
(わーかーるー)
念話は人間に通じないのをいいことに、顔を真っ赤にしている上官相手にこの態度だ。
まー、相手に気付かれなければ別に問題ないですし? それに相手はしょせん人間だし?
「証拠あるのに……」
「そんな証拠、そのへんの馬の骨でも拾ってきたんだろ!」
(近からず遠からず)
(そのへんの人の骨ですからねー)
「えー? どうやったら信じてもらえるんです?」
「ともかくだ、呪印の有無は調べさせてもらう」
「そっか、呪印がなければ問題ないんですもんね!」
「呪印検査紋の精密版は……」
呪印の検査なんてできるとは、人間もなかなか頑張ってますねぇ。
魔法陣が書かれた板に手を置くだけで確認できるとは、人間らしいというかなんというか……。
私なら、見るだけで分かりますよ。本職ですから。見たことないから知らんけど。
「むむ……。陰性か……」
(ま、当然だよな)
(そうですよね。実際呪印なんて付けられてないですし)
「しかし、相手は喋るほどに高度なスケルトンと聞いている……。
呪印をごまかす方法があるのかもしれないな……」
「ちょっとぉー!? 通してくれるんじゃなかったんですかー!?」
「こちらは街の住民の命を預かっているのだ。念には念を入れてだな……」
(めんどくせえ……。処す? 処す?)
(許可を求めるのではなく『処す! 処す!』という強い意志を持ちましょう)
(よし、処す!)
(まあ、処しませんけど)
(処さんのかーい!)
なんのために今まで穏便に済ませてきたと思ているのだクロスケは。
…………。実際、何のためでしたっけ? ええと……。
ああ、動画撮影? あとはクロスケがお酒飲みたいから? めっちゃクロスケの都合やんけ!!
なんだかモヤモヤしますが、ぐっと呑み込んでおきましょう。お酒と共に。
「それじゃあ、私が倒したことを証明できればいいんですよね?」
「んん? まあ、そうなるが……」
「それじゃ、倒せるトコお見せしますんで、適当な魔物を下さいな」
「お前……、適当な魔物が街の周囲をウロついているわけないだろう!」
「えぇ……。この街って魔物いないんですか……。うーん、どうしましょう?」
「というよりもだ、普通の街にはそうそう魔物なんて……。
ああ、そうか。モリナシの村出身だからか……。いや、さすがにモリナシでもそれは……」
(なんかブツブツ言い始めたぞ)
(この人考えこむと、周りが見えなくなるタイプですかね?)
(なーんかそれ、誰かに似てるよな)
(ああ、魔王様もそんな感じですよね!)
(自覚ナシ、と……)
「しかし、本当に魔物を倒せるほどの腕であるなら、それはそれで……」
「あのー、長いです。結局通してもらえないんですか?」
「…………。では、こうしようではないか。
おい貴様、検問番も飽きただろう。この娘と決闘してみるのはどうだ」
「はっ! いえ、飽きたなどそのようなことは決して!」
「なんだ、命令を聞けぬと?」
「そっ! そうではなくっ! はい! 喜んでお受けいたします!!」
どうやら私たちの担当になった検問官は、相当不満を持っていると思われていたらしい。
それは私もわからなくはない。不本意な仕事を押し付けられるのは、私にもよくある話なのでね。
ホント、上司ってのはやれああしろ、やれこうしろと、気分でモノを言うものだ。
あー、そういや魔王様、今頃どうしてるんだろうなぁ……。
なんかそんなことを考えていると、この人間が不憫というか、シンパシーを感じてきたなぁ。
「では、私がお相手いたします」
「ワイよ、武器はこちらで用意しよう。何を希望する?」
「え? 武器ですか? 素手で十分かと」
「ふむ……、組手か。実力を見られれば十分であるから、別に問題なかろう。
おっと、こちらは歳ゆかぬ娘相手に組手では、少々気恥ずかしいか?」
「そっ、そんなことはっ!」
「なら安心だ。では、開けた場所へ移動し、その実力を見せてもらおうではないか」
真面目そうな上官だが、決闘となれば少しばかり表情が緩んでいる。
どうにも喧嘩っ早いわけではないけれど、戦うことが好きな雰囲気を感じる。
なんというか、昔封印された四天王の一人を思い出してしまう。まあ、あっちは脳筋だったけど。
なんてことを思い出しながら、検問の列から離れ、草原で私たちは向かい合った。
「審判は私が行う。どのように戦うのも自由だが、その後障害が残るような攻撃は禁止だ」
「はーい」
「よろしくお願いします」
上官の前というのもあり、相手はペコリと頭を下げた。一応こちらもそれに習い、小さく会釈する。
魔王城の侵入者と違い、こうも礼儀正しくされると少々やりにくいですね。
(てか、大丈夫か?)
(手加減はしますよ。せっかくここまで、騒ぎにならないよう立ち回ったんですから)
(まあ、そうだな。負けたら負けたで、別に問題ないしな)
(私が負けると思ってるんですか!?)
(だってほら、骨っこだし……)
(非力なのは否定しませんけどね)
「では、はじめっ!」
クロスケとの念話の途中で決闘開始の合図が入った。
まあ、とりあえず様子見ということで一撃入れさせてもらいましょう。
つかつかと相手の目前まで歩き、少々力加減を迷いながら、私は右手の拳を振り抜いた。
「死なない程度の手加減パーンチ!」
次の瞬間、ドゴーン! という轟音と共に、相手は街を守る壁に打ち付けられ、強固な石造りの壁には大きなクレーターができていた。
「やっば! 力加減間違えた!?」




