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002 予算がない!

 魔王様の魔王城改装、それは幾度となく行われてきた。

侵入者が入ってきては、そのたびに更なる強化をするため……。などではない。

ただの魔王様の趣味だ。おうち改造が趣味の、引きこもり魔王様の趣味なのだ。



「魔王様。お言葉ですが、改装は本当に必要でしょうか?」


「なにを言っておる! 勇者どもが侵入してくれば、我だけでなく貴様の安全も保証されんのだぞ!?」


「それはつまり、魔王様は勇者が侵入した場合、戦って勝つことができないとお思いなのですね?」


「そっ、そんなわけなかろう! 貴様、我の力を侮っておるのか!?

 どのような強者であっても、我が勝つに決まっておろう!!」


「ワイトもそう思います。ですので、改装は不要ですね?」


「ぐぬぬ……。否! 我が勝てるとしても、貴様の他、手下どもが勝てるとは限らんだろう!?」


「ワイトもそ……」


「それはもうよい! 同意するのであれば、文句はないだろう!?」


「ありますよ。文句というよりは、問題がですが」


「なんだ。言ってみよ」


「予算が足りません」


「…………。は?」


「ですから、予算が足りません」


「予算……」



 魔王様は輪郭の太くなった手を、おそらく顎あたりになるであろう場所へ持ってゆき、すりすりとしている。

表現に困るので、仮でもいいので適当な姿になって欲しいものだと思いつつも、黙って眺めていよう。



「魔王城の改装に、なんの予算がいるのだ?」


「あ、そこからっすか……」



 声色から、真顔で聞いてきたのがなんとなくわかる。黒いもやが真顔を形作ったわけではないけれど。

しかし魔王様が予算に関して理解していないのも、無理もない話だ。

なにせ魔王城改装に必要な予算は、人間どもとは違い、金ではないのだから。



「魔王城の改装には、魔物どもが居れば十分であろう?

 もしや、材料を人間から買っていたなどと言うのではないだろうな?」


「そんなわけないじゃないですか。人間から買っているのなんて、餌用に置いているアイテムくらいっすよ」


「待て、餌なんてものがあるとは初耳だが……」


「そうでしたっけ? ふふふ……」


「誤魔化そうとするな! 詳しく聞こうではないか」


「まあ、この機会なんで話ておきましょうか。

 あ、長いんで、お茶の用意お願いしますね」


「貴様……。その体のどこに、茶を仕舞い込むつもりだ?」


「なんとなく言っただけですよ」



 魔王様はワイトジョークに笑うでもなく、具現化させた手を部屋の端へとやったかと思えば、一脚の椅子をこちらへとよこした。

あの手って、やっぱもやを具現化させただけだから、遠隔操作できるんだなぁ……。

動かずとも遠くのものを取れるから、ものぐさな性格なら便利につかえそうだ。



「それで、予算とはなんの予算だ」


「ああ、そうでしたね。必要なのは金ではなく、魔力ですよ」


「改装に魔力が必要なのか?」


「ええ、もちろん。実際には、改装を行う魔物の製造に必要なのです。

 魔族と違い、魔物は意識を持たぬ人形のようなもの。

 その者たちを作るにも、思うように操るにも、魔力が必要になっているのです」



 私の説明に納得したのか、もや状態の体を玉座にどっしりとかけ直し、ふんとため息をつく。

「何をくだらないことを言っているのか」なんて言葉が聞こえてきそうな態度だ。

そういう尊大な態度は、魔王としては正しいんだろうけど。



「ふむふむ……。魔力が必要なのはわかった。

 であるなら、私の膨大な魔力が……」


「それを使うとはとんでもない!

 魔族にとって魔力とは、人間で言えば血液のようなもの!

 浪費して弱体化など、あってはならないのです!」


「う……、うむ……。あえて人間で例えた意味は分からんが、それは理解している。

 だが、必要なら使うのが当然だろう?」


「はぁ……。魔王様は魔力が多いので、あまり気にしてないんですよね……。

 本来魔力は、収入と支出のバランスを見て使うものであってですね……」


「長い小言になりそうだが、要点だけを述べよ」


「あ、はい。えーっと、では収入から。

 収入、つまり魔力の供給元ですが、魔王城への侵入者です」


「ふむ……。侵入者から魔力を吸い上げているのか」


「まあ、そうっちゃそうなんですけど、効率化してましてね。

 人間の死の間際の絶望、それが魔力を増大させるのです」


「ほう……。そんな現象があるのか」


「そうです。火事場の馬鹿力と同じで、魔力も危機が訪れると増大するのです。

 ですので侵入者に絶望を叩きつけ、命を刈り取るのが収入を増やす方法なのですよ」


「ふーむ……。ならば我の魔王城改造は、それに役立っているのではないか?」


「ええ。確実に殺しにきているトラップと、ボスとしての魔族の配置。

 それはそれは、絶望へと沈めるには、大変役立っていますよ」


「そうだろう、そうだろう。なにせ我が寝ずに計画を立てているのだからな」


「魔王様は元々睡眠を必要としないでしょう?」


「常に考えているという意味では、同じことよ」


「そっすかー」


「ふふん!」



 くそどうでもいいという気持ちを込めた棒読みストレート投球は、ストライクゾーンから外れたようだ。

まさか本当に、得意げな「ふふん」を耳にすることがあるとは、思ってもみなかった。

まあ、骨しかないんで耳はないんですけどね!



「それで、収入は十分にあるのだろう?」


「ないですよ!」


「なぜだ!? 我のトラップが、侵入者に効かないと言うのか!?」


「そうではなく、侵入者がいないんですよ!!」


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