018 次回作を考える
前回までのあらすじ!
・魔王様に無茶ぶりされたってさ。
・動画投稿始めるんだってさ。
・初動画はミノタウロスと生花教室。
・意外と好評だったらしい。
「はー……。とにもかくにも、無事終えられて何より……」
「そうですねぇ……」
反省会を終え、クロスケと取り残された湿度の高い部屋。
部屋が部屋の形を保てたのは何よりだけど、問題は今後の方針だ。
「で、どうします? このままミーさんを頼ってもいいですけど」
「いや、人間ウケがよくないだろ? 内容はいいと思うけど」
「まあ、そうですよね。魔族相手なら全然アリなんですけどねぇ……」
「てことはだぞ? 魔族のツテを使ってるうちは、人間相手の動画にならねえってことよ」
「そこに気付くとは、やはり天才か」
「普通気づくだろ」
「ま、まあ、もちろん私も気づいてましたけどね!」
「怪しいところだ」
怪しいとはなんて言いぐさっ! けれど、クロスケは私が思っていたより、動画制作に本気らしい。
人間向けに作るなんて、魔族、それも魔王様直属の者にしてみれば、屈辱でしかないのだから。
「いや、むしろ逆か……。人間の作ったものより再生数が低いのが気に入らない……」
「ん? 何の話だ?」
「いえいえ、こちらの話ですよ。しかし、人間の生態が分かっていないと、人間向けのものは作れませんよねぇ……」
「そうなんだよな。俺も魔力供給のために、人間の村を襲ったりはするんだけどさ、人間の思考とかはわかんねえんだよな」
「人間も牛肉食べてるからって、牛の思考が分かってるはずないですし、同じようなもんですよ」
「そういや前から、ちょいちょい人間側的なこと言うけどさ、ワイトは元々人間だったんだよな?」
「ええ、そうですよ。なので言い回しが若干、人間よりだったりするんですよねー」
「ならさ、人間の知り合い居ねえわけ?」
「ははは、御冗談を。私が魔族になって、何百年たってると思ってるんですか」
「だよなー。大抵の人間は、今じゃお星さまだろうよ」
「ですです。なので今後も、ミーさんのフラワーアレンジメント教室するしかないんじゃないですかね?」
「ん-……。せめてもう少し、人間にすり寄る方法がないか……」
めちゃくちゃマジメに人間に媚びうる方法を考えてるけど、コイツ人間の村を襲って「頭をパーン!」ってした張本人なんだけどなぁ……。比喩ではなく、マジで。
あれは一応分裂体だって言ってたし、罪悪感的なものはないのだろうか。
まあ、魔族に罪悪感という感情は人間よりかなり少ないし、何より人間にとってのただの食事と変わらないのだから、何も思ってないのだろうなぁ。
「そういえば、クロスケは分裂して人間の村を襲ってましたよね?」
「ああ、今も待機させてるぞ?」
「あれ? 村を襲ってないんですか」
「まあな。普段は適当に遊ばせておいて、人間の狩りの標的にされてたりするぞ?
もちろん反撃して、勝った時にはおいしくいただいてるけど」
「つまり暇と……」
「ありていに言えばそうだな」
「その子たちを人間界に潜入させてはいかがです?
人間たちの様子を見れば、何か掴めるものもあるかもしれませんよ?」
「ほう、人間どもの様子を観察するってことか」
「そうですそうです! 彼を知り己を知れば百戦殆からず、とかいうやつですよ!」
「まあ、確かにそうだな。俺が知ってるのは、異世界の動画知識だけだしな」
面白い動画を見ているだけで、同じように面白い動画を作れると思ってしまう。それは私も同じでしたね。
実際、どういうものが求められてるかってのは、調べないと分からないものだし。
「ただ問題があるんだよなぁ……」
「問題?」
「それが、分裂体のスライムってさ、めっちゃ弱いんよ」
「いや、本体も十分弱いでしょ」
「まあ、否定はしない。けどさ、細かい制御できなくて、隠れて諜報活動なんてのは難しいんだよなぁ」
「なるほど、意外と制約があるんですねぇ……。
でしたらもう、本体が乗り込むしかありませんね」
「はい?」
「だから、クロスケ本体が人間の村に紛れ込むんですよ!」
「それ、普通に危ないじゃん」
「虎児に入らずば虎穴は得ずです!」
「それ逆。でもまあ、確かにそうか」
「てことで、いってらっしゃーい!」
「…………。いいこと思いついた! 人間に化ければいいじゃん!」
「へっ!?」
「ほら、動画撮った時の姿なら、隠れる必要すらないだろ?」
「私を巻き込まんといてもらってええですか?」
「ダメでーす。これは決定事項でーす!」
「ちょっ!?」
言うが早いか、行動の方が相当早いか。その瞬間、再び私の体にクロスケが絡みつく。
こんな薄い本的展開は、一回で十分だっていうのに!
「うむ、これなら人間どもも気づくまい」
「はぁ……。結局、巻き込まれるんですねぇ……」
「沈むまでは、動画作成に付き合ってくれるんだろ?」
「早く沈めなければ……」
「おいやめろ! それにお前もさ、久々の人間界見てみたくないか?」
「え?」
「人間だった時とどう違っているか、気にならねえの?」
「別に……」
「意外と薄情だな!?」
「まあ、色々ありましたからねぇ……」
人間界か……。元々一匹狼だった私にとってみれば、むしろ知らない世界だ。
そこに今さら変装までして入っていくなんて、違和感しかないんですよねぇ……。
「ん? 変装して潜入……?」
「どうした?」
「あー……。何かがこう、喉元まで出かかってるんですけど……」
「おい! 吐くなよ!? 絶対吐くなよ!?」