017 反省会
「どうします?」
「お前いけよ……」
「えぇ……。嫌ですよ」
ふるふると震えるミーさんに聞こえないよう、コソコソと小声で話す私たち。
それにしたって、どう考えても爆発寸前なのだから、私だって行きたくないんだけどなぁ……。
「あなたの動画のせいでしょう?」
「それを言ったら、アイツを紹介したのはソッチだろ?」
「そこから言います?」
「それに、今日も呼ばない方がいいと思ってだな……」
「なら、先に言っておいてくださいよ」
「まさか連れてくるとは思わなかったし」
醜い責任の押し付け合いである。
こういう時の着地点ってのは、大抵決まっているものだ。
「では、同時にいきましょう」
「え? やだ」
「待って、こういう時は仕方ないなぁとなる所でしょう!?」
「さすがに二度目の崩壊はキツイっす……」
「前に斧で斬られたこと、まだ根に持ってるんですか」
「根に持っているというか、トラウマだし! てかそれが普通の反応だし!」
「はぁ……。アンデッドじゃないというのは、不便なものですねぇ」
「便利な死亡済みさんよろしゅう」
「まったく、仕方ありませんね……」
なんだかんだで折れてしまうのは、私もクロスケに甘いですねぇ……。
ま、骨なんで折れてナンボですけどね! いや、折れたらダメか。
「あー……、ミーさん? 大丈夫ですか?」
「…………」
そーっと近づき、間合いギリギリに入らず聞いてみる。何か言っているけど、聞き取れないレベルだ。
仕方ないので、そーっと顔を覗き込むとそこには……。
「あ、泣いてらっしゃる」
「オイの花、そんなにダメだべか……?」
「ああ、それですか」
小さい虫の羽音程度の声で、めそめそと泣きながら言葉を漏らす牛頭があった。
気にしてたのそっちかー。全然声撮れてないとか、そういうんじゃなかったのかー。
まま、とりあえず暴れないようで何より。いや、ダメか。
ここで会話の選択肢を間違えれば、クロスケの部屋と共に埋葬ルートですね。
「えーとほら、それは慣性の法則というやつでですね」
「慣性の……。それを言うなら感性の違いだろ?」
「あ、クロスケ生きてたんだ」
「死んだことありません」
「感性の放送……?」
「なんか混ざって……、まあいいか」
暴れないであろうことを察したクロスケがやってきて、いつも通りツッコミ作業に入ろうとする。
しかし、ここで機嫌を損ねると危ないというのを、すんでのところで察知したようだ。
「相手は人間ですからね? 魔界の植物をあまり見たことがなかったんですよ」
「あー、人間ってのは面倒な奴らだな! あの綺麗な花の良さを分かってないんだからさ!
ワイトもそう思うだろ!?」
「ワイトもそう思うます! 魔王様ならきっと、喜ばれたでしょうねぇ?」
「うぅ……。そう言ってくれて、嬉しいだべ……。
でもオイ、全然うまく説明できてながっだし……」
「あ、一応そこも気にしてたんだ」
「クロスケ! おだまり!!」
「ひゃいっ!」
「ええとほら、それはですね! えーっと! クロスケの編集で字幕付いてましたしね!?
いやはや、クロスケの活躍の機会を残す心配り、さすがですねぇ!!」
「ちょっとそれは無理があるんじゃ……」
「おまだりっ!!」
「ひゃっ!?」
空気の読まないツッコミマシーンを黙らせつつ、穏便に済ます方法を考える。
なんて面倒なんだと思いつつも……。まぁ、魔王様を言いくるめるよりはマシかなんて考える。
根っからの社畜的思考が嫌になりますねぇ……。ごまをすりすりですよ。
さてはて、どうやってこの爆弾と化した牛さんに、すりごまをねじ込みましょうかね。
なんだか急に、ごまだれでしゃぶしゃぶが食べたくなってきた。胃はないけど!
「ともかくともかく! 初めてで急の動画撮影だったんだから、うまくいかなくて当然でしょう?
それに、コメントくださっていた女性の方からは大人気でしたよ!!」
「えっ……。オイ、そんなに人気だっぺか?」
「そりゃもう! きっと今頃、人間の女たちの間では黄色い声援が飛んでますよ!」
「へへへ……。そげかぁ……。オイが人間どもの間で人気に……」
「だから自信もってくださいね!」
「へへ……。んだべな! 次はもっとうまくやれるよう、練習すっぺ!」
「そう! その調子です!」
ぐっと拳を握り天へと掲げ、なにやら気合を入れている。
まあ、ともかく暴れることもなく、次回に向けてやる気を出してくれたなら何より。
クロスケも部屋を荒らされずに済んで、ほっと一安心したようだ。
「クロスケはん、次回の撮影はいつだべ!?」
「え、ああ……。何回か分取りだめたから、しばらく先になると思うけど……」
「んだば、今から帰って、うまく喋れるよう練習するっぺ! へばなー!」
「はいはい、次回も頼みますねー」
元気を取り戻し、部屋を出ていく後姿を見送って、やっと一息つく。
まあ、私は元々息してませんけどね! すでに息を引き取ったあとなので!
「ところでさ、気になってんだけど」
「なんです?」
「あのコメント、ホントに女なのか疑わしいよな……」
「知らぬが仏ですよ。まあ、私もすでに仏ですけどね!」
「そっかー」