013 胸がない!
「いいですねぇ、いいですねぇ……。
自分自身が美少女になる。それはつまり、どんな恥ずかしいポーズも、思いのまま……」
「それは俺が阻止するけどな」
夢と別のトコが膨らむ私に対し、そっけない反応のクロスケ。
まあ、夢以外の膨らむところは持ち合わせてませんがね!
そして人間の娘の姿である私から、顔を真っ赤にして目をそらすミーさん。
デカイ図体して、ホントにシャイなんだから!
ということで、からかうぞー!
「えいっ!」
「ひゃぁっ!?」
背中を向けるミーさんに抱きついてみれば、まるで歳ゆかぬ乙女のような声を上げた。
「いや、見た目的に逆! なんだよ野太い声の『えいっ!』って!!」
「これは仕方ないですよ。私は元々男ですし」
「あわわわわわわわ……。胸が、胸があたって……。
あれ? 当たってねえべ?」
「いやいや! そっちはそっちで何言ってんの!?」
半泣きになっていたミーさんは、胸が当たってないことに気付くと、しゅっと冷静さを取り戻したようだ。
私も変化に驚いていて気づかなかったが、確かに言われてみれば胸元がさみしい。
ぺたぺたと触ってみても、ほんのりと丘になっているということすらないのだ。
もちろん、今までよりは肉があるものの、すとーんと壁になっている。
今までは肋骨だけだったんで、大成長ですけどもね!
「なるほどなるほど、これはクロスケの性癖ですね!?
つまりクロスケは貧乳好きだと!」
「てめえ、マジで骨砕くぞ!」
「オイは、胸のない女は、女として見れねえんで平気だべ」
「この骨砕いた後は、てめえのツノ砕いてやるから待ってろよ!」
「ひっ!」
ミシミシと音を立てる私(特に胸元)を見ていたミーさんは、クロスケの脅しにツノを手で隠す。
そんなに怖がることないと思うんだけどなー。実際今、骨砕かれそうになってる私が言っても説得力ないだろうけども!
「まーでも、華がないうんぬん言ってたんだし、巨乳にしときましょうよ」
「いんや、奇乳と言われるぐらい大きい方がいいべ。
なにごとも大きければ大きいほどいい。そう古文書にも書いてあるべ」
「んな古文書破り捨てろ!」
「貧乳過激派こわすぎ。近寄らんとこ」
「ちげーし! 貧乳派ってわけでもねえし!
無駄に肉付けすると、俺の構成物質が足りねえんだよ!
あと形を保つのに。魔力と集中力食われんだよ!」
「なるほどなるほど。建前は結構。本音は?」
「クロスケ、スレンダーな子、すきー」
「やっぱり貧乳派じゃないか!!」
「しまった! って、何言わせんじゃい!」
「まさかのノリツッコミ。腕を上げましたね」
「それほどでも」
ぷるぷると身体を震わせ、クロスケが小さくため息をついたのが身体越しに伝わってくる。
そろそろ本題に入ってやらないと、ツッコミ疲れで過労死しかねないな。
「ともかく、この体で動画を撮ると……」
「服は着ろよ」
「服着ない方が再生数伸びそうだけど」
「んなもん、即刻垢BANだ!」
「たしかに」
「それとあと、声もなんとかしないとな」
「色々やること多くてめんどくさくなってきた」
「何言ってんだ! これから撮影して、その後編集してと、まだまだやること山積みだぞ!?」
「うへー……。普通に魔王様に振り回されるのと大差ないじゃないっすかー」
「何かを作るってのは、そう簡単じゃねえの。ミノタウロスさんも、そう思うよな?」
「んだんだ。オイの花壇も、土づくりやら雑草引き、肥料やりと、色々やることあるべさ」
「そうなのかー。見えないところでみんな苦労してんすねー」
「んにゃ、オイは苦労なんて思わねえべ。好きでやってることだがんな!」
「そそ。せっかくやるんだからさ、ワイトも楽しめよ」
「あー、はい。乗りかかった船ですからね。沈むまではお供しますよ」
「沈む前提かよ!」
まあ、これも経験。今後の研究に活かせることも……。なくはないかもしれなくもなくない? って程度には関わりがあるかもしれない。
うん、そう思うことにしておこう。そうしよう。
「さて、では撮影準備しましょうか。
声は魔法で出してるので、変えることもできますので問題ないですよ」
「機材も持ってきてるから出すわ」
そう言うと、何もない空間が割れるように裂ける。なにそれ怖い。
そこに無理やり、私の手を入れようとクロスケが動く。
「待って待って、それに手を入れるのマジ怖いんすけどー!」
「うわ、声だけじゃなく喋りがキモい」
「キモいとはなんですか!」
「しっかしクロスケはんは、空間を歪める能力があんんだなぁ……。オイ、こんなの初めて見るべ」
「ミーさんはミーさんで、我関せずだし」
「大丈夫大丈夫! 先っちょだけだから!」
「腕のね! 誤解生みそうな発言ですけど!」
「先っちょが吹っ飛ぶくらいだから!」
「全然大丈夫じゃない! って、やめっ! ああっ!!」
私の制止も聞かず、クロスケは奥まで入れてしまった……。
「ああ……。もうお嫁にいけない……」
「婿じゃねえんだ」
「腕一本くれえ別にいいべ?
元は骨しかなっただんだしなぁ?」
「確かに」
「お前ら、本気で腕取れると思ってたのかよ。
この空間の裂け目は、俺の荷物入れだぞ?」
「まさか、私の腕もコレクションに……」
「誰がんなもんコレクションするか!
さっ! 機材も用意したし、動画撮りますか!」
ひょいひょいと裂け目から機材を取り出す。
そしてリハーサルもなにもなく、クロスケ監督の初作品がクランクインとなったのだ。