012 バ美肉
「それじゃ、さっそく撮影すんだけどー。
しかし、こう見るとアレだな……」
クロスケはまじまじと、私とミーさんを頭の先から足の先まで眺める。
ま、ミーさんは足の先というよりは、蹄の先なんですけどね!
「アレとは?」
「華がない!!」
「花なら、摘んでくればいっぱいあるべ?」
「花じゃなく華な! こんなムサい牛と骨の動画見たいか!?」
「ウシとカエルのコンビならアリかも」
「それオチでウシが食われるやつ!」
「ひっ!?」
ミーさんは、牛が食われるのワードに反応して、尻尾をピンと立てて怯えている。
一応、食われる立場だという認識はあったんだ。
「まま、それは冗談として。実際問題、人間向けの動画にする予定ですよね?
それだと、魔族が表に立つわけにもいかないわけです」
「そそ。だから、ミノタウロスさんは……。
顔を隠して下半身も隠さねえと、魔族ってバレるな」
「そうですねぇ……。そのまんまで出ちゃうと、猥褻物陳列罪ですからね」
「わいせつぶつ……?」
「こっちの人間界に、そんな法律あるかは知らんけどな!
ま、服は俺の分身体が襲った村から適当に見繕うとして……。
頭は画面外にはみ出るようにカメラワークで対処しよう」
「オイが、人間みてえに服をきるべか? それは嫌さなぁ……」
「下だけは履いておきましょうね。上だけ着た状態なんて、変質者として運営に通報されますから」
「こっちの動画管理してる運営の規則はどうなってるか知らねえけどな。
ま、ともかく服さえあればごまかせるミノタウロスさんはいいんだよ」
「うんうん。万事解決」
「いや、お前が一番問題だからな!?」
ぷるりと跳ねてそう言うけど、この私に何が不満だというのだろう?
「この細身でスレンダーな体型、どう考えても画面映えするでしょう?
というより、私も出る前提だったんですか」
「そりゃそうよ。お前もこっちの世界の動画見て思っただろ? 退屈だって」
「まあ、そうですね」
「その原因わかった?」
「んー。お経を聞いてるみたいで、成仏しかけましたね」
「よし、埋葬してやるから待ってろよ!」
「いやいやいやいや、まだまだ埋葬は早いですよ!
ちゃんと遺灰になるまでこんがり焼いていただかないと!」
「気にするとこそこかよ!」
「あー……。墓穴掘るなら、オイに任せてけろ」
「そっちもボケに乗ってこなくていいから!」
申し訳なさそうな雰囲気で会話に入ってくるミーさんが、逆にシュールで面白い。
クロスケは若干、ツッコミに疲れて肩で息してるみたいだけど。スライムの肩がどこなのかは知らんけど!
「で、話戻すぞ」
「はいどうぞ」
「俺の考えでは、動画がつまらない理由はさ、一人で喋ってるからなんだよ」
「ふむふむ。確かに淡々と喋ってましたねぇ」
「だろ? 異世界の動画は、大抵二人組。
機械音声のまんじゅう二人が、掛け合いながら進行してんだよな」
「つまりボケとツッコミですな。よし、私とクロスケでやりましょうか!」
「うっせえ黙れ。お前と漫才コンビ組むつもりはねえ。
ともかく二人組。そして人間向けだから、魔族ってバレちゃいけねえわけよ」
「なるほどなぁ。んでば、ワイトはんも、服着て人間のフリするべ」
「まあ、それも手なんだけど……。ちょっと考えてることがあんだよね」
「考えとは?」
「とりま、やってみっか」
なにをやるかも伝えず、クロスケはにゅるにゅると私の方へとやってくる。
そしておもむろに、私の体へ冷たく柔らかいその体を絡めてきたのだ。
「あっ……。これ、えっちな動画で見たことある! 服だけを溶かすアレだ!」
「お前、服どころか肉すらねえだろ」
「そういやそうでした」
「…………」
私たちの下ネタ会話に、ミーさんは恥ずかしさで耳まで真っ赤にして、顔を手でおおう。
けれど、その指の隙間からこちらを見てるのは、バレバレなんだよなぁ……。
それに今の会話で意味が通じるって、つまりミーさんも……。ムッツリですねぇ!
なんて様子を眺めていると、全身をスライムのベトベトが覆い尽くした。
そしてむにむにとそのゲル状の身体を波打たせ、黒い体表の色を変化させる。
「んー、こんなもんか?」
「何がこんなもんなんです?」
「ミノタウロスさん」
「おっ、オイは何も見てねっす!!」
「いや、鏡がないか聞きたかっただけなんすけど……」
「ミーさんは奥手なのでねぇ、突然のエロスライムムーブについてこれないんですよ」
「誰がエロスライムだ!」
「いだっ! いや神経通ってないから痛くないけど! 骨折れる折れる!!」
クロスケが力を入れると、ミシミシと骨が軋む。
まさか溶解系ではなく、緊縛系スライムだったとは!
なんてことをしているうちに、ミーさんは大きな姿鏡を持ってきたのだ。
そしてそこに写っていたのは……。
「これが……。私……?」
「なにその整形後に鏡見たヤツみたいな反応は」
そこには血色もよく、引き締まった身体。歳は18かそこらの様子の見目麗しい人間の娘が、あられもない姿で立っていた。
魔族としては、美味しくいただける食べごろの人間といった評価だ。
「受肉した感想はどうだ?」
「はっ! これが、バ美肉!?」
「バーチャルじゃねえから、スライム受肉で……。ス美肉ってところか?」
「炭肉。焼きすぎた焼肉かな?」
「ひっ……」
焼肉という単語に、再びミーさんは小さな悲鳴を上げた。
私の評価としては、ミーさんは硬そうでおいしくないと思う。
かじりついたら、あごの骨が折れそうですよ。