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010 大粛清



「で、これは何?」



 目の前に置かれた飲み物……。正しくは飲み物だったナニカに、クロスケは疑問符を投げつけた。



「ははは、氷魔法の調子がすこぶる良くてですね」


「凍りついてしまったで、かき氷器で削ったんだぁ」


「…………。そう……」



 ツッコミを入れる気も失せたのか、スライムは器用にその不定形身体でスプーンを持ち、かき氷を頬張る。

一応よそ様の事務所というのもあって、そのままかぶりつくのは遠慮したらしい。

いや、クロスケは自室でもストローで飲み物を飲んでいたし、意外と行儀の良いスライムなのかもしれない。



「さて、一息ついたところで……。

 ミーさん、こちら総務部愛玩課のクロスケ君。

 魔王様の愛玩魔物なので、失礼のないように」


「はあ、魔王様の……。めんこい魔物を飼っているとは聞いたけんど、こん子かえ……」


「それでクロスケ、来る途中で軽く説明したように、彼がこの庭を管理しているミノタウロスさん。

 所属は総務部資機材管理課だけど……。まぁ、一人しか居ないんで、課なんてあってないようなもんだね」


「はあ、ども」



 クロスケに興味津々なミーさんとは対照的に、塩対応なスライムだ。

愛玩魔物だというのに、愛想を振り撒くことを拒否している。



「クロスケ、愛玩課の課長としてもう少しサービス精神をですね……」


「いや、愛玩課とかいうの、そっちで勝手に作っただけだからな!?

 というか、総務部ってのも魔王軍のリストラのせいで、他の部署無くなったから、全部総務部にまとめたって聞いたぞ!?」


「ふふふ、そうでしたっけ?」


「んだんだ、オイも魔王軍防衛部所属だったはずが、いつの間にやら総務部ナントカ課だべ。

 課長ってことらしいけんど、部下なんていないべ? 魔王軍はいったいどうなってんだぁ?」


「あー……。ははは! どうなってんでしょうねぇ!」


「おい、誤魔化すな!」



 クロスケの視線が冷たい。

シャーベットの冷気を視線に乗せる術でも編み出したというのか!?

対するミーさんは「別にどうでもいいけど」と言わんばかりに、湯呑みのハーブティーをすすっていた。

ハーブティーのはずなのに、渋い湯呑みなのがものすごくシュールだ。



「ま、いい機会だし聞いておこうか。魔王軍の現状をさ」


「えー……。でも、さっきクロスケが言った通りですよ?

 魔王様による大量粛清リストラで、ほとんどの魔族が居なくなったんですよ」


「粛清と書いてリストラと読ませてんじゃねぇ!!」


「まあ、実際葬ったのは四天王くらいですけどね。

 それも復活できないように封印しただけで、それが解かれれば元通りですよ」


「だけんど、魔王様はなして四天王を封印したんだべ?」


「血の気の多い方達でしたからね……。魔王様の専守防衛の姿勢に反発したんですよ。

 よりにもよって、魔王様は弱いからそんなことしているんだと言い出してですね……」


「お、さすがの魔王様もキレたか?」


「四人まとめてかかってこいと、力をお示しになられたのですよ」


「んで、魔王様が勝ったってわけなんだな?」


「ええ、そういうことです」


「しかし詳しいな」


「私も現場に居合わせましたからね」


「よく生きて帰れたべ?」


「ははは、私は元々死んでますから!」


「言い方変えるわ。よく遺灰にならずに済んだな。

 魔王様側に付いたなら、四天王と戦うことになっただろ?」


「いえ? 私は防衛魔法陣の中で見学してましたよ。

 あんな中ボスとラスボスが同時に来たような戦闘、ただの骨っ子が割って入れるわけないじゃないですか」


「実際、人間どもからすれば、中ボスとラスボスが同時に来た展開だけどな」


「確かに!」



 ゲーム実況動画で、自分で魔王城を作るやつを見ていたなと思い出す。

さすがにあのゲームでも、中ボスとラスボスを同時に登場させることはできないようだった。

そりゃ、そんなことやったら確実にクリアできなくなるのだから当然だ。


 そのうえ度重なるリフォームで、魔王城のトラップは即死級のものばかりになっている。

専守防衛にしたって、魔王様はガチすぎるのだ。



「やっぱり、もうちょっと手加減してもらわないと、侵入者が入ってくることはなさそうですねぇ……」


「何の話だ?」


「いえ、こちらの話ですよ」



 人間の欲しがるアイテムを城内に置いたとして、今のままでは誰も入ってこないであろうと思考を巡らせてしまった。

どうせ放っておくつもりの仕事なのに、考えてしまうこの真面目すぎる性格は、少々矯正した方が楽に生きられると思う。まあ、もう死んでるんですけどね!



「そいで、ワイトはんは、何しにきたんだべ?」


「ああ、忘れてました! 手伝って欲しいことがあるんですよ」


「オイにか? さして得意なこともねえオイに、何して欲しいんだべ?」


「えーっと、それはですねぇ……」



 うーん、どこから説明するべきか。

人間の間の流行から説明するのは面倒だし、適当に端折りつつ誤魔化しつつ、進めましょうかねぇ。


 なんて考えを見透かしているのか、クロスケは再び冷凍ビームな視線をこちらに向け続けていた。

あ、もしかしてさっきのシャーベットで、視線も凍りついたのかな?

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