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009 お茶くみミノタウロス



「なあ、本当に大丈夫か?」



 ぴょんぴょんと揺れる牛の尻尾を追っていると、私の肩にのっかるスライムは耳うちしてきた。



「なにが?」


「なにがって、この情緒不安定脳内お花畑ミノタウロスを、動画に出すことだよ」


「ああ、プライバシーに配慮して、顔は写さないようにするから大丈夫」


「なら大丈夫か。……って、そうじゃねぇ!!」


「そうだね。さすがに下もなにか履かせないと、モザイク処理いるもんね」


「そそ。最低限パンツは履かせてだな……。って、そうでもねえ!!」


「なんだかノリツッコミが激しいですねぇ。

 あっ、なるほど! 肩に乗ってるからノリツッコミ」


「もう乗らないからな! 乗らないからな!?」


「でも、肩から降りる気はないんですね」


「またまっぷたつにされるのは嫌だしな」



 ぷるぷると震える姿は、あの斧の一撃がそれ相応のトラウマになっていることをものがたる。

けれどスライムだし、痛覚もなければ、斬られても元に戻るのも簡単だ。

まあ、だからといって平気ではないようだ。精神的な問題で。



「まま、彼は頭に血が昇ると周りが見えなくなるだけで、魔族の中では常識的な方ですよ」


「その頭に血が昇るのが問題なんだけどな……」


「花壇に入ったり、花を踏んだりしなければ大丈夫ですよ。

 それに、彼のその性格のおかげで、この迷宮の庭が侵入者に対する防衛機能になっているんですから」


「ほう……。まあ、アイツの花壇侵入者探知能力があれば、人間どもがここに入ってきた瞬間ひき肉にされるだろうな」


「ははは、私も何度か骨を砕かれ、骨粉にされかけたくらいですからね!」


「お前、よくそれでアイツと普通に喋れるよな」


「すでに死んでるので、命の危機に対する恐怖がないんですよね」


「そう……」



 カタカタと骨を鳴らしながら言っても、スライムとしては興味を引かれなかったのか、そっけない返事だ。

すでに死んでいるアンデッドと、一応は命のある魔物とでは、同じ魔族であっても感覚は共有できないのだ。


 そんな会話を繰り広げている間にも、ミノタウロスの管理事務所が見えてくる。

荘厳な石造りの魔王城には似つかわしくない、丸太を組んだログハウスだ。


 中に入れば、倉庫をかねているのもあって、壁には数々の農具が掛けられている。

わざわざ掛けられるように、紐を農具に付けているあたり、彼の生真面目さというか、こだわりが強く神経質な性格が現れている。



「へへ、久々のお客さんだぁ。今、お茶を淹れるで、座っててくれや」


「お気遣いなく。私はお茶を頂いても、そのまま骨の隙間から漏れ出て、床を汚してしまうだけですから。

 クロスケには、冷たいものをお願いしますね。彼は暑さと乾燥に弱いもので」


「おい、俺も別に……」


「まあ、遠慮せずに。ミーさんもお茶を振る舞える相手がいて嬉しいんですから」


「へへへ、畑で育てたハーブを使ったハーブティーがあるんだけんど、いっつもワイトはんには断られてしまうんだべ。

 味の感想聞かせて欲しいんで、ぜひぜひ飲んでってけろ」


「は、はぁ……。それじゃあ、お願いします」



 相当怖がっている様子が、顔色からもうかがえる。

まあ、スライムの顔色の違いなんて、本当はわからないんですけどね!

それでも、いつもの図々しさがないし、キッチンへと向かうミノタウロスの背中を見ながらぷるぷる震える姿は、可愛げを感じるものだった。あざとい。



「あのさ、花壇に入ると怒るのに、ハーブティーにするためにハーブは摘むんだ?」


「ああ、彼は自分の管理しているものを荒らされるのを嫌がるだけですからね。

 畑に入っても怒りますし、育てている木々を折ったりしても怒ります。

 けれど当然、野菜は収穫しますし、木の剪定もやりますよ」


「別に、植物に異常な執着を持っているわけではないのか……。

 魔王軍って、なんでこうも変な奴が多いのやら……」


「あの魔王様の部下ですからね」


「なるほど、納得だわ」



 話していると。ひょっこりとキッチンから牛の顔がこちらを覗く。

さきほどの話を聞かれたのではないかと、びくりと体を揺らすスライムの様子は、池に石を投げ込んだ時のさざなみのようだ。



「ワイトはん、お茶を冷やすで、氷魔法頼んます」


「はいはいー。おまかせ下さいー」



 一人にしないでくれと言いたげなクロスケの視線をよそに、私はキッチンへと向かう。

そして爽やかな香りの湯気立つハーブティーを、氷魔法でキンキンに冷やすのだった。



「あ、やばっ。完全に凍っちゃった」


「ははは。ワイトはんも、魔法の調整をしくじるなんてことあるんだなぁ」



 そう言って笑う牛の顔を見るほどに、頭に血が上った時の差に驚かされるものだ。

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