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灰の雪に積もる記憶

 キャラクターのイメージが違う、と感じるかもしれません。

 どうしてもこれが苦手という方は、ブラウザバックを推奨しますm(_ _)m

 寒い……寒い……寒い……なんだろう、もう感じない筈の寒さを感じる。


 えっと、私は何をしてたんだっけ?


 何も思い出せない。視界は白く覆われ、意識も朧気……体の感覚がない、動こうとしても指一本動かない。でも、それに対して恐怖はない。

 何故?分からない。でも、それでもいいと思う。思い出せないけど、それは大事じゃないと思うから。


「そんな……せ、先輩……ッ」


 どこからか声が聞こえる。か細く、今にも消えてしまいそうな程小さいそれは、他に何も感じない私の中で大きく反響する。多分、私が大事に思っている何か、それの声なのだろう。


「嫌だ……嫌だ!こんな、こんなのって…………」


 もう消えそうな私を、その声だけが繋ぎ止める。別に、そんなに必死にならなくたっていいのに。

 もう疲れた、少し休むだけ。でも、そんな一言も口に出来ない。自分の口だって、もうないのだから。


「あぁ……あぁ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だッ!!!」


 ほっておけば、いつまでも眠りを妨げてきそう。せめて、一言だけでも……


 それが私の為だったのか、声の主の為かは分からなかった。でも、確かに言えることがある。この思った気持ちは、真摯な心からの一言だから、最期に音に出来たんだってことを。


「貴……方は、優しい。■う……か、いつ■■も…………ま、たね…………」


「え、せ、先輩?先輩!駄目、帰ってきて下さいッ!せん…………せ……!………………      」


 もう、声も聞こえない。私は眠る…………どうか、せめて最後までこんな私を心配してくれた声の主が、幸せになって欲しいと願い、私の意識は、深い闇へと溶けていった…………
















 目が開く、所謂覚醒の作業だ。意識はまだぼんやりとし、微睡みから戻ってこれていないよう。ただ、よく分からない。目を覚ました……けれど、知らない場所だった。見慣れない天井、何があったかを思い出そうとして……思い出せない。


 はて、私は何をしていたの?何も思い出せない。というより、そもそも記憶がない。何もかもが分からない。


 とりあえず体を起こしてみる。……うん、動く。体は動く。とりあえず、体は動くし意識もある。けど、ここはどこ?

 体を起こしたことで視界に映るものが増えたからか、情報量に脳が追いつかない。どうやら、自分が寝ていたのは豪華なベッドのようだけれど、凄くフカフカで気持ちいい。いつまでも寝れていられそう……ってそんなことじゃなくて、他も天井は高くゴテゴテしたシャンデリア、振り子を静かに揺らす大きな時計に、机は大きさこそ小さいけれど純白のクロス、その上には銀製か光る食器と、見慣れないお菓子のようなものだろうか。床は一面柔らかそうな真紅の絨毯が敷かれ……


 え、ここどこ?こんな高級ホテルみたいな場所に、なんで私はいるの!?


 頭の中は謎が形を作って踊っているようだ。本当に分からない。けど、自分で考えるより楽であろう選択を与えてくれるであろう存在が、そこに座っていた。


 視界の左側、部屋の一面を大きく切り抜いたような、大きな窓。縁は金の装飾が施され、窓そのものもとても透き通っている。そんな窓のそばに椅子が一つ……そして腰掛けている人影がある。

 茶髪に好青年と言える整った顔立ち。多分、イケメンと類する人種だろう。が、その服装は黒く染められている。コートやブーツ、それにその帽子。まるで軍人かのようなそれだ。胸には勲章?みたいなものも提げ、なんだか高級そうな部屋には場違いな人物に思えてしまう。ただ、外を眺めているその姿がは、不覚にもその顔立ちの良さから様になっていると思えてしまう。


 誰?と、そんなこっちの疑問よりは早く、その青年はこっちが目を覚ましたのを気付いたのか、それまでのどこか遠くをつまらなさそうに眺めていた表情を笑顔にし、勢いよく立ち上がると


「やあ、ゆかりさん。どうやらお目覚めだね!まったく困ったよ、いくら僕とは言えど急にやられてしまっては。あ、これチョコなんだけどいる?そうそう、あれからもう大変で大変で――」


 テンションが高い人なのか、急にまくし立てるように喋るわ、いきなり小さいチョコを渡してくるわ、何なのこの人?ってそれより!


「あ、あのすみませんッ!貴方誰ですかッ」


「ッ!…………」


 慌てて遮るように叫んでしまったけど、固まってしまった。え、何か変なこと言った?でも、知らない人だし、今の私の状況も分からないし。

 青年は表情を固まらせ、それから何かを悩むような仕草で数秒固まる。本当に訳が分からない。そして何かを決めたのか、部屋の角にある――――電話のような物、それの受話器を取り


「あぁ、彼女をここへ」


 そんな一言だけ。え、それ電話?普通、電話ってもうちょっと要件を喋ると思うけど。あれ、普通ってなんだっけ?


 また新しく謎を増やす青年は再び私へ近づき、窓際の元いた椅子へ座ると再び口を開いた。


「いやぁ、ごめんね急に。まさかゆかりさんがこうなってるとは分からなくて」


「あ、あの……ゆかりって、その、私のことですか?」


「うん、そうだよ。結月ゆかり、それが君の名前だ」


「結月ゆかり……私の、名前……」


 何故か、懐かしい感じがした。多分、私の名前なんだと思う。まだよく分からないけど、目の前のこの人は、私のことを知ってる。なら、この状況も


「見たところ、記憶を失ってるみたいだね」


「どうしてそれを!?っていうより、ここどこなんです!貴方は誰なんですか!私は……なんで記憶がないんですか!!!」


「お、落ち着いて。まあ、気になることは多いだろうけど。一回じゃ伝わらないだろうけど、端的に言うと……戦闘での負傷で、君は負傷して記憶障害になったのさ」


「・・・・は?」


 意味分かんない。何言ってるのこの人。理解不能、こっちの端的な思いはそれだけ。体のどこも異常なんてないし、違和感もないし。


「そうだよね……今は受け入れられないことも多いだろうけど、そんなものさ」


「い、いやいや、記憶障害?はまだなんとなく分かりますよ、実際記憶ないですし、でも戦闘って、そんな軍人みたいな――」


「そう、君は軍人だ」


 私の言葉を遮り、青年は強く肯定する。なんだろう、怖い……今の今まで笑顔だった青年の目が、笑っていない。素人でも分かる程に、今の彼には生気が無かった。何故かは分からない、けど、今の話を再度否定出来るほど、私は強いメンタルを持っていない。そして彼は言葉を綴る


「理解も、納得も出来ないかもしれない。だが、君は軍人だ。残念だけど、これは現状否定出来ない事実だ……けど安心して、色々忘れてしまった君に、この世界のスペシャリストが講師をしてくれます!ジャジャーン!!!」


 その彼の言葉に合わせるように、私のベッドから見て右側の大きな扉が勢いよく開け放たれた。そして目に映ったのは、一人の少女。

 結ばれ、膝まで届くのではといった長さの、白く透き通るような髪。淡い水色の瞳はキレイで、見る者を引き寄せるよう……でも、そんな色を際立たせるかの如く、青年同様の黒い軍服、年齢もまだ子供だろうという幼さなのに、その目の下に出来た隈の跡は何を意味するのだろう。とても不思議、どう考えても異質な存在、だけどどこか懐かしいような、そんな……

 一瞬、目があった。が、すぐに少女は青年の方へと視線を向けると詰め寄り


「チッ……おい、どういうことだッ!呼ばれて来てみれば」


「新しい任務さ、盗聴して聞いてただろう?なら話ははやい、そういうことだよ」


「何がそういうことだ、足手まといなんざ邪魔だッ!御守りしろってか」


「そういうことだよ」


 え、えぇ、どいうことなの?って言うか、この子何?すっごく口が悪いし、しかも盗聴?なんか凄いことばっかり言ってる。

 そんな私の内心など他所に、二人は口論は――と言っても、少女の言葉を青年が受け流しているだけに思えるけど――続けられ


「大体、なんで私が――」


「あかりッ!!!」


「ッ!!…………」


 青年が、ドスを効かせるかのように一言、強く名前と思しき言葉を口にした。別に、それが自分に向けられているものでないとしても、怒鳴られたような感覚に思わず丸くなってしまう。

 ただ少女は、怯えというものは一切見せず、歯を食いしばるように視線を落とした。それがどういう思いから、感情から取っている行動なのかは、私には分からないけれど


「紲星あかり君、これは命令だ。僕達には否定の出来ない、ね」


「…………」


 絆星あかり、そう呼ばれた少女は、それはもう悔しそうに、彼女のことを詳しく知らない私が見ても分かるほどには、感情を見せていた。最初の印象とはまるで違う、年相応らしさが垣間見えた。

 でも、それも一瞬。彼女は息を吐くと、観念したかのように敬礼を行い


「了解です……ほら、付いてきなさい」


「え、あの?」


「もう起き上がれるだろう?体も動く筈だ、君が分からないことは、あかり君が教えてくれる」


「え、えっと」


 何がなんだか分からない。けど、そんな質問をする私に苛立ちを見せるように――絆星あかり――彼女は扉の先へ進み


「早くしなさい!置いていくわよッ!」


「へっ、ご、ごめんなさい!今行きますッ」


 言われるがまま、私はベッドから跳ね上がる。そして地面に足を付けて分かるのは――歩ける。体は思い通り動くし、今の自分の状況も分からない。とりあえずは、話を聞かないと。


 私は先を行くあかりの後ろを追いかける。ただ、部屋から出るときには一礼して


「あ、あの!ありがとうございました!」


「うん、またね〜」


 青年は笑顔でヒラヒラと手を振ってくれ、とりあえず失礼なことはしてない……筈。そんなことをしている間にもあかりは構わず進んでいるから、急いで追い掛ける羽目になったけど。


 記憶を失った私は、これからどうなるんだろう。そんな一抹の不安を抱えながら、私はあかり追い、二人分の足音の響く廊下を駆けていった。

 こちらのお話、メイン二人である[紲星あかりさん]と[結月ゆかり]さん以外はそこまで本筋に関わらないので、特に名前とかは出ないと思われます。


 おそらく、一般的なこちらの二人はゆかりさんが先輩であかりちゃんが後輩的なイメージが多いと思います。ですので、この作品ではそのイメージと逆転した雰囲気を楽しめる方は、もしかするとより楽しめるかもしれません。

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