密談にもなりませんが
さて、予定通りすすめるならユウリと色々詰めたいところですが、少々問題がありました。
「聞いても聞かなかったことにして」
なんてユウリが言い出しましたが、2人きりで話すのは不可とクルス様に言われたから仕方ありません。もうちょっと落ち着くんじゃないかと思ったのにまだ、ダメそうなんですよね。
なんか、ユウリもこれは諦めたらしいです。
まあ、ユウリには色々前科が……。
信用というよりもただ、不安になるということはクルス様も自覚しているようなんですけどね。こればっかりは困ります。
理由が理由だけに変に言うと逆に意固地になられそうです。
いまのところ聞かれて困るようなことはあまりありません。なにかあれば筆談、日本語でいきます。
内容に興味があるという風でもないからやれることですけど。それに、今後の付き合いを考えるなら知っていてもらわないと困るところもあるので微妙なところです。
クルス様はゆっくりとドーナツをかじってますね。眠いなぁという感じがそこかしこから漏れてます。いっそ、寝てはいかがでしょうか? と思いますけどね。
ぼんやりとおいしいとか呟かれるとなんかこそばゆいです。
さて、ユウリからの質問は最初から日本語で書かれました。
『本当に、家族に会いたくない?』
ユウリの書いた少したどたどしい言葉は、少しばかり懐かしい気もします。
『今は特には思いません』
今すぐ会いたいみたいな気持ちはありませんね。両親はぷらぷらと言ってはダメですが、出張が多いので生活時間は合いません。日本にいてもほとんどあってないんですから。
弟に最後にあったのは祝・社会人でどこぞのバーに連れて行きましたね。そこは店長の付き合いで行ったことがあるお高いお店でした。度肝を抜かれたような顔していて大変楽しかったですね。
兄は結婚式が最後でした。あれから兄嫁さんの妊娠からの出産とかばたばたしてたので遠慮していました。
そしたら、仕事が鬼のように忙しくなって。許すまじ店長。
『会えなかった甥っ子だけが未練です』
『なにそれ』
『仕事忙しくて、出産祝い送ったきり会いに行けませんでした』
「ブラックだね」
思わずと言った風でユウリが漏らしました。
「ブラックですね。店長には恨みがあります。無駄に顔が良い石油王でした。純国産の」
調子に乗ってこんなのとノートに落書きしたのは少し失敗した気がします。
ユウリが爆笑して息も絶え絶えでした。
さすがに興味をひかれたのかクルス様ものぞき込んで来て、首をかしげていました。
「東方の衣装に似てるな」
「砂漠でもあるんですか?」
「砂の海というものあるらしい。見たことはない。青と緑の砂の丘が続いているそうだ」
「綺麗そうですね」
「リリーから瓶詰めの砂をもらった。触媒に使えるとか何とか言って気がする。今度、探してみよう」
リリーさんも色々なところに行きますね。ラクダみたいな生き物がいるかと聞けば、蛇っぽい乗り物があるそうです……。蛇ですか。にょろにょろしたものはちょっと苦手ですね。
そんな話をしていれば、こつこつとペンでテーブルを叩く音が聞こえます。
「いい?」
「どうぞ」
別に、普通に話をするくらいいいじゃないですか。それに爆笑してたユウリが悪いんじゃないですかね?
それを言い出すと全力で脱線しそうな気がするのでいいませんけど。
「途中から、ここまでの間に事は一応まとめたけどわからないところあった?」
そういえば、ユウリには言うべき事がありました。
少しばかり忘れかけてましたけど。
『少し誤解があるみたいですけど、来たくて、来たわけではありませんよ?』
『なんか辻褄が合わない感じがする』
『だって、推しの幸せ願って翌日に異世界送り込まれるってありえます?』
「は?」
『知られたくはなかったのですけどね。死亡フラグが立ってまして動揺のあまりご近所の神社に一万ほど賽銭につっこんで、マジでお願いしました』
「アーテルちゃんって」
絶句されました。ええ、自分でもどうかと思いましたよ。いったいあれは何だったのか。自分でもよくわかってませんが、おそらく、あれの結果が現状なんでしょうね。
ちらと隣を確認してみますが、小さく何かを口ずさんでました。あ、それ、なにを爆散させるんです……?
殺意が高すぎて戦慄します。
理解しない方が良い事ってありますよね。おそらく、倫理観はお留守なんでしょう。
銃弾になんの魔法詰めているかは知らない方がいい気がしてきました。あたしのは穏便に麻痺とか眠るとかそんなのにしてもらいましょう……。
「ああ、なんかこう、ろくなことしないな。あいつ」
「同意するところです」
実感がこもります。俺っていい事した、なんて思ってそうです。何が不満なのとか言い出しそうです。
なんとなくユウリと顔を見あわせてしまいました。そこだけは同士って感じがします。
『で、最近接触はあったわけ?』
『災厄に乗っ取られる脆弱性があったそうなので、さっさと馴染めと魔法使うようそそのかされました。チートがあると戻れないそうなので帰れないのも確定しました』
ほんと、何ですかそれって感じです。ユウリの視線がゆらゆらしているので心当たりありそうですけど。なんかそれでよく色んな偉い人との対応できますよね。
あからさまに怪しい。
『ということは、あの一連のこともあの神関連なわけか』
『ですね。どこから災厄が入ってきたのかわからないですけど。ここの防御力半端ないみたいで、異界とは言え神の介入を阻むって相当ですよ』
『それは俺についてきたみたいなので申しわけない』
ついてきたの件はユウリは悪くないですが、そもそも来たのが悪いという感じがします。いや、でも発端はあの神もどきなわけで。
その色々な結果が今となれば、よかったのか悪かったのか、わかりません。
なんとなく、指輪の存在を確認してしまいます。たぶん、これはもらえなかった気がするんですよね。なんとなくずるずると年単位で消費した気がします。
それも悪くはない気はしますけどね。
『いつまでも宙ぶらりんはよくありませんし、これでよかったのかもしれません』
ただ、いつかあの駄神は殴ってやりたいですけど。ふふっ。
ユウリがちょっとびびったような表情が解せませんが。この先の話は不毛になりそうなので、他の話題の方が良さそうですね。
「そういえば。相手の国はどうなりました?」
もらったノートにはユウリの視点からまとめられていました。現在、誰も教えてくれないことなので貴重です。ユウリが相手方を全力で脅したみたいですけどね。
「小国相手に弱腰とか言われていたようだが、黒い俺がいるから手出ししないと前面に出しているようだよ。知らんけど」
「なんで、そんなに黒髪とか大事なんでしょうね?」
「かつての日本人のやり過ぎを感じるんだけどね。
ここでは、有益すぎて外には出したくないし、存在するだけで他国より優位に立てるから最上の扱いをしてくる。
それとは別にあっちの国は無謀な異世界召喚とかやってた国だからびびってるのもわかる。壊滅寸前までいったとか記録がある」
ざまぁとかされたんでしょうか。
「最初からアピールしていればよかったのでは?」
「それな。知られた時点からだろうけど、勧誘されそうになったり、誘拐未遂とか色々危なかったときはあった。あと、暗殺とかさ。実力で撃退したけど」
ユウリの虚ろな笑いが怖いですよ。
ああ、さらわれヒロインかと言うほど付け狙われたのはそういう……。
「いらっとしたので、潰してやろうかと思った」
地雷踏んでますよ? 次何かしたらやばいんじゃないでしょうか。
大変ねぇと人ごとのように見ていたら、ユウリが眉をひそめています。
「今、気がついたよ。アーテルちゃんも気をつけなよ」
「は?」
「男だった僕でもあんな目にあったんだから、若い女なんて狙われるよね?」
しれっと何を言い出しますか。
確かにユウリさらうよりは簡単そうですけど。
「気をつけて何とかなるんでしょうか……」
「わからないが、一人で出歩かない。信用出来る人以外寄せないという矛盾に満ちたことが必要だな。まあ、王都ではローゼつけてやるから。他に護衛に欲しいっていうのいたら検討する。ディレイはダメな」
「それくらいわかっている」
クルス様はものすごい不満そうですが、異は唱えないようですよ。
まあ、何かあったらユウリの話は聞かないような気がしますね。問題が発生したらさっさと連れて帰られそうな確信があります。ここ籠城には向いてますからね。
ユウリもほんとかよ、みたいに見てます。
「メイドのお姉様方からいびられなければいいですよ。たぶん、リリーさんか魔導協会の偉い人が着いてくると思いますから戦力的には十分でしょう」
物理的に何かされるより、居住スペースを侵害される方が怖かったりしますからね。誰かに買収されてしまえば寝室が無防備になります。毒入りのお茶や食事なんてのもありますね。死なない程度の魔法も打ち込まれる可能性だってあるわけで。
まあ、魔導師連れて行くので魔法の件は考えなくてもよいでしょうけど。
ユウリはうんざりしたような顔をしていたので、何となく察してくれたようです。
内も外も敵ばかりですね。登録だけさっさとして帰れないのがしがらみです。自由って何だっけ? とは思いますが、喧嘩売っていても生活に困りますからね。
まあ、それに結婚なんてもうしてます。先約がというのでもなく、既に済んでるので、誰がなにを言おうがムリなんです。
なんとなく、指輪を撫でてしまいます。この安定感はかなりのものですよ。
「とは言っても、同じくらいの年の女の人いた方が良くない? フラウは、どうかな」
ユウリのとても伺うような視線は変な気がします。なんかありそうな気がしますね。
フラウについては別にどうも思ってないといいますか、無口で美人で天才魔導師、いいっとか言ってたような……。クーデレっていうんですかね。
ユウリにデレてましたけど。総スルーされてました。
ある意味とても不憫です。ローゼと普通につきあって普通に喧嘩してたりしましたね。喧嘩友達って言うんでしょうか。
「さらに魔導師追加してどうするんですか。あたしもそれなりには頑張るつもりですし、それなら全然派閥も関係なさそうな教会の人呼んでください」
目の前でローゼとフラウの言い合いを見て見たいという誘惑を感じますが、やはりバランスが悪いです。
美人同士なのでとても目の保養になりそうなんですけどね。
その中にいたらあたしはモブですよモブ。現状、美少女カテゴリにもはいってませんからね。クルス様が可愛いって言うならそれで十分ですけどね。
「じゃあ、考えておく」
清楚系と色気溢れるシスターがいたので、どちらか登場いただけると嬉しいです。清楚系は男の娘ですけどね。ややこしくなるのでやめた方が良いでしょうか。いや、でも。
「エーラはダメだからな」
あたしが主張する前にクルス様に駄目出しされました。聞いてないふりしてますけど、聞いてますよね。
ダメですか。
でも、リアル男の娘とか見たかったんですけどね。
ユウリが白い目で見てきたのでそんなの知りませんよと言う顔をしておきます。やだなぁ。少ししか残念とか思ってませんよ。
せっかく、王都にいる本編の人たちに遭遇するかもしれないのに余計な事を言って回避された方が不満です。そして、会うと舞い上がりそうな気はします。がんばって猫を被っておきたいですが、どこまで持ちますかね。
ふとテーブルの上をみてなにか違和感がありました。
「……どこにドーナツが消えたんでしょうね?」
空っぽの皿だけが残ってました。けっこう数を作った気がするんですけど。
「お腹の中に。お昼はさ」
「その上で、お昼の話」
絶句しますね。どこに入ってるの、そのカロリー。
え、ドーナツだからゼロカロリーなの?




