疎外感が倍
キッチンに戻ったら焦げ臭かったです。無言で換気しました。
ユウリは最後の方がうまく行ったとかなんとか言ってましたけど。
「……修行してください」
褒めて育てたいですが、今、褒めるとクルス様が微妙な顔しそうなのでやめておきました。この場にいなくてもユウリが褒められたとか言い出しそうなので。
なお、先にあたしが部屋を出てきました。少々乱れたというか、知らない間に髪を解かれていまして直した方がいいと言われたからなんですが。
焦げ臭さにふらりとダイニングを覗いたのがよくありませんでした。
「ま、最初からうまくはいかないね。そっちは、少しは進展したわけ?」
なにかにやにやされてしまいました。
結婚とか黙っていくことに決めまして曖昧に笑ってみました。
なんか、全く、現実感ないのですけど。白昼夢か妄想じゃないの? 本当に?
「懲りないな」
不機嫌そうな声が、聞こえてきて振り返ればクルス様が。
既視感があります。扉の音が聞こえなくてもユウリは気がついているみたいですね。気配とかするんでしょうか。
今回はクルス様に無言で、あたしがキッチンから追い出されたのでした。速やかに背中を押されて、ダイニングでひっそりハグされました。ええ、かるーくぎゅって。
口を挟む隙がありませんでした。あたしの扱いに慣れてきてませんか?
ちょ、ま、もう、ちょっととか言い出しそうな欲望がうるさかったですが、どうにか底に沈めました。
今は黙りなさい。
「俺の場所だから、一緒にいない」
などと言われてしまいました。髪をぐしゃぐしゃに混ぜられて抗議しようかと思えば、意外なほど嫌そうな顔してました。
それほど嫌なんですね。
「直しておいで」
大丈夫などと言わないように、乱されたんでしょうか。大人しく直しに行きますけどね。
結い直して戻れば、二人でなにか作っているようです。
ゆっくりと扉を閉めればあのバタンと言う音がしませんでした。
……大変簡単な理由でした。勢いをつけないのが大事です。
肉の焼ける匂いがしています。在庫になかったのでユウリがだしてきたのかもしれません。
焼き過ぎだの、レアとか信用出来ないとか言い合ってるのが、仲がいいな、君たちという気分にさせてくれます。
まあ、あたしも異世界の肉をどれほど信用していいのかわかりません。レアとかダメな気がしています。焼けば殺菌出来ると思ってはいませんが、食中毒は怖いです。
なにせ、その肉は知っている肉とは違う可能性があるんですから。
謎の青い卵が実は、鶏と呼ばれる蛇と鳥の合いの子みたいな生物の卵と知った時には……。ちなみに、日本的鶏肉は絶滅危惧種で食べられないそうです。辞典に書いてありました。
この世界の新種というのは森の奥やら山の奥からやってくるんだそうですよ。今でも新種が発見されるんだそうです。
なにかこう、改造されてませんかと問いたくなるのはなぜでしょうね。
「そういえば、どーすんの?」
ぼんやりと聞くとはなしにキッチンからの声を聞いていますと話題が代わったようです。
いると主張し損ねました。
「なにが?」
「王都にフラウが残ってる。それからティルスは乗り気になるだろうし、シュリーもまあ、家の都合もあるから一通りは相手してくるだろう。三番目か、四番目くらいの王子が年頃だとか言ってたし。あいつら戦争が始まった時点で婚約解消してんだよ。いつ死ぬかわからないとか言い出してさ」
「ああ、フラウは振ったのか?」
「……いや、別に言われてないし」
「あれも資質のある魔導師だから潰さないで欲しい」
「気をつける。ディレイはさ」
「なんだ?」
「きにしない?」
「同門だから気にはするが、それ以上はない」
妙に緊張感があるのはなぜでしょうか。
これ以上、聞くのはよくない気がしたので、もう一度扉を開けて、勢いよく閉めました。
「さすがに焼きすぎだとは思うんだがな。自分で食べろよ」
「ああっ! 俺の、大事な、にくっ!」
香ばしいを通り越えましたね。
ユウリの悲痛な声に思わず吹き出してしまいます。
何か緊張感があったような気がしましたが、考えすぎでしたかね。
お昼は半分焦げたパンケーキとステーキという謎の組み合わせでした。なんでもユウリが肉焼ければいつでも食べれるじゃないっ! と言い出したのだそうで……。
まあ、確かにそうですけど、慣れないとおいしく焼くのは難しいですよ。
簡単に塩こしょう、バター多めの揚げ焼きに近い焼き方をしたようです。クルス様は慣れているのかミディアムくらいで仕上げてましたね。
本人の趣味というより修業時代のあれこれに思いを馳せそうです。
一門の秘伝のソースというのがあるそうで、クリームとレモンなどの皮でつくるそうですよ。こってり系なので好みではないとか。
そう言えば、味付けははっきりとしたシンプルなものを好んでいるような傾向はあったような……。
クリーム煮とか好きじゃなかったでしょうか。
ちらりとクルス様の様子を見れば、どうしたのかと言いたげに視線を向けられました。照れます。
「……疎外感が倍になった」
ユウリがぼやくのを無視しました。
食後に片付けをすると言い張るユウリを宥めすかして、昨日の宿題を書かせるお仕事がありました。
いちゃつかれると腹が立つとか言われたので、まあ、あたし一人で片付けることになりましたけど。
片付け終わってお茶を用意して持っていけばユウリは、唸りながら質問の答えをかいていました。
それを物珍しそうにクルス様が見ていましたが、どこから持ってきたんですか。そのごつい魔銃。
この家で見たことないですね。
銃には詳しくないですが、拳銃じゃあないですよね? 猟銃に近いやつですよね? 何をやるつもりなんですか?
たしか、通常はリボルバーに近い感じのものを使っていたような気がします。
「狙撃銃出す意味がわからない」
「王都で終わりなら必要ないが、念のため。この程度では死なない」
……。なにをやるつもりなんですか。いつもの席ではなく、クルス様のとなりに座りました。弾丸はビー玉くらいの金属製ですが、今は半分に割れています。
実物は初めて見ました。
「外さない弾丸、色をつけて識別するだけの単純なものしか入れない」
「当たったら痛そう」
「うん、普通に骨折れるからね?」
クルス様はいっそ楽しげな風に口の端をあげました。やだ、格好いい。……じゃなくて。
「いつ、使うんです?」
そんな物騒なもの。
「王都の防衛機能について確認するなら、各系統のそれなりの実力者に会うことになる。若造と全力でバカにしてくる老害など排除したいが、あれで化け物じみてるから難しい」
「あ、うん。俺からしたら魔導師全般化け物じみてると思ってたけど、生ぬるかったのね」
……ユウリが遠い目をしてましたね。魔導師なんて一般人からしたら同じ生き物に思えないのもわかる気はするのですが、その中でも化け物じみていると言われるとなると問題があるよう気がします。
「年を食ってより偏屈で、ねじ曲がっているな。世捨て人な生活を出来るくらい人嫌いか、人見知りが極まったか、研究しか興味が無いか」
「……知ってるんだよね? 絶対、知ってるよね?」
「師匠の付き合いで、手紙やものを届けに行ったことはある。死ぬかと思った」
「やめようかな」
「俺はその方が嬉しい」
そんな人たちと付き合いのある師匠の方があたしは心配になるんですけどね。野放しにしていいの? その人。
クルス様は割った弾丸の中に何か紙のようなものを詰めて元に戻しています。
「外側に発動に必要な呪式、中に効果を出したい呪式を入れるのが一般的だな。付加効果をつける場合には銃身に刻む。こっちの単純な機能は打ち出すこと」
じっと見ていると解説してくれました。ユウリもふんふんと聞いてますが、お手元がお留守ですよ。
「護身用は用意しておく。ゲイルが、詳しいから使い方は聞いてくれ」
「教えてくれないんですか?」
「おまえの説明は、長い、くどい、いつまでも終わらない、と言われた」
ああ、お好きでしたものね。本来の用件を忘れて語り倒しそうです。ゲイルさんも好きですけど、あれはどちらかという収集癖ですね。
ユウリも欲しいと言いだしてましたけど、弾丸が作れないからと断っていました。ああ、そういえばあたしも魔導師の端くれですね。
魔法、使いたい、今からでも修行してとかなんとかユウリが言い出して、無理とか言ってます。やれば、出来るとか出来ないとか。
なにやってんでしょうね? 生暖かい目で見守ればいいんでしょうか。腐れ縁とか言ってましたけど、仲いいですね、君たち。
まあ、クルス様が楽しそうで良いんですけどね。言ったら即否定されそうですが。
平和って言ったら平和です。
……でも、ちょっと構って欲しいとか思うのは仕方ないと思います。行動はおこしませんけどね。
あとで絶対寂しくなります。
「そういえば、いつまで黒のままにしてるわけ?」
「は?」
「魔動具とかで色替えとかできないの?」
「露骨に何かしているのがわかるから、基本的にはしない。そうだな、染めておくか」
「え、いや、その、自分でできますっ」
「手つきが怪しい」
「大丈夫ですっ」
疑わしげに見られましたが、大丈夫と主張します。
前も大変な大変だったんです。そして、一人で染めてみたのですが、ものの見事にまだらになりユウリに爆笑されるのはこの数時間後のことでした。
やり直し、されました。大変辛かったです。




