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推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について(連載)  作者: あかね
第二部が始まったようです?編

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意外性があります

「珍しい。天変地異でも起きる?」


 エルアが言い出したのは、無理からぬ事だった。年単位で顔を出せと言っても聞きはしなかった相手が、自発的にくるとは想像もできない。


 まだ早いと言う時間ではあったが町の門は開いているし、教会の門戸はもっと早くから開いている。だから、いるのは別におかしくはない。おかしくはないのだが、納得がいかない。


「用がある」


「まあ、歓迎するよ。ディレイ」


 仏頂面のままの男にエルアは営業用の笑顔を向けた。

 教会の入り口であったのは幸いである。本人が自覚している以上に知り合いは多い。この時間に出入りしているのは年配のものが多く、ときに無遠慮だ。

 どうしたの? なんて聞かれ機嫌が最悪になる前に用事は済ませたい。


「個室の方に案内するよ。うるさいのは嫌だろう?」


「ああ」


 彼は落ち着かないようにあたりを見回している。エルアは笑って先立って歩き出した。

 ここの教会には来たことがないだろう。併設されている孤児院からの声が遠く聞こえる。エルアはかつてあの中の一人だった。ディレイも同じではあったが、辿った道は大分違う。

 同郷ではあるが年の差があり、同じ場所では暮らしたことがない。

 ただ、エルアは同郷ということだけで興味があり、親近感を持っているに過ぎない。古い町でどの家とも遠くはあっても血縁はある。


 古くさくて、懐かしい場所。


 ただし、ディレイには居心地が悪かったらしく誰とも親しくはなかったらしいとは聞いている。

 あの町を出てから一度も帰りはしていない。


 エルアは数年に一度は帰るようにしている。教会の仕事でもあるが、孤児院を出た者たちの消息について報告も兼ねていた。


 最後の最後に、あれは、どうしていると聞かれるのがディレイだ。孤児院の院長の心残りといったところだが、いつも知りませんとしかエルアは答えない。


 実際は共通の友人がべらべらとしゃべっているので、エルアが把握していることは本人が思う以上にあるのだが言う必要はない。

 ただで話せるような価値のない情報ではない。

 それにあの孤児院長は好きになれなかった。


「どこも一緒だな」


 淡々とした声に潜む嫌悪感に自覚はなさそうだ。エルアはちらっとディレイの横顔を観察した。

 他人からの情報を統合すれば愛想の欠片もない、面倒そうな、つまんなそうなと評される事が多いようだ。

 そして、思ったより面倒見がよいとか、お人好しだとか、そんなところに驚かれるらしい。

 さらに友人によればどこか繊細なところがある、らしい。


「なんだ」


「そんな嫌な顔しながらも来る用事ってろくでもないなぁって」


「俺も迷惑している」


 ああ、やっぱりそっち。

 エルアはため息をつきそうになるのを堪えた。思ったより見られていることは多い。


 個室に向かうには庭を通って裏口から入るか、聖堂を通り抜けるしかない。早い時間とは言え聖堂にも人はそれなりにいる。仕事始めに祈りに訪れるものは思ったより多い。習慣のように入り口の側で頭を下げるだけのものから長々と祈り、最後は井戸端会議をして楽しむものまで。

 この教会は、地域にしっかり馴染んでいる。


 ならばと庭を抜けるつもりだったが、庭では子供たちが遊んでいるようで声が近くなってきている。

 聖堂の方が良かったかと後悔しても遅い。


「あ、神官様。おはよー」


「はいはい。おはようございます」


「はいは一回っていつも言ってるっ!」


「ごめんね。大人も言っちゃうから君たちは気をつけるんだよ」


「はぁい。あれ、おじさんだれ?」


「せめて、お兄さんにしときなさい。知り合いだよ」


 慌てて言うが、おじさん、と言われるのは仕方ない。彼らにとっては十以上年上となれば、全ておじさん、であろう。

 エルアは反応を怖々と見たが、面食らったような表情でしかないようだ。ここで怒り出すようなタイプではないと思うが、やはり、心配になる。

 魔導師は、どこで機嫌を損ねるか読めない。


 子供たちも興味津々に視線を向けてくるが、それ以上話をするわけでもなかった。遊びにすぐに戻っていく。

 ディレイ自身が町の人とさして変わらない服装をしているからだろう。季節にはあわなそうな薄手のマントがちょっと珍しいくらいだろうか。


 エルアにはとても物騒なしろものだと思えるが、資質がなければ知ることもない。ここは普通の孤児院なので資質がないものばかりだ。


 ただ一人、残った少年がいる。


「まほうつかいのひと」


「ジェイ、人を指さすのはやめなさい。知り合い?」


「知らん」


「配達行った! 昨日のことっ!」


 ああ、そうだった。エルアは頭が痛いのを堪えて、笑顔を作った。ジェイはびくっとして逃げて行く。怒り出す前の無理矢理落ち着けようと浮かべる笑みに近いことは察したらしい。


「口止めは?」


「変に口止めすると余計吹聴する方だからしないよ」


「なるほど」


 エルアはおまえと同じかという視線を向けられたことに納得がいかない。言わないでいいことは言わないでいることは出来る。

 子供の頃と言われると自信はないが。


「さっさといこう。戻ってくるとめんどくさい」


 ディレイは肩をすくめてそれについては何か言う気はないようだった。

 裏口から個室までは幸い、誰にも会わなかった。


「で、用事ってなに?」


 客間とまではいかない個室で切り出した。教会にはこんな部屋がいくつかある。人目につかないで懺悔したいとか、相談事や冠婚葬祭の控え室など使い道はいくらでもあった。


 室内にあるのは簡素な机と椅子だけで、くつろぐには向かない。座ればぎしりと音を立てる椅子に大丈夫かこれ、といった視線をディレイから向けられるがエルアは黙殺した。

 ぎしぎしと音を立てるのは古いためだが、新しいものを揃えようと話題に上がっては却下されるのは教会の体質に近い。

 使えるものは壊れるまで使う。壊れたら薪にでもされるだろう。


 金がないと言えばそれまでの話だ。だからまあ、優遇する相手というのは自ずと出てしまう。

 常時、寄付をしてくるようなものぐさは魔導師ばかりで、そこはぐだぐだな仲であったりする。

 エルアには預けた金から自動送金される寄付というものに違和感しかないが、金は金である。こんな状態になっているのは魔導協会が、魔導師に自由になる金を持たせすぎるとろくでもないと考えているからだ。多少の増減を言うほど気にする魔導師が少ないことも多いだろう。

 魔導師自体は魔導協会で最低限の生活を保証している。立ちゆかなければ、補助する仕組みがあるのだが、搾取されている気がしてならない。


 なお、教会は知っていて見ない振りをしている。


 エルアそんなことをだらだらと考えているうちにディレイは話始めるところを決めたようだ。


「ユウリのことだが、帰る気はあるが段取りをして欲しいそうだ」


「あ、やっぱり。そっちにいたんだ。魔法使いの所にいたのがやたら顔の良い男とかなんとか言ってたから」


 ディレイが肩をすくめて明言は避けた。


「誰かが処分されるような事のないようにしたいらしい」


「それだったら一人でふらりと出てくるなというところだが、ま、立場ってものはまだ理解してないか」


「田舎から出てきて意図せぬままに祭り上げられば、ああなるような気はする」


「壊れたりしないだろうな?」


「そうなる前に恋人が連れ出すだろう。あれは、国なんてどうでもいい」


「それで、ディレイはどうするつもりだ」


「王都までは送っていくが、その先は遠慮したい」


 だろうなとエルアは思う。近頃出来たらしい恋人の存在が多いに影響している。ディレイはどこか投げやりで、どうでもいいと思っている節があった。浅い付き合いでは全く気がつかれないようだが、長々とつきあっていると見えてくるものもある。


 ゲイルもそうだったなと共通の知人も思い出す。


 何かつなぎ止めるものがなければ、ふらふらとどこかへ行ってしまいそうな不安感だけがある。良いも悪いもなく、興味の赴くままに道を踏み外しても全く気にしそうにない。


 ディレイがどこかに留まろうとする意志を見せたのは良い兆候だが、時期と相手が悪かった。


「つっても無理だろうなぁ。英雄殿のお気に入りとかなんとか聞いた」


「腐れ縁。切れて清々していたはずなんだが」


 あちらはそう思っていなかったらしい。ディレイの苦々しい表情にエルアは苦笑する。英雄の関心を買おうと思っているものは多くいるだろう。

 その打算がない分、興味を引かれたのではないかと思う。噂で聞く限りは、普通の青年のように思えた。


「あとはこっちで何とかする。本人をいつ連れてきて欲しいかはゲイルに伝える」


「わかった」


 ディレイは席を立とうとはしなかった。話は終わったらすぐに帰るとはおもったのだが。

 エルアが席を立ち上がりかけると口を開きかけたが、結局なにも言わなかった。用事があるが迷っているらしい。


 エルアは仕方ないともう一度座ることにした。先ほどのことは別の誰かに伝えることでも良かったはずだ。

 そうではなく、本人が来た理由はあるのだろう。ずっと避けていたような場所にくるような理由が。


「で、本来の用件ってなに?」


「指輪を見せて欲しい」


「え、意外すぎる。魔導師にはウケが悪い指輪を高い金出してまで買うのが意外すぎる」


 エルアは驚きすぎていつもは口に出さないことまで言ってしまっていた。

 教会で売っている指輪は一つしかない。一般的に婚約の指輪と言われるものだ。同等のものは魔導師でも作れるが、協定があり量産はしないことになっている。

 個人的に作るには問題はない。高いので買うなんて魔導師はしないと思っていた。


 あれほど迷うならもっと別の何かを求められるかと思った。たとえば、結婚したいとかなんとか言い出すとか。

 彼女はとてもワケありで、そう簡単に許可されることはないが、今ならばれずに滑り込ませることはできるだろう。


「……別に、機能は使えるしお守りみたいなものだろう? 自分で作るのも時間がない。それに理由もなく装飾品を贈っても困らせる」


 怒るでもなく早口に言い訳されてしまってエルアは微笑ましいものを見るような気分になってきた。そこまで、至っていないのか望めないと思っているのか。

 すこしばかりのお節介は必要かもしれない。エルアは使えそうなコネについて考えながら、別のことを口にした。


「使えるから欲しいとそう言うこと?」


「そう言っている」


「意外。染めるのに時間かかるけど、自分でやってく?」


「ああ」


 意外と言うほかない。エルアは部屋で待っているように言って指輪を保管している場所に向かう。


 今は婚約の指輪などと言われているが、特別それを意識して作られたものではない。対で片方の石が壊れれば、もう片方の石も壊れる、そんな機能しかついていないのだ。

 遠く離れた恋人の安否がわからないのが不安で、という訴えに作ったのが始まりと聞く。ある特定の言葉を設定し、問題があった場合、石を砕く。それは片割れにも伝わる。


 指輪が無事ならば相手も無事であろうと思う、言わばお守りのようなものだ。


 なお、高価なのは今後の式の料金もセットになっているからである。指輪単体ではさほどしないが、教会もお金は入り用である。

 寄付だけでやっていけるような場所は都会だけであるし、こんな指輪を買うほどに余裕があるのも都会だけである。

 地方だと腕輪の交換が主流である。これは教会も絡んではいない。財産の分与という側面が強いため、常時使われることはない。


 石の大きさで価格帯が違うが、どのあたりを持っていけばいいのだろうか。


 エルアは悩んで真ん中あたりの五種類を持っていくことにした。一応、一番石が小さいものも。


「あれ? お客さんですか?」


「……リイ。お茶はいりませんよ。子供たちの相手は任せます。もう少しかかりそうなので突入は避けてください」


「あ、はい。承知しました。エルア様」


 孤児院の方を受け持っている女性の神官は、不思議そうな顔をしている。

 噂好きの女性ではないのだが、今、昨日の件と結びつけられては困るのだ。

 いつもはそれですぐに立ち去るのだが、今日は少し違った。


「お休み、そろそろいただきたいんですよね。よろしくお願いします」


「お、おう。用事?」


「実家が、うるさいんですよ。見合いだのなんだの。神官だから未婚ですって言う話も聞きやしないんですよね。育てられないとか教会に放り込んどいて、いまさらねぇ?」


「お疲れ様……。教義的にどっちでもいいんだけど」


「その件は決して広めないでくださいね」


 にこりと笑ったが、とても怖かった。エルアはコクコクと肯くしか出来ない。


「結婚だけが女の幸せとかどうなんですかね?」


「いや、わからんけど。俺は、リイが笑っていられる方がいい」


 彼女が驚いたように目を見開いてからなにか言いたげにぱくぱくと口を動かしていた。小鳥みたいでちょっと可愛いなと場違いにもエルアは思った。

 結局、なにも言うことなく裾を翻して早足で去って行かれた。


「……あれ?」


 なにか変な事を言っただろうか?

 エルアは首をかしげる。


 年頃の娘さんはよくわからない。友人もうちの娘がよくわからないとぼやいていたので同じようなものだろうか。

 半分も下になるともう娘みたいなものだろう。結局未婚のまま来てしまったので全くわからないが。

 エルアは首をかしげながら元の部屋に戻る。


「お待たせ」


「いや、いい。もう少しかかる」


「は?」


 テーブル上に呪式が書かれた紙がいくつかある。石自体は無色透明で好みの色に魔法で染める。キーワードの設定はそのときに合わせて行うのだが。


「なにこの複雑怪奇なの。ゲイルの見ても頭痛くなるのに、それ以上とかおかしいだろ」


「効率的に組んだら、隙間が出来た」


 と言って他の呪式も組み込むバカが居るかとエルアは言いたい。他の誰もやらないようなことを平気ですると友人が言っていたことを理解した。

 言われた呪式を魔動具に刻むのは魔導師なら誰でも出来る。それを組み合わせるのもだいたいは出来るだろう。

 だが、最初から組み替えるのは少数派だ。


「なに入れたの?」


「防御系」


「……なにから守るの」


「隙間があるから、つい」


 どこまで本気かわからない。


「どれにする?」


 選ばれたのはやや小ぶりの石がついたものだった。日常的につけてもおかしくはないような素っ気なさも意外な気がした。可愛いとか言われそうなものを選びそうな気がしたのだ。

 そうでないことがエルアにはとても強い独占欲に思える。大事にしまわれないように、常につけてもらえるようにと思うのは穿ちすぎだろうか。


「少し、静かにしていて欲しい」


 意外。としか出てこないのは、今までと違いすぎるからだろうか。相手を縛るようなことをなんとなく嫌がっているようには見えた。

 何かに執着しないのではなく、諦めが早いのだとも聞いたことがある。


 真剣で、でも、どこか楽しげに指輪の色を染めて。


 まあ、うまく行けばいいんだがな。そればかりは神も知らぬことだろう。彼らの神は人にあまり興味はないし、未来は知らない。

ご感想、ポイント、ブックマーク、誤字脱字報告、いつもありがとうございます。

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