帰る段取り
「さて、帰る段取りをつけたいんだけど、どこに相談した方が良いかな?」
ユウリは気持ちを切り替え切れないのか、どことなく暗い声のままです。
「ギャラス鳥から生まれたような男がいるので、依頼しておきます」
ギャラス鳥ってなに? そう思えばぱらりとページがめくられる音がしました。この効果音切れないんでしょうか。思ったより気が削がれるというか……。
ギャラス鳥。
空想上の生物、あることないことしゃべりまくるが、中にはとんでもない真実がある。転じて、情報屋を指すことがある。通常はうるさい人への悪口。
ユウリはそれ、信用していいの? みたいな微妙な顔です。クルス様は会いたくないとぼやいてます。お知り合いでしょうか。
「神官というのは苦手なんだが、その中でも一番、会いたくないやつ」
視線を向けたらぼそぼそとクルス様が教えてくれました。説明したくない気持ちだけは伝わりますね。
ちなみに魔法を使う神官も魔導師の範囲にいれられてます。回復魔法も魔法ですからね。全部ひっくるめて魔導師。ただ、あまり意識されていないのと教会ごとの秘伝みたいな呪式があるので、教会は教会の魔法があるって思われているようです。
と脳内を過ぎっていきました。へー、そうなんですねとしか言いようがありません。効果音は切れたようですが、突然に情報が流れていきました。
このチート、疑問点一つ一つに答えてくれる便利仕様ですけど、少し困るような気もします。
「教会にも用があるから、都合がいい。俺が明日行く」
「そ。寄付だけして顔出さないから、うるさく言われると思うから頑張れ。留守番はしといてやる」
クルス様、会いたくないけど行くんですね……。そして、ゲイルさんはとっても気軽に言ってます。行かなくてラッキーくらいのなにかが透けてますよ。
「あたしも」
「無理」
「ダメ」
「やめて」
……うん、それぞれがそれぞれの主張で、やめて欲しいのがわかりました。理由が全員違いそうです。
そして、怪訝そうな表情なクルス様の視線が痛いです。たぶん、今までなら行きたい的主張自体しなかったと思うんですよ。大人しく待っていた方が良いと判断したでしょう。
でも寂しくなる予感がするので、少し一緒にいたかったと言いますか……。
ユウリをちらりと見ました。なんか脳天気そうですよね。ゲイルさんの残っているオムライスなんかをじっと見ていたりします。
まだ、入るんですか。
「わかりました。ユウリ、残りありますけど、食べます?」
「うん!」
……ほんと、妙に可愛げがあるというか変に子供っぽいと言うか。
これで英雄とか言われてもピンと来ない気はします。まあ、一皮剥くと怖い人でしたが。一人で全然大丈夫そうなんです。そして、きっと困りはしないんだと思うのですよ。だからふらふら歩き回ってるんでしょうけど。
対外的に英雄を一人でふらふらさせてよいものではないでしょうね。
まあ仮にも英雄ですし。お偉いさんですし。
気を抜いてるところはそんな気がしませんけど。
となると、ここを出るときも一人で出すわけにはいきません。
たぶん、この町で、ユウリにつきあえるのってクルス様しかいないんじゃないかなって思うのです。おそらく、王都に帰るまではつきあうと思うんですよね。今までの経緯を見てれば容易に想像が出来て、少々、しんどいです。
王都から誰か来るかもしれませんけど、そこまで待たない気がします。最低でも半月は帰ってこないでしょう。場合によってはそれ以上。
その上、ユウリが防衛のあれこれを見に行くのに連れて行かれたら帰ってくる気がしません。魔導師が相手なら高確率で、人員に入れられそうなんですよね。
そこはあたしが口を挟める所でもありません。実際、話が出たら表情に出そうな気がするんですよね。寂しいとか嫌だなぁとか、そういうところ。
あまり見られたくはないですね。
都合よくオムライスのお代わりを作りに行くという理由もできたので、キッチンの方に一時避難します。その間にささっと話をまとめてくれるとよいのですけど。
そういえばユウリに古典的オムライスの方が良いと強固に主張されたので思い出でもあるんでしょうか。
「それで、どこにどう話を持っていくわけ?」
「まず、領主様から魔導協会に依頼があって、黒髪の青年を捜すように言われた。そこの英雄とは言われなかったけど、黒髪なんて他にいないから言ったも同然だ。いないことを証明したい、って言われたんだけど、門から普通に出てきたんだよな?」
「あ、うん。そ、そう」
向こう側からの会話が聞こえてきます。なぜでしょう。ユウリが今から問い詰められる気がします。
完全に怪しい解答したからでしょうけど。
「歩いてきた、というのが既におかしいからな。普通、止められる。馬くらい連れてきてるだろ?」
「この距離あるいたわけ? 健脚だな。さすが若いし軍人」
「……すみません。門を通らずにでてきました」
ユウリが白状してますね。ため息をつかれてます。ゲイルさんから気がついてるならちゃんと確認するとかなんとかクルス様が小言を言われてますね。反論も聞こえてこないので、黙って聞いているのでしょう。
「いやぁ、ちょっとウィッグ焼かれたのは初めてで、動揺してたかなぁ……。でも、服着替えて髪も隠してきたんだけど」
「門から出てなくて、町にもいないと言うことは、一般的に行方不明って言う」
ゲイルさんの平坦な口調が逆に怖いです。
「これ、続くと領主様の責任になる。最悪、責任取って処刑までいくかも」
「は? え、悪いの俺だよね?」
「それで、機嫌を損ねて国を出て行かれると困るから責任取るのは初動をミスったということで領主様って落としどころ。たぶん、知らせも行かない」
……微妙な人権が。問題が起こったことの責任を誰が取るのかという話しなのでしょうけど。本人に責任を取らせるわけにもいかない、という立場なわけですか。
気軽に出てくるとかダメでしょ。
「マジか。今まで戦時下の特別措置か」
「もしくは知らない間に誰かが処理されたか」
ゲイルさんがよけいなことを言い出しましたよ。がたりと椅子が倒れた音がしました。
「俺が知る限りないから少し落ち着け。戻って調べろ」
「……ん。こういう扱いほんとやめて欲しい」
「そうだな」
「人ごとじゃないからな? 彼女の場合にはゆっくりと囲まれていくんだろうけどさ。気がついたらでれない。そうなったらどうするんだ?」
「嫌だというなら、隠しておく」
あまりにもあっさりと言われた事に、びくりとしました。
「……それ、本気で言ってる? 歴史に名前残るからやめろよ? 完全に悪名だからな?」
「馬鹿なことを聞くからだ」
それ、どういう意味でとれば良いんでしょうか。嫌だとあたしが言わないと思っているのか、それとも?
「あちっ」
ぼんやりしながらの作業とはよくありません。フライパン、直で触ってしまいました。鍋つかみで取っ手を握ってお皿にのせます。
……ケチャップで文字でも書けばよいのでしょうか。
少々の葛藤の末に×マークをつけておきました。一々、人の所に首をつっこまないでください。
「……うん、ごめん」
ユウリにはとりあえず意図は伝わったような気がします。
クルス様の方を見れる気もしません。
「今後は気をつけるよ。にしても、昨日の今日で動き早くない? 王都にはお伺い立ててない感じ?」
「役所から連絡して返事は来ているのかわからない。色んなところが勝手に動いているような印象はある。あの領主様、ちょっと変だからそっちはなにか別の意図があるかも」
「変?」
「貴族とか領主の知り合いはそれなりにあるんだが、妙に腰が低い、全方位に気を使ってる」
ゲイルさんも顔が広いみたいです。大型の魔動具ってそれなりのお屋敷にしかなさそうですからその関係でしょうか?
ユウリは腰が低い? と首をかしげています。
「……俺は、怖がられたんだが。執事? いや、メイド? に追い払われた」
クルス様が解せないとでも言いたげに異を唱えていました。
「その話、初耳だな。なにをしたんだ?」
「なにもしてない。ここに来たことの挨拶は必要とあったから行っただけだ。
あとで詫びの品が来た。夢見が悪くて、よく似た何かに追い立てられたとか書かれている謝罪の手紙もついていたな」
まあ、あたしも魔導師に追い立てられるって嫌だと思いますよ。例え夢でも。
おそらく、ゲイルさんでも悪夢になりますね。魔動具をえげつなく、利用してトラップを仕掛けそうです。あるいは趣味の魔銃の試し打ちとか。
本編のモブとでも言いそうな魔導師ですら、癖がありましたからね。
「まあ、その領主がくせ者か。了解、領主にあって、魔導協会の顔を立てて、役所から帰る連絡をさせればいいかな」
「その方向で話をしてみるが、意図しない何かが発生しても知らない」
「別に、ディレイにそこまで求めてない。機微とか無視して軋轢増やしそうだから、ただのメッセンジャーでいてくれ」
ユウリに少し疲れたように言われたのはなにかあったんでしょうか。
クルス様は肩をすくめただけでしたけど。
「忘れているかもしれないが、そこのお嬢さんのことは内密だからな。黒いなんて知られたら最悪、そのまま教会で誓わされるぞ」
ゲイルさんに釘は刺されたんですが、それはたぶん無理でしょうね……。
「それも問題があってな」
「え? もう、これ以上、勘弁してくんない?」
ゲイルさん、嫌そうですけど、悪いんですがお付き合いいただきますよ。
たぶん、この中で一番普通に処理してくれそうですから。




