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推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について(連載)  作者: あかね
招かざる……編

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眠りを覚ますもの

二話分割り込み投稿しました。


第15部分 魔導師は迷っている

第49部分 暗闇の中で



「本当に、息抜きとか言うのか?」


 リビングを出てからエリックはユウリに尋ねた。


「え? 半分くらいそう。あとは国内視察っての? ちょっと荒れてきてるのはわかってるんだ。ただ、まとめて罰するのもやっぱり違うよね。無責任に放り出してはいけないとあれほど言ったのに、これだよ。嫌になるよ」


 ユウリはぶつくさと文句を言いながら放り投げたりはしない。エリックなら放棄する。そもそもそんな立場になることはないだろうが。


 来客用の部屋は階段を上がって、二つ目の部屋だった。一番手前が彼女の部屋。片付けをしたとき以来、入った事はない。

 鍵をちゃんと閉めるように言っておかないといけない。そう考えて少しおかしかった。


 ユウリはそんな事はしないと知っている。やんわりとした拒絶で気がつかれにくいが、ローゼ以外はそれほど側には寄せていない。

 ただ、もてるのは仕方ない。色々あって若干、女性恐怖症傾向があることに気がついてからは同情しか感じなかった。


 だが、実際、当事者になってみるとこれほど落ち着かない相手はいない。


「聞いといて無視とかひどくない? そんなわけで、フェザーを見てきたけどちょっと荒れてるね。それに魔導師じゃなくてディレイが怖がられてるのなんで?」


「少し前に制圧したからだと思うが」


「ん、なんつーの? 違和感があるってかんじ。悪意をもって広げられているみたいな。でも、元々町にいる人たちはそんな感じしなくて。誰か恨みもってるのいるかもよ?」


「そんなの一々取り合う気は無いな」


 エリックにしてみればよくある事でしかない。よくわからない、というより多少は理解出来る方が恐ろしいと感じることもあるようだ。


 そもそもフェザーが魔導師に好意的であることが例外的だ。常に力ある魔導師がここにいたせいでもあるだろうし、問題を起こしても実害はなかったらしい。

 注意深く、ここを維持出来るほどには友好的にしていたのだろう。敵視されればこの場所を維持することは難しい。

 それは王都の守りを薄くすることになる。


 今回ばかりは魔導協会も噂の火消しはしてくれるだろう。恩着せがましく言ってこなければいいが。


「そのうちなんとかするよ。たぶん。できればいいなぁ」


 ユウリは遠い目をしている。


「少し、待ってくれ」


 階段を上ろうとするユウリを止める。

 玄関で魔動具が壊れたと聞いた。なにか痕跡は残っていないか調べておきたい。


「どうしたの?」


「魔封じが壊れた。魔動具なんてそう簡単に壊れるはずがないんだが」


 許容量を超えてしまえばバラバラになることもあり得る。押さえるための呪式は組み込めるだけいれたのだが。それこそゲイルに笑われてしまうほどに。


「妖精を連れてきてるよな?」


「へ? 森の入り口で放したよ。ここ嫌だって。帰りにつれてくから安心……。あれ? どうしたの」


「では、知らない何かがいることになるな」


 残りの破片がどこにも落ちていない。消えたりはしないものだ。紐もないとすれば、喰われたのだ。なにか、に。


「え、あ、ちょっとっ!」


 慌てて部屋に戻れば、そこは音が溢れていた。

 素質が違うのに煌めいたものが降ってきているのが見える。花のような甘い匂いさえ感じた。


 なにかが現れ、去っていた。


「え、どうしたの?」


 部屋に満ちたもの全てが、ユウリにはわからなかったらしい。

 きょとんとした表情を見れば、全く素質がないのがわかる。

 エリックは言葉に迷い、一つだけ確実なことを告げた。


「歌が聞こえた。意味は祝福」


「へ? 髪の色が変わったなぁとしかわかんなかった」


「確かに黒かったんだな」


 それに気がついたのはユウリの方が先だった。

 彼女の髪の色が変わっている。艶やかな黒髪に。

 くったりとソファに横たわっているが、表面上はなにかあったようではない。疲れて眠ったのだと言われても少しもおかしくない。


 呼吸による胸の上下がひどく緩やかな気がしたが、気のせいだろうとそこから視線を外す。


 床に何かが落ちていた。それはたどたどしい筆跡で書かれた呪式だった。


「なにが起こったかわかんないんだけど」


「理解出来る範囲で言えば、魔法が発動した。初めて使う場合、回路が作られるので一時的に意識を失う。本人の資質に応じて、世界のどこかに潜る、らしい」


 大体は子供のうちに済ませてしまうので、基本的にはそれほど深くは潜らないで済む。彼女の場合どうなるかはわからなかった。

 それ故にゲイルもエリックもためらい、魔導師としての資質自体を閉じてしまおうとも考えていた。

 本人もあまり興味がないようでそれは好都合にも思えたのだが。


 こんなことになるなら、さっさと済ませてしまえば良かった。


「じゃあ、しばらくそのまましとけばいいのかな。あれ、魔法は発動したの?」


「失敗していたら、こうはなならないから発動したんだろうな」


「なにを?」


「眠り系のどれか」


「は?」


「基本に忠実に作れば、大体入っているような単語ばかりだな。特徴がない」


「……それ、起きるの?」


 恐る恐るユウリが聞いて来た。それこそ、こちらが知りたいものだ。


「片っ端から試してはみるが、わからないな」


「わからないって。あれ、なんか……」


 ユウリは何かを言いかけて、彼女の側にしゃがみ込んだ。

 何かをつまみ上げる。


「なんで、災厄の痕跡があるんだろ」


 ユウリはわけがわからないと言う顔で、首をかしげる。つまんだそれは羽に似ていた。


「あ、触らないで。乗っ取られるよ」


「生きた者に干渉出来るほどでもないと聞いたが」


「そうだけど。なんで、ここに? んー、ちょっと調べてくる。そっちは任せた。どうせ、僕に出来ることないし」


 ユウリは納得出来ないという表情のまま部屋を出ていく。止める理由もなかったのでエリックはそのまま見送った。


 まず、回路を作っているから起きないのか、魔法の効果なのかすらわからない。

 回路を造るために潜るとき、迷うものはそれなりにいると聞いたことはある。帰ってこないこともあるとも。


 焦っても良い事はないと自分に言い聞かせ、一つずつ試していくしかない。もし、眠りでも、回路のせいでもなく、災厄が何かしていたとしたら、ユウリを許せそうにない。

 あれはユウリに執着していた。気がつかない間に連れてきたとしか思えない。


 ユウリが来てからそれほど時間はたっていないはずなのに、なぜ、こんなことになっているのか。

 さっさと追い返せば良かった。

 ため息をついて、それらの考えを底に沈める。苛立ちしか出てこないものなど今は邪魔だ。


 簡易な解呪から始めて、この場で出来そうなものは試したが、どれも反応しない。


「本当にどれだよ」


 手元にあったメモのような呪式は山ほどある。それだけで起動するような簡単なものならすぐに目覚めるだろう。

 解呪すら受け付けないというものは多くはないが、どれも特殊な道具や儀式が必要であったりする。


 回路のほうで迷子になっている可能性の方が高いのだろうか。

 そうなれば、禁呪などといわれているが心に入り込む類を試すことになる。さすがにそれを使った経験はない。


 あるいは、一つだけ試していないものがある。


 眠り姫。

 それほど遠くない昔話で語られる、現在もごく希に使われる魔法だ。難易度と求める資質は高く、使えるのは一代に一人いるか程度でしかない。

 クルスの一門でも現在は一人もおらず、噂では異国にいると聞く程度だ。


 普通ならあり得ない。

 ただ、本を読んでいたから覚えてそれを起動した可能性もなくはない。あれは呪式には全くみえないので、そのまま全文記載している場合も多い。基本的に発動するわけもないからと魔導協会も放置していた。

 解呪は、簡単で難しい。


 キスをすればいい。


 ただし、双方の一定以上の好意が必要である。相手はともかく自分は、どうなのだと。


 全く、考えたことない、というわけではない。

 見ない振りをしていたことも自覚している。


 だからといって、こんな時に、試させて自覚させられるとは全く思わなかった。

 目覚めるかどうかで自分の気持ちの深度を知るなど最悪と言える。


「どうするかな」


 いっそ、禁忌とされる心に入り込む方を試したくなってきた。

 もちろん自棄のような気持ちですることではない。ならば、解呪で必要なことだからと言い聞かせてみるが、落ち着きを払うことは無理だった。


「アリカ」


 小さく名を呼んでも応えはない。照れたように、なんですか、と笑うことはない。

 場合によってはずっと。


 嫌だなと素直に思った。


 柔らかい頬も生気がなく、触れても冷たく感じる。

 赤い唇だけが誘うように赤い。


「起きて」


 初めて触れたそれは、とても冷たかった。


 黒いまつげが小さく震える。

 ゆっくりと上がる目蓋に安堵した。そして、その事実に諦めにも似たものを覚える。


 あんなにされて、好きにならないわけがない。それを彼女はわかっていない。

 甘い感触に少しだけ名残惜しい気もしながらも離れる。


 彼女のぼんやりとした目が焦点を結び、柔らかく微笑んだ。

 しかし、それはすぐに怪訝そうな表情に変わり、血の気の失せていた頬が赤くなる。

 もう一度触れたくなるのを押さえ込んで少し離れた。


「……おはようございます?」


 彼女はなんだかわからないと言いたげに首をかしげている。

 それがおかしくて、とてもほっとしたのだときっと彼女は知らない。


 全部、手にしたいと自覚したことも。

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