眠り姫 2
「いいけどさ、後々に響きそうなのやめて欲しいんだけど。
こっちは痕跡も残ってない。本当にいたのか、ってくらいだけど、アーテルちゃんには気配残ってるし、おかしい感じがする」
「今は、まっさらだな」
「そう。おかしなくらいなんの痕跡もない。魔法使ったあとどうなったわけ?」
「えっと、メモを見たらなにか自動で起動しまして……。深いところまで連れて行かれたようです」
その場で起きたことはざっくりお伝えしました。
それを聞いてクルス様が何気ない風でさらに離れて行ったのはなんでしょうね。ユウリが呆れたような顔でそれを見てましたけど。
「そこは魔導師の管轄か、神殿の管轄か微妙。表に出すと聖女認定されるかもしれない。僕は黙秘するからそこはうまくやって」
「話が全くわからないのですけど」
「俺はあまり教会のほうにはいかないから詳しくはないが、深層であったのは詩神と名乗ったのだろう? それだけでも希有で、さらに加護と言われれば当代に一人いるかもわからない者だとは想像がつく」
……チートは割愛され、説明されてないのですが、おそらくコレではないでしょう。つまり、これ以外にも何かあるんですよね。
現状、黒いだけでも珍獣で、神に会って加護をもらって聖女で、次はなんですか。魔王にでもなるような物騒な何かでもあるんですか。
……そう言えば、資質などを測定したときに白紙で、何でも作れる的に書いてありましたね。
これ、知られたら、国が総力あげて引き留めにかかりますよね? 敵対はしないけど、搦め手くらいは使ってきそうです。
過去の色々でそう簡単には、あたしには害を与えようとはしないとは思うのですが。
クルス様を見れば少し心配そうな顔に見えました。
あたしの最大の弱点ってこの人なので、離れるのが一番な気がするのです。そうでなければ、近くで色々なものを排除するしかないような……。
「黙って、チート級の魔導師で通したほうがましだし、魔導協会もそこまで調べたりはしないだろう? ただ、あとはディレイ次第」
「最初の認定、ごまかすの手伝えよ」
「勝負に負けた一回分はこれでチャラね。驚きの白さ、は、怪しいから、グレーぐらいにはするようにする。どうせ協会も手を貸せとか言い出すだろうし」
不正する話が目の前でまとまりましたよ。
馬鹿正直に言ったら、大変なことになりそうなので止めませんけど。
「あと一ヶ月以内には呼び出されると思った方がいい。時間をかけない方が押し通しやすいし、あとでぐだぐだ言われても正式な書類ってことではねのけやすい」
ユウリはそう言ってため息をつきました。
「めんどくさい」
「お手数をおかけします……」
「アーテルちゃんは悪くないからいい。むしろ、迷惑かけたし」
「災厄の話は」
「僕からするよ。なんにせよ、本気で疲れたから明日にしたい。もう、シャワーとかいいからゴハン食べて寝たい。なにあるの?」
……急に現実に帰ってきましたよ。
お昼も食べ損ねたからホントにお腹すいた、とか、ぼやいているユウリを見れば苦笑が浮かびます。
最初は最悪でしたが、今はそこまでではありません。
知人くらいの対応で良いと思いますが。
一時的に話は保留してあたしはキッチンに向かいました。
二人はなにかごにょごにょ話をしていましたけどね。ちらっとお風呂とかなんとか聞こえてきたので、少しお湯沸かしてあげるんですかね?
ゴハンの準備をしていれば二人で戻ってきましたけど。
「水の中に火つっこむとか意味がわからんというか死ぬ」
「別に問題なかったからいいだろ」
「あったわっ!」
……ユウリとクルス様って口げんかというよりなんかじゃれ合いって感じです。ゲイルさんはどちらかというと兄弟感があります。
原因はおそらく、クルス様がお湯を沸かすのをめんどくさがったのですね。たぶん。あと、実験したかったんですよ。
良い口実と思ったに違いありません。
クルス様ちょっとそういうところあるので……。
多少さっぱりするくらいにはお湯を沸かしてあげようとするくらいには優しいんですけどね。水でやれとかいわない分だけですけど。
「熱湯作るとか死ねっていうの? なんで、ときどき、すんごい馬鹿なことすんの?」
……思ったより大惨事でした。浴室、無事ですか?
「前はぬるかったから、いけるかと」
……そして、前科がありました。知らないんですけどっ!
さすがに気になってダイニングの方を覗けば、クルス様は澄ました顔でした。全く、悪びれてません。
ユウリの方がいらっとしてますね。
本編の逆をいくパターンですか。
これはこれで良いですね。あれとかこれとか再現してくれないかなぁと脳裏をかすめたりするのが、業が深い気がします。
いままで本編の人と絡むことなかったので、この欲求はなりを潜めていたのですが。
ニヤニヤしそうなので気がつかれる前にそっと戻りましょう。
今、パスタをゆでていたのです。吹きこぼしてしまうのも気になりますし。
そろそろ配達がくるころなので、ストックがほとんどないのです。成人男性が一人増えると結構ぎりぎりです。
そんな時に思い出したのが乾麺の存在でした。
パンケーキをただひたすらに焼くのが嫌だったからですけど。粉はあるんですよ。
ゆであがったパスタにケチャップもどきをぶっかけます。ショートパスタですけど、いける、はず。
ロングなパスタはどこにあるのでしょうね……。
二人分をよそって、そういえばもう一枚皿が必要なことを思い出しました。まあ、あとで探しましょう。
もしかしたらお代わりするかもしれません。ユウリの方は肉体労働の方が主体ですし、結構食べるかも。
「どうぞ」
ユウリの前に出したら固まりましたね。
ナポリタンを凝視して、あたしのほうを見てにへらっと笑って。
「一緒に王都に行こう。専属料理人として」
とんでもないことを言い出しましたよ?
「もう、胃袋のためなら万難を排する所存っ!」
「……馬鹿な事言ってないで、食べてください。作り方くらい書いてあげるので誰かに作ってもらうか自分で作りなさい」
前世の記憶が色々邪魔したんですかね?
クルス様がびっくりしたように固まってますけど、こっちも大丈夫ですかね。
「ええっ! 苦労させないし」
「ユウリが連れて来た女、って時点で他の女性から敵視されまくります。嫌です。絶対、いじめられるじゃないですかっ」
「ええっ! まあ、みんな仲良しじゃないけどさ。そこをなんとか」
「レシピで我慢してください。専門職が作るとおいしいですよ」
「ええー」
なんて言い合ってるとクルス様が肩を揺らして笑ってました。
「ユウリが断られてるの初めて見た」
……嫌なフラグを立てられた気がしますよ? それっておもしれー女とか言われて気に入られるヤツですか?
「王都に行くなんて、絶対、嫌です」
真顔で、きっぱり、断っておきました。
ユウリが気圧されたように肯いてましたけど、そんな迫力ないと思うのですよ。
「あたしは、ここにいたいんです」
あくまで、希望ですけどね。




