敵意を今、一番感じるんだけどっ!
もらったケープを部屋に戻して、再び降りてきたときには既にクルス様もリビングにいました。
少々気まずくて視線を避けて、一人掛けのソファの方に座りました。あまりこちらは使っていないのです。座り心地はいいのですが、大きめで身の置き場が定まらないといいますか。隙間にクッションを詰めて寄っかかる感じになってしまうのです。
もう一つの一人掛けのソファにはユウリが座っています。なんとなくもぞもぞしているので、やはり位置が決まらないんでしょうね。
クルス様は長い方のソファにいますけど、珍しくクッションをお腹のあたりに抱えてます。
「でさ、今日はもう暗いから明日にしない? 僕も疲れたし。お風呂とかある?」
「あるが、今からは難しい。シャワーくらいなら使えるようにしてもいい」
「ああ、もしかして、自動湯沸かしとかついてない?」
「ないな。師匠がタンクの方に直接火球ぶち込んで沸かしていたという嫌な話は先日聞いた」
「……わぉ。良く壊れなかったね」
「コントロールは完璧だからな。同じことは無理だ」
……思った以上にワイルドで、冗談かと思ったくらいですからね。ゲイルさんが謎の焦げがと言っていた原因がわかって、激怒してましたね。
あのババアとか言ってました。
クルス様はその手がとか言いだしていて、止めましたけど。大人しく、改修しましょう。
「悪いけど、頼めるかな。本当は町に一泊するつもりだったんだ」
「何をやらかしてきたんだ?」
「いや、ちょっと治安悪いところにお仕置きしてたら、ウィッグが焼けちゃってばれて逃げてきた」
なにしてるんでしょうね。この人も。
クルス様も頭が痛いように額を押さえてます。
「その、考え無しで、どれだけ迷惑を被ったと思ってるんだ」
「色々あったね。いろいろ」
「そうだな。魔導師だってのに、前線連れ回して、潜入とかにつきあわせるとかありえない。もう、二度とやらない」
……確かに、その通りです。基本、後方支援なのですよ。魔導師って。なんなら使い捨ての魔動具作りまくっている感じでも大丈夫なのです。
なのに、火力をあてにされ、他より体力があるとか、魔銃使えれば大丈夫とか言われてつきあわされてました。
その上、主義の違いから対立しても困ってたら助けてやるくらいの優しさがあるのですよね。窮地何度助けたと思ってますかっ!
もうやらないとか何回見たと思ってますかっ!
……なんか、むかついてきました。
「……なんで、僕、彼女に睨まれたの? 敵意を今、一番感じるんだけどっ!」
「気のせいじゃないですか」
ユウリの訴えは澄ましてスルーします。心が狭いのは承知してます。ついでに言えば、説明なんてしたくないのです。
ユウリは困惑したようにあたしとクルス様を見比べていますが、なにかわかることはないでしょう。
クルス様は困ったなと言いたげな視線を向けてきましたけど。
「うーん。新鮮だな。一緒に王都いかない? 楽しそうな気がしてきた」
「いきません。ここに居たいんです」
きっぱりお断りします。
嫌ですよ。あのハーレム入りとか。落ち着きそうなところが炎上します。配役でも確実に悪役を振られますよ。
黒髪黒目とか最強カード持ちで、決まってた婚約破棄させることになりますから。
本人の意志とか別として、何もしないでも同じことになるかもしれないとか言われてるんですから、距離はとりますよね。
「ほらね」
ユウリは断られてなんだか楽しげです。
「心配しすぎ」
「余計なお世話だ」
……なにか、二人だけでわかっているようですよ。
じっと見てれば、クルス様にごまかすように笑われましたけどね。これ、結構珍しいです。
本格的に何か、隠したいってことですね。
気になりますけど、見なかったことにします。
「荷物ほとんどありませんけど、大丈夫なんですか?」
「特別なものがあるから大丈夫。部屋は二階?」
「ああ、案内してくる」
立ち上がりかけたあたしに先んずるように言われてしまいました。行動予測立てられてますかね?
家主がするのがよいと言えば良いんでしょうけどね。
そういえば、ゲイルさんの時も同じようにされた気がします。
ここで待っているように言われ、二人を見送りました。
部屋に灯りをつけて、今度はいつものソファに座りました。なんとなく、寂しい気がするのは、クルス様が楽しそうだからでしょうか。
いいんですけど、なんというか、忘れないでと袖を引っ張りたくなるような気分です。ユウリは連れて行ってしまうような気がして、不安になるのでしょう。
なんとなくクッションをお腹に抱いてあごを乗っけてみました。羽のクッションなので時々刺さるんですよね……。
待つときは時間も遅く感じられる気がします。
ユウリは何をして待ってたんでしょうね。
目に留まったのがテーブルに残されていた一冊の本でした。
「……眠り姫」
また、これですか。
一度、クルス様に聞いたんですよね。関連の蔵書が多かったので。
嫌というかげんなりしたと言うか、負の感情が混じった感じの何とも言い難い表情をされました。
なにやら、これには良くない何かがあるようです。
言葉としては好きじゃない、だけだったんですけどね。
本をぱらりとめくれば、あるページに折り目ついてますよ。ここまで読んだとか折り目つけるタイプなんでしょうか。
とりあえず、元にもどしましょうか。
「クライマックスって実はここなんじゃないでしょうか」
四ページにわたる長い魔法をかけるシーン。ほぼほぼ、魔法使いの独壇場。顔の見えない彼が織り上げる美しい呪い。
ヒロインの願いを叶える、しかし、外から見れば悪役の魔法使いはハッピーエンドの外側にいます。
後の創作とおもわれるものでは、もう一人ヒロインが出てきて、双方ハッピーエンドとかあるのですけどね。
基本的に魔法使いは魔法をかけたあとは出てきません。
去り際に既に眠ったヒロインに一言かけていくのですが、これに決まった言葉はないようです。
この本では、幸せになりなよ、でした。捻くれているのか、嫌いだとか、二度と会いたくないとか、ずっと眠っていればいいとか、そんな言葉が多いんですけどね。
折られたページを元に戻して、本棚にも返してしまいましょう。文句を言われた時はそのときです。
立ち上がり、本棚に戻そうと背伸びしたときでした。
「ひゃあっ!」
背中を何かが駆け上がっていきましたよっ!
柔らかく溶けていく何かが暖かくて不気味でした。元気になった気がするのが輪をかけておかしい気がします。
なにかが、体に入っている、と思うと気持ち悪いとしか思えません。
本を抱えたまましゃがみ込んでしまいました。最初のものはそれほど嫌だとは思わなかったのに、これはダメです。
侵食されている、そんな気がします。
『いわんこっちゃない』
遠く誰かの声を聞いたような気がしました。




