エオリア異聞
エオリア異聞というのは、既刊は20冊くらいでした。雑誌のほうはもう少し先に進んでまして、日本に居ればそろそろ新しい雑誌を入手して、ムンクの叫びになっていたと思います。
この話は読み切りから始まって、連載になったそうです。あたしが読み出した発端は弟が実家で積んでた雑誌を読んだことでした。
弟は雑誌買う割に積むんですよ。なんですかね? 読まないなら買うなと言いたいですが、単行本派の姉にはわからない心理なのでしょう。あたしも積んだ本一杯ありましたから人のコト言えませんし。
弟が気に入っていたのは別の漫画だったので、おそらく記憶にも残っていないでしょう。
さて、雑誌の連載で読んだので前後の流れが全くわからない途中からとなります。
主人公、ピンチと思いながらページをめくって。
出会っちゃったんですよね。
『手助けはいるか?』
なんて言ってくる謎のフード男でした。まあ、すぐに顔は見れたんですけど。
魔導師を名乗る癖に、魔銃を扱う姿が格好良くてですね。気にはなったのです。ちなみにクルス様はここで初登場ではありません。
それより前に何回か出ていたのですよね。
で、まあ、主人公のピンチを救ったりするのです。
『これはサービスにしといてやる』
なんて言って、撤退戦で最後まで残ったりするんです。
あれは、相性最悪の雨の日でしたね。え、ちょ、ちょっと死亡フラグなの? どうなの? とどきどきした記憶があります。
そのあとが最悪で。そんな対応されるにふさわしいことをしてきたのかと気になって、既刊を一気に揃えました。
あっさり堕とされました。
クレーマーだわーと呟きながら、雑誌購入し、はがきに苦情書きましたからね。いやーほんと迷惑な読者ですよ。でも欲望に忠実なので、書きますけど。
あたしがクルス様を一方的に知ったのはそんな経緯です。
エオリア異聞の本筋的に言えば、小競り合いの最中に主人公が活躍するところから始まります。その後、幼少期の回想で、黒髪黒目が珍しいこと、神童といわれるほどに賢かった事が語られます。素質も十分にありましたし。
それが、役人の目に留まり警備兵に。それからとんとん拍子に出世して、という少年期。
本格的に戦争が始まったのが青年期にあたる二年前くらいのことです。色々あって、現在終戦というところです。
なお、架空戦記という性質上、わりと人が死にます。本当によく生き残りましたね、クルス様。
主人公は人に好かれやすいタイプではあるのですよね。熱血系の天然たらしっていうのでしょうか。
今日見た現物は温厚そうな腹黒にしか見えません。
さて、その主人公のお話をダイニングで聞くことにしたのです。お茶も無しにテーブルに着くことになりました。
最初にお茶の用意くらいはしようと思ったのです。
まあ、一応、お客様ですし。
一応。
気は進みませんが。
「いらないだろ。すぐ帰るんだからな」
……クルス様がすごい塩対応でした。
「え、ええっ!? 今から歩いて帰るの? 夜になるよ?」
「知らん」
「いやいや、泊めてよ。お姉さんもそう思うでしょ?」
愕然とした表情の主人公を見るのは少々楽しかったのですが、さすがにそれはまずい気がします。言いふらしたりしないでしょうけど、こんな事があったと一言でも漏れれば、全面的にクルス様が悪人にされちゃいます。
「外聞が悪いので、早朝に放り出せばいいんじゃないですか?」
「なんか、こっちもひどいっ!」
優しくする理由ありましたっけ?
「一応、僕は命の恩人になるんじゃないかなぁって思うんだけど」
「偶然な。用事がまともだったら、考えてやる」
……本当に嫌なんですね。あたしも先ほどの事があって嫌だなぁ感が増えてますけど。
しかし、命の恩人とはいったい? 首をかしげるあたしにユウリがウィンクしてきました。……様になりますね。リアルで見るとばたばたと引っかかっていくのがわかる気がします。
優しくされたら特別だと勘違いしたくなります。
まあ、あたしはクルス様一筋ですので、このタラシがっ! としか思いませんけど。
「お茶いれてきますね」
……でも、なにか一抹の不安が過ぎったので、席を立つことにしました。魅了でも使ってくるんでしょうか。推しがいなければくらりときたかもしれないですね。
ユウリは浮気性とまでは言いませんが、優柔不断で、誰にでも優しい感じなのです。なかなかに罪作りなので、お相手としてはお断りしたいものですよ。
まあ、恋は落ちるものらしいので理性とは別の挙動をすることもあるでしょうけど。
「ココアにお砂糖たっぷりとクリームよろしく」
……原液濃いめで出してやろうかと思いましたよ。大人げないのでやめましたけど。
配達を利用するようになって、カタログみたいなものをもらったのですが、わりと現代日本と似たような品揃えがあることに気がつきました。
ただし、価格は高めです。
ユウリご要望のクリームも少量ですが、常備してます。ただ、これは生乳から作ったモノではなく、そういう植物の果実を搾ったものらしいです。
砂糖とココアとクリームを入れて混ぜてからお湯を入れます。ダマになると悲しい気持ちになりますし、指摘されたら喧嘩売りそうな気がします。
さて、あたしは同じ飲み物を飲みたくないので、ちょっと苦手ですがクルス様と同じものをいれることにしましょう。
わざとゆっくりと作っているのですが、ダイニングのほうがやけに静かなのが気になります。
なにか不穏です。嵐の前の静けさみたいな。
そこに戻るのも嫌ですね……。部屋に戻りましょうか。いや、でも残していくのも不安です。困りました。
「どうぞ」
先にココアだけ持って行きました。お盆とかトレーとか必要ですよね。今まで気にしてなかったのですが。
純粋な来客というのは今回が初めてでしょうか。
ゲイルさんは身内枠のようで、初日から好き勝手されてましたし。ゴハン作ってやるとか言い出したりしてフリーダムだなと。
おいしかったですけどね。
さて、残りも持って来ようとキッチンへ足を向けると足首に何かが触れました。
「……ん?」
ふわふわしたような何か。思わず足下を見ますが、何もありません。
気のせいでしょうか。
首をかしげながらキッチンに戻ります。でも何か、ちょっと元気が出たような気がします。
「いつも、こう?」
「違う」
なにか、先ほどの会話の再現みたいなのをしてますね。
「なんか想像と違いすぎてどうしていいかわかんないな」
「結局、何しに来たんだ」
「息抜き」
……。
さらっととんでもないこと言い出しましたよ。
これ、すぐには帰ってくれないんじゃないでしょうか?




