配達 1
町へのお出かけから一週間ほど経過しました。
異世界にきて20日目くらいです。
この間、していたことは片付けだけです。ダイニングとリビングと客室が一つ綺麗になりました。
……代わりに一部屋手をつけられない惨状になっています。
それは移動しただけではないでしょうか。とつっこんではいけません。
ダイニングはほどほどには片付けていたので、初日に不要品を出すだけですみました。翌日には中をある程度掃除し直しモノの配置などを変更するという余裕もあったのですが。
リビングはクルス様の巣みたいになってまして、抵抗されました。一応、ですね、お客様が来るのでとかなんとか説得し、ものすごい嫌そうに片付けてました。
ゲイルさんに見られて大丈夫ですか? という一言が良く効きましたね。
モノが減るとこの部屋にあるものは質がよいものが多い事に気がつきます。
ソファやローテーブルも年代物といいますか、アンティークっぽいです。暖炉だと思っていた場所は暖房の魔動具が置いてありました。
壁には立派な書棚があります。この本棚は壁一面かつ天井までびっしり本が詰まっていて、上段の本を取るためにはしごも付いてるような立派なものです。
元々書斎かなにかだったのかもしれません。重たげなカーテンがその名残でしょうか。
そのカーテンを洗ってかけ直し、窓を拭けば居心地のよさそうな部屋になりました。今は昼なので重たい方のカーテンは纏めて、レースのカーテンが風もないのにそよいでいます。
いえ、風はあるらしいのです。空気清浄機のような魔動具で室内換気しているらしいですよ。だから、全体的に埃っぽくないんです。ある程度の温度や湿度などの空調もしているようです。
……それで余計、掃除しなくなったんじゃないかと思います。いつから片付けてないかの質問に先代からと言うことになるでしょうよ。便利すぎるのも良くないです。
さて、この部屋であたしは何をしているかといいますと。
この中の本を出しては謎のメモがないか確認し、分類しておくという作業を二日ばかりしています。
ちなみにクルス様は別室であたしが扱えないその他色々を分類したりしてますけど、すぐに手が止まって考え事始めたりするのであてになりません。
この部屋にある本はほとんど小説や学術書などの分類のもののようでした。魔導書のようなものもあったらしいのですが、クルス様が回収済みです。こんな所にあったのかとか言いながら、十冊くらい持って行きました。
あれから読んだんでしょうね。連日寝不足って顔してましたし。でも、機嫌がよさそうで、なにか複雑な気持ちになります。
それ、あとにしてくださいと言っても聞かないでしょうし。魔導書を与えてしまった気がします。
あたしも気になる本はつい読んでるときもあります。進まないわけです。
本も大変多いですし。
収集した人の趣味なのか、ある特定の本だけ多く集められていたりもします。百年くらい前にいたらしい来訪者のルールーの冒険とか、神代の絵本だけを言語別に集めたものとか、ロマンス小説の山とか。
……ロマンス小説にはほんっとにいろんなメモが挟み込まれていまして、筆跡も違うのでいろんな時代の人が書いたのだろうと思います。
呪式とか関係なさそうなモノはそっと元に戻しておきました。いや、呪われそうなのとか逆に惚気すぎてるものとか色々ありまして。関係ないポエムとか黒歴史になりそうですよね……。
クルス様はそんな事していないのか、そもそもロマンス小説など読まないのか今のところ見つけてません。
逆にリリーさんの色々を見つけてしまいました。書きかけラブレターとかダメですよ、こんなところに忘れては……。
それらは厳重に保管し、ゲイルさんがきたときに絶対開封しないように念押ししてお渡ししようと思います。
あーもー、小さい頃から結婚の約束とかなんですか、それはっ!
……いえ、なんでもありません。
他に目を引くのは、眠り姫、と言われる本でした。歌劇にもなっているようで、シナリオ集みたいなものもありましたし、色々な種類を集めているようでした。
分厚い本だったので、一番薄い絵本のようなものを読んでみました。
仲の悪い家同士の若い男女が恋に落ちて、お約束のように反対され、他の誰かと結婚などしないと眠りの魔法で眠ってしまうヒロイン。ヒーローの目覚めのキスで目が覚めるような展開でした。
そこまではハッピーエンドでした。
後書きが、蛇足過ぎました。
実話を元にしていると言われており、その後、ヒーローは若くして戦死し、ヒロインは行方不明という話だとさらっと書かれていました。
……ハッピーエンド壊していかないでください。夢は夢でいいじゃないですか。
それともう一つ、眠り姫というのは現存する魔法で、異界からのおとぎ話を元に作られてあると触れられていました。
そういえばこの間、拾った本もそんな名前だった気がします。
思い出して、テーブルの上から本を取り上げます。そう、眠り姫とタイトルが付いています。中身になにかメモが挟まっていた気がして、本を広げました。
扉を叩く音が聞こえて、そのまま顔をあげます。
そこにいたのはクルス様なんですけど、少々慌てました。
「出てくる」
「え、ええと、その格好ってなにか問題ありました?」
最初にみた格好と類似しています。それ武装用マントですよね? そんな何かが起きたんですか?
彼は一瞬、なにを言われたかわからない、という顔をしてましたが、すぐに気がついたようです。
「予備がない。そのうちと思って後回しにしてたから」
「借りてきたものは?」
「あれは好戦的な気分になるから嫌だ」
それも随分と過剰戦力のような気もしますが、本人が良いというならいいのですけど。きっとゲイルさんにもつっこまれますよ?
「そうですか。気をつけて行ってきてくださいね」
そう、今日は配達の来る日です。ついでにゲイルさんも来るんですよね。なんとか取り繕った感じは否めませんが、使いそうな所の片付けは間に合って良かったです。
「さて、お茶の用意でもしておきますか」
ゲイルさんは特に好むお茶がないらしいので、同じモノでいいでしょうか。
昨日から暇を見つけてちまちまと作っていたパイもどきも良く焼けてましたし、リンゴもいい感じに煮えたはずです。
そのまま本を閉じ、同じ本を集めている場所に置き直しました。この時、本からメモが落ちた、なんてことも気がつかなかったんです。
それが、ソファの隙間に入ったのも。




