推しに貢がれました(違
次のお買い物は服とのこと。雑貨は微妙に重たいので、後回しだそうです。終わったらお昼にしようとそんな普通の会話を、いっぱいいっぱいの気分でこなしました。
……かなり上の空だった自信はあります。
クルス様と歩調が合わないことが、ばれまして。いえ、あたしが頑張って合わせようとしていたのがばれたというか。
最初はクルス様も合わせようとしているみたいなんです。最初の魔動具屋に行ったときは、最後の方があれ? と思った程度だったんです。お店を出て時間経過すると速度が上がっていきましてね。
少し早いと言えばいいものを遠慮して、早足でついていったのが間違いでした。最終的にこけそうになっておもいっきり引っ張ってしまって。そのころにはちょっと息が乱れるくらいで、日頃の運動不足を感じます。
謝罪したら、いらっときたように眼を細められて、腕を組むにグレードアップしました。み、みっちゃくぅ。
確かに、たしかにっ! 引っ張られるとかないでしょうけどっ!!
あ、クルス様の名誉のために言っておきますが、きちんと謝罪はされました。そのあたりの記憶もちょっと曖昧ですけど。
そういうわけでちょいちょい意識さんが仕事してない感じです。変な事口走ってないといいですね……。
さて、服屋さんなのですが、ゲイルさんの奥さんからよく買っているお店を教えてもらったそうです。
ほどほどの値段で色々揃うから重宝するといっていたそうで。ちなみに店の奥が住居で、奥さんもいたそうなんです。
二人揃っているとは思わなかったと愚痴めいていたので、想定外だったのでしょう。なるほど、お疲れだったわけです。
店は商店街っぽいところにありました。
既製服と古着、両方を扱っているお店らしいですよ。外から見た感じ、女性ものの方が多そうな印象でした。
ちょっと可愛らしすぎませんかね。
クルス様もうっと躊躇ってるくらいには、男性は入りにくそうです。気にしなそうに見えて気にするんですね。意外な発見です。
諦めて店内に入るとすぐに女性の店主さんが出てきました。店内には他に誰もいないようです。あたしたちを見比べると首をかしげました。
確かに着ているものの種類が違うというか、好みが違いそうには見えますか。
「リリーの紹介と言えばいいってきいたけど」
クルス様がなんとなく居心地悪そうにしています。わかります。あたしも少々の場違い感はあります。
ゲイルさんの奥さんの趣味なんでしょうか。
花柄とかレースとかフリルとかついてて可愛いです。……まあ、奥の方を見れば地味な感じのものが見えて安心しました。可愛いけど、日常で汚す心配しながら着たくはありません。
「ああ、どっちの服かい?」
「彼女の一式」
「ずいぶん貢ぐね、色男」
……そう見えますか。クルス様は眉を寄せて不満と言う顔をしていますが、口に出してはなにも言いませんでした。
背中を押してくれるのはいいんですが、外でお待ちですか。そうですか。
「よろしくお願いします」
店長さんに神妙な顔を作ってお願いしました。
地味で汚れても目立たなさそうなのを探します。
この十年くらいで既製服という概念が広まってきたそうです。こんな田舎町でも手頃な服が手に入るようにはなってきたと。以前は自分で仕立てるのが普通だったということなので、そんな時代ではなくて良かった思います。
仕立屋はあるんですが、それは結構お高いらしいので。
針仕事くらい出来ないと嫁に行けないとかなんとか。
ついでに下着とかも聞いてみましたが、現代的なものというよりはビスチェやコルセットみたいなのが主流のようです。
地味なものしか扱っていないようですが、これ幸いと数枚買わせていただきます。その中でもすけすけなのすすめてくるのやめてくださいーっ! 見られたら死にたくなります。
らいふがごりごり削られている気しかない中、無事一揃い決められました。ああ、なにか大事なモノが減った気がします……。
「可愛い服くらい選んだらどうかね」
「可愛いとか言われてしまうと再起不能になりそうなので」
「おや、べた惚れなのかい」
べた惚れ、とかいうんですかね。この気持ち。微妙なんですよね。
好きってのは、色々種類がありまして。
それはともかく、店主さんがなにやら選び始めてしまったんですが……。
淡い小さな花柄のワンピースを持ってきて着替えるように言われてしまいました。あまりによい笑顔なので断りそこねてしまいました。
……いえ、その、可愛かったので、ちょっと魔がさしました。
……そして、重大なことに気がついたんですよ。おそらく、服を着替えなければ全く気がつかなかったでしょう。
大事なのは鏡でした。
等身大の鏡なんてクルス様の家にはなかったですし、かなりくすんでいたんです。
ちょっとばかり若返ってます。たぶん、5才未満くらいでしょうか。十代後半くらいの子供っぽさは残ってませんが、お肌のぴちぴち感がちょっと違うと申しますか。
微妙な特典です。いっそ10才くらい若くなりたかったような気もします。
試着室でうきうきで着替えに入って微妙な顔で出てきたものですから、店長さんが慌てました。
「髪紐もあるから結ってあげよう」
「ありがとうございます」
編み込みの三つ編みをしてもらいました。サービスと髪飾りもつけられて、可愛い格好です。中身が可愛いかどうかはさておいてですが。
恐る恐る外に出ます。
退屈そうな顔をしていました。まあ、それなりに時間がかかりましたからね。
「お待たせしました」
「もういいのか」
退屈そうな顔はそのままなんですが、いってることは逆ですよね。
そして、こちらを見たのは確かですが、すぐに逸らされました。よく見れば口元に手を当ててるんですけど。顔が赤いのでそれなりに可愛かったようです。
服装って偉大だなぁ……。
そのまま見ていたい気もしましたが、支払いはしてもらわねばならないので、店内に入ってもらいます。
最初から中に居ても他のお客さんがいないのでそこまで居心地悪くはなかったと思いますけどね。
「あとは雑貨か」
「持ちますよ」
買ったものは全部クルス様がお持ちです。それも悪い気がしました。自分のものくらい自分で持てます。
「そんな事したら、俺の方が悪者にされる」
たしかに店主さんは、クルス様に迷いなく渡していましたね。こちらの常識的にはそうなんでしょう。
でもですね、その袋の中に下着類も入っているとなるとちょっと心穏やかでは……。
気にしすぎなんでしょう。たぶん。
素直にお礼を言って持っていただきました。
雑貨屋でも色々買いましたが、新婚と勘違いされるのは、どうなんですかね……。
確かに買いそろえるタイミングとしてはそうなんでしょうけど。
いや、本当にいたたまれません。この世界にも素敵な女性は山ほどいるでしょうに、なぜに異世界からうっかりやってきたあたしと勘違いされるとか。
罰ゲームですか。
そんな話をうまく切り返すスキルは残念ながら、二人とも持ち合わせていなくて困ったんですけどね。
初々しいなんて勘違いがさらに上乗せされて、もう、どこかの隙間にはまりたくなりました。
マシンガンがなくてもマシンガントークは存在しました。
「疲れた」
クルス様の言葉には全力で同意です。こくこくと肯いて、力なく笑います。
相談の結果、一番安全そうな所に逃避することにしました。
「どうしたんだ?」
最初の魔動具屋です。ゲイルさんが面食らったような顔をしてます。
そうでしょうね。普通、二度目は来ないでしょう。
「すみませんが、しばらくいて良いですか?」
二人で歩いているとなんか色々削られていくので。耐性とかそう言う話でもなく、設定が死んでます。生きてません。
いえ、どこかで話されたらそんな話になるんだと思いますけど。
「え、いいけど、どしたの?」
「色々あって。他の用事を済ませてくる」
クルス様はそう言ってお店を出て行きました。購入したものの一部は先に門番のところに預けてくるそうです。多少の手間賃はかかるものの持ち歩くよりはずっとマシだそうで。
本当は服も預けるつもりだったらしいですが、あたしが抵抗しました。いや、だって下着がっ! 見られないとは思うんですけど、心穏やかではありません。
そして、あたしはお留守番です。もう、町なんて出てきたくありません。
ここの町の人、色々聞き過ぎじゃないですかっ!
店内の椅子に再び座ります。ああ、落ち着きますよ。
「……ディレイの相手、疲れない?」
ぐったりとしたあたしの様子を見ながらゲイルさんが話しかけてきます。ええと今は話してもいいんでしたっけ?
黙っているのも感じ悪いですし、お応えしますけど。
「逆にご迷惑ばかりかけてます」
その上、大変甘えています。なにせ無一文ですし、家すらありませんし。
出来ることも今のところなくて、普通に役立たずでして。
浮かれている場合でもないんですよね。本当は。
日本に戻るとか、家族のこととか家のこととか、仕事のことはいいです。仕事は、ずいぶんグレーな飲食店だったので。あ、二日目から勤務だった気がしますね。年末年始唯一の休みが一月一日。
「迷惑とは思ってなさそうだけどな。最近ずっと退屈そうだったから、ちょうど良いんじゃないかな」
「だといいんですけど」
ゲイルさんには笑われてしまいました。いや、結構切実なんですけど。
「ま、茶くらいは出してやるよ」
「ありがとうございますぅ」
眠くなってきました。
昨日ろくに寝てませんからね。そのまま机に突っ伏してしまいました。そして、そのまま意識不明になったらしいです。
迎えに来たクルス様にとても心配されました……。




