推しからプレゼント?をもらいました
嬉し楽しおデート気分で買い物。
……なんてドリームです。現実的に、迷子防止名目で手をつながれているのですが、全くもって心は安らぎません。
瀕死の重傷です。
ちょっと骨っぽい感じが男の人って感じですよね。指長いです。あと体温低めなんですね。
なんで恋人つなぎなんだってツッコミ損ねました。
というか設定どこ行きました?
見上げても全然視線あわないんですけどっ!
馬(仮)は門番に預けるルールなのだそうで今はいません。手間賃を先払い、必要経費を後払いとなっているのだとか。明朗会計です。
全く滞りなく町に入れましたが、門番にはじろじろとは見られたんですよ。小声でなにか話して、クルス様は口をひん曲げてましたけど。いや、あれは他に表現のしようがありませんでした。
眉間に不快と不満が詰まってました。でも、口を開きたくないって感じですかね。からかわれでもしたんでしょうか。
まあ、そんな一幕も現実逃避で思い出してしまいます。手汗がひどい気がしてきて、とてもいたたまれません。
さらなる現実逃避として遠い目で町並みを観察します。
田舎町とは言われていましたが、規模はそこそこありそうです。なんていうか地方都市感があります。
建物の主要な建材は煉瓦っぽいです。全体的に茶色っぽいです町並み。代わりに屋根瓦はカラフルですが、防水の塗料を塗ってあるそうです。煉瓦と同じように茶色から黒になれば塗り替え時なんだそうで。
道幅は馬車が二台すれ違える程度です。魔動車は町などは基本的に乗り入れ禁止とのこと。全く無音で走るらしいので、人を轢く事故が絶えなくてという事情を聞いたときは冗談かと思いました。
ガソリン燃焼とかしないので、静かなんでしょうか。
町の基本として、中央に噴水と広場がおかれるそうです。平時は早朝など市が立ったりもするそうです。今は露天と大道芸人のような人たちがぽつぽつ。あとは憩いの場なのか、町の人たちが井戸端会議をしていたりします。
噴水広場(仮)を横切るように大通りが一本あります。それから町の規模により、大きさの違う道が放射線状にできているそうです。
その隙間に家々やお店が軒を連ねているような感じに見えました。路地もいっぱいありそうです。
なんというか、適当に作ったあみだくじみたいな感じですね。
どこかに入ったら迷子になること請け合いです。
そして、町を歩いている人に見られているような気がするんですよね……。すれ違って振り返られる、ようなことが続くとさすがにおかしい気はします。
よそ者が珍しい、って言うなら先に言われそうなんですけど。
黙りなんですよね。どこか目的地があるみたいで大人しくついていきますよ。
「知り合いの店に行くが、黙っているように」
久しぶりに口を開いたと思ったら妙な指令です。なにか話をすると面倒になるでしょうか?
「話が長いんだ。悪くすると半日潰れる」
「わかりました」
そのうんざりしたような口調に理解しました。
そのお店は大通りからは離れた路地にありました。ただの民家のように見えました。看板もありません。
「ここですか?」
「紹介がないと売らない店だから」
「なにを売ってるんです?」
「魔動具」
意外な買い物ですね。なにか、自作しそうな印象あるんですけど。
専門外のなにかでしょうか。
店内に入る前に手は離してもらいました。クルス様の知り合いに会うってのにつないだままはちょっと……。
「ゲイル、いるか?」
扉を抜けるときに遠くでリンと音がしました。誰か奥から出てきました。
出てきたのは中年から初老にさしかかった男性でした。半分くらい髪が白いですし、ちょっと後退……いえ、額が広……。
この話題は男性には振ってはいけないですね。考えていることも分かられてはいけない話題です。ソースは兄。
「おや、ディレイじゃないか。そっちから顔出すなんて珍しい」
ディレイ、ですか?
また新しい名前が出てきましたが、クルス様の偽名でしょうか? 聞きたい気持ちはありますが、きょろきょろと店内を見回しているふりでもしてましょう。そのくらい空気読みますよ。
まあ、純粋に店内に興味があったりもしましたが。
真ん中にテーブルが置いてあり、その周辺だけが明るく、壁際は暗くよく見えません。時計でもあるのかかちかちという音だけがいくつも聞こえて不気味といえば、不気味です。
怪しい魔法道具屋感満載です。
「お、なんか知らん子がいるな。恋人でもできたんか?」
「違う」
クルス様が即答過ぎて、なにか傷ついた気もしますよ。なんなら食いぎみっていうんですか。黙っているお約束なので黙ってますけど。
「ふーん? 可愛い嬢ちゃん、名前は?」
「魔導師に名を告げないように」
口を開く前にクルス様に止められました。名乗るのも禁止でしたか。たぶん、こちらは別の意味で禁止だったんでしょう。
ゲイルと呼ばれた男性はつまなそうに、でも目は笑ってましたね。あたしをだしにきっとクルス様をからかったんでしょう。
「ま、今時、呪いを刻むヤツはいないが、そのくらいの用心は必要だな」
普通のおっちゃんにしか見えませんが、このゲイルという人も魔導師ですか。魔動具のお店なんだから、当たり前でしょうかね。
魔動具を作る方に特化しているのでしょうか。職人感はありますね。汚れた前掛けとか、黒い指先とか。
それと比べればクルス様の手は結構綺麗な方ではないでしょうか。もっともうっすらとした傷跡は結構あるので、なかなかに無茶してきたような感じの手ではありますが。
「まあ、嬢ちゃんと呼んでも気を悪くしないでくれよ」
あたしは真面目な顔で肯いた。
そもそもそんなお約束があるなら先に教えていただきたいのです。恨みがましく見上げてみれば、苦笑いされてしまいました。
「忘れてた」
……そうですか。
「で、何の用?」
「奥、使えるか?」
「珍しい。家じゃダメなものつくるのか」
「材料が足りないし、話もある」
ちらっとクルス様の視線が落ちてきました。うん、あたしのなにかがあるんですね。そこはもうちょっと隠しましょうよ。
「へぇ」
そこでゲイルさんは初めてあたしに興味を持った、みたいな風に顔を向けてきました。なんだかんだであまり見ないように遠慮してたみたいですね。目があったので、日本人の習性的に少し頭を下げました。
それにびっくりしたように目を見開いているんですが、なんですかね。
「どこの良いとこお嬢さんさらってきたんだ?」
「ちげぇよ」
クルス様の声が低すぎて、びびりました。不機嫌を前面に押し出してます。今日一番の不機嫌ですね。
この町はいってからなんとなく、ご機嫌斜めそうなんです。門番のあたりから既に兆候は出てましたけど。
「じょーだんだって」
そんなクルス様を相手に笑っているゲイルさんはただ者ではありません。これは相当、付き合いが長そうです。
「ここで待っているように」
「触るとひどい目に合うモノしかないからやめてくれよ」
ゲイルさんが冗談めかしていってますが、やばいんですね。大人しく椅子に座って待っていましょうか。
二人は奥の方に消えていきました。
かちこち聞こえる時計の音が、結構ホラーです。殺人鬼か、ゾンビでも出てきそうですね。うーん、暇です。
「してねーよっ!」
しばらくして奥から声が聞こえてきましたけど、なんの話をしたんですかね。全力否定ですよ。聞いたことない音量ですし。だから、聞こえてきたんでしょう。
爆笑が続くあたり、からかわれたんでしょうね。
壁掛け時計が、ぼーんぼーんと音を立てます。連鎖して5つくらいするので逆に楽しくなって……嘘です。怖いですねぇ。
この世界は腕時計こそないものの壁時計や懐中時計、置き時計などはあるんですよね。しかも電波時計みたいな機能もあるようであまり狂いはないらしいですよ。
作戦行動のときに時計を合わせるなんてシーンがあったんですが、特定の呪式を読ませるみたいな感じでしたし。
まだまだ戻ってこないようで、立ち上がってお店の中を見せてもらおうかなと思います。触らないから大丈夫。
小さい道具などが鍵つきの箱に収められています。上蓋だけ一部ガラスなので箱をあけなくても中身を確認できるようにはなっているようです。呪式が刻まれた部分は見えないようになっていて魔動具とは一目ではわかりませんね。
近づくと小さなメロディが聞こえてきて、なにかホラーです。え、呪われます?
「貸しだ。貸し。今は連れて行かない方が良い」
「……早めに返す」
「あ、あれでいいぞ。新型改良していただろう? 蒼月式56の雷モデル」
「使い勝手が悪い」
「コレクションだからいいんだ」
「今度持ってくる」
「おしっ!」
奥から声が聞こえてきたので、元の位置に戻ります。別に立っていても困らないとは思うんですが、他の場所は暗くて見えづらいのです。
「待たせた」
クルス様のお疲れな様子が、ありありと出ていますね。その顔。
逆にゲイルさんは元気いっぱいというか、楽しいことがあった、みたいな顔ですよ。
「あげる」
そう言ってクルス様が箱をテーブルに置きました。
「ありがとうございます?」
なんでしょうね?
中身は飾り気のない眼鏡でした。薄く色のついたレンズが珍しい気もします。
つけても特に変わった気もしません。というかフレームも視界に映っていないんですが、なんですか、これ。
「外に出るときは必ずつけておくように」
クルス様の口調としては結構きつい感じで言われてしまいました。
あたしの困惑は不満と受け取られたようです。
それも心外です。少々傷ついたような気がします。
「……わかりました」
言えば二人ともほっとした顔をされたのですが、それほどのことなんですかね? そのわりに説明らしきものをしてくれないのも気になります。
帰ったら聞いてみましょう。
……そのころまで気力が持っていれば、ですけど。
クルス様、当たり前のように手をさしだしてくるんですよね。ゲイルさんがににやにや笑われているんですけどいいんですか。
掴みますけどねっ!
「仲良くな」
「余計なお世話だ」
「お世話になりました」
一応、頭を下げてからお店を出ました。
店を出てちょっとだけ手を強く握られました。今度は普通に手をつないでる感じですが全く慣れません。
次からはお留守番をします。心臓が持ちませんって。生き物には鼓動の数が決まっていると聞いていたので、あたしはこの二日でどれほどの数を消費したんでしょうか。寿命が縮んでませんかね。




