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終焉の鐘が鳴る頃に  作者: iv
一章
197/265

到来



「本当に良かったんですか?今回の件、いつも見たいに首を突っ込まなくて」

「自分の上司を面倒事大好きなドMみたいに言うのはやめてくれる?神人なんてお呼びじゃないっつーの」

「キマイラさんが失敗してたら僕たちも危うかったんですけど」

「結果が全てよ。第一、私たちが本筋に動いたら、()()()()()()()()()()()()。混乱に乗じて何かしらやらかそうって魂胆の火事場泥棒ばっかりで嫌になっちゃう」

「期待の新人を迎えたばかりじゃないですか」

「荷が重すぎるでしょ流石に」


 とある一室での会話だった。

 どこかの研究室みたいなこの部屋は、彼女ら『箱庭』が数多く所有するアジトの一つ。

 無機質なテーブル、必要最低限の家具、適当なレイアウトの部屋では何人かの『箱庭』のメンバーが各々自由に動き回り、そして壁面に直接取り付けられた大型のモニターで安物のソファーでふんぞり返っている少女がニュースを眺めていた。

 名をシズク・ペンドルゴン。

 『箱庭』の第二の王はリモコンで複数のチャンネルを切り替えながら各放送局のニュースを見比べるのに忙しいようだ。しかしどの番組でも内容自体は面白いくらいにテンプレ通りで、真に重要視される情報については上手く横へ横へと流されている。

 善良な一国民なら何も感じないのだろうが、ある程度闇に浸っている連中からすれば放送局に掛かっている圧力は見え見えだった。

 とはいえ、世界有数の秘密結社が情報源を一般の報道局なんぞに頼るわけも無く、本当に必要な情報というのは既に手の中にある。

 テーブルに広げたシートの上でやかましい音を響かせながら機械工作に勤しんでいたホード・ナイルは休憩モードに移行したのか、安全ゴーグルを取り外すとテーブルの端の方に追いやっていたペットボトルのお茶をぐびぐびと流し込んでいた。

 視線の先にはもう一人、『箱庭』の正規メンバーが佇んでいた。


「キャッテリア、経過は?」

「......さあ...?わたしはお医者さんじゃないから...わかんない。シズクに聞いてよ......」


 キャッテリアと呼ばれたゴスロリ風の少女はホードの問いかけにそう答えると、今度は二人から視線を投げかけられたシズクがひらひらと手を振って適当な調子で答える。


「あー、順調よ順調。こっちに着いてから異能の暴走も無いし、心配しなくとも知らないうちに『箱庭全員有害物質で壊滅』なんてことにはならないわよ。たぶん」


 その最後の一言さえなければ信用できるのにと、丁度いいタイミングで部屋に入ってきた新入り椎滝大和は表情を歪めそうになった。

 医者の『やべっ』とかパイロットの『アレ?』系統のついうっかりな発言を聞いたみたいな気分だ、思っても黙ってくれてさえいればこちらは安心できるのだが、我らが女王様はそこまでこちらに気遣う様子が無いのは悲しいかな。

 見た目だけなら大和と世代一つ分くらい差がありそうな少女の曖昧な回答はさておき、箱庭もただぶらぶらと後始末の事後報告を行っているわけでは無い。

 ここには大和ら飛行船帰還組みに加えてゴスロリ少女のキャッテリアと、先日保護した子供(ティファイ)が待機している。そう、待機という事は、ここの連中とは異なる動きをしている別動隊がいるという事だ。

 彼らの帰還を待ちつつ入手した情報等の精査を行うというのが彼らに与えられた業務...なのだが、ホードは急遽必要となった機械の製作でゴスロリ少女は眠たげに瞼を擦り、シズクはそもそもサボりという状態なので、まともに働いているのは新入り(大和)だけだ。

 新入りという立場上仕方がないこととはいえ、この場の最高責任者であるくせに堂々とサボり散らかしてる少女には昔ながらのグーによる鉄拳制裁をお見舞いしたくなる。

 そんな苦悩もつゆ知らず、白昼堂々ポテチ片手にサボりを決める箱庭の第二の王は高速でチャンネルを回しまくる。


「あーもー!どのチャンネルも同じニュース、同じ内容ばかり!!もう何日目よ!!」

「しかたないよシズク......有名企業の本社で起こった崩落事故だもん、手抜き工事疑惑とか最高責任者失踪でどこの報道局もあと三日は引きずるよ...」

「ぐわーっ!!世の中は刺激が足りてない!!やれ政治家の汚職やれ著名人のスキャンダル、いっつも同じ内容ばかり!!いくらこの世は輪廻で出来上がってるとは言っても......ん?」

「携帯、鳴ってるよ」


 不意に傍らにほっぽり出してあった携帯端末が振動する。

 テレビのリモコンを投げ捨てた代わりに拾い上げ、寝転んだ状態でロックを解除すると、メールの送信者は別動隊ともまた異なる情報源からだった。

 文章は無く、添付ファイルが一つだけ貼り付けられている。

 端末を雑にホードへ投げ渡し、端末とノートパソコンを接続したホードの画面をシズクとキャッテリアが覗き込む。

 どうやら新手の仕事の依頼のようだ。ホードは報酬額から利益を計算し始め、シズクは一応と言った様子でファイルの中身に目を通していた。

 ソファーに身を投げた大和はシズクが放棄したリモコンでチャンネルを変更すると、画面には国営のニュース番組が映し出される。相変わらず同じ崩落事故の無いようだと思いきや、どこぞの武装国家に動きがあったという内容をキャスターが短く伝えていた。

 国の名はヘブンライト。

 思わず電源を切り、かつての仲間に背を向けた大和は、今の仲間たちに視線を投げた。

 同時刻、ある男が同じ国営のニュース番組を携帯端末スマホに繋いだイヤホンで聞きながら歩いていた。

 人の流れに逆らわず、自然体にトウオウを練り歩く彼はこの国にかなり順応していると言えるだろう。ふと目に着いたオープンエアなパン屋で手頃なパンを購入し、ソレを片手で口に運びながら足を動かす彼の目指す場所は、現在地からそう遠くは無かった。

 低空飛行で目的地へ直行できるホバータクシーを使おうかとも思ったが、歩いて向かうことが出来る距離なので金がもったいない。頭上を通り過ぎるのホバーバイクを眺めながら、男は残っていたパンを一気に頬張りゴミを歩道脇のゴミ箱に投げ捨てた。

 街の至る所から香る美味しい匂いに思わず足を運びたくなるが、財布の中身もそこまで潤っているわけではない。

 ちらりと残金を確認すると、案の定、あまり余裕は無かった。


「......っとぉ...寄り道もほどほどにしねえとなあ」


 車両の出入りが激しい表通りを抜け、人通りが一気に減った裏路地の様な細い通路へ辿り着く。小型の自動車が一台抜けれるかどうかといった道幅の先に、男の目的地がある。

 ふと空から影が差し、見上げるとそこではどこぞの企業が飛行船の側面のモニターで同じ広告動画を繰り返していた。

 数日前、とある青年の異能によって崩壊した、とてもとてもタイムリーな企業だ。

 そう。

 男の目的地はとある小さな診療所だった。

 正確には、彼はそこに入院中らしい灰色の頭髪の青年に用があった。

 男は彼ととある少女にトウオウ行きのチケットを送った張本人であり、自らの目的のために灰被りの青年を頼ろうと画策していた。


「んーっと、ここ...なのか?」


 技術の街には不似合いな、よく言えば昔ながらの、悪く言えば古臭い診療所まで辿り着き、入り口のガラスドア越しに中を覗き込んでみる。受付と思しきスペースは無人で、立地の関係か日当たりも悪いせいで中はやたら薄暗く見えた。

 意を決して中に入ると、人の気配を察したのか、奥の方から人影が現れる。

 首に聴診器、しわしわの白衣、見るからに女医と言った風貌の彼女は、物珍しそうにこちらを見ていた。


「ったく、ここんところ客が多くて困るね。で、兄ちゃんはどこが悪いんだい。先に言っとくがEDは専門外だよ」

「誰がイ〇ポだクソババア!!オレは病人でも怪我人でもねえ見舞いだよ見舞い!ほら、いるだろ?灰色頭の...!」

「一応その辺も守秘義務があるからね、身分証出しな」

「ほらよ!在国証明書でいいだろ」

「......確認した。一番奥の右側だよ」


 一応、彼との面識はある。

 短い時間ではあるが行動も共にしたし、向こうもこちらを忘れてるなんてことは無いはずだ。

 歩きながら開口一番のセリフを考えるも、結局要件を簡潔に話した方がいいだろう。

 薄暗い廊下を抜けて足早に病室の前まで辿り着いてから見舞い品の一つや二つ用意しておいた方が良かったかと考え、今からでも外の自販機で缶ジュースでも買ってこようかと少々悩みつつも、結局面倒くさくなって何も考えなかったことにした。

 病室の扉を勢い良く開き、一応病院だというのに開口一番こう叫ぶ。


「ぃよう久しぶりだなアルラ・ラーファ!!突然なんだけど約束通り助けてくんない?」


 対して、ベッド上の灰被りの青年、アルラ・ラーファの反応はというと、だ。

 表情から、困惑しているのも伺える。

 彼の隣でリンゴを剥いていた少女もそうだ。ぽかんと口を開けてものすごく困惑していた。

 少しの間、無言が続いた。

 それから彼はこちらを見て困ったような表情で、首を傾けて、こう言ったのだ。


「......誰?」



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