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ニック「……すみません、船長、俺の力じゃここまでです」

狭まる包囲網……消えて行く選択肢……時間は無くなって行く。

限られた時間と選択肢の中から、どうにか自分の意思で運命を選びたいマリー。

しかし。出会いは残酷だった。

 私は樽から這い出て、街路を覗く。


 ごく普通の光景だ。追手が走りまわってるでもないし、皆が皆、辺りをキョロキョロ見回してるわけでもない。


 大丈夫かな……よし、慎重に……



「マリーちゃん?」


 慎重に、街路に一歩出た瞬間だった!

 背後から声を掛けられた私の、全身の毛が逆立つ。


「ちょうど良かった。その……頼みがあるんだが……」


 私はカクカクと首を軋ませながら振り向いた……

 そこに居たのは……あの不精ひげだった!


 不精ひげは何か申し訳なさそうにまた手を合わせて、言った。


「なんとか、もう一日待って貰えないだろうか、本当に、もちろん滞在費は出すし、その、悪いようにはしないから……」


「お断りよ!!」


 自分でも驚く程の大声が出た。


「何なのよそうやってコソコソあっち行ってこっち行って両手あわせてペコペコペコペコ、あなたそれでも海の男なの!? そんな事してまでお金が欲しいの!?」


 私は何を言っているんだろう?


「私は……私は! 父の仲間はみんなもっと勇敢で誇り高い人達だと思っていたのよ! そう聞いてたんだから! みんな最高の仲間で、力を合わせてどんな困難も乗り越えて来たんだって!」


 だめだ、私おかしい。

 いや……違う。

 これだ。これが本音だったんだ。

 これが私の本音だったんだ。


 ヒーローであって欲しかったんだ。


 私は肩で息をする。

 もう泣かないなんて覚悟、全くの無駄だった。

 涙、止まらない。

 ボロボロボロボロ……前が見えなくなるくらい、涙が溢れて……


「そう、いつも、聞かされてたんだから……ずっと、信じてたんだから……」


 だめみたい。もう立ってもいられない。

 私は膝から崩れ落ちる。

 もう歩けないよ……


 ……


 何とか……言いなさいよ……


「その……本当にごめん。だから、あの、一生の御願いだ、どうかあと数時間でもいい、待ってくれ、頼む、この通り……」


 もう歩けないと思っていた足に、活力エネルギーが走る。

 悲しみのどん底に沈んでいる時にでも、人を動かす事が出来るもの。

 それは怒りだった。


「お断りって言ってるでしょ!! これでおしまいよ! 貴方の企みも! 私の我慢も!」


 私は拳を握って立ち上がり、そう叫ぶと、踵を返す。


「待ってくれ、どうか……」

「しつこい!!」



 私は振り返る事もなく、その場を歩み去る。目指す方向は港だ。

 この際どこでもいい。とにかくこの場を立ち去りたい。



 涙はまだ止まらない。



 周りの視線を感じる。女が叫んで、泣きながら早歩きしているからだろう。

 傍目はためには痴話喧嘩ちわげんかにでも見えるんだろうな。


 ……


 大股で歩いて行く私。


 ……


 背後に足音を感じる。一つや二つではない。それもだんだん増えてゆくような。


 ……


 私は立ち止まり、振り向いた。

 十人、二十人……船乗りや人足、町の暇人の皆さんがぞろぞろついて来る。


「君が……マリーちゃん?」


 船乗りっぽい男の一人が、そう言った。


「違います」


 私は笑顔でそう言って会釈した。




「わあああああああ!」


 本日三度目の鬼ごっこ、砂煙を上げて迫り来る暇人共、今度の鬼は二十人以上、鎧兜や荷物のハンデも無いッ! 私は逃げる、逃げるッ!!


「金貨1枚!」「金貨1枚だ!」「待ってーマリーちゃぁぁん!」


 船乗りなんて、船乗りなんてみんなこんなものか!? うそつきだ、父はうそつきだ! 何が海の男の誇りだ! 金貨1枚の為に大勢で15歳の小娘追い回すのが海の誇りかッ!


 すぐに追いつかれるかと思ったけれど、意外と追いつかれない。

 この半年、私は何かというとトライダーに追い回され逃げ回っていた。

 いつのまにか、私の脚力は一介の針仕事娘のそれではなくなっていたらしい。


 だけど鬼はどんどん増えて行く!!

 波止場を駆け抜ける私。どうしよう、どこへ逃げるの! 水運組合? そこで行き止まりじゃん!


 災難は手を繋いでやって来る。


「……! マリー・パスファインダー君!」


 行く手方向の倉庫の角からまたしても現れたのは風紀兵団トライダー!

 後ろからは金の亡者の大群、前からは聞き耳持たぬ独善ヒーロー、逃げ場はもう無いッ! 何とかしろッ! 何とかしろ私ッ!!


「トライダーさぁぁん!!」


 私は叫んでいた。


「助けてトライダーさん! あの人達、大勢で私を、私を!!」


「風紀、兵ダァァァァン!!」


 凄まじい音量に、私まで転倒しそうになった。トライダーが叫んだのだ。


「暴徒をォォーッ! 止めろォォォォオ!!」



 たった三人、だけど鎧兜をきちんと着込んだ風紀兵団は、すれ違う私には目もくれず、盾と警棒を振りかざし、暇人共の群れへと襲い掛かって行った。


「風紀ある市井!!」「風紀ある市井!!」

「わあああっ!」「痛エェ!」「何しやがる!」「ああああ、金貨1枚がぁ……」

「破廉恥共がぁぁぁ!! 恥を知れえええ!!」

「やめ、やめろッ!」「畜生相手は三人だ畳んじまえッ!」「ぎゃあああ!」

「風紀ある市井!! 風紀ある市井!!」

「退くなーッ! たおれるなーッ! 風紀ある市井! 風紀ある市井!!」



 ありがとう風紀兵団。ありがとうトライダーさん、今まで嫌っててごめんなさい、これからも嫌いだけど……


 私は港を離れ、低い丘を駆け上がって行く。

 難攻不落の水運組合は目前に迫っていた。

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ご来場誠にありがとうございます。
この作品は完結作品となっておりますが、シリーズ作品は現在も連載が続いております。
宜しければ是非、続きも御覧下さい。
そして、ご感想を! ご感想をいただけますと大変励みになります!
短いものでも途中まででも結構です、ご感想をいただければ幸いです!

何卒宜しく御願い致します!


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マリー・パスファインダーの冒険と航海
― 新着の感想 ―
無精ひげさゆ、最初にきっちり話をしておけばこじれなかったのにねえ。 兵団は狂信者的なんだなぁ。
[良い点] 風紀兵団好き! あの鎧?かっこいいじゃないですか。 [一言] 私も風紀兵団に追いかけられたい。
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