叩き売りの干し鱈「……」
ブルマリンを離れ、何食わぬ顔でロングストーンへ向かうリトルマリー号。
戻って来た、地道な仕事の日々。
ブルマリンを出航してから四度の晩が過ぎた朝。
リトルマリー号は内海と外洋を分ける北大陸の岬の突端、ロングストーン港に到着した。
この街は今の所独立した都市国家で、アイビスにもレイヴンにもその他のどんな国にも属していない。
パスファインダー商会の本拠地はここだそうだ。リトルマリーの船籍もアイビスではなくここである。
「皆さーん! パスファインダー商会の借金が今! 綺麗に吹き飛びましたー!」
配達と借金返済を終え戻って来たアレクが言った。皆で拍手。よしよし。
「さて、久々に……上陸させていただこう」
久々、にアクセントを置いてウラドが言った。ブルマリンではすみませんでした、はい……って、この街はいいんだ? ウラド。
「彼らの居留地があるんじゃ」
ロイ爺が囁いてくれた。なるほど。仲間に会える街なのね、良かった。
「皆さんもどうぞ、上陸して来て下さいな! 今回は私が、留守番致します」
私は胸を張って言った。だってもう船酔いなんてしないから!
あと、前の港ではさんざん好き勝手させて貰ったので……
「私もいいの? どこ飛んで行くか解らないわよ?」
「お姉さんはだめでしょ、ここは金融の町だし、そこらじゅうに債権者の手の者が……」
「ですよね……」
ウラド、アレク、ロイ爺、不精ひげ……彼らは久々に受け取った給料を手に、ウキウキで出掛けて行った。
「船乗りって皆あんな感じよねえ……」
私は心の中で耳を塞ぐ。御願い、その話は膨らませないで……
「ねえ……その服やめない? もっと可愛い服作って、それに魔法掛けてあげるから」
「アイリさんもそんな事を言う……なんで皆このデザインの良さを解ってくれないかなあ」
「可愛いわよ、可愛いけど……船長、そんなの着てたらまた美少年ごっこ始めるでしょ……サーベルなんか下げて」
いや、あれはまあ……悪ノリし過ぎたと思ってるし反省してるし……いくら相手がトライダーだからってあそこまで嘘まみれの応対をするのは人としてどうかと……あれ? 私何か忘れてるような?
なんかブルマリンでの記憶には曖昧な部分がある。特にサロンでワインを飲んで酔っ払ってから、湾内のボートの上で酔いが醒めて来るまでの間が曖昧だ。
「私ね。私が作った服を着た人が、戦って死ぬのが嫌なの。魔法の服を着た人は、必要以上に勇敢に戦ってしまうのよ。貴女がまさにそうじゃない。今まで剣で戦った事なんてあるの?」
ありません。家の近くに練兵場があったから、衛兵さん達が訓練するのを眺めているのは好きだったけど……
「もし貴女がすごく強かったとしてもだめ。際立つ勇者は銃で撃たれるのよ」
「だからバニーガールなんですか」
「平和の象徴よぉ? 貴女だってあの姿で戦いたいとは思わないでしょ?」
「それは……まあ……いや謎の貴公子ごっこはもうしませんから! 反省してます! だからせめて普通の服にあの魔法掛けて下さい、御願いします!」
「船長が持ってる材料ちょうだい? 私が可愛いの一から作ってあげるから!」
だめだ。この人絶対フリフリヒラヒラの服作って寄越す気だ……そんなの着た船長、普通居ないよ……バニーガールの船長も居ないけど。
夜にはアレクとロイ爺だけ帰って来た。後の二人は戻って来ないようだ。
休暇は二晩。皆こないだまでレッドポーチでさんざん休んでた後だからいいと言うのだが、あの時期は金も楽しみもなくただ時間を過ごしていたはず。
たまには陸を思い切り楽しんだらいいのだ。
マリー船長は労働者の楽しみに理解があるのである。
◇◇◇
二晩の休暇の後。
ウラドは約束の時間通りに戻って来た。心なしか肌の色艶がよくなっているような。自分用の土産もたくさん抱えてる。充実した休暇だったようだ。
不精ひげは1時間遅刻して戻って来た。うつむき加減で虚ろな目だ。自分用の酒瓶一つ買って来なかった所を見ると、博打で一文無しにでもなったのだろう。
アレクは既に休暇を切り上げて仕入れに行った。この港は中継地点であって街そのものに特産品は無いが、新世界や北洋、東世界の産物が並ぶ大きな市場があるそうだ。
この後、リトルマリーは南大陸に沿って内海を東へ行き、バトラやマトバフを目指すつもりだ。アレクは北洋の産物を何か仕入れて来るはず。
「リトルマリー号! マリー船長!」
船の外から呼ぶ声がする。港湾役人のボートがこちらに向かって来る……
なんだろう。
「あんたんとこの海軍から速達だよー。殺すって。ハハハ」
『アイリ・フェヌグリークを連れ速やかにパルキアに出頭されたし。退役中将ラズピエール』
伝書鳩用の小さく細い手紙には、それだけ書いてあった。
軍艦には近づくな! ロイ爺の言った通りじゃん……





