ウラド「……ウラジミール?」マリー「ウラジミール」
親友? の突然の告白! お針子マリーは騎士見習いトライダーの想い人だった!
あの追いつ追われつの日々は、トライダーの間違った愛情表現だったのか!?
それとも本当に、15の若さで独り身の、想い人マリーを心から案じていたのか。
僕も普通の男だぜ? ははは。解ったもう止めないよ、やろう、人数は少ない方がいいな。じゃあブルーローズが戻って来る頃に港で。僕にはまだやる事があるから。
なんとか。なんとかそこまで演じきって、私は一人でサロンを出た。そして振り返り、トライダーが見てないのを確認して……走り出した。
バーカバカバカ、トライダーのバーカ、想い人? 想い人なら目の前に居て気付かない訳ないだろ!
騎士道物語の読み過ぎだろ! 騎士には想い人が居ないといけないらしい。私が一冊、気まぐれに読んだ騎士物語なんか、主人公は全然知らない近所の女の人を想い人って事にして旅をしてたっけ。
坂を駆け下りて、港の公園へ……私は適当な茂みに飛び込み、帽子を取る。
アイマスクがびちゃびちゃじゃん。
どうしてくれるんだ、まだ使うのに。乾くかなこれ……
これからアイリを助けなきゃならないのに……これはアイリの物語だよ! 邪魔すんな馬鹿トライダー!
これだから馬鹿は……馬鹿は……!
無理だよトライダー。
フレデリク君は男として、友人としての君の事は好きだけど、マリーは無いよ。
理由? 自分でも良く解んないよ……
どうすんの? これからどうすんの?
今何時? まだ7時ですらないじゃん……
どうしよう。いっぺん船帰る? だめだ。私きっと船長室から出られなくなる。
一人で考えなきゃ。
一人で。
私は深呼吸をして、サーベルを抜き、刀身に自分の顔を映す……
キャプテン。
キャプテン・マリー。私はキャプテン・マリー・パスファインダー。
私は、自分の船の乗組員を連れ戻しに行くんだ。
真の船長、キャプテン・マリー・パスファインダーとして……
「はぁ……」
私は無意味な暗示をやめ、サーベルをしまい、地べたに寝転がった。
満月がトラウマになりそうな程綺麗だ。
こんな事してる場合じゃない。
行かなきゃ……
「マリー船長!!」「マリー! どこーっ!」
その時……
「私は港を探す! 街は頼む!」
えっ……ウラド!? 私が隠れている茂みからそう遠くないところで、その、ウラドのような声で誰かが叫んだのが……はっきり聞こえた。
「わかった! 商店街の方に行ってみるよ!」
アレクの声も! もう間違いない!
私は恐る恐る、茂みから顔を出す……
満月の明かりの下、それははっきりと見えた。
アレクがドスドスと街の方へ駆けて行く……ああ、あ……
普段船を降りたがらないウラドまで……港の方へ走って行く……
オーク族は見た目のせいで謂れなき差別を受ける事も多い。彼らは勤勉で暴力を好まず盗みもしないのに。
それでも彼らの殆どは良き隣人であろうと振舞う。ウラドだってそうだ。船乗りなのにあんな紳士、他に居るんだろうか。
どうすんの。
どうすんだマリー! これが、これが私の目指す真の船長の姿かッ! こんなのただの迷惑な迷子じゃん! やってしまった……やってしまったあああ!!
何故私は彼らを忘れていたのか。嘘にしろ本当にしろ、何か説明すべきだったのではないのか。
古い友人に会って話に花が咲いてまぁす。今日は宿に泊まる事にしました。
明日には戻るので心配しないで下さい。マリー☆
こんなんでいいじゃん! い、今からでも書いて、誰かに届けてもらったら……許されるだろうか……
或いは全部話すか。今からウラドかアレクを追い掛けて全部話すか。
それで許して貰えるだろうか。トライダーと約束した場所に行く事も含めて。
でも許して貰えなかったら?
そんな危険な事させられないって言われて連れ戻されたら?
トライダーを一人で行かせるのか。あの直情バカは一人では何をしでかすか解ったものではない。今度こそ……命を取られるような事だって……
みんな。
自分で覚悟を決めているのだ。
私だけ、上手くやろうとか、駄目だったら逃げればいいとか、嘘で誤魔化そうとか、そんな事ばかり考えているから悪いんだ。
ウラドは苦手な街を走っている。私を探す為に。
アイリは船を降りた。私達に迷惑を掛けない為に。
トライダーは戦う。自分の為、他人の為に。
私はハンカチを取り出して、アイマスクを拭いてみる。
なんとかなりそうだ。
それから……私の髪しか斬った事のないサーベルを少し抜いて……帽子を被る。ほんと、鏡の代わりくらいにはなるな。
立ち上がって……サーベルをきちんと鞘に収める。
カチン。
このサーベルは私だ。人は斬れないが鏡の代わりぐらいにはなれる。
行くぞフレデリク。友情の為に。
行くぞマリー。乙女の為に。





