マリー「ぎゃあああああぁあぁああぁぁああああ!?」
例のバニースーツを製造していたとされる『白金魔法商会』がつぶれていた。
パルキアの店は債権者に踏み荒らされ出来たての廃墟と化していたという。
その事がマリーにどう関わって来るのか。
今度はちゃんと自前のボートで真っ直ぐに手近な桟橋に乗りつけ、私とアレクはこの港の水運組合へ向かった。
私はレッドポーチのような、暇そうなおじさんがぼんやりしている事務所を想像して来たのだが、とんでもなかった。
そこはたくさんの船乗り、人足、仲介人に商店主……様々な人々でごったがえしていた。
仕分け場には何本も水路が引かれていて、契約の済んだ荷物を次々と小船に積み込んでいる。
「競りのような熱気だね……」
「競りそのものだよ。荷主と直接話が出来れば大口で都合のいい荷物が取れる可能性がある」
「私達……太っちょも今からそうするの?」
「僕らは大人しく水運組合から仕事を貰うよ。うちは定期航路じゃないから仕方ないんだ」
アレクの言っている事の意味すらよく解らない私は、大人しくついて行く。
「バルシャ船で今は空荷です、前航海はバトラから96時間、結構速いですよ」
「ナルゲスは行けない?」
「すみません……西で御願いします」
「今日はあまり無いんだよな……ロングストーン行きの大きいのはあるけど」
「それ、半分だけというわけには……」
「ははは、だめだめ」
水運組合の事務所。
やっぱりアレクが何を話してるのか良く解らない。私は辺りを見回す。
片隅に様々な航海用品が並べられた棚がいくつもあり、その前にカウンターがある。女の人が二人居て、カウンターと棚の間を動き回っている。
品物を探しているお客さんのような人も居る。そのうち一人が女の人を呼び止め、何か尋ねている。
私もそのカウンターの方に近づいてみた。向こうの棚に並んでるのは望遠鏡かな……うちの船には母が父に贈った物がある。
「あらお嬢さん、もしかしてバニーガール?」
口から心臓が飛び出すとはこの事だ。
真後ろから掛けられたその声は女性の物だったが、私は一瞬パニックになった。
うそでしょ!? 私は今は普通の服を着てるはず、黒のズボンと白のシャツと緑の上着……大丈夫、着てる、それを着てる。
なんでこの人は私のそんな秘密を知っているの!? 陸の人には知られてないはず、ていうかうちの乗組員とオーガン一味とレッドポーチ水運組合にたまたま居た人とかしか知らないはず、うわあよく考えたら結構知ってる人多い、この人もその一人!?
「あの……バニーガール……とは?」
「違うの? 今日来る女性客は皆あれの事聞くから……もう無いのよ、午前中に債権者だって言う人が来てみんな持ってっちゃったわ……って、ごめんなさい、貴女は違うのね」
……妙な勘違いをしてしまった。
そしてこのお姉さんの勘は当たっていた。私は、ここにも例の白金魔法商会謹製とやらがあるかもと思って覗いたのだ。
そうですか。今朝まではあったけどもう無いんですか。ちょっとだけ残念、やっぱり予備が欲しかった。
私とアレクは仕分け場に戻った。アレクは貨物の中から依頼を受けた分を探す。
「少し細かくなっちゃった。途中の町二箇所とロングストーンと。でも下甲板は八割埋まりそうだよ」
「そのくらい積めば上等、上等」
「あはは、船長も一端の海の男になって来たね」
「何よ太っちょー」
軽口を叩きながら、アレクは人足と一緒に荷物を小船に移して行く。
私も持てそうな荷物は持つ。
「あれ……? こんな樽あったっけ」
アレクの手が止まる。
「どうしたの?」
「いや……今回はこんな樽荷は請け負ってなかったような気が……でもフランベルグ産ワインって書いてあるし、うちの荷札もついてる」
「うん? じゃあ運ぶんじゃないの?」
「ロングストーンまで? 変だなあ、これちゃんと運賃に入ってるのかな……」
「私、聞いて来ようか?」
「いや……証券は揃ってるからいいや、急がないと日が暮れそうだし」
リトルマリーの荷積みが終わったのは、日没の10分前という所だった。
「早く出ないと、港湾使用料をもう一日分取られるぞ」
不精ひげがかなり手早く出航準備をしている。
うーん、今はそこまで節約しなくても……
まあいいか、てきぱき働いていただけると見ている方も気持ちいい。
「キャプテン、今度は北東の風でよろしくー!」
「だから、出来るわけないでしょ……もう」
アレクの軽口に答えながら、私は出航作業を手伝う。
じき暗くなるし、もう着替えちゃってもいいだろう。船長室へ行こう。
いつものバニーガールに着替えて、一息ついてから船長室を出ると、辺りはもうだいぶ暗くなっていた。
港からも順調に離れているようなので、もう上甲板に上がってもいいだろう。
「おー、絶景かな絶景かな……」
パルキアは豊かな都市で人口もかなり多い。だから夜でもかなり光り輝いて見える。
大都市の夜景ってすごいな。
「風は南東……まあまあじゃな」
「次の寄港地はどこだ?」
「エイリスっていう小さな港に寄って、次がブルマリン、あとはロングストーン直行……途中でロングストーン行きの物資を買えたら……」
―― コン、コン。
どこかで、扉をノックするような音がする。
「私、上だけどー?」
私は下甲板に声を掛ける……しかし、よく見ると水夫は全員上甲板に居た。ノックされているのは船長室の扉ではない。
―― コン、コン……
「何この音」
「船長?」
ああ。水夫達には聞こえないのかしら。
このスーツを着ている時は風の音も波の音もあまり聞こえなくなるのだ。私だけが聞いているのかしら。
―― コンコン。コンコン。
何……気持ち悪い……下甲板だ、下甲板のどこかから音がするのだ。
幽霊!? 船といったらつきものの幽霊!? いや何がつきものか解らないけど。
私は慎重に下甲板に降りる……ちょっと! 何で誰もついて来ないの……あ、言わなきゃわかんないか……
「不精ひげ! ちょっと来て!」
私は今一番ヒマそうにしていた奴を呼ぶ。
「一体、どうしたんだ……」
―― ドンドンドンドン!!
明らかに大きな音で鳴り出したのは、下甲板に積んでいた、あのアレクが不審がっていた樽だった。
樽が踊っている。索具と金具で固定してあるから倒れたりはしないが……とにかく激しく揺れている。
「下がって」
不精ひげが樽に近づく。そろり、そろりと。
バン!!
樽の上蓋が宙を舞った。
樽の中からは生足が……女物と思われるひょろ長い生足が二本、突き出していた……





