アイリ「船長? あの服? ふーん……ふふ。ふ、ふ……」
フォルコンの奇行がアイビスを救ったと、海軍パルキア艦隊の幹部達は言う。
ただ、何故そうなったのかは彼等も知らないと。
マリーの耳に残ったのは「パンツ一丁のフォルコン」という二つ名だけだった……
マリー「あいつらッ! 何回パンツ一丁って言ったッ!」
ロイ爺「勘弁してくれ……船長は本当に時々心臓に悪い事をする……自ら退出許可を求めるとは。あれは皆将官クラスの海軍幹部じゃぞ」
マリー「海軍幹部ってあんなのしか居ないの? アイビスもおしまいね」
ロイ爺「シーッ! シーッ!」
文書輸送の分の代金を小切手で受け取り、私は海軍司令部を後にする。
聞いていたのよりゼロが一つ多いような気がするんだけど。恩には着ないわよ。
アイビス海軍の小切手なら信用があるから慌てて換金しなくてもいいとロイ爺は言うが、こんなの、あまり長く持っていたくない。
どこか銀行に持って行こうか……しかしこの街の勝手がよく解らない。やっぱりアレクに任せようかな。
パルキアは大きな港町でもあり、王都へと続く大街道の入り口でもある。
街はとても賑やかだし、商業も盛んだ。
半年間滞っていた水夫達への給料も支払った。財務は今は良好なはず。少し買い物でもして行こうか。いや……今回は控えるか……
「あ」
大通りを歩いて行く私の目が、ある看板に止まった。
『白金魔法商会』
ほほう、ここがあの悪の手先の……
まだ手を下しておられなかったのでしょうか、陛下。
まあ興味があるか無いかでいえば、あると言える。一体どんな人達の店なのか……四階建ての立派な建物ではありませんか。
私は自然とそちらに歩いて行く。往来の人垣の中を……私は背が低いので、店頭の様子がまだ見えない。
「船長?」
私は立ち止まった。人々の合間を縫い、辿りついてみると……
白金魔法商会の玄関扉は無残に破壊され、中は目茶苦茶に荒らされていた。それともこういう装飾なのかな? 随分ワイルドな。
あっ、やっぱりもう手を下されていたのですか、陛下。
「下がりなさい、君」
私は鎧兜姿の衛兵に声を掛けられた。すみません田舎者で。
よく見ると周囲には他にも衛兵さんの姿がある。何かあったのだろうか。
もしかして風紀兵団にでも襲われたのだろうか。
私は近くで同じ建物を見上げていた、暇そうな男性に尋ねてみた。
「あの、ここ、何かあったんですか?」
「今朝方な……大勢の債権者が集まって押し問答になった挙句、この有り様だそうだ」
そういう話ですか……明日は我が身だなあ。お金が無くなるって怖いよね。
「ここ、魔法の品物を売ってたんですよね?」
「ああ? ハハハッ、あんなのだいたいインチキだよ、本当にそんな簡単に魔法の品物が作れるなら、こんな事になるもんか」
魔法を見た事があるだろうか。私はごく最近、生まれて初めて魔法の品物を見た。
まさかそれを手に入れて使う事になるとは思っていなかったけれど。
おとぎ話の魔法使いは、手の中から炎の玉を出してドラゴンをやっつける。
だけど実際には世の中にそんな魔法使いは存在しない。
実際の魔法とは……『消えない熱くない火事にならないランプ』とか、『一拭きでがんこな油汚れを拭き取れる布巾』とか、『中に注いだお茶が飲み頃の暖かさになり決して冷めないカップ』とか……そういう物らしい。
そういった力のある品々は高値で取り引きされるとも。
だから船酔いしなくなるバニースーツがあると聞いて、そのくらいならあるのかも? と……思った。
勿論最初は船に乗るつもりすら無かったので拒否感しか無かったのだが、後に事情が変わったわけで。
あの時はどうしたんだっけ……
『か、勘弁して下さいよ、ニックの旦那からも怒られたんですよ、私が変な物見せるから、ますます印象が悪くなったぞ、何してくれるんだって』
あのおじさん何て名前だっけ? グレッグ? グリップ?
『気が変わったの! どれでもいいっ! 早く! ほら! オーガンが船に!』
窓の外を見ると、遠くからオーガン一行が意気揚々とリトルマリー号に向かって行くのが見えて……
『ででで、でも金貨8枚はいくらなんでもその……』
『今はこれしかないの、御願い! いつか絶対払うから! リトルマリーを助けられるのは今だけなの!』
そうだ、グリックさんだっけ。気持ちが悪い人だったけど性格が悪い人じゃなかったし本当に悪い人は私だな……
まあでも、残りのお金も払うって約束はちゃんと守れそうだし……いつになるかはまだ解らないけど。
グリックさんの説明に偽りは無かった。船酔いが無くなるどころか、全く揺れを感じない。
すごい便利な魔法なのに何故バニーガールだったんだろう。あれで軍服でも作れば飛ぶように売れたんじゃないだろうか。
そうしたら、こんな風に債権者に襲われて店を破壊される事も無かったのでは……
残念だなあ。私も予備にもう一着くらい欲しかったのに。
「船長……ここに知り合いでも居ったのかの?」
「あ……ごめん。ううん、知り合いじゃなくて……例のあの服。ここの会社の製品だったんだって」
「ああ……そうじゃったのか」
「行きましょ」
船に戻ると、アレクの商売の方も終わったようだった。空荷となったリトルマリー号。
「船長、次の寄港地が決まっていないなら、西へ進んでロングストーンを目指さない? 借入金、残しておくと金利が勿体無いし」
「そうねー……そうだ太っちょ、この海軍の小切手なんだけど」
「ああ、ちょうどいいよ、このまま返済金の一部として渡しちゃおう」
「そういう使い方もあるのね、なるほど。じゃ、西へ向かいましょ」
ロングストーンは北大陸と南大陸に挟まれた海峡の北側にある海の要衝だ。
内海と外洋の交差点でもあり、海の金融業も発達しているという。
北の大陸を沿岸伝いに進む航海になるのかな。海図で見ると1000kmくらいの道のりになるみたい。
「市場は……もう開いてないわよね。何積もうかしら」
「この辺りは航路が発達し過ぎてて、水運組合の輸送依頼の方が安定してると思う。僕行って来ようか?」
「私! 私! 私行きます!」
「大丈夫ー? 船長が行って解る?」
「……やっぱり一緒に来て?」
結局の所、まだまだ素人船長です。皆様すみません。





