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少女マリーと父の形見の帆船  作者: 堂道形人
はじめての航海

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18/44

海賊「ちきしょうめ! 何なんだこの悪魔みてえな北風はよォォ!」

軍艦に停船させられ、伝令をやらされそうになったリトルマリー号。

マリーは商売が台無しになる危機を乗り切り、軍艦の護衛まで得た。

だけど良い子の皆はこのお姉さんの真似をしてはいけないよ!

贈賄ぞうわい、ダメ、ゼッタイ。

 ロットワイラー号との邂逅からわずか4時間後の事だった。


「船長、ロットワイラー号が旗信号を揚げてます、『敵艦見ゆ』だって!」


 望遠鏡を手にアレクが叫ぶ。

 船酔いの限界だった私は船長室に戻り、バニースーツに着替えていた。

 ロットワイラー号は400mくらい前方に居るので、あまり甲板に出たくはなかったが、この状況で外に出ないのも無責任だろう。


 風はやはり北風、よく吹いている。私はアレクから望遠鏡を受け取り、マストを駆け上る。

 先行するロットワイラー号のマストに王国軍旗が上がって行く。敵船? は私にも見えた。北へ行こうとしていた船があわてて回頭しているように見える。

 まさかこんな場面にお供する事になるとは。


 船は賊徒ぞくとに乗っ取られている上、既に数件の海賊行為を働いていたとか。

 あの出会いが無かったら私達はどうなっていたのだろう。

 ロットワイラー号はそのままパルキアへ向かい、リトルマリーは海賊船にそれと知らず近づき、餌食えじきにされていたかもしれない。


「船長、離れていた方が良くないかの、わしら何も出来んぞ」


 ロイ爺。そうよね。

 リトルマリー号の戦闘力はゼロ。礼砲用の空筒一つ積んでないし戦闘員も居ない。

 ただ、ロットワイラー号が私達の前で戦ってくれるのに、遁走とんそうするのも不義理な気はする。


「このまま風上で見届けたらどうかしら」


 風上に居ればいざという時はすぐ逃げられるだろう。ロットワイラー号の邪魔にもなるまい。



 戦いは1km先で始まった。だいぶ離れての見物だからでもあるけれど、近くに居たとしても私には何が起きているか解りそうもない。

 何となく、ロットワイラー号の方が上手く立ち回っているようには見える。

 轟音ごおおんが鳴り響き、海賊船の周りで水柱が上がる……そして早くも、海賊船のマストの三本のうち一本が傾き、海面へと崩れ落ちて行く。


「海賊船の方が少し大きいみたいだけど……大丈夫なのかな」

「まあ、元商船らしいからの……本物の軍艦にはかなわんよ」

「……なんか爺が言うとまた逆になりそうな」

「……わし、そんなに信用無くしたんか……」

「うそうそ、そんな事ないです、信用してます」


 短い砲撃戦と接舷戦の後、ロットワイラー号は問題なく、反乱者に乗っ取られ海賊船と化していた大型商船を制圧した。接収は小一時間で終わり、海賊船のマストには王国海軍旗が上がった。

 ロットワイラー号、反乱者の手から取り戻された商船、それにリトルマリー号は、そのまま一隊の船団となって、南へ進んだ。



 軍人達もいぶかしむような北風は、最後まで吹き続けていた。

 あとで聞いた所によると、賊徒達は大変悔しがっていたらしい。本来この時期この辺りでは南風しか吹かないはずで、南風に乗って航路の無い内海中央部を逃げれば、難なく海軍の追跡を振り切り、西の外洋も超えて、新世界へ行けたはずだと。

 しかし実際に吹いたのは季節外れのしつこい北風だった。

 そして南風を待ちながら北へ進もうともがいていたら、軍艦が現れた。

 まあ、賊になるのが悪いのだから気の毒とは思わないが、運の悪い人ってそういうものですよね。



   ◇◇◇



 会食室のテーブル。

 オレンジを一つ剥いてみる。皮はまだ少し緑色を帯びているが、そろそろ食べられるだろうか。

 一粒口に運んでみる……甘い。果汁が溢れる。香りも最高だ。


「あっ、つまみぐいはいけないぞ船長」


 不精ひげが甲板の窓から覗き込んで言う。


「下甲板の隅っこに落ちてたやつだもん……きれいなオレンジは荷物に戻してるわよ」

「積んだ時よりは少し色づいて来たかな?」

「そうねー。食べ頃はまだみたい……いや全然今でも食べられるけど、もっと熟すって意味で」


 美味しい。南の都市の人々もオレンジは好きだろうか?

 喜んでもらえるといいなあ。


「船長! 見えたぞ! 大陸じゃ!」


 見張り台のロイ爺が声を上げた。


「やり遂げたな! 俺の読み通りだ!」


 不精ひげは船首に駆けて行く。

 私はどうしよう。

 バニーガール姿は出来ればいろんな人には見られたくないので、この姿では上甲板には上がらないようにしていたけれど……

 まあいいや、見に行こう。


「船長! その格好で上甲板はだめだよ! 海軍さん達に見られたら僕等も恥ずかしいから!」


 会食室を出た私はすぐ、アレクに見つかった。アレクも上甲板を見に行く所だった。

 ようやく打ち解けてくれたアレク。何故時間がかかったのか? それはどうやら、私の方に遠慮があったかららしい。


「解ったわよ……太っちょ!」


 私は思い切って、いたずらっぽく言った。

 アレクがにっこり笑った。


「なんだよー、船長までその呼び名!」


 確かにアレクのお腹は出ている。私はそれが嫌いじゃないけど、本人は嫌がるかもと思い込み、そう呼ぶのを避けて、本名で呼んでいた。

 でもアレクはそう呼ばれるのが嫌いじゃないらしい。これで良かったんだ。


 仕方ない、着替えようか。

 初めて見た時は戦慄せんりつしたし、こんなの着る人も着せる人もヘンタイだと思ったし、着ざるを得ない運命に気付いた時は結構(なや)んだけれど……

 このスーツが私をキャプテン・マリーにしてくれた事は間違いない。

 それは認めないとね。

 私が船長になれて良かったという事は、思い切ってこれを着てみて良かったという事だ。


 ロイ爺は、船酔いは慣れる事が出来ると言っていた。あてにならない爺ちゃんだけど、それはウソではないと思う。最近の私は、普段着でも短い時間なら何とかなるようになって来た。

 でも、まだまだこれの力は必要かな……もうしばらく付き合ってもらいますよ、バニーさん。

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シリーズ第二作
マリー・パスファインダー船長の七変化

シリーズ全体の目次ページ
⚓マリー・パスファインダーの冒険と航海

ご来場誠にありがとうございます。
この作品は完結作品となっておりますが、シリーズ作品は現在も連載が続いております。
宜しければ是非、続きも御覧下さい。
そして、ご感想を! ご感想をいただけますと大変励みになります!
短いものでも途中まででも結構です、ご感想をいただければ幸いです!

何卒宜しく御願い致します!



【アニメPV】『じゃがいも警察のコロンブス交換ラップ』
エンディングテーマ
⚓マリー・パスファインダーの冒険と航海EDテーマ
― 新着の感想 ―
ただの運じゃないよねえ。何が有るのやら。 いつか、バニー服が不要になったら、誰か後輩に受け継がれていくんだろうか。999の哲郎の戦士の銃みたいに。やっぱりこのお話は、バニー抜きには語れませんね。 …
[良い点] しかし実際に吹いたのは季節外れのしつこい北風だった。  そして南風を待ちながら北へ進もうともがいていたら、軍艦が現れた。  まあ、賊になるのが悪いのだから気の毒とは思わないが、運の悪い人…
[良い点] なるほど…賄賂という展開は私の頭になかったなあ。 ちゃんと帆船の航海してらっしゃるじゃありませんか。 先になればバニースーツも不要になるのかしら。 [一言] 吐いている表記がまたいい。
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