★挿話★ ノーファの日常(1436年・春)
ノーファは四の姉、ビルビッセにかまどの使い方を教えて貰い、倉庫にあった火打石も発見した。
春になると冬眠から覚めた蛙がゲコゲコ鳴き始めた。
子供のノーファでも容易に捕まえる事ができる貴重な肉。
冬の間はさすがに死ぬ寸前だった。
どうやって生き延びたのかノーファには自分で自分がわからなかった。
今まで火の熾し方がわからなかったけれど、火さえ自分で使えるようになれば今年は生き残るのがぐっと楽になる筈だ。
森の中を彷徨って種火になりそうな獣の毛を拾ったり油分をたくさん含んだ木の実を拾い、草を適当に切って乾燥させておく。
よく乾いたものに火打石で火をつけてから枯れ木を乗せていくとノーファでも簡単に安定した火をつける事ができた。
子供でも火を起こせるような方法を知っているなんてビルビッセお姉様は天才だとノーファは思った。
大人の巫女達は大きい木を突っ込んでは必至にふーふー吹いて、火を大きくしているけれど四の姉、ビルビッセは指先ひとつで簡単につけてしまう。
ノーファはイルンスールという特別な名前を授かったけれど、その名前は意地の悪い大人たちには秘密にしていた。
◇◆◇
崖の上からたくさん石を落として、下に降りる。
割れた石の中から薄く鋭く割れたものを発見してそれで捕まえた蛙を捌いた。
こういう知恵は五の姉、エイダーナから教わった。おかげで腕力の無いノーファでも石包丁代わりのものをこしらえる事が出来た。
動きの遅い蛙はたくさん捕らえる事が出来た。
ノーファの蛙猟師っぷりは一か月もすれば達者になったが、今度は蛙の数が減り過ぎないように注意しなければならなくなった。春の蛙はまだ小さく痩せているしできれば秋まで生かしておくようにエイダーナからも注意された。
相変わらず塩は無いが、乾燥させて燻せば保存食として使う事が出来る。
昨年は食べる事が出来なかったそこらの野草も火を起こして湯がくことで毒素も抜けて柔らかくなり、食べられる種類が増えた。
そこに蛙の肉や骨を入れると、その日は夢に見るほどの極上の味になった。
マリーナが持ってくる薄い出来損ないの粥とは大違いだった。
「秋になったらもっともっと、試してみよっと」
試したレシピの一つで一晩中痺れて動けなくなってしまうのはまた別の話・・・。
ノーファは動物性蛋白質も摂取できるようになり、いくらか健康になった。目下の問題は塩分不足だ。蛙の血を煮詰めて舐めたり、自分の腕に浮いた汗を舐めたりしてどうにか紛らわせているものの貧血はどうも塩分不足から来るらしいと二の姉、エイファーナは言っていた。
ノーファがいつものように岩場の上で巫女の奉納舞を見ながら自分の腕をぺろぺろしていると巫女達はノーファに気が付いた。
「猫か何かみたいね。何で自分を舐めているのかしら」
「獣のやりそうな事じゃない、ほっときなさいよ」
ぼさぼさ頭で真っ黒な体のノーファを見て巫女達は嫌がった。
岩の上から見ていたので石を投げられても届かない。
とはいえ、いい気はしないのでノーファは移動した。
そしてノーファは夜になるとこっそり寺院の厨房からこっそり塩を一つまみ盗むようになった。一度にたくさんは盗まない。
貴重な塩だが盗みを働く巫女はいなかったので警備も何も無かった。
ノーファが寺院の近くをうろうろするのはいつもの事で夜中に誰かに見つかってもただの獣だと無視された。
ノーファに盗みは悪い事だという概念は無い。
誰もそんな事は教えなかったから。
マリーナはよくノーファのものを盗んだ。
食料も防寒具も。
だからノーファも必要なものは盗むようになった。
2018/10/13 挿入話として追加しました。




