第38話 忍び寄る気配
今日は土曜日でアンナマリーさんやレベッカ先生達女性陣が集まって楽しくお茶会をする日だが、皆の表情が若干暗い。あまり良い話が少ない今日この頃なのだ。
アンナマリーさんが町で病が流行っていて、村でも流行りだしたという。
その病は私が最後にハンネと買い物に行った時も聞いたけど拡大していたようだ。
「イルン、最近町で流行っている病気の治療法を知らないか?」
レベッカ先生はまた無茶をいう。
わたし自身が効果を確認したものしか余分に作らないし、売ったりもしない。
「よく知らない病気の治療法なんか知らないよ、自分で試せるものだけだよ、わたしにわかるのは」
症状が似ていても投薬は慎重にと二の姉様は言っていた。
「流行る前ならこの前ナジェスタが送ってくれた薬木を燻したりお茶を飲めば予防できたと思うけど、もう流行っちゃったら調合して人体で試してみないと無理だよ」
副作用が怖いから、病気の人には悪いけどわたしにはそこまでできないよ・・・・・・。
「エミリアも使用人の子達も二人、昔同じ流行り病で亡くなってしまったのよ。身体中に発疹が出来て酷い頭痛と高熱にうなされてうわ言を言いながら苦しんで死んでしまったのよ」
母さんも辛そうにいいつのる。
「じゃあ町へ行こう。心当たりはあるけど自分の目で見ないと無理だよ」
そういうと皆して猛反対してきた。
「いけませんお嬢様まで感染してしまってはどうするのですか。たたでさえあまり丈夫ではありませんのに」
むむむ、ハンネの意見に皆同調するけど、それならこんな話持ち出さないで欲しい。
「でも父さんがいない今、これ以上被害が拡大して何もしないでいたら申し訳ないよ」
父さんがなかなか帰ってこない、母さんや補佐官の人も予定より帰りが遅れていて心配してるようだ。幸い衛士は増員されて屋敷や町の治安も回復してきているらしい。
それはそうなのですが、とハンネは返答に窮しているがあくまでもわたしの仕事じゃないという。
「ハンネが心配してくれるのは嬉しいけど、この前ナジェスタが送ってくれた薬木があるから大丈夫だよ。先生は着いてきてくれるよね?」
あれを燻して服に染み付かせれば効果があるだろう。
先生は自分が言い出した事であり、わたしがもう決断したのをみてとって不承不承に同意し結局アンナマリーさんと護衛代わりといってイーザン老師も希望して付いてくることになった。
体を覆う簡素な服と帽子にスカーフを全員分用意して薬木で燻し、そのスカーフをマスクのようにして呼吸気管も守って町へ向かった。
何人かいる町医者に会って話を聞き症状と罹患者の性別、年代を整理した。
もっともやったのは先生でわたしは後ろで話を聞いているだけだ。
「どうだ?特定できそうか?」
「まあ、・・・ね。じゃあ次は患者さんに会いに行こう」
やはり子供や老人の症状が重い。
なかには錯乱してしまっていて家族に縛られているものもいた。
南方からの移民の子供に患者が多く、全身に発疹が広がっている。
何人かは助かりそうもない。
中には大分大きくなっていたが、昔お屋敷に働きに来ていた子もいた。
アンナマリーさんの頼みで海岸の村にも寄り、わたしたちは午後の3つ目の鐘がなるまで患者を診て回ってから屋敷に帰った。
「どう思う?」
「どう思うも何も、これは有名な病気なんじゃないの?本に載っていたチッケア発疹熱病によく似てると思うんだけど」
レベッカ先生の問いに若干困惑する、特徴としては似ているように見えたけど、わたしの診立てが誤っているのだろうか。
「代官殿が購入してくれたのだろうが、お嬢ちゃんが持っている医学書はそこらの町医者でも買えんものじゃ。儂も嬢ちゃんがいうようにチッケア発疹熱病だろうと思うが、有効とされている薬はとても高価じゃ。とても患者に行きわたるほどの数は揃えられんだろう」
父さんがいろいろわたしに役立ちそうな本を調達してくれている本のひとつだけど、そんなに高価じゃ意味ないだろう。購入者が少ないので印刷もされていない。医療ギルドは写本も罰金を取っているとか、恐ろしい。前から色々聞いていたけど、これは酷い、げんなりすることばっかりだ。
「男爵に金を出すよう依頼した所で、暖かくなれば収まる病じゃから放置されるのがオチじゃろう」
「イルン・・・」
レベッカ先生が期待したような目で見るが、駄目だ。
高度な医薬品の調合は二の姉様の分野で、二の姉様からは他に教わる事が多くて、わたしはそこまで詳しく習っていないし危険過ぎる。
「・・・やっぱりダメ。道具が無いし、いまから研究しても間に合わない。ギィエッヒンゲンみたいに衛生的な環境に患者をひとまとめに移して隔離して、髪も髭も体中の毛を剃って、衣服も徹底的に洗浄して消毒するくらいしか無いと思う」
「それをするには衛士にある程度の広さがある神殿などを接収させ、患者を連行する必要があるじゃろうな。強制執行命令を出せる人間はいまおったかの」
つまり男爵も代官もいない今は無理ってこと?不満には思うけど、ただの子供のわたしが文句言っても仕方ない、ただの文句で非建設的だ。
「じゃあ、各戸で実施してもらうようお触れを出すしかないんじゃないかなあ。森のオルニッヒの巣や蜜には高い殺菌効果があるから、重症のひとにはそれを。あとプランの実みたいな甘酸っぱい果物あったでしょ?あれの皮をすり下ろしてシモンディシアの精油と混ぜて加熱してクリームを作って患者の皮膚に、果肉と果汁は・・・・・・」




