表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

誰にも見えない私の友人、メアリー

 見つけたの。 

 広がる緑の中から、四つ葉のクローバーを。

 これで私は幸せになれる。


 押し花にしようかしら、そうすればハンカチに入れて身につけることも本に挟んで鞄に入れておくことも出来るわ。ずっと私と一緒だから。

 ああ、こんな嬉しいことはなかった。まるで雨上がりの空に七色の虹が出て目の前が晴れわたったみたいな気分なの。

 四つ葉のクローバーを見つけると幸せになれるんだって。そんな話しを思い出して綺麗なほかの花は摘んだりしないで緑の中、無我夢中で探してた。



 夕暮れになると公園は人がだんだん少なくなっていき、親子で来ていた人達は手を繋いで帰ったりベビーカーをひいて家路につく。

 暗くなると心配して家の人が迎えに来るのを見ながら私だけがポツンと取り残されてしまった。私には来てくれる人がいなかったから。

 だけど平気だったわ。そんなことは慣れていたし、それに素敵なことに四つ葉のクローバーがね、見つかったんだから。

 嬉しいことは早くメアリーに教えてあげなきゃ。


 メアリーを呼ぶと、

「なぁに?」

 と話を聞いてくれる。


 幸せになれるクローバー見つけた話しをしたら、

「それは良かったわね。ラッキーじゃないの。

 あら、暗くなってきたわよ。あぶないから帰りましょうね。」

「そうね。ありがとう。」


 メアリーというのは私がつけたニックネームで本名は茉莉ちゃん。「まり」が「まい」に聞こえちゃうみたいだし、絵本の中で見た外国の女の子みたいに目が大きいからメアリーって呼ぶことにしたの。


 ******


 幼い頃、私は田舎町に住んでいた。

 マンションやアパート、団地のような所はなくて一戸建ての家が殆どだった。三階建ての家やアパートなんていうのは見たことがなかった地域。


 そこでは、今でも慣習が残ってるようだけど長男が結婚したら親と一緒に住み、老後の面倒をみることになっている。自営をしてるなら長男が店を継ぐのが当たり前で。

 そのかわり相続権というものも親の面倒をみていく長男に、だった。法律では夫婦の一方が二分の一、子供が二分の一。子供の数が二人、三人だったりすると子供間で割ることになる。

 だけど、法律よりも慣習の方が強くて子供だと親の面倒をみた者が多く相続する。長男でなければ婿を養子にした長女か、住んで世話をした者。


 私は祖父母、両親、父の弟、弟と私の七人、三代で一つの家に住んでいた。

 皆が仲良く暮らせば七人とも当たり前のことを当たり前に生活し、人間関係も和やかだったんだろう。

 この家はそうじゃなかった。少なくとも私は物心ついた頃から家族といるのが嫌だったし、いつも理不尽なことでいっぱいだったから。

 母は私に無関心で、それだけじゃなくて邪険にされていた。「汚い」ってよく言われていたのを覚えてる。

 祖父母はいとこ同士の結婚だったと聞いてるけれど、仲が悪くて叩き合いの喧嘩をすることもあったし、祖父母と母の関係も険悪だった。


 狭い家の小さな人間関係の中で言い合いを聞いてると気分が悪くなってきて、私は耳を塞いで電気のない押し入れの中に入ることが多くなっていった。

 子供心に生きる意味を考えたり「どうして私はこんな家に生まれてきたんだろう?」って思いながら柔らかい布団にもたれてうたた寝したこともあった。

 でも、この場所がゆいいつ、一人だけになれる場所だったから。

 そうメアリーにも話した。


 彼女は、

「それってなんだか悲しいね。」

 慰めてくれる彼女の言葉に私は甘えたように泣く。そうすると彼女は、

「大丈夫、私がいるから。何でも話して。」

 って、優しく髪を撫でてくれるかのように返事をしてくれた。



 幼い頃の記憶は鮮明に覚えてることもあるけれど、どこか部分的に欠けていることもある気がする。

 例えば、夏祭りのわくわくした記憶ーー風鈴が光ってキラキラしていたりカランカラカランって音が鳴るのを覚えてるんだけれど、私は本当に夏祭りに行ったのか、誰と行ったのかがわからない。それがイメージなのか本当に行ったのかって。

 記憶なんて誰にとっても、きっと曖昧でそういうものかもしれないけれど。

 ただ、目を閉じて思い出そうとすると頭が痛くなるのが不思議で、もういいやと思い出すことを諦めることにしていた。



 二才年下の弟がいた。彼とは空き地に入ってみたり近所の子達と一緒に遊んだりしていた時期があった。

 祖父母が大喧嘩してる時には彼と私は手を繋いで「お父さん達、早く帰ってこないかな」と肩を並べて玄関に座っていたこともあった。時々はそうやって口をきいて過ごしてはいた。


 私達は喧嘩もよくした。毎日のようにしてた気がする。

 何が原因か忘れてしまったけれど、ある時、叩き合いの喧嘩をして私は彼のお腹をグッと思い切り叩いた。胃だったのか彼はウッと吐くように手を押さえてその場にうずくまり、私は驚いて「ごめんね」と謝って。弟が倒れてしまわないか怖かった。

 以来、人を叩くことは苦しめることなんだって二度と叩くことはしないでおこうと思った。


 メアリーは、

「うん。叩くのは悪いこと。自分がされたら痛いしイヤな気持ちになるよね。でも、ちゃんと謝ったんだね。」

 褒めてくれたようで嬉しかった。


 ******


 子供が喧嘩して親に言うのって、相手を叱って貰いたいってわけじゃないと思う。

 「はいはい、嫌だったね」と聞いてもらえるだけでうっぷんはらせるから、それで「お母さん、クレヨンとられちゃった」なんて言うんだと思う。

 きょうだい喧嘩して親の所に行って。だけど親は裁判官じゃないんだから、どちらが悪いとか玩具は誰が遊んでいいのか、そんなことを言われることを子供は期待してなんかしていない。


 私が母に弟と喧嘩して腹が立ったことを言うと、

「負けるが勝ち、っていうから喧嘩なんて負けておけばいい。」

「お姉ちゃんで年上なんだから我慢して。」

 いつもそんなことを言って、私の話しを最後まで聞かずに顔も見ないで去っていく。


 弟が母に話す時は違う。

 彼の頭をなでて、なぐさめてやりお姉ちゃんが酷いことをしたんだって彼の気持ちがおさまるように言って、全く反対の態度をとられていた。

 そうすると母のそばにいる弟は「ざまあみろ」というような顔で私にアッカンべーの仕草をしていたこともあった。

 姉弟への接し方の不公平さが不満となり、やがて諦めと変わったのはいつ頃からだろう。

 喧嘩はしなくなったし私が弟に話しかけるのはやめた。まれに彼の方から話しかけた時には適当に答えて、その場をすぐ去って無視していた。


 仲が良いきょうだいを見ると、とても羨ましくて様子をみていことがある。お兄さんが下の子の鞄を持ってやったり転ぶと手をとって起こしたり。お菓子を買った時にこぼすとティッシュを渡してあげたり。

 親戚の集まりでもそうだった。いとこ達で下の子が上の子にお菓子をとったり半分っこしたり。大人の話題に入れないから何か話して二人で楽しそうに笑っていたり。

 私が弟に優しくすれば仲良くなっていたのかもしれないけれど、幼い時にそんなことを思いつく余裕なんてなかったのだ。余裕がないと人に優しく出来ないから。

 ・・・母に優しくされたかった。



 母は弟に異常な愛情を注ぐようになっていた。

 私は彼にヤキモチやいていたし、どうしても間に加わることが出来きないのが悔しくて悲しい。祖父母も孫を愛おしむような人達じゃなかったから、とにかく私は家族から疎外感を感じてたのだ。

 それだけだったらまだ良かったくらいだ。母は私のことを本当にうとましく思うようになっていったようだ。その原因は、私のことだけでなくほかの要因があったのは薄々気づいていったけれど。


 いくつの時か、私は風邪をひいたのか鼻水が出て体も苦しくて仕方がなかった時。母に苦しさを伝えようと近づくと、

「うわ、汚いっ。あっちに行って!」

 と彼女の腕に置かれた私の小さな手を振り払った。それが初めて彼女から感じた「無視以上のこと」だったような気がする。

 だから、私は弟のことを憎んでた。二人の子供がいて片方は溺愛、もう片方が無関心で無視。こういうのって母のことを憎むだけじゃなくて溺愛されてる者をも憎んでしまうことになる。


「汚くなんかない。体がつらいのに。

 鼻をふいてもらいたかったよね。」

 メアリーは慰めてくれたけれど、一言では表せない憎しみや求愛する気持ちや悲しさで、その時、私はどうしていいかわからなかった。


 汚い、汚くない、汚い、汚くない・・・頭の中で言葉がこだましていた苦しい体のあの時、私は鼻水をどうしたんだったんだろう。自分で鼻をかんだのか。自分で布団を敷いて横になったんだろうか。いつものように押し入れに入っていったんだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ