勇者の里帰り
長いこと書いてなかったので、リハビリに短編です。
「たっだいま~。みんな元気だったか?」
「ジャック!?お前、帰って来たのか?」
3年前、勇者となりこの村から出ていったジャック。魔王を倒し、無事に帰って来た彼を普通なら大喜びで迎えるところだが、この村の人たちは戸惑っていた。
「どうした?なんかあったのか?」
「い、いや。ジャック・・勇者様は王都で凱旋パレードをした後、王女と結婚されると噂で聞いていて・・その」
「ああ、パレード?はするっつってたけど、俺、出ないって言ってきたし。それに王女と結婚って俺にはエリーがいるじゃん。なあ、エリーどこ?」
村の人たちは遠巻きに見ているだけで、ジャックと話をしているのは幼馴染のマークだけ。エリーの姿は見えない。てっきり一番に迎えに出てくれるとジャックは思っていたので、少しがっかりしている。
「あー、そのー、エリーは・・」
マークが言いよどんでいると、村の人たちの中から、お腹の大きい女性が出てきた。
「お帰りなさい、ジャック。ごめんなさい、私」
「エリー!!会いたかった!!」
ジャックはエリーに駆け寄ると、エリーを抱きしめる。それから、エリーのお腹を見て言った。
「もしかして、子供ができた?」
「・・ええ。だから、私」
「やったー!!俺とエリーの子供!!」
エリーの言葉を遮り、ジャックはエリーを抱えると、勢いよく回し始めた。因みに、お姫様抱っこではなく、両脇を持ち上げた子供にする飛行機のような扱いだ。
「ちょ、ちょっと、ジャッ、ジャッ、、ジャッ」
エリーの足は宙に浮いている。かなりのスピードで回っていると、エリーのスカートの下の方から、詰め物が飛び出していった。大喜び中のジャックは気付かない。目の回ってきたエリーも気づかない。慌ててマークがジャックを止めた。
「おい、ジャック、ジャック、馬鹿ジャック!!!」
「ん?何だ?マーク。祝福の言葉ってやつか。」
やっとエリーを振り回すのをやめて、ジャックがマークの方を見る。エリーはぐったりしている。もうしばらくは話せそうにない。
「違う!!お前、勇者としてあちこち旅してきたんだろ?常識も身につけたんじゃないのか!?」
「ジョーシキ?ああ、いくつか仲間に教わったぞ。」
「いくつかって・・」
常識と言われるものの中から、片手で数えられるくらい教わったらしい。マークは頭が痛い。
「何から注意すればいいんだ。とりあえず、妊婦を振り回すな。本当に赤ん坊がいたら、死んでしまうかもしれないぞ。妊婦だって危険な状態になる。」
マークの言葉で慌ててジャックはエリーを見て青褪めた。
「どうしよう!!赤ん坊がいなくなった。」
「赤ん坊はそういう風にいなくなるわけじゃない。エリーは妊娠してなかったんだ。」
「何だ、そうなのか。エリー、俺との結婚を楽しみにし過ぎて、先に赤ん坊作ってくれてたんだと思ったのに。」
「もし、今、エリーが妊娠してたら、父親はお前じゃないからな。」
「そうなの?」
「誰だ、ジャックにこういう常識教えなかったのって、俺か!!」
頭を抱えるマーク。ジャックとエリーは孤児であり、親はいない。エリーは他の村人ともうまくやれたが、ジャックは問題児でマークとエリー、それと村で変わりものとされている大人にしか懐かなかった。自然とマークとエリーがジャックに常識を教えなくてはならなくなったのだが、教えることが多すぎて(興味がないとジャックは教わった常識を忘れる)そこまで手が回らなかったのだ。
仕方がないので、その説明は後でするとジャックに言って、先にこの茶番の話をしてしまうことにした。エリーのお腹の詰め物は飛んで行ってしまったことだし、この馬鹿馬鹿しい芝居も乗り気ではなかったのだから。
「王女の使いがこの村に来た?」
「そう。お前、エリーがいるからって王女との結婚断ったんだろ?」
「もちろん。」
「で、勇者のお前に言っても駄目なら、相手の方を脅すことにしたんだよ。もし勇者が帰って来て、その相手が結婚に同意したら、この村に重税をかけるってな。王家に逆らったら反逆罪がどうとかも言ってたな。俺は、ジャックが来ればどうにでもなると思ってたんだが、エリーが村の人たちに迷惑はかけられないって言ってな。浮気して、別の男との子供を身ごもったことにするって。」
「そんな芝居だったの?全く気付かなかったんだけど。」
「俺らもお前が常識無しのまんま帰ってくるとは思わなかったんだよ。」
ジャックは能天気な雰囲気をガラッと変えて、ところで、と話し始めた。
「誰が、エリーの夫役だったの?」
「いねーよ。この村でお前のエリーに手を出そうなんて考える奴は、妄想の中でだっていやしねーよ。仕方ないから、旅人とかぼかすつもりだった。」
「この世から旅人全滅するけど」
「させんなよ!?架空の話だったし、エリーからそんな言葉聞いてないだろ?」
今計画を暴露しているのはマークで、エリーは一言も浮気とか他の男とか言う言葉は発してない。というか、そのセリフを言う前に遮られ、グルグルと回され、具合が悪くなり話せない。
「そっか、そうだよな。」
「ああ、エリーは今もお前のエリーだ。」
にこにこと、機嫌よく笑顔になったジャックにホッとするマーク。
「じゃ、とりあえず、王家亡ぼすか。」
「うぉおい!!」
しかし、笑顔のままのジャックの言葉に真っ青になるマーク。顔色が忙しい。
「だって俺ちゃんと言ったんだぜ?王女と結婚しろっつーから、俺にはエリーがいるから嫌だって言ったし。エリーに何かしたら全力で狩るって。狩られてもいいってことだろ、これ。」
「待て、ちょっと待て、その危険思想は後ろにでも放り投げておけ。」
「後ろ?ああ、そう言えば、後衛のトニーが王家って簡単に滅ぼしちゃいけないって言ってたな。めんどくさいよって。」
「ありがとう、見知らぬトニーさん。」
「じゃ、独立しよ?この村、独立国家にしよ、そうしよう!!」
残念ながらマークはここまでのようだ。あまりの唐突なジャックの言葉にもう突っ込む気力すらないようで、だが、安心してほしい。エリーが復活した。選手交代。
「ジャック、色々言いたいことはあるわ。でもとりあえず、本当に無事でよかったわ。お帰りなさい。」
「エリー!!ただいま!!!」
「話は聞いていたわ。独立国家って作ろうと思ってできるものじゃないのよ?」
「うん、知ってる。トニーが他の国の王家からいっぱい推薦状もらえればいいって言ったし、必要になるからもらっとけって魔王討伐で通った国のほとんどの王様がくれたよ。」
「何てこと教えるの、見知らぬトニーさん。」
「結構うちの国の王様嫌われてた。独立?しちゃえしちゃえっていう王様が多かった。」
「何て言ったらいいのかしら。一番の問題はジャックが王様ってことかしら。」
エリーも頭を抱えていると、ジャックが唯一懐いていた村の大人、ロブがやってきた。
「安心しろ、エリー、王はジャックじゃないぞ。勇者パーティーの中の、ノアだ。王族ではないが、領主の息子だからな、為政者としての知識はある。」
「ロブさん、何でそんなこと、知ってるんですか?」
「まあ、簡単に言えば、俺はこの国の第一王子の影として育てられたんだが、俺が優秀過ぎて殺されそうになって逃げてきたんだよ。」
「「「え!?」」」
村の人たちも驚いているようだ。ロブは前髪もひげも伸び放題で、ほぼ顔を見ることがなく、自分の小屋にこもって何かを作っていて村人とあまり交流がなかった。ただ、村長とは話をしているらしい場面は見受けられたので、村の人も村長が認めているならと、ロブを村から追い出すことはなかった。
「本当はこの国を出て別の国に逃げ込むつもりだったんだが、まあ、いろいろ事情があってな。」
「あー、ロブさん、乗り物に酔うから乗れないんだよね。徒歩しか交通手段がないんだっけ。」
復活したマークがロブの言葉に納得した。他の国に行くには、砂漠を超えていくか、海を渡るかしかない。ロブは咳払いをすると、話の続きをした。
「他の国の奴らとは話は付けてある。勇者パーティーにこの国から3人も出てるからな。この国の王家がでかい顔するんだよ。独立するのはこの村と、周辺の町や村で、村長はちょうどその話し合いに3つ先の村に行ってるんだ。」
「ロブさんはなんでそんな話を知っているんですか?」
エリーはロブの言葉に不思議そうに首をかしげる。するとジャックが、自分がロブの作った魔道具(通信機)を持って旅をしていたからだと褒めてほしそうに言うので、エリーはとりあえずジャックの頭を撫でた。
「ま、俺も少しはノアを支えてやれるからな。独立することに問題はないよ。凱旋パレードで、独立を宣言する予定だし。」
そんな所まで話が進んでいることに、ジャックとロブ以外は驚いていた。
そのまま、順調に話は進み、独立国家は誕生。以前の国の方が小さくなる有様だった。
ー2年後ー
「ジャック。赤ちゃんができたの。お医者様が間違いないって。」
「ほんと!?エリー!!やったー!!俺たちの子供!!エリー、ありがとう!!」
マークに知らせようとジャックが家の扉を開けると、ちょうどマークがこちらに向かってきていた。
「ジャック、エリー、どうだった?」
「子供!!俺たちに子供ができたんだ!!」
「そうか、おめで」
ジャックはマークをガッと掴むと、両脇に手を入れ、グルグルと振り回し始めた。
「やったー!!」
「ま、まて・・ジャッ・・なん・・まわ・・」
後ろから来ていたマークの妻のルルがその二人を大回りして除け、エリーの所へやってきた。
「恐らく、何で回すのかって言いたいと思うの、私の夫。」
「ええと・・たぶんね、両親のいる家庭で出稼ぎに行っていた父親が帰ってくると、子供をああいう風にグルグルと回して、父親も、子供も喜んでいるのをずっと見てたからだと思うの。だから、嬉しい時はああやって回すものだと思ってるみたい。ただ、妊婦は回すなっていうマークの言葉はちゃんと覚えてるのね。」
「なるほど、だからああなったのね。まあ、それはそれとして、エリー、おめでとう。」
「ありがとう、ルル。」
妻二人は夫二人を見守りつつ、平和に世間話を始めるのだった。
オチはないという・・・(汗)
ロブは村人としての常識はありませんでした。