ひらり、ひらり
この作品はフィクションです。
桜の花が、今年も咲いた。
特別なことなど無い、いつも通りの、自然の営み。
桜が咲いて、そして散って。
毎年変わらない、そんな光景。
今年だけは、違って見えた。
「東京?」
「うん。」
その言葉を伝えたのは、昨年の五月。
桜の花も散り終わり、葉桜が枝を覆っていた頃。
当たり前のように一緒にいて、
当たり前のように同じ時間を過ごしてきた。
肩までの、ふわり、とした髪に、優しげな瞳に穏やかな笑顔。
当たり前のように隣にいた、同い年の幼馴染み。
「将来のために、ね。せっかくだから、挑戦してみようかな、って。」
「そうなんだ。」
「そっちは?」
「私?」
「うん。」
「…私は…、家のことがある、から。」
「そっか。」
「………。」
何かを、期待していたのかもしれない。
彼女は、果樹園を営む家の一人娘。高校卒業後、彼女が跡を継ぐ、というのも、自然なこと。
それでも、僕は、何かを期待していたのかもしれない。
地元を離れる。彼女が隣にいる生活から離れる。
当たり前が、当たり前じゃなくなる。
それを選んだのは、自分。
それでも、心の中に引っ掛かる、何か。
東京の大学を受験する。
僕が本格的な受験勉強に取り組むようになって、彼女の隣にいる時間は、明らかに減っていった。
たまに顔を合わせる彼女は、今までと変わらない笑顔を見せてくれて。
その度に、心に引っ掛かる、何か。
気付いていく、何か。
心に引っ掛かった物を抱えたまま、夏から秋、そして冬へ、季節は移ろっていく。
初詣。久しぶりに二人で歩いた参道で、何をお願いしたのか聞かれた。
「大学合格」
「がんばって」
笑顔の彼女。
無理をして笑ってくれていたことに、なんとなく、気付いていたけど、何も言えなくて。
そして、
「合格、おめでとう!」
そんな彼女の祝福に、笑顔で応えたけれど、ホントは、心から喜べてはいなかったんだ。
季節は移る。冬から、春。
再び、桜の季節が訪れた。
3月。
卒業式。
同級生達は皆、それぞれの道へ、歩いていく。
僕も、歩いていく。
「この桜も見納めだね。」
早咲きの桜が空を覆っている。卒業証書を片手に歩く通学路。
「高校生として、最後の桜かぁ。」
「旅立ちの象徴だね。」
「そうだな。四月から東京で一人暮らしだ。」
「大丈夫?一人で暮らせる?食事とか、」
「同い年なのに子供扱いするなって。東京でも、一人でも、どうにかなるさ。」
「そっか…。うん、そうだね。」
「…お前は、結局どうするんだ?」
「私は果樹園を継ぐよ。最初は、お父さんお母さんの手伝いからだけど、果物の知識とか流通の仕組みとか、結構勉強すること多いんだから。ここから大変。」
「そっか…。」
「やっぱり、大好きだから、ずっと過ごしてきた家だし…。」
「………。」
ひらり
ひらり
「いつか、」
「…ん?」
「またここで、会えるよ。」
「………。」
「ずっとずっとずっと、一緒に過ごしてきただろ。それは、絶対に、消えたりしない。ちゃんと、ここにあるから。だから、また、ここで会える。会う。会うから。」
「……………うん。」
「だから、その、………だから、」
「………。」
「……………………、またな!」
いつもより歩幅を大きくして、僕は桜の通学路を一気に歩き始めた。
言いたかった言葉。結局、伝えられなかったけど、約束は、交わしたから。
だから、
「………ホント、ダメだな、僕って。」
次に会うときは、一番の笑顔と、一番言いたいことを、届けられるように。
いろんな気持ちで、笑いながらこぼれた、少しの涙。桜と一緒に、ひらり、空に溶けた。
前回の「rebellion」に引き続き、
2017年7月に解散した、自分が好きだったバンド、COLOR COLOR CLOWNの楽曲から、タイトルをお借りして、作品を作成させていただきました。
「ひらり、ひらり」
桜は、やはり、いいものです。




