車に乗って
車のハンドルを握る男の手は緊張の汗で濡れていた。別に、男は免許を取り立てたばかりでも、久しく運転をしていなかったペーパードライバーでもなかったが、緊張していた。
男の運転する車は道をゆっくりと走行している。男の車だけでなく、周りを走る車も同様に、まるで歩行者を優しく気遣う様に走っていた。
緊張からくる震えで、アクセルペダルを踏む微妙な力加減を誤ってしまった男の足は、車の速度を僅かに加速させた。
指定速度30キロの道での、1キロの速度超過を感知した男の車は、「ピーピー」という警告音と共に『出頭システム』を作動させ、ハンドルは男の意思に反して動き、強制的に警察署へと走っていった。