放課後
本日も投稿しました。
ホームルームが終わると同時にぞろぞろとクラスの男子が近づいてくる。オレにじゃなくて隣の詩音にだ。
他のクラスの男子も混じっているみたいだ。少しでもお目にかかりたいのだろう。
一気にオレの机が占領されてしまった。明日朝一で消毒しなくてはならんな。
まぁいい。今日はもう疲れたし、コンビニ寄って店長に弁当貰って帰ろう。
「帰るぞ、モッヒー。」
詩音に群がる男子の整列をしているモッヒーに声をかけた。
見た目は怖いので、みんな素直に従ってちゃんと整列している。
「悪いけど、今日は先に帰っといてくれ。わいは詩音様をお守りせなあかん」
「そ、そうか。分かった。頑張れよ」
あいつは、いつの間に詩音のことを様付けで呼ぶようになったんだ。
もう信者じゃないか。
親友が遠いところに行ってしまった。読者のみんなは友達を選ぼうね。さて、帰ろう。
「ピンポーン」コンビニに入るといつもお馴染みのチャイムが鳴り響いた。
今のところ店内にいるのは店長だけだ。
「約束通り弁当を貰いに来た!」
オレは商品整理をしていた店長に声をかけた。
「ちゃんと入学式には出てきたのかい?」
「もちのろんだ!この野郎!早く弁当をくれ!」
「ちょっと待ちな!どうだい?学校は楽しかったかい?」
「基本楽しくなかったが、ドリヘルってアプリはヒューファン並に面白かったぞ!今日は徹夜だ!」
「そうかい。それは良かったじゃないか。ほれ、約束の弁当だよ」
「貰っておいてやるよ!」
「その上から目線だけ直せば、良い子なんだけどね〜」
店長は呆れて抵抗する気もないらしい。
弁当は賞味期限ギリギリの一般的なハンバーグ弁当だった。狙い通りだ。
しかもサービスでお茶までつけてくれた。気のきく店長だ。
親子みたいな会話をしたが、念願の弁当はゲットした。親子と違った部分といえば、もし他人に見られていたら高校生が幼女から弁当を奪い取ったように見えたところだろう。
「それじゃまた来るぜ!へっへっへ」
目的を果たしたので、悪い顔をして帰ろうしたら、店内に警察官らしき人が入ってきた。
どうやらさっきの店長とのやり取りを外から見ていたようだ。
「ちょっといいかい?私立夢丘高等学校の生徒だな?さっき、あの少女とどんな話してたのか聞かせてもらっても大丈夫かい?」
「あ、え、あの。って警備員のおっちゃん!違うんだよ!これには深い事情があってだな」
「怪し過ぎだな。さっき少女から弁当カツアゲしてただろ?」
「そ、そんなことする訳ないっしょ!」
「はいはい。犯人はみんなそうなんだ。おっちゃんは騙されないかんな。警察行こうか!」
手首をガシッと捕まれ連行されそうになっていると、見兼ねた店長がやってきてた。
誤解だと店長が弁解してくれたので解放されるのに時間はかからなかったが、危ないところだった。来るのが遅いぜ店長。
犯罪者になりかけたオレはさっさと家に帰ることにした。
私立夢丘高等学校はこの町の北区にあり、オレの家は北区よりの中央区にある。
なので、家から高校までは、だいたい徒歩10分くらいで帰れる。
「ただいま」
親は海外出張中で家には誰もいないと分かりながらも、ついつい言葉にしてしまう。一戸建ての一人で住むには広過ぎる空間に虚しくオレの声が吸い込まれていく。
「お帰りなさい!」
ほらな。誰も反応してくれないだろ?お帰りなさい!だってよ。ん?なぜ?家には誰もいないはずだぞ?
空き巣か?いや、泥棒はこんな可愛い声を出せるはずがない。他に考えられるのは…だが、それ以外は考えられない。
やはり、可愛い声の空き巣がいると思って間違いないだろう。
玄関にあった箒を持って声が聞こえてきたリビングに向かった。
オレの家に空き巣とは良い度胸だ。捕まえたら調教してやるぜ。ブヘヘヘ。
扉を開けてみると、そこにはエプロン姿の三関詩音がいた。
オレは驚きのあまり箒を床におとしてしまった。
「お帰りなさい!宝陽様」
「………」
「どうかしましたか?」
人は本当に驚くと黙ってしまうことをこの時知った。
透き通った純粋な上目遣いでオレを覗きこんでくる。
人見知り発動。
素早く後退り、壁に頭を打つ。
「なんで、あんたがここにいる?ここはオレの家だぞ?」
「お祖母様から聞いてませんか?」
「ばーちゃんから連絡なんて来てない!」
「それは、おかしいですね。それでは私の方から説明させて頂きます」
それから詩音の話を聞いて状況整理をした。
ちなみに話を聞いている間のオレは、そわそわしまくりだった。
つまり、こう言うことらしい。
海外出張中の両親が心配で送ってきたお世話係。
学校の先生をしてるばーちゃんに優秀な人材を選んで貰ったらしい。
それが、まさかの同級生。しかもクラスは一緒。席は隣と来たんもんだ。
忙しすぎて、一年に一度しか姿を見せないくせに、息子の事が心配らしい。心配されることなんて1つもないぞ。
残金16円だけども…
とにかく、住み込みではないと思うが、若い男女が一つ屋根の下というのは不味い。
しかも相手はおそらく、学校で一番の美少女。こんなところ誰かに見られたらどうなることか。
その時、玄関の扉が開く音がした。
「おーい!宝陽!おらんのかー?」
しまった!鍵を閉めるのを忘れていた!
なんて間の悪い奴なんだ。
「お客様ですね!お出迎えしますね」
「や、やめろ!あんたが行くと話がややこしくなる」
言い終わった時には遅かった。
リビングの扉がモッヒーによって開けられた。赤いモヒカンがチラッと見える。
もう終わりだ…
「え?詩音様?こ、こ、こんちはっす!」
モッヒーが詩音を見た瞬間、綺麗な斜め45度で礼。体育会系みたいな挨拶をしていた。
「こんにちは!えっと…伊木君でしたよね?」
「へい!名前を覚えていただけて光栄やでです」
「おい!モッヒー。関西弁と敬語が変な感じで混ざってるぞ。」
こんな奴だったけ?高校デビューしたとは言えイメチェンし過ぎだろ。
「せ、せやな!ちょい動揺してもてたわ。今日は弁当持ってきてやったんや!ヒューファンに課金してもて、お金ない言うてたの思い出しての」
「それは有難いが、バッドタイミングだ。弁当置いて今すぐ帰れ!」
「なんでやねん!わいも詩音様と話させてーな」
泣きながらお願いしてくる。
こんな必死なモッヒーは中学からの付き合いだが、初めて見た。
かなり気持ち悪い。
「わ、わかった。とりあえず、ご飯だけでも食べて行け」
「宝陽最高!この恩は一生忘れへんで!」
ここで、モッヒーを帰らしても詩音とまた二人っきりになり、気まずくなると考えたオレは帰すことを諦めた。
詩音も少ししたら帰るだろう。
モッヒーが持って来てくれた2つの弁当とコンビニで貰ってきた弁当を3人で一緒に食べた。
食べている時はオレは何も話さず、モッヒーと詩音だけが話していた。正直モッヒーが緊張し過ぎていて何を言っているか分からず、詩音も少し困っていた。それでもモッヒーは満足したようだ。
その時、携帯のバイブがなる音がした。
「やばい!もうこんな時間になってたんか!おかんから帰って来いって連絡来てるわ」
「そうなのか。それは残念だ。モッヒーのおばちゃん怖いから早く帰らないとな」
「全然残念そうじゃないやないかい!ほな、急いで帰るわ!」
「おう!またな!」
「詩音様もまた明日会いましょう」
「はい。楽しみにしてます!」
「勿体なきお言葉」
そう言い残しモッヒーは帰って行った。
二人がまともに話しているところをやっと見れた。
「あんたはいつ帰るんだ?」
詩音が弁当などの後片付けを終えるのを待ち、声をかける。
「私は帰りませんよ?あと、詩音とお呼び下さい。宝陽様」
「なんの冗談だ…?」
「いえ、冗談なんかではありません。名前で呼んで欲しいのです」
「そっちじゃねーよ!本当に帰らないのかと聞いてるんだ!」
「そちらの話でしたか。本当ですよ。住み込みで雇われましたから」
なんてこった…そんなラノベみたいな展開あって良いのか?
「あんたと親御さんは、それで大丈夫なのか?」
「もちろんです。親の許可も得ています。困ったことがあれば何なりとおっしゃって下さい。それと、次からは詩音とお呼び下さい」
「そ、そうか。分かった。詩音。それなら困ったことがある」
「はい!なんでしょうか?」
嬉しそうに期待した顔をしながらこちらを見てくる。
やめて!そんな顔でこっちを見ないで!眩しくて目が痛いよ!
でもオレもここは引けない。決して如何なる物もオレのプライベートを邪魔してはならんのだ!例えそれが超絶美少女であろうとな!!!
「詩音が帰らない」
「………」
次は打って変わって、今にも泣きそうな捨てられたチワワのような顔をしてこっちを見てくる。あれ?オレ正しいよね?若い年頃の男女が一つ屋根の下で生活とかやばいよね?18禁になっちゃうよ?
でも…でも…
「その顔は反則だろっ!仕方ない。今日だけだからな」
「分かりました!宝陽様!寛大な処置ありがとうございます」
結局、今日一日とはいえ受け入れてしまった。
この日の夜はオレは自分の部屋で、詩音は今は使っていない母さんの部屋で寝ることになった。
もともと寝る気はなかったが、別々の部屋とはいえ、心臓に1年分の負担を抱えながらドリヘルをし、朝を迎えた。
次の回からは投稿するペースが落ちるかも知れませんが、引き続き頑張りますので、よろしくお願いします!