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入学式

今日はプロローグだけの予定だったのですが、第一話の入学式まで投稿させてもらいます。

プロローグより文字数が多い為、読み応えはあると思います!

 午前10時。私立夢丘高等学校の入学式が始まる時間に、コンビニに出入りする人々が一人の少年を不思議そうな目で見ながら入る。

 人が出入りする度に「ピンポーン」と鳴る自動ドアの開く音を聞きながら、私立夢丘高等学校の制服を着た少年・六弦宝陽は途方に暮れていた。

 一般的に見ても整った顔立ち。先月ストレートパーマをかけたが、すぐに元に戻ってしまった黒髪の天然パーマ。身長も日本人の平均身長より少し高めに見える。一言で表せばイケメン。だが、彼の目は死んだ魚のようだ。常にやる気が無さそうな少年が、この世の終わりでも見ているような顔をして四つん這いで力無く呟いた。




「何が間違っていた」


 オレは何が間違っていたのか分からず四つん這いのままで普段は働かせない頭をフル回転させて考えた。


「六弦宝陽、探偵さ…」


 たった一つの真実を見抜く、見た目は子供、頭脳は大人の名探偵と同じ台詞っぽいことを呟いてニヤけるオレ。一度言って見たいと思ってたんだ。




 ・コンビニの前で携帯を手に持ち、四つん這い。

 ・下には使用済みの課金カード3万円分が落ちている。

 ・今日の朝までオレの全財産は3万円(生活費)




 ヒントはこんなところか。

 思い付くだけの間違いを叫んでみる。


「今回お目当のノアちゃんが手に入らなかったことか?」


 いや違う。


「生活費ラストの3万円を課金カードに注ぎ込んでしまったことか?」


 コンビニを出入りする人がオレに冷たい視線をプレゼントして行き、自動ドアが開いてピンポーンと鳴る。


「それとも入学式をサボってコンビニに入ってしまったことか?」


 次はゴミを見るかのような冷たい視線をプレゼントされ、自動ドアが開きピンポンピンポンピンポーンと連続で鳴った。

 おいおい、センサーが壊れてしまったのか?

 まぁそんなことはどうでも良い。

 真実は分かった。やはりいつも真実は一つだったようだ。

 ノアちゃんが当たれば入学式に行くつもりだったが、外れてしまっては行く気がなくなる。

 それより、一人暮らしのオレが仕送りまで残り2週間、無一文で、どうやって生活するかの方が重要だ。




 すると、コンビニから店長が出てきた。

 完全に幼女の外見。金髪のポニーテール。コンビニの制服に着けている名札には手書きで可愛らしく丸文字で『てんちょー』と書いてある。本人曰く15年以上コンビニの店長をしているらしいが年齢は不詳。

 ちなみにこのコンビニはオレのいきつけで、店長とは顔馴染み。両親が海外出張で家を空けている間、よく面倒を見てくれている。いつもオレがお金に困ったら売れ残ったコンビニ弁当を持ってきてくれる。今回もコンビニ弁当持ってきてくれないかな。ハンバーグ弁当辺りがいいな。


「またお目当のキャラクターが手に入らなかったのかい?」

「でんぢょー、オリャもゔダメだぁ」


 オレは知らぬ間に泣いていた。

 気付いてしまったのだ。今月のオレは飢え死ぬしか選択肢がないのだと。


「宝陽、今日あんた入学式じゃなかったのかい?」

「ぞゔだよー。でもごのままじゃあ、にゅうがぐじぎのまえにゔえじんじゃうよー」(そうだよ。でもこのままじゃ入学式の前に飢え死んじゃうよ)

「そんなすぐ飢える訳ないだろう。仕方ないから今回も弁当用意してあげるよ」

「さすが店長!分かってるぅ」


 きっと店長はオレの仕送りまで、あと3日ほどだとでも思っているのだろう。ふふっ。甘いわ!この勝負、勝った!

 オレは直ぐに泣き止み飛び跳ねた。

 店長は深いため息をする。


「その代わり今からでも入学式出ておいで!」

「ゔっ。仕方ない。背に腹は変えられん。行ってやる。気晴らしになるかもしれないからな」


 全国どこを見ても気晴らしで入学式に出る奴なんて珍しいだろう。

 しかもオレが今日から通う私立夢丘高等学校はコンビニのすぐ隣にあるのだ。入学式が終わってないことが、ここからでも分かる。

 オレはこれから2週間の生活を守る為に入学式に出ることにした。




 学校には歩いて3分で着いた。

 オレは校門に入って近くにいた警備員のおっちゃんに体育館まで案内してもらおうと声をかけた。


「ちょっといいか?今日入学式で来た新入生なんだが、体育館までの行き方を教えてもらいたい」


 よくゲームなんかで出てくる酒場のおっちゃんみたいな顔をした警備員がニカッと笑い反応してくれる。


「初日から遅刻とはいい度胸してやがる!案内して欲しければおっちゃんに出すもん出しな」


 とてもフランクなおっちゃんだった。


「はいよ!これだろ!」


 オレは泣く泣く、残金16円の財布から1円玉16枚を取り出し、おっちゃんに渡した。


「ヘイ!ボーイ…これはなんだ?」

「オレの全財産だけど?」

「違う!おっちゃんが出して欲しかったのは、こんな泥がついた1円玉じゃない!学生証だ!」

「なんだよ。怒鳴ることないだろ。別に泥ついてないし!」


 やっベー。マジでカツアゲされるかと思って、ビビっちまった。

 ただでさえ、初対面の人は苦手なのに。

 空っぽの財布の中に泥がついてないか確認をしてから学生証を取り出して見せる。やっぱりついてない。


「間違いなく本校の学生だな!体育館だが、そこの二手に別れてる左側を真っ直ぐ進むと5分で体育館だ」


 最後にちゃんと16円を返してもらい警備員のおっちゃんと別れた。




 歩くこと5分経過。体育館には着かない。

 歩くこと15分経過。体育館の裏に着いた。決してオレが迷子になっていた訳ではない。これはオレの予想だが、警備員のおっちゃんが右と左を言い間違えたっぽい。学校の敷地を4分の3周くらいしたと思うので、間違いないだろう。オレは心の中で、もうあの警備員のおっちゃんには関わらないことを誓った。




 ここからは体育館に入るタイミングが重要になってくる。

 体育館の様子を伺うと、ちょうど校長先生の話が終わったところだった。そして新入生が拍手し始めた瞬間。

 今だ!!!

 オレはかつて見たことない程の身のこなしをして、裏口から一番近い空いている席に座った。

 まるで、メ●ルギアのスネ●クのように。

 そして、最後にこの一言。


「待たせたな!」


 決まったー!!!

 無事、教師にはバレずに入れたようだ。


「いや全然待ってへんで!」


 オレが達成感に満ち溢れていると、聞き覚えのある関西弁が横から聞こえた。


「だまれ。死にたいのか?ここは戦場だぞ」

「朝からメタ●ギアワールド全開やのう…」

「それより聞いていいか分からないのだが、その頭どうした?モヒってるぞ」

「高校デビューってやつや!どや!似合うやろ?」


 オレに声をかけてきたのは、関西弁丸出し。赤髪のモヒカンヘア。オレよりガタイが良い体。威圧感のある目。だが、不思議と気さくな雰囲気が特徴的。同じ中学出身で親友の伊木 昇天(いき しょうてん)だった。


「それより今日はもうサボってしまうんかと思ってたで」

「それよりなのか…?本当はノアちゃんが当たらなかったから、今日はもうサボっちまおうかと思ってたよ」


 今回のレアガチャの報告をし終え、店長とのやり取りを一通り話していると、昇天は懲りひんなと言って苦笑い。




 そんな話をしている内に、気付いたら次は新入生代表の挨拶らしい。

 正直、入学試験のトップがどんな奴なのかは少し気になっていたのだが、今はチラチラ視界に入るモヒカンが気になって、それどころではない。


「新入生代表、三関詩音(さんかん しおん)」


 進行役の教師が呼ぶ。


「はい!」


 凛とした綺麗な声が体育館に響き渡る。

 彼女が壇上に上がると体育館にいる者の視線を独占した。

 非の打ち所がない顔立ち。腰まである触り心地が良さそうなロングの黒髪。大きくもなく小さくもない胸。制服のスカートと靴下の間から覗かせる白い肌。大人な雰囲気の中に年相応の可愛さを兼ね備えた今までに見たことのない美少女だったのだ。

 容姿端麗、才色兼備とは彼女のことを言うのだろう。


「理事長先生をはじめ、先生方、先輩方、いかなる時も努力をしていきますので、どうぞよろしくお願い致します。新入生代表 三関詩音」


 一瞬の挨拶だったが、体育館にいる者は彼女の綺麗な声の余韻に浸った。

 オレは彼女のことをぼーっと眺めながら時々視界に入る隣のモヒカンが気になり、ノアちゃんが引けなかったことをまだ悔いていた。

 ちなみに隣にいた、そのモヒカンヘアの昇天は顔に似合わず、目をハート型にしていた。親友ながら、だらし無い。

 その後の入学式は消化試合のように、淡々と進められた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

次の回は来週にまた投稿しますので、よろしくお願いします。

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