エピソードオブビックス
レジスタンスと帝国の戦いから2か月、亡くしたものは大きかった。ビックスは自分の情けなさ、弱さにけじめをつけようと、師匠に会いにいく。
俺は小さな村で産まれ育った。
両親はドライバーである。
ドライバーは右手もしくは左手の中央にクロスがある人のことで。
手相で言うところの神秘十字。
手のひらの中央にクロスつまり神秘十字の手相がある人のなかで超人的な力を発揮できる人のことをドライバーという。
手のひらにクロスのある人はまず少数だし、さらにドライバーに覚醒する確率も低い。
そんな俺の昔の話。
「ビックス!何してるの、早く準備しなさい。」
「うるさいな、やってるよ。」
「今日はあんたがドライバーに覚醒できたことをみんなで祝ってもらう日なんだから、ちゃんとしなさい!」
「ビックスももう15歳か、しかもドライバーに覚醒するなんてな、やっぱ俺の息子だな。」
「あなた、しょうもないこと言ってないで早く行かないとおくれます!」
「かあさん、ネクタイないよー」
「俺のネクタイ貸してやるから、今日はそれつけとけ。」
「ありがとう、とうさん。」
「行きますよ、ビックス、あなた。」
俺たち家族は村の中央にある高台の建物に向かった。
俺は先日ドライバーに覚醒できた。
ドライバーの両親から産まれた俺は覚醒する確率も高い。
ドライバーがいる村は繁栄できる言い伝えがあるため、大事にされる。
現実、ドライバーはその超人的な力からか、重宝される。
今日はそのドライバーに覚醒できた俺の披露会。
まあ、儀式的なものをやることにきまっているのだ。
建物に入った俺はまっすぐに村長のいる舞台の上の演台に向かった。
「ビックス、そなたはドライバーとして、誠実であり、他人のことを思って生きていけることを誓いますか?」
「はい、誓います。」
「皆さん、我が村に3人目の尊いドライバーが誕生しました。」
「ビックスは村の大事な仲間であり、ドライバーですが、一人の人間です。これからも今までと同じように迎えてあげてください。」
「では、ビックス、ドライブを発動してみてください。」
「はい、わかりました。」
右手に力をそっと込める。
そして頭の中でエンジンをかける。
「お~。」
「ビックス兄ちゃんかっこい~!」
「さすがビックス、俺はやると思ってた!」
みんなから賛美の声。
おれはドライブを終了させ、みんなに御礼を言った。
ドライバーになれたこともうれしかったし、まわりに認められたこともうれしかった。
「さてビックス、帰ったらさっそく修行だ!」
「そうねえ、覚醒したとはいえ、ギアチェンジもいまいちだし。」
「そ、それは今からうまくなるんだよ!」
披露会も終わり、俺たち家族も村のみんなも帰途についた。
修行の日々が始まった。
とうさん、かあさんは本当に強かった。
ドライブの使い方を一から教えてくれた。
ギアの上げかた、それぞれのギアの使い方。
さらに上のギアの話。
そしてRの話。
修行の時は雲の上の話だと思っていたし、さらに上のギアなんて俺には関係無いと思っていた。
Rなんてものも伝説で、本当にあると思ってなかったので、俺は平凡で自由にとうさんとかあさんと修行できるのがすごくうれしかった。
修行がはじまってから3年がすぎたあたりで、俺も4速までのギアが使えるようになり、とうさん、かあさんには敵わないもののそれなりにはドライブも使えるようになっていた。
その頃からか、キナ臭い噂も広まっていた。
人工ドライブ。
ドライブが使える人はそんなに多くない。
だから、尊重される。
だから、使えない人たちもドライブが使えるようにとNT社が開発していた。
これがあれば誰でもドライブが使える。
ドライバーに成りたいものはこぞってこれに期待した。
後に完成を見せる人工ドライブ。
この時は誰も副作用には関係者以外には知らされていない。
これがあの大戦争の引き金となったんだが。
と、それはさておき。
俺はこの日修行中に変なじいさんに出会う。
「ほー。若いのに熱心で結構結構」
「じいさん誰?」
「そんなことはどーでもいいから、はよ続きをせんかい。」
「あぶねーからじいさんどいてろよ」
「かまへん、かまへん、わしには気を使わんとはよ続きをしなはれや」
「ケガしてもしらねーからなー」
とドライブを発動し、一気に4速まで上げる。
「ふーむなかなかいいものもっておるなー、しかしまだまだ甘い。」
近距離でドライブを発動しているにもかかわらず平然としているこのじいさん、いったい何者?
これが俺の我が師匠でもあるスパイア爺さん、スパ爺との最初の出会いだった。
「なんだよ、じいさん、ドライバーなのか?」
「はっは、わしのことも覚えておらんのか、仕方ないの。お前さんは赤んぼだったからな。」
「よっしゃ、いっちょ手合わせしてみようかね~若者よ」
「へへ、知らねーぞ、じいさん、俺はとうさん達に鍛えられてるから、結構強いぜ!」
「おう、結構、結構。はよかかってこいよ。」
「行くぜ!」
ロウから2速へ、そしてトップまで一気にギアを上げる。
俺にとって最高速だ。ここからじいさんに一撃を仕掛ける!
ほう、一気にトップまであげおったか、でもこれではな。
スピードにしか気を配っておらん。
儂もギアを上げるとするかの。
俺はトップでじいさんに一撃を食らわせようとパンチを放つ。
しかし当たらない、早すぎる!
なんで、なんであたんねーんだよ。
ただのじいさんのくせして。
くっそーこのままじゃ終わらせねー!
なんとか一撃くらわさないと、とうさん達にも面目がたたねえ!
ほう、なかなかいいパンチやの。
しかしこの程度ではまだまだ儂には当てることはできんよ。
俺はトップギアで縦横無尽に走りまわり、じいさんの裏を取ろうと後ろを取ろうとしたり、裏をかこうとしたのだが、どれも当たらない、早すぎる。
よーくある手やのー。まぁ、ドライブ初心者はこんなもんやな。
あいつらは何を教えてたんや、ほんまに。
しゃーねー、俺に残ってるのは正面突破だけ、いちかばちか、トップギアでの最高速度で爺さんにパンチをあてる!
行くぜ!
かんがえおったな、最高速で来るか、それしか最初からないけどな。
えーよ、受けたるよ、ただ儂にあてれるかは別やけどな!
よし、来い!
「うおおー!」
「ふふふ。」
くっそーかわされる、一つ一つの動作が読まれてるみたいだ、こっちは最高速で戦ってるのにこのじいさんはまるで涼しげに俺の拳をかわしやがる、つ、つえええー。
しかたねぇ、奥の手だ、一個さらにギアを上げる!
な、何!
はやい!
一撃を当てるんだーーーー!
バシィ
その瞬間後ろに手を組みながら俺の拳をよけていた手が俺の拳を防御するためにやっと手を出した。
「まさかオーバートップまで使えるようになっておったとは、儂の見る目がなかったのか…。いやはやその年でたいしたもんや。」
「はーい、そこまでー!」
ん?か、かあさん。
「みてたの?」
「そりゃ、あんなドライブ二人とも発動してたらわかるわよ。」
「スパイア師匠、お久しぶりでございます。」
「おう、ひさしぶりやな、リファ。なかなか見どころあるよ、この坊は。」
ん?え?俺は状況把握するのに数時間かかった…。
俺とじいさんの試合をかあさんが止めたあと、じいさんたちと俺の両親は飯を食べながら話に花を咲かせていた。
どうやらこのじいさんは俺の両親の師匠らしい。
どおりで強いわけだぜ、俺の攻撃が一切あたらねーんだもんな。
しかも話を聞いていると4色のひとりだというではないか、そんなすごい人には見えないんだが…。
ただ、強いのは事実。みためで判断してはいけないと思った。
飯食って家のそとでぼーっとしてた。
俺はなんのためにドライバーになってしまったのか。
はたしてドライバーというのはナンのために覚醒するのか。
ドライバーだからなんだっていうのか。
そして
ひとりでなにしてんだ?
ああ、とうさんか。あの爺さんの相手はいいの?
師匠はかなり飲んでるからな、母さんが相手してくれてるよ。
酔っぱらいの相手は得意だからな母さんは。
そうなんだ。
母さんはなんでもできるんだねー。
そうだなー。
俺より強いしな!
え、そうなの?
ああ、怒ったら手がつけられんぐらい怖いし、強い!
それは知ってる、けど、母さんが聞いたらまた怒るよ?
はははそうだな。
ビックスどうだ?ドライブは使えそうか?
うーん、やっぱ上には上がいるんだなーと思うと今やってる修行って意味あるのかなってね。
だって俺が強くなくたって、俺より強い人がいるんだから、しんどいことする必要ないじゃん。
そうだなービックス、お前の考え方もわかる。
しかし、ドライバーになれない人もいるんだよ。
ドライバーじゃない人はドライバーよりは絶対強くなれない。
かといってドライバーじゃない人をビックス、お前はかわいそうだと思うか?
たとえドライブが使えなくても同じ人間なんだよ。
ドライブが使えるからと言って調子にのってはいけない。
俺たちはドライブという力を使えるようになってしまっただけのただの人間なんだ。
だからこそ、家族や知り合い、ほかの人の為に平等にその力を使うのが俺たちの役目だ。
その力を最大限に使おうとするためにはやっぱり修行して強くなって役に立つことが俺たちドライバーの役目だと思ってる。
師匠みたいに強い人もいる、だからこそ、そういった人を目標にしてやっていけ。
志半ばにてあきらめるヤツもたくさんいるけど、お前はそういうヤツにはなるな。
わかったか?
うんーよくわからんけど、誰かに負けるのはいやだし。
当分はとうさんたちに勝てるようにならないとな!
おー、いつになるやらな、楽しみに待ってるぜ。
数日後~
スパイア爺さんが数日、俺の修行に付き合ってくれている。
くっそーなんであたんねーんだよ!
くっくっく、おまえがおそいからや。
はよ当ててみぃ、B坊よ。
B級のB坊。
なんだよ、B坊って!!
おめぇのあだ名だよ。
B級だとー覚悟しやがれージジイ。
俺はビックスだー!頭文字はVだーー!Bじゃねえええ!!
そんなしょうもないこといってるから儂にあてられへんのや。
うるせー!んなもんこれ以上早くなんて動けるかー!
(確かにマジではえぇ。ついていけねえ。)
それはなーおまえが勝手に自分で自分の限界を決めてしまてるんよ。
それがわかるまでお前は俺にはあてれね~よ~けけけ~!!
ち、ちっくしょ~~~~~~!!!
はーーーい、そこまで。
休憩にしましょう。
おーーそーやな、そうしよう。
んだっと、かーさん、まだ修行が!
休むのも修行の一つです!。
黙って休みなさい!
ハイ…
こえええええ
リファよ、あいつは化けるかもしれんの。
やはりそうなんですね?
ああ、ドライブの技術は天才や。
ありえないスピードで進歩しておる。
あの年でオーバートップが使えるとは、ひょっとしたらシックスまでいくかもしれん。
今は儂が、あいつの速度が上がるたびに、こっちが速度を上げてなんとかごまかしとるけど、お前らを超える天才やもしれん。
私たちでもオーバートップにたどり着くのにかなりの年数がかかったのに。
ビックスは気づいたらオーバートップにたどり着いていました。
ただ…
ただ…?
あいつはB坊は優しすぎる。
今のままでは誰と戦っても自分の全力を出すことはできんやろう。
たとえ敵に対しても全力でやるということはできんと儂は思う。
この村ではドライバーはいろいろと仕事に役に立つと重宝されておるが。
やはりドライバーが戦争の道具として使われている現実もある。
この村の平和を願うのはもちろんのこと、B坊も戦争なんかにこれから関わることがないと願うが…
ただ儂はNT社の人工ドライブが気になっての。
あれはいったいなんなのか、その実験の為に村一つが亡くなったと聞く。
それが気がかりでの…
儂たち4色、いわゆるそれぞれの色の守護者と呼ばれるもの、は4色石を守るためにドライバーのなかから選ばれた。
もちろん実力も経験もトップクラスの者4人だった。
しかし先の大戦により2人の4色が亡くなってしまった。と、おまえらに言ったことがあるやろ?
はい、それは私たちがビックスが生まれる前に聞いたことがあります。
4色石を守るものは、その色の石が選ぶ。
赤の海、青の森、緑の涙、黄の大地と呼ばれる意思をもった特別な力が込められた石。
先の大戦で亡くなった4色は赤の守護者と緑の守護者。
赤の海と緑の涙を守護するものがなかなかいなかったが、最近赤の海の守護者が生まれたらしい。
それがNT社の社長。
ただ、緑の涙だけはいまだに沈黙をつづけている。
儂は黄の大地の守護者だが、黄の大地は赤の海は何を考えているのかわからないと。
それと同時に緑の涙も何をかんがえているのかわからない、と私の主石は言っている。
緑の涙は前任の守護者を溺愛していたと聞く。
よほどショックだったのだろうが、先の大戦から100年を経ついまでも沈黙は保ったままである。
しかし赤の海は守護者を見つけた。
緑はどうするのか、それが今わからん…。
さらに赤の海の守護者、何を考えているのかわからん。
人工ドライブというのもを作っておるが、それが我々以外のノーマルの人たちになんのメリットとデメリットがあるかわからんしな。
まぁ、我々ドライバーと同じ超人的な力がその人工ドライブとやらで使えるようになるんやったら、そりゃ、いい発明やよ。
しかし、我々と同じでやはりドライブを発動すると反動が起きる。超人的な力を発揮できるが、自分の力量以上のギアを上げてしまうとやはり次の日には動けなくなる、それだけドライブの消耗は激しい。
儂の考えやと、その人工ドライブにはなにかからくりがあるかもしれん。
ましてや一般の人がドライブが使えるようになれるわけやから、そら体力的な負担っていうのはすごいのかもしらんな。
儂はそろそろ行く。NT社の人工ドライブが気になるからな。
B坊には稽古つけてやれなくなるが、お前ら夫婦がつけてやれ、必ず儂より強くなるはず。
主石が言ってる、近々大きなことが起きると。数年後か、数十年後かわからんけど、言うとる。
その時には大きな力がいるかもれないと。
平和だからといってのほほんとしていてはだめってことやな!はっはっは!
そうですね~師匠のいうとおりだと思います。
修行時代から変わってないですね~l
儂は死ぬまで変わらねーよ。
お前たちも死ぬなよ!
師匠お帰りですか?
あーそうよノブ、世話になったな。
帰るっていうか、まあ旅やな。
リファと喧嘩すんなよー、ビックスも強なっとるでな。
お前負けんぞーすぐに、ケケケー。
私はまだまだ負けませんよ。
そうだな、お前の強さは儂も認めておるからな。
ノブ、リファ、お前達死ぬなよ。
わかっておりますよ。
父さんはなしてよー
待ってよー!スパ爺!
まだ一撃をスパッとあててないって~!
お前が一撃を儂にはあてれるころになれば、また相手してやる。
まずは今より強くなれ。
じゃあの。
これがスパイア師匠と初めて出会った時だった。
そして俺はこれから始まる事は想像できるはずがなかった。
スパ爺と両親との楽しい修行が今となっては辛いものになるものとは今思ってなかったんだ。