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ひとつの未来

エイプリルフールネタとして活動報告に上げていたものを持ってきただけになります。

ネタなので、本編には関係ありません。(ないはず)




「ここがアキト様の生まれた世界ですか・・・・・・」


 コンクリートジャングルとも呼ばれるここは、超高層ビルの並び立つ大都会だ。

 人口1300万人という、セルリアーナ大陸の全人口を軽く上回る大都市を前にして、ルイーゼはただ、ただ、驚きに目を見張るばかりだ。


「ガラスで出来た建築物が素敵です・・・・・・」


 ルイーゼには全面ガラス張りの建物が、そのままガラスの塔に見えるようだ。あえて否定はしない。

 俺は尽きない興味に目を瞬かせているルイーゼの手を引き、この辺りでも一番と言われるデザートを提供するテナントに並び、15分ほどかけてソフトクリームを手にする。

 それをルイーゼに手渡し、口にするように促す。

 ルイーゼは初めて見るそれを、どの様に食したら良いのかわからないようなので、俺は横から一口頂き行動で示す。

 一瞬戸惑う様子を見せたルイーゼだが、同じ様に小さな舌を覗かせて味わうと、口元に手を当てて驚く様子を見せた。


「美味しい・・・・・・」

「気に入ってもらえて良かった。この店のソフトクリームが好きだったんだ。ルイーゼにはどうしても食べてもらいたかったんだ」

「とても美味しいです。ありがとうございますアキト様」


 ルイーゼはそう言うと、再びソフトクリームを食べ始める。

 女の子がデザートを幸せそうに食べる姿は、いつ見ても俺を幸せな気分にしてくれる。それが想い人なら時さえ止まればいいのにと思ってしまう。


 そんな時だった。不意に悲鳴が上がり、辺りが騒然とする。

 悲鳴が飛び交う中、人垣を割って現れたのはサバイバルナイフを片手に持った大柄な男だった。


 魔力感知に頼りすぎていたためか、魔力のないこの世界で異変に気づくのが遅れたことは失態だ。

 結果的にその男がルイーゼを背後から羽交い締めする事を許してしまう。


「それ以上俺に近づくな!!」


 それは俺に言った言葉ではなかった。

 男の視線の先は、男に続くようにして現れた二人の警察官に向けられている。その背後には、なぜかジャーナリストにカメラマン、そしてスマートフォンを片手にした野次馬が続く。


「ここまで騒ぎが大きくなったら逃げ切るのは無理だ。これ以上罪を重ねるのは止めなさい。自分から人質を解放したと私が証言する。その子を解放しなさい」

「うるさい! うるさい! うるさい!」


 興奮する男の持つナイフがルイーゼの首もとに当てられると、野次馬が息を飲み、ジャーナリストが興奮した様子で状況を伝えた。

 俺はそんなジャーナリストにいらだちを覚えつつ、ルイーゼを救い出す隙を二度と見逃すまいと男に全神経を集中し、いざとなれば魔法を使う準備をしていた。


 この世界で魔法が使えるのは俺だけだ。普段なら悪漢の一人や二人に捕らえられるルイーゼではなかったが、魔法に頼っていたのはルイーゼも同じなのだろう。身体強化の使えない今は普通の女の子だった。


 男に捕まれた際に、ソフトクリームを落としてしまったルイーゼは、肩を小さく震わせて怯えている。

 伏せた顔は見えないが、きっと恐怖から青ざめているに違いない。


「こうなったら、みんな道連れだ!!」


 男の手が動く。

 俺は空間転移の魔法陣に魔力を流し込む。カメラが集中していようと、ルイーゼの命に代えられるものじゃない。


 その時、ルイーゼの手が動き、ナイフを持つ男の手首をとる。そして、その手首を捻る様に持ち上げると、呻く男の声を無視して、男を腰に乗せて背負い投げの要領で男を投げ落とした。

 一瞬の状況の変化、次いで襲う激痛に男は咽せてうずくまる。


 俺は空間転移をキャンセルしルイーゼのそばに駆け寄り、次の危険に備える。

 ルイーゼは地面に座り込み俯いたままだ。


 なにが起きたのか状況を理解した警察官が男を取り押さえ、ジャーナリストが大興奮で喚き立てる。釣られて野次馬からもルイーゼを賞賛するような声が挙がり辺りは再び騒然となった。


 身体強化が使えなくても戦いの中で鍛え上げた身体はルイーゼのものだった。護身用に教えていた格闘術が、思わぬところで役に立った。


「ルイーゼ、怪我はないか!?」

「はい、アキト様・・・・・・ですが・・・・・・」

「どうした!?」


 突然立ち上がったルイーゼが、警察官によって立たせられている男に向き合うと、怒りのこもった目で睨みつける。


「貴方のせいでアキト様に頂いた大切なソフトクリームが台無しです!

 返してください・・・・・・」

「・・・・・・悪かった」


 怒り、次いで切なそうに涙をためるルイーゼに見つめられた男は、深く反省した様子でうなだれる。


「今後はこの様なことがないよう気をつけてください」

「はい・・・・・・」

「わかっていただけたようで幸いです」


 今度は慈愛に満ちた微笑みを返すルイーゼを見て、男は顔を染め自分の行いを悔い、二度としないと誓う。

 気がつけば野次馬で集まった男性だけでなく、女性までルイーゼに見とれていた。


「これをどうぞ」


 デザート店のオーナーが二つのソフトクリームをルイーゼに手渡す。


「え、あの、すみません、私お金を持っていなくて」

「これは当店のデザートを心から惜しんでいただいたお礼です。是非受け取ってください」

「ありがとうございます」


 ルイーゼが受け取ったソフトクリームを両手に、駆け寄ってくる。

 そして一口味見をし「とても美味しいです」といって、今口にしたそれを差し出してくる。

 どうやらそれがマナーと覚えてしまったらしい。

 俺は勢いそれを受け取ったは良いが、周りからの刺さるような視線を一日中感じる羽目になった。


 だが、美味しそうに食べるルイーゼを見て、それくらいは受け入れる価値があると考えることにした。


 余談だが、お気に入りのデザート店はこの後凄く売り上げを伸ばしたという。

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