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姫殿下の事情

次作までの間の出来事を補完します。

 王城の回廊を、心地よい足音を響かせながら私は応接の間に向かいます。

 後には筆頭侍女のテドラと、同じく侍女のリリス。


 リリスはこの半年で可愛い少女から可憐な女性へと変わっています。

 その髪には思いを留めるように何時も同じ髪飾りがあしらわれていました。

 恐らく二度と会うことが叶わない少年から届けられたその髪飾りは、まるでリリスが大人に生まれ変わるのを知っていたかのように、シンプルでいて高貴な雰囲気を持つ左右一対の髪飾りでした。

 恐らくミスリル鉱をベースとして作られたそれは、青水晶のような透明感のある輝きを持ち、控えめに用いられた銀の装飾が引き立てる深い青が印象的な髪飾りです。


 どうやらアキトはここに至って誤魔化す気は無くなったようで、髪飾りにはアキトのもつ剣と同じ素材が使われていました。

 ミスリル鉱と言うだけなら高価なだけですが、それが魔力で変異した物となると話は変わってきます。

 さらに変異しただけでなく、魔力に満ちているとなれば上級品になるでしょう。

 アキトはその価値をわかっているのでしょうか。


 しかも変わった魔法陣の刻印されたそれは、なんでも虫除けの効果があるとか。

 もう少し洒落た物をと思わなくもありませんが、実用的というなら私達女性にとってはこれ以上は無いかもしれません。

 それに、その虫はもしかしたら殿方を指す可能性もありますし、そういう意味では気持ちだけ惹いておきながら姿を見せることの無いアキトに苛立ちを覚えもします。


 でも、それは私達王族の招いた不備によるもので、アキトに不満をぶつけるのは筋違いでしょう。

 それはわかってはいるつもりですが、私にも何かあっても良かったのでは無いでしょうか。


 代わりに私の元に届けられたのは剣でした。

 女性に剣を贈るその発想はどういった物でしょうか。

 そしてその見覚えのある剣は、私がアキトに下賜した物でした。

 ただ、見た目は随分と変わっていますが。

 その剣を届けてくれたヴァルディス卿は星月剣(ガラティーン)と呼んでいました。

 確かミスリルの別称が星月――だったでしょうか。

 ガラティーンとは決して刃毀れのしない剣という意味らしいですが、聞いたことのない言葉です。


 この剣はアキトの怒りを表しているのでしょうね。

 その怒りを沈める方法を私は一つしか知りません。

 私は迷わずにその一つを取ります。

 だってアキトに怒られ続けるとか嫌ですから。


 応接の間には一人の青年騎士が居ました。

 私の入室を立って待つ青年騎士は、嫌みの無い爽やかさで優しく微笑みます。

 私の侍女の中で、リリスを除けば殆どの子が彼の噂で止みません。

 テドラでさえ少し動きによそよそしさが出ますね。

 ウィンドベル公爵家のマリアとの噂が流れていますが、それが本当かどうか聞いてみたい物です。

 もし本当なら大躍進と言うべきでしょうね。


「ヴァルディス卿、お忙しい中ご足労ありがとうございます」

「もったいないお言葉、恐縮にございます」


 私はテーブルを挟んだソファーを抜け、奥のソファーに座る。

 ヴァルディス卿に向かって右側のソファーを進め、着席を促す。

 次いで紅茶が配られ、一息ついたところで本題に入ります。


「騎士団でのご活躍は私の耳にも聞こえてくるほどです。

 次は南のオーク族と戦われるとか」

「はい。今回の魔人族による総決起は失敗に終わりましたが、報復は必要です」


 オーガ族、サハギン族、オーク族。

 三種族による同時首都攻撃計画は王国騎士団と王国軍団による活躍で大事に至る前に収めることが出来ました。

 私もその作戦の一部であろう奸計に掛かり、ヴァルディス卿に助けられています。


 裏で暗躍していた上位魔人は不死竜エヴァ・ルータに討たれたという話ですが、上位魔人がなぜそのようなことをしたのかについてはわかっていません。

 ただ、色々な政治的状況からみて推測することは出来ます。

 ザインバッハ帝国の南部に独立の気運が高まり隣国――つまり我が国と同盟を結ぶといった話が流れていた為、それを阻止するのが目的である可能性が高いと読んでいます。


 上位魔人とのやり取りの中でどのような約束事が取り交わされたのかわかりませんが、上位魔人が必要としていた物をザインバッハ帝国が持っていたと考えるのが自然です。

 おそらくそれは魂喰らい(ソウル・イーター)と呼ばれる神話級の武器だと言うところまでは暗部が突き止めています。

 ただ、今現在その武器がどこにあるかはわかっていません。

 戦いの中で紛失したのであればそれが一番なのですが。


 まぁ、それは置いておきまして――


「わたし、アキトに怒られてしまいました」

「……恐れながら申し上げます。

 アキトは姫殿下に対して怒りの心情は持ちあわせておりませんでした。

 しいて言うならば意地悪でしょうか」

「意地悪ですか。

 はぁ……まったく。これでも私は王女なのですけれどね」


 リリスと仲睦まじい様子を見せられて、ちょっとは嫉妬も感じ意地悪もしましたが、もう少し私を大切に扱ってくれてもいいと思うのですが。

 でも、アキトの意地悪だというなら、私もその気持ちを切替ましょう。


 私はテドラに目配せをする。

 それに応じてテドラが幅一メートルほどの木箱をヴァルディス卿の前に置きます。


「私、アキトの意地悪には耐えられません。

 ですからこれはヴァルディス卿が収めてください」


 テドラが木箱の蓋を取り除く。

 そこには白いビロードの上に横たえられた一本の剣があった。

 青水晶の如き輝きを持つその剣は星月剣ガラティーン。

 かつて私がアキトに下賜し、アキトの手によって魔剣へと生まれ変わった剣です。

 アキトを失うということは、その脅威の技術を失う事にもなりました。


「私には身に余るものでございます」

「ヴァルディス卿、あなたがまだ未熟であることは聞いております。

 ですが一方で、剣術と魔法を併せ持つ新しい技術を高いレベルで使いこなせる唯一の国民(・・・・・)でもあります。

 その力をこの国の為、ひいては国民の為に使ってください。

 その為にこの剣は必要でしょう」


 実際のところ、この剣は扱いが難しいと聞いていました。

 それならば誰知らぬ者に下賜するより、アキトの側で見続け、実際に使ったことのあるヴァルディス卿が一番の適任でしょう。


「……わかりました。

 ありがたく頂戴いたします」


 これであの剣を抱えて悶々と過ごす必要がなくなりますね。

 ほんと、ほっとするわ。


「ヴァルディス卿。

 追って聖騎士の称号が降りるでしょう。

 王宮からの呼び出しを待ちなさい」


 一瞬だけ身を強張らせるように驚きが見て取れました。

 いつも澄ました様子を見せる彼も、これには意表を突かれたようです。


 聖騎士の称号に権力はありません。

 けれども権威はあります。

 この称号は過去三〇年間与えられた者は居ませんでした。

 条件がかなり厳しいのです。

 まだ剣術も魔術も研究され尽くしていない頃ならともかく、一通り出尽くした今となっては次代を担う若手の出る幕がありませんでした。


 ですが、研究さえほとんどされなくなった無属性魔法を取り入れ、戦力の強化を図る戦い方は新しい物です。

 かつて研究されていた実戦では使えないような物ではなく、実戦で効果のあるという点が評価されたと言って良いでしょう。


 本来の立役者がヴァルディス卿でないことはわかっています。

 ですが、国家反逆罪の声まで上がったアキトの名前を出すことは出来ません。

 それに出したとしても平民であるアキトに聖騎士の称号は与えられないでしょう。


「アキトの代わりに受けてください」


 その一言でヴァルディス卿は表情を正す。

 これを受けてヴァルディス卿は騎士の模範となり、その姿に憧れる新たな若者たちの力を引き上げることとなるでしょう。

 政治の為に人を利用する。

 そんな自分に少し落ち込みもしますが、だれか私を癒やしてくれないのでしょうか。


 おそらく私はザインバッハ帝国に嫁ぐことになるでしょう。

 今回の色々なゴタゴタを収めるために、国としてはそれが一番ベストだからです。

 恋愛結婚などはじめから望むべくものでもありませんが、恋くらいはしてみたいものでした。

 リリスを見ていると一方通行の思いさえ良い物に見えてきます。


 気分は憂鬱ですが、リリスに送られたチョコレートを摘ませてもらい、心を落ち着けるとしましょう。


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