罰人
理不尽な世界……
だけど、何より愛しい世界
見えないがそれは確かに感じる。
月の灯り 木々の色 花の彩 そして……命の灯火も
ビュオーッー!
突如、風が吹きバサッと羽織っていたローブが捲れ上がり
足元にあった枯れ落ちた木の葉を遥か天へと連れていく。
足を前へと動かした。
……最後の大事なものを守るために
自身の今までの行いの正しさを証明するために
何より、あの人との約束を守るために
立ち止まった足を動かして前に進む。
森の木々はそんな彼を静かにただ静かに見つめていた。
………………
…………
……
ー同時刻ー
「あいつか!?」
「ええ、やつで間違いありません。白仮面を確認しました。」
黒装束の二人組が約100メートル先、森の中を移動している人物を捕捉した。
「一ヶ月だっけか?命令を受けてから」
「正確には一ヶ月と二日です。」
「微細なことなんてどうでもいいんだよ。
相変わらず頭が固ぇなメリル。
そんなことよりもさっさと終わらせて飲みにいこうや。」
片方の三十歳半ばぐらいの金髪の男は唇を舐める。
「聞いたのはそっちじゃないですか。
それにそういうのは、依頼が成功してからにしてください。
シーヤ先輩」
そう言うともう片方の二十代前半ほどのメリルと呼ばれた女は頭に手をあてながらため息をはく。
空気を一瞬にして塗り替える。
「それじゃあ、いくぞ……」
「えぇ、手筈通りに」
二人組は別々に別れる。
女の方は捕捉した人物の前に回り込むように、男の方はそのまままっすぐと
…………
……
メリルは予定通り回り込み目標の前へと出た。
「どうも、こんばんは。こんなに綺麗な月夜の晩にお会いすることができて光栄です。」
メリルは目標の人物に向かい丁寧にお辞儀をする。
目標が黙って立ち止まる。
「…………」
「俺も会いたかったぜ……罰人さん。」
罰人と呼ばれた人物の後ろの木の上からシーヤが現れる。
罰人と呼ばれた人物はごわごわしたローブを羽織っており顔の部分に吸い込まれそうな白の仮面をつけていた。
「…………」
「かっ、無視かよ。
まぁいいぜ。どうせ、今からしゃべりたくてもしゃべれないようになるんだからな……」
そういうとシーヤは懐から何の装飾のされていない黒い短剣を取り出す。
短剣はシーヤの体から発せられた赤い霧を吸い込むと数秒で二メートル近い鋸へと変貌を遂げた。
メリルの方も同様にして短剣を取り出して青い霧のようなものを発する。
すると大きさは変わらないが吸い込んだ短剣はクナイのような形へと変貌を遂げた。
二つの武器からは吸い込んだのと同じ色の霧が絶えず出続ける。
「いくぜっ!!おらぁっ」
シーヤは白い仮面の人に向けて巨大な鋸には似合わない速度で振り回す。
しかし、それでも避けられてしまう。
「ちっ」
「千華流 参ノ型 彼岸花」
呪唱を唱えると
メリルは持っていたクナイを土に深くさす。すると、白い仮面の人の足元から硝子でできたような半透明な華が何百本と現れ飲み込もうとする。
華たちはぶつかり合ってカシャンという音を何十も何百も響かせ合う
だが、それも白い仮面の人は硝子の茎や華を割れないように軽く蹴り飛び上がり宙を一回転して飲み込まれる前に脱出する。
「ちっ」
「想定内です!!先輩。」
「あいよっ!!」
そういうとシーヤは素早く戦線離脱する。
「千華流 壱ノ型 赤蓮華!! 」
先程までの硝子の華がすさまじい勢いで収縮し音をたてて弾ける。
シャラーンッッ!! 錫杖の鈴ような綺麗な音色が響き渡る。
収縮の中心で花が咲く。
華の結晶は崩れ霧となり霧散し再び収縮し結晶となりそれを繰り返して幻想的な世界を産み出す。
そして花びらが一枚一枚外れていき花びらの嵐が周りの空気を吸い込みながら吹き荒れる。
さすがにこれを避けることは叶わず白い仮面の人は吸い込まれる。
「はぁはぁ」
大技を2つ決めてメリルは魔力切れの症状が出てひざまづいて俯いていてしまう。
「相変わらずすげぇな、しかし、こんな技隠してたんだな
俺も知らなかったぜ」
戦線離脱したシーヤがやってくる。
「奥の手ってやつです。ハァ、ハァそん、なことよりも、や、やつは?」
「あぁ、あの中だ間違いなく仕留めただろうで」
「よかっ……」
それを聞いて安心して、顔を上げて戦慄する
「…ぁぃます」
「あ、なんだって?」
華の嵐を感心しながら見ていたシーヤはメリルの方を向く。
「違います……」
メリルは震えていた。
「は?」
「千華流の赤蓮華は、赤いんです……」
「どういうことだ?分かるように説明しろ」
「赤蓮華は、風魔法と光魔法の併せ技
魔力で作り出した華を光魔法で圧縮し風魔法で、拡散し相手を
切り刻み仕留めるんです」
「だから何が違うんだ?」
「だから、赤くないとおかしいんですよ」
そこでシーヤも気づいた。
そして、バッと再び華嵐の方を向く。
「赤蓮華は、切り刻んだ相手の血で赤く見えることからついた名前なんです。」
そういい終えるとそれに合わせたかのように嵐がやむ。
砕け散った結晶の雨が降る。
その中心には無傷の目標がたっていた。
そして目標は駆ける
「ちっ、マジかよ」
手に持っていた鋸を振りかざそうとしたとき白い仮面の人はぶれた。
鋸を振りかざす前に側転のような動きをしながら足が上に来る前に腕をねじり込め一気に伸ばしシーヤの顎に蹴りを吸い込ませる。
一瞬のことだった。
その光景に一瞬呆けてしまったメリルは、急いで現実に戻り魔力切れの症状で悲鳴を上げる体に鞭を打ち走る。
(まずいまずいまずい)
戦況は一瞬にしてひっくり返ってしまった。
自分達は油断は決してしていなかった。むしろ調子はいつもよりもいい感じだった。
しかし、通じなかった。
悔しさと畏れで唇を噛み締める。
「「こんなはずじゃなかった!!」」
自分と自分の声がした。
立ち止まって振り返ってしまった。
そこにあった景色は白吸い込まれるような白。
「クスクス」
と自分の笑い声がする。
そして、背後にゆっくりと手を回される。
体は受け付けることしか許されない
人差し指と親指をたてた状態で
「バン」
撃ち抜く。
武器を持つこともなく、何の仕掛けもないただの人指し指の指先
そして、何てこともないただの言葉……の筈だった。
ドクンッドクン
その合図と共に呼吸の仕方を忘れる。
いや、出来なくなった。
辺りから音は消えて自分の心臓の鼓動しか聞こえなくなる。
「かひゅかひゅっなっんでぇっ」
首を押さえる落ち着き息を吸おうとするが
それは、許されない
「かひゅったすっけてっ!!」
最後の力を振り絞りローブに必死にすがり付く
「こんな、ものですか……」
目標は自分の声で……メリルの声で話しかける。
白の仮面の人は興味を失ったかのようにメリルのお腹に足をねじ込んだ。
「かはっ!!」
それと同時に呼吸ができるようになる。
唾液を滴ながらむせる。
「かはっかはっ、はぁはぁはぁ……なんでたす、けたの?……」
疑問にもちメリルはいつもの畏まった言い方ではなくて素の口調になっており、顔を息切れのためか赤くさせていた。
しかし答えは返ってこない。
白い仮面をつけた人物は森の中へと消えていった。
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この国エルノートには七人の罰人と呼ばれた犯罪者たちがいた。
その者たちはどこからともなく現れ、協会と貴族の一部を襲った。
事件が初めに起こったのは二十年前
大司教の一人が自宅で何者かによって殺された。
それは都市の大ニュースとなり都市を混乱させた。
協会が騎士に依頼をして捜査を進めるもののなんの手がかりも見つからなかった。
そして、大司教の殺された一週間後にまた別の大司教が巡礼中に殺された。
瀕死の重傷を受けながらも一人だけなんとか生き残った護衛は最後の力を振り絞り応援に来た仲間に「白の悪魔」とつげて亡くなった。
犯行現場は血の海で大司教は、手足をもがれ眼球をくりぬかれ磔にされていた。
その日から白の悪魔の噂が王都中に広まった。
それからも犯行は続き教国司教一名、大司教四名、司教八名
貴族は五十名が……そして最後には敬愛すべき教皇までが殺された。
今までの情報から実行犯は七名
リーダーは穴のついていない白い仮面をつけた[白の悪魔]と呼ばれた人物。
その他の仲間も覆面や包帯等つけており顔は分からず、全員ご丁寧にローブも羽織っていたので性別も不明であった。
この事態に教国司教は勇者を召還した。
名はサクラ・アマノ
長く艶やかな黒髪に碧眼の美しい女性だった。
勇者は七人の罰人たちどんどんを葬っていき、白い悪魔との最終決戦で相討ちとなり両者とも死亡となった。
協会は三年もの歳月をかけた七人の罰人たちとの戦いおよび七名の死亡と勇者の死亡を十六年前に公表した。
この公表に人々は勇者の死に嘆き悲しんだ。
そして、人々は王都ネルカの総本山の大聖堂に優しくて美しかった勇者の冥福を祈り[祈る勇者の像]をたてた。
それから白い悪魔と黒の勇者の物語は吟遊詩人たちや商人たちなど様々な人々によって広められ伝えられエルノート中の人々の今も伝説となっている。
Is it true?
………………
……………
……
とある森のなかの泉に浮かんだ十七歳くらいの少年は瞼を開いた。
「どこだここ?」
物語は動き出す。
To be continue
[協会]
創造神タクトに遣える者たちによって作られた独立機関。
民の声を聞き、神託を告げる、値が張るがお金を払えば、回復魔法をかけたり呪いを解いてくれたりもする。その他にもボランティアなど様々な活動を幅広く行っている