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凍った湖

 今日はちょっと、外に出てみることにしました。いくら仕事とはいえ冬は長く、閉じ籠ってばかりいては退屈です。たまには外で遊びたくなる日もあります。

 日差しが暖かいその日、ウィンテルは町娘の格好をして、スケート靴を携えて、湖へと出掛けます。ここのところずっと水が凍るほどの寒さにしていたので、湖はすっかり巨大な氷で蓋をされてしまっています。今日はここでスケートを楽しむつもりです。

「湖の中心には行かないようにね」

 誰かが怪我をしたときのための監視役でしょうか。町娘姿のウィンテルは声を掛けられました。その人は、お役所の紋章のバッジを胸に着けていました。

「他の場所に比べると氷が薄いから」

 湖には、たくさんの人が居ました。恋人、家族、友人……大人子ども関係なく、みんなスケートを楽しんでいるようです。スケートは、寒く、雪に閉ざされた冬の中の数少ない楽しみの一つですから。

 ウィンテルは早速スケート靴に履き替えて、氷の上へと乗り出しました。軽く足で叩いてみると硬い手ごたえが返ってきて、氷がだいぶ厚く張られていることが分かります。

 スケートのコツは、歩くように足を動かしたりしないこと。そうすると前に進めないばかりか、場合によっては転んでしまいます。正しくは、足をハの字に開き、片方の足に体重を掛けて、もう片方の足で押し出すように滑ります。それを交互に繰り返して右に左にと動きながら前に進みます。

「氷の上を滑るなんて、何が楽しいんだろう」

 鳶の姿になってちゃっかりついてきたビノは言います。

「人間の姿になれば、教えてあげるわよ?」

「いやだね。面倒臭い」

 人間になるのが嫌なのか、新しいことを覚えるのが嫌なのか、ウィンテルにはどっちなのかわかりませんでした。どちらにしても、結局ビノは空高くを飛んで行ってしまいます。

「……薄情者」

 どうせなら友達と一緒にスケートを楽しみたかったウィンテルでした。

 仕方がないので、一人でスケートを楽しみます。遊んでいるうちに、岸から湖の真ん中へ。だんだん氷が薄くなっていることに気が付きました。覗き込むだけで湖の中の様子が分かるほど薄い場所もありました。凍らせ方が悪かったのでしょうか? それとも日の光で溶けてしまったのでしょうか? どちらにしろ危なくて仕方ありません。ウィンテルはそっと離れます。遊びに来た人たちは中心に行かないように予め注意を受けているはずですから、誰も来たりはしないだろう、だから誰も湖に落ちることはないだろう、と思っていたのですが。

 ウィンテルは失念していました。人間――特に子供は、ときに忠告を受け入れない生き物であると。

 岸へ戻ろうとするウィンテルの横を、すごい勢いで子供たちが通り過ぎていきます。大人が居なくても外で遊ぶことがようやく許された年頃。追いかけっこをしているようで、そのスピードに加減はありません。たぶん、人がたくさん居たらここまで飛ばせないから、この湖の中心に来たのでしょうけれど。

 危ないからやめなさい、と言う間もありませんでした。一瞬とはいえ人が通ったことで重みが掛かり、脆くなっていったのでしょう。ヒビを増やしたその場所は列の最後尾にいた男の子が上に来た時に崩れ落ちてしまいました。

 冷たい水の中へ落ちる男の子。男の子はなんとか氷に捕まろうとしますが、スケート靴が重いうえに服が水を吸ってしまったため、浮くのも難しい状況でした。

 はしゃいでいて水の音に気が付かなかったのか、男の子の友達はみんな気付きません。

 忠告をきちんと聞いていた大人たちはここに居ないため、やっぱり誰も気づきません。

 ウィンテルは慌てて湖に落ちた男の子に駆け寄りました。氷の端から手を差し伸べますが、浮くのに必死な男の子は手を掴むこともできません。

 どうしよう。ウィンテルは悩みます。このままでは、魔法を使うほかありません。魔女であることを知られたくないため少し躊躇いましたが、そんなことも言ってはいられないようです。

 ウィンテルはパチリ、と指を鳴らしました。男の子の身体が浮き上がりはじめます。水の中から引き上げられ、風船のように宙に浮いた男の子。それをそっと動かして、充分に厚い氷の上へと下ろしてあげました。

 ぺたんと座り込んだ男の子は、何が起こったのかわかっていないようで、呆然とウィンテルの顔を見上げています。その子の身体中から水が滴っていることに気が付いて、これまた魔法を使って服と髪を乾かしてあげました。

「さあ、もう大丈夫よ」

 ウィンテルは男の子の手を引っ張り上げて立ち上げます。普段とは違う、スケート靴の感覚に戸惑ったようでしたが、すぐにしっかりと立ち上がりました。

「お姉さんは何者?」

 ウィンテルの魔法の力に驚いたのか、男の子はお礼を言うのも忘れて尋ねました。

「私は魔女。冬の魔女。今日は湖を見に来たのよ」

 いまさら魔法を隠し切れないウィンテルは開き直ります。

「今のこと、他の誰にも言っては駄目よ? さもないと、お前を凍らせに行くからね」

 おとぎ話の魔女のようなことも、たまには言ってしまうウィンテルなのでした。


 それから男の子がどうしたのか。それは町に出たウィンテルが何事もなく帰ってくることでわかるでしょう。

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