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第94話 また食べられないのね

目の前には女神のような微笑みでしなやかに立っている天使がいます(天使の部分を天女に変えてもオーケーです)。

そして天使を目の当たりにして固まっている女性が一人。


「秋月さんだよね?久しぶり!」


天使(天女)が軽やかなステップを踏んで女性…萌の元へと駆け寄って行く。あぁもう天女の背中に羽根が見えるよ。

にしても、何で天女(早希ちゃん)がウチの学校にいるんでしょうか?もしかして白馬に乗った太郎王子を迎えに来たとか…誰が太郎王子だ!自分で言って恥ずかしい!


固まって動かない萌に早希ちゃんは満面の笑顔であれやこれやと話しかける。

って萌、早希ちゃんのこと覚えてるよね?なんで微妙な顔つきになってんの?

と、早希ちゃんの目線が泳いだと思ったら彼女をガン見していた俺と目が合った。


「あっ一条君!」


「や、やっほぉ」


マズい、萌がいる前で「昨日は一緒にハンバーガー食べられなくて、私寂しかったんだよ?だ・か・ら、今日は絶対一緒に行くんだからね!?」なんて言われたら萌にどう誤魔化せばいいかわからん!ってか早希ちゃんはそういう言い方しないけど!あかねにバレたら承知しないって釘刺されたのに、ケータイと俺が壊される!


「あ、あの、三井?何でココに?」


何か言われる前に言ってやれ、早希ちゃんが口を開く前に話題を逸らそうと質問を投げた。


「あっうん、昨日は一緒にハンバーガー食べに行けなかったから、今日は大丈夫かなって思って来てみたの」


………良かれと思って言ったのに自分で墓穴掘っちゃったぁぁぁ!

顔から血の気が引いていくのと同時に冷や汗が全身を駆け回る。うわ、萌さん俺をガン見していらっしゃる?気配が怖い、殺気がする!


「ハンバーガー食べに行くんだ。…あぁ、だから金貸せって?」


怖い怖い怖いぃ!もはや人間の目をしてない!野獣の目だよ!しかも貸せなんて言ってないよ、お借り願いますって言ったでしょ!


「ち、違います!これはクリーニング代として借りたんです!」


「あっ学生服取りに行くの?」


可愛らしい声だけどちょっと黙っててぇ!

悪気はないんだろうね、早希ちゃんは笑顔だし。何故か萌まで笑顔だけど。いや違う、萌のは笑顔は笑顔でも憎しみが背後にへばりついている!違うって!マジでクリーニング代として樋口さんを借りたんだって!


この場にあかねがいないことを神様に感謝しながらも萌の鋭い視線を全身に浴びつつ、クリーニング代!クリーニング代だよ!と連呼する。


そりゃあ怒るよねぇ。萌は騙されたと思い込んでるよなぁ。しかもいくら言っても僕の言葉なんて信じてくれる確率ゼロだし。誰か、誰か助けて!


一郎以外なら誰でもオーケーと1人天に祈りを捧げていると、救世主…とは言い難い人物が声を掛けてきた。


「萌〜!ナンパされに行こ〜!」


状況を見て言葉を選べよ高瀬ぇ!彼女を救世主とは到底呼べないね。やっぱり俺にとっての救世主はあかね以外考えられないよ。むしろ高瀬が来たお陰で事態は悪くなりそうです。


茶髪の女王は男子生徒達の熱視線に気づいているのかいないのかパタパタと走って来たと思ったら、ヒマでしょ〜?と萌の腕をがっしりと掴んだ。


高瀬、あなたが羨ましい。この重苦しい雰囲気をブチ壊せるのはあなた以外にいない。…やっぱりあなたはもう一人の救世主だった?


「え?な、ナンパ?」


また?というか、もうこりごりなんですがと言いたげに萌が困り顔を披露する。が、そんなことで諦める高瀬ではない。


「うん、行こうよ〜!行ってもいいよね、一条?」


なんでそこで俺に確認を取る?…そうか、キミも僕と萌が付き合っていると勘違いしている子だったね。

いいよ〜なんつったら萌がどう出るか想像出来ない俺は曖昧にうぅ〜んと悩んで…いるように見せる。


「あれ?萌の友達?」


行こう行こうと萌の腕を掴んでブンブン振り回していた高瀬が早希ちゃんにやっと気がつき、目を輝かせてそう聞いてきた。ほんっとにこの子は次から次と話題豊富だわぁ。


「あっ初めまして。私、秋月さん達と同じ中学に通ってた三井 早希といいます」


うふぉぉ、早希ちゃんその笑顔は反則だよ…男子共の熱視線が高瀬から早希ちゃんに移行したのが見てとれる!

ってもしかして、俺って今ハーレム状態ですか?……フハハハハ!頭が高いわ男子共ぉ!この子達とお近づきになりたくば俺を通せぇ!でも俺を通したからと言ってお前達には何のメリットもない!


「そうなんだ?初めまして、高瀬 恭子って言います…あっそうだ、あなたも一緒に…」

「高瀬ぇ!」


何か閃いた顔したと思ったら、早希ちゃんを悪の道に引きずり込まないで!


「え、なに?」


「なに?じゃないって!ナンパならお一人様でお願い!」


「え〜別にいいじゃん。え、それとも何?これから3人仲良くどっか行くとか?」


お願いだから場をこれ以上を荒らさないでぇ!あっ何だよそのニヤケ面は。修羅場でしょ、みたいな顔しないで!って修羅場にさせてるのはあなただよ!面白いか、俺がイッパイイッパイになってるのが楽しいですか?!


「これからハンバーガー食べに行くんだって」


ぶっきらぼうにそう答えた萌はチラリと俺を見た。おや、何かヤケに冷めた目線だな。

しかしそんな萌とは反対に、ハンバーガーと聞いて目を踊らせた高瀬を俺は見逃さなかった。絶対に何か企んでやがる目だな。次に何を言われるか怖い。


「ハンバーガーかぁ。そういえば食べてないなぁ…私も行っていい?」


あ、アホぉぉ!それでなくてもヤバい状況であなたって人は!

じゃあナンパはまた今度だね!と萌にウインクを見せた高瀬はまたもニヤついた顔で俺を見てきた。


「ダメだよ恭子。太郎は早希と2人で行きたいんだから」


「へ…」


やはりあなたは読心術を会得していらっしゃいますね?ってか、あなた早希ちゃんのこと呼び捨てにしてたっけ?早希ちゃんは『秋月さん』なのに。あらあら見なよ、早希ちゃんちょっと後ずさってるよ。


「あのっ私は別に2人で行きたいなんて思ってないよ?秋月さんも高瀬さんも一緒に行かない?いいよね、一条君?」


「は、ハフン」


後ずさったと思っていた早希ちゃんが秋月さん…じゃなかった、萌と高瀬さんをハンバーガーへ誘った。

え、高瀬さん?何で俺をガン見してんだよ。シメシメみたいな顔するな!


「行く行く!中学の時の萌ってどんなだったか聞きたいし!ねっ一条?」


知ってるからいい!なんて言えない。

でも中学時代の萌って言ったって、今と何ら変わりないわよ。俺と一郎への厳しさが今の半分だったくらいで。


行く気満々の高瀬は「早希って言うんだ?ってかカワイー!モテるでしょ?」ともはや早希ちゃんを呼び捨てにして友達面し始めた。それを恨めしく見る俺。

くそっ、俺だってまだ呼び捨てで呼んでないのに。


あぁいいなぁ、俺も女性だったら気兼ねなく『早希ぃ!』って呼べるのに。男なんかに生まれて俺は不幸者だ!


悔しい気持ちで一杯な俺は高瀬の思い通りにさせるか!というあまりにも自分勝手な理由から断ることにした。

それに早希ちゃんとツーショット(古い)で行くならまだしも、高瀬に萌までついて来られたら何が起こるか分かったモンじゃない。

まぁ三人ともべっぴんさんだから注目のマトになって俺は優越感に浸れるけど…萌がいるしなぁ。


「あ、あの…ワタクシはクリーニング屋さんに行くという使命がありましてぇ、だから…」

「じゃあお店で待ってるから終わったら来なよ」


たぁかぁせぇぇ!お前って子は引くという事を知らないのか?!

って、ちょっなんで早希ちゃんと腕組んでんの?もう仲良しこよしなの?


「ちゃんと待ってるから安心して。だって支払いしてくれる人がいないと帰れないでしょ?」


俺が払うんかい!

クリーニング代すら払えなくて借りたってのに、ハンバーガー代なんてあるわけないでしょうよ!

無言でムリムリムリ!と首をブンブン振り回している俺に気がついたか、萌は溜め息混じりにこう告げた。


「恭子、太郎はお金持ってないから言うだけムダだよ」


さすが萌さんわかっていらっしゃる!でも早希ちゃんの前であまりにもな発言です。

そりゃあお金は持ってないけど、優しい気持ちなら余るほどあるよ?…何の自慢にもならない。それこそ負け惜しみに聞こえるからこれは言わないでおきましょう。


「じゃあ女3人、楽しく行きましょうか!」


俺に羨ましい目線を送られながらも残念だねっと早希ちゃんに笑顔を見せる高瀬はニヤニヤが収まらない。このっすべて計算通り、みたいな顔するな!


「ほらっ萌も行くよ!」


「え、あっちょっと!」


「早希も!」


「え?え?…あっ、じ、じゃあ一条君またメールするね!」


「お、おあぁ…」


アハハハハと一人で笑いながら、高瀬は両手に花状態で萌と早希ちゃんを連れてハンバーガー屋へと歩き始めた。

萌はチラリと俺を見て(来るなら来い)みたいな顔を見せ、早希ちゃんは(ゴメンね!)という少し戸惑っている表情で連れられて行った。あぁ、困った顔まで可愛い。早希ちゃんてホントに人間?まさに天使だよ。


…って俺一人かよ。いや、別に一人でもいいんだけどさぁ。せっかく早希ちゃんがわざわざ(俺の為に)ウチの学校に来てくれたってのに、何で連れて行っちゃうのよ。




ダメだ、溜め息が止まらない。1分間に最低でも2、3回は溜め息漏らしてる。


校門を一人寂しく出た俺はクリーニング屋を目指して歩き始める。

あっ、そういえばハンバーガー屋ってクリーニング屋から目と鼻の先じゃなかった?あぁチクショウ!それならそこまで一緒に行きゃ良かった!


「ちょっと」


「はぁ〜…」


「…ちょっと!」


誰だ?悪いけど今は誰とも会話したくないんだよ。だからシカトしてしまう俺を許してほしい。


………ってあれ、今の声は。


「いでっ!誰だ……ヒィッ!」


モミジが出来るんじゃないの?と思うほどの勢いで背中を叩かれた。そして振り返ってしまった自分を本気で呪った。


振り返った先にいたのは、紹介するまでもなくあかねでした。スポーツバッグ片手に彼女はどこか見つめながらユラユラと近づいて来る。


「早希が来てなかった?」


「お、は、はい…ってあれ、部活は?」


「庭田先生が今日いないから休みになったんだよ」


「あっそうなの?」


マドンナである庭田先生がいないとなると部活どころじゃないね。みんなヤル気が出ないだろ。


それは仕方ないねぇと俺にウンウン頷くスキをあかねは与えてくれなかった。スポーツバッグを背中に背負った彼女は、萌達が去って行った方向を食い入るように見つめたと思ったら突然か弱い僕の腕を掴んだ。

恋人のように腕を組んでくるなら泣いて喜ぶけど、ちょっと手首捻ってきてる!力任せじゃないトコがすごい!全然ほどけない!


「だだだだっ!ちょっと何で!?」


部活がなかったからって俺を練習台にしないでくれる?ってこっち見てないし!攻撃してる相手を見ないで誰を見てんだよ!


「ギブギブ!あかねギブ!」


「え?あっゴメン」


フワッと柔らかい表情に戻ったあかねは、涙目で手首の運動をする俺にゴメンゴメンと両手を合わせる。

くそっ美人な顔なのに可愛げな表情されたら怒れないじゃんか!


「何で恭子と萌が早希と帰ってんの?」


「意気投合したみたい…高瀬だけが」


「は?」


意味不明だよね。俺だって理解不能だよ。

でも高瀬って誰とでも仲良くなれる才能があるんだろうね。だからそこらの男共(一郎含む)が勘違いを起こして彼女に惚れてしまうんだ。そして悪気はあるんだかないんだか、キャロットパンを奢らせる。


「萌と早希がねぇ…ってあんた!萌にバレてないでしょうね!」


突如にして青白い顔に変わったあかねがヤレヤレ顔でいた俺に詰め寄ってくる。

うぉ、その困り果てた表情もちょっとそそられるよ。あぁもうこれ以上俺を混乱させないで!マジで空手の有段者じゃなかったら抱きついて慰めたい!でも今日部活がなかった彼女は力を持て余しているに違いない、だからここはグッと我慢!


「バレるわけないでしょ。こう見えてワタクシ、女優なのよ」


大物女優気取りでそう言ったはいいけど、実はもう全部バレてると思うよ。

早希ちゃんったら俺と一緒にハンバーガー食べられなくて残念がってたし、去り際にまたメールするから〜という捨て台詞まで置いていったし。逆にバレない方がおかしいでしょ。


「その顔、バレてるね」


「うぉご…な、何で?」


「あんた隠し事したりウソつくと鼻の穴が膨らむんだよ、知ってた?」


ちょっ、変なこと言うのヤメてよ!俺のファンがそんな事実を聞いたら悲しむよ?……いないとか言うのはナシの方向でお願いします。


自分でも気がつかなかった特徴に戸惑いながらも、地味に鼻を隠してしまう。

あっマジだ、なんか鼻の穴が広がってるよ。左右対称で膨らんでる。


マジか、マジか!を連呼する俺を見て、今まで気づかなかったのかと彼女は微妙にバカにしてくれた。わかるわけないじゃんか、鏡見ながらウソ言ったことないんだから!


「中学の時、萌に教えてもらったんだよね。まぁ萌はあたしと違って鼻なんか見なくてもあんたが隠し事してるかどうかなんてすぐわかるみたいだけど」


え、何よそれ初耳なんですが。しかも中学の時って、出来ることならもっと早く教えて欲しかった!なんでって、早希ちゃんとかあかねの前で鼻の穴を膨らませてたかもしれないんだよ?恥ずかしい!


頼むから早く言ってよ!と窘めようとすると、またハンバーガー屋の方角に視線を移したあかねはボソッと独り言と思えるくらいに小さく話し出した。


「…太郎は一緒に行かなかったんだ」


「えぇ?行かないわよぉ、そんなの決まってんじゃないの」


「なんで?」


「だってワタクシにはあかねという…ウソですゴメンなさい!クリーニング屋に行くからです!だからスポーツバッグを下ろして!」


ヤバいヤバい、もう少しで鼻が違う意味で膨らむトコロだった。鼻血とかも出す勢いだったよ。


やっぱりあんたわかってない、と言いたげなあかねはヤメてと懇願する俺を見てふと寂しそうな表情をする。そしてドキッとした…でもこれは言わない、言っちゃいけない。


「どしたあかね?何か悩み事?」


あんたが悩みの種なんだよ!って言われる覚悟でそう質問してみた。しかし彼女は少し悩んだ顔をした後、俺を真っ直ぐに見据えると重い口を開いた。


「太郎、ちょっと確認したいんだけどさぁ、あんた本当に萌と付き合ってないの?」


「付き合ってないデス」


ここは即答でしょう。少しでも考える素振りは見せられないよ!


「あたし昨日つい言っちゃったけど、萌は本当にあんたのこと頼りにしてるよ」


いつになく真剣な顔でそう告げられると、おちゃらけられない。

頼りにしてるって何だ?パシリとしてってこと?…嬉しくねぇ。


「頼りですか?」


「そう」


「………」


返答に困るわマジで。あかねはウソつく子じゃないし、きっと本当のことを言ってるんだとは思うけど。それにしても全く信じられない。


へ、へぇ〜そうとしか言えなくなっている俺に気を使ってくれたか、あかねは「詳しい話は歩きながらにしよ」とさっさとクリーニング屋を目指して歩き始める。


そして何も言えないままあかねの後ろをついて歩き始めた俺に、ある言葉が浮かんできた。


萌は俺のことが好きだ、という勇樹の発言。思えば昨日あかねも同じような発言をした、ってかはっきり言ってたか。高瀬もそう思ってるに違いない。じゃなかったらキャロット先輩をフッた事をわざわざ何の関係もない俺に話すハズがない。

……やっぱり皆、勘違い屋さんばっかりだね。ここは一度はっきり言ってやらないと。


「ねぇねぇあかねぇ、何で俺と萌が付き合ってるって思い込んでんの?一言もそんな言葉を発した記憶がないんだけどぉ」


スポーツバッグは少し重たそうだったけど、持ってあげるよって言った瞬間に地面に突っ伏しそうだからヤメておこう。だってマジであのスポーツバッグ重いから!


「思い込んでるって、あんたねぇ…。うぅ〜ん、そう言われると返答に困るなぁ。まぁ、う〜ん、あ〜…うん」


………終わりかよ!返事になってねぇって!ハイ終わり、みたいな顔されたら俺の方こそ返答に困るわ!


あかねは本当に何と言ったらいいのか相当困ったらしく、「うぅ〜ん」しか出てこない。俺は俺で彼女の次の言葉を待ち続けるしかない。


「…………」


「………無言長い!何でもいいから言ってくれない?」


無言はイヤ!あかねとは楽しくおしゃべりしたいの!だって2人で帰るなんて滅多にないことなんだから!

もう萌のことは忘れよう!せっかくあかねとのラブラブ下校が台無しになってしまう!


「萌は、本当にあんたのこと大事に想ってるよ、見ててわかる。だからそう思ったんだけど」


忘れようって決意した途端にそれかい!ってか大事にって何?聞き捨てならないよ!暴言&暴力その他を振るわれて大事に想ってるなんておかいしでしょ!?


「あかねの目は節穴だ!俺は大事にされた覚えなんて微塵もないわ!」


「いや、それは恥ずかしいからじゃないの?」


「恥ずかしいだってぇ?!あなた高瀬と同じこと言ってるよ?いいの?あの子と同じ思考回路を持っていると思われてもいいの?」


ちょっとヒステリックな女性を意識してあかねの肩に掴みかかった。うわっ細い、けどそれでいてしなやかな筋肉を持ち合わせている!許されるならばそのまま俺の両腕に包み込んでしまいたい!でも危険信号が鳴っているからダメ!


「ちょっ、何でそんな突っかかって来んの?」


肩をがっしりと掴まれたからか、あかねは顔を少しだけ赤く染めて叫んだ。でもここで手を放したらダメだよ俺!あかねをアッチの世界へ行かせない為にも掴んでおかないと!


「あかねは高瀬とは違うの!だから正しい道に戻してあげたいのよ!帰って来いあかねぇぇ!」


「意味不明だから!」


わかったわかった、だから大声ヤメろ!と、周囲を気にし始めた彼女は俺を道路の隅に追いやった。そして今度はあたしとばかりに俺の胸ぐらを掴む。ふぁ、ファスナーがアゴに刺さってる!これって挟んだらメッチャクチャ痛いよね。飛び上がるほどに痛いよ。それをわかってやっていらっしゃるのかあかね?!


「いい?恭子だって別に邪魔しようとしてああいう行動を取ってるわけじゃないんだよ」


どっからどう見ても邪魔してるでしょうよ!早希ちゃんを連れて行っちゃったんだよ、邪魔してる以外に何があるっての?!


「恭子は友達として萌のこと大事に想ってるんだよ。だからあんたが萌以外の女と仲良くしてる所なんて見たら邪魔したく……あっ」


「今、邪魔って言った!絶対に邪魔って言った!やっぱり邪魔してんじゃんか!」


「い、いいから黙って聞く!」


俺は地獄耳なんだから、少しの失言でも聞き逃さないよ!しかも微妙にヤバイヤバイみたいな顔になってるし!咳したって誤魔化されないよ!


「とにかく!あたしは恭子に賛成!」


「何に賛成したの?!あかねこそ意味不明だっつーに!」


自分でも何を言ってるかわかってないよね?キチンと整理してから言葉を紡がないと!いつもの冷静なあかねに戻って!


「だからダラダラ引き延ばさないで、ちゃんと萌に言いなよ!」


「だから何を?!」


「萌をどう思ってるか!」


「何でわざわざそんなこと!」


メンドくせぇと溜め息を漏らそうとすると、あかねは胸ぐらを掴んでいた手に力を込めた。ってか痛い痛い!何で密かにヒザ蹴り喰らわせて来るの?そんなに俺の疲れた顔が気に食わなかった?


「いだっ、ちょっとマジで痛いってぇ!」


ヒザ蹴りか首締めるかのどっちかにして!


「あんたがいつまでもウジウジしてるから勇樹が…」

「僕が、何?」


え……………?


その澄んだ可愛らしい声に、俺とあかねは黙らずにいられなかった。そして俺達は顔を見合わせると同時に、誰もが「それ、作り笑いだろ」とわかるほどの引きつり笑いを見せた。





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