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第93話 樋口さん登場に胸躍る

昨日言っていた通り、高瀬さんはお弁当を持参していやがりました。だからキャロットパンを奪うことは出来ませんでした。

仕方ないので萌がもらったら…なんて考えたけど、キャロット先輩をフッたもらえるハズがないよね。ってかキャロット先輩はもう彼女に伝説のパンを託すことはないでしょう。


ということで、後は高瀬だけが頼り!お得意の魔性の笑顔でキャロット先輩から頂ける日を待ちたいと思います。今年いっぱい待ち続けるつもりです。それがダメなら最後の手段、あかねとタッグを組んで挑もうと思います。でもきっと断られると思います。


まぁそんなことは置いといて、ちょっとお昼の出来事を聞いていただけますか。

一郎が今日こそはと一番乗りで購買に走り、しょうパンを買って来たまでは良かった。教室でケータイ見ながらニヤニヤしてたのがマズったね。


いつの間にか戻って来ていた一郎に粗挽きウインナーを盗まれたんです。しかも2本とも全部。


今日一番のご馳走を奪われてショックを隠すことが出来ない俺は涙目で彼に右フックをお見舞いしたが、それを近くで弁当を貪りながら観戦していた萌にシャーペンをブン投げられた。そしてそのシャーペンは一郎の手の中のしょうパンへ。彼が泣いたのは言うまでもない。


まっ一郎だからいいんですがね。



そんなこんなでお昼を終え、只今最後の授業真っ最中です。

黒板に何かを書いているミス西岡の動向をチェックしながらケータイを開く、そしてまたニヤリしてしまう。あぁもうサイコー、今が授業中じゃなかったら絶対にヒャッホーって叫んでる。


なぜこんなにもハイテンションで授業を受けているかと言いますと、ななななんと朝来たメールの差出人が、ドゥルルルルル(ドラム音と思い込んでください)パパァン!(シンバル音と…以下略)早希ちゃんだったからでぇぇぇっす!

まさかあかねをスッ飛ばして早希ちゃん本人からメールが来るとは!アドレスまでゲットしちゃったし、マジであかねサイコーだよ!…喜びのあまり抱きつこうとしてまたラリアットを喰らったけど、あかねに触れられたからダメージはプラマイゼロ!いや、プラスになった!それにチクる発言した女子の(皆のあかねに触るなんて!)な悔しい目線が心地良かったし、一石二鳥とはこのことですな。


ハフフ〜ンと授業そっちのけでニヤニヤしていると、凄まじい殺気を感じ取った。

うわっ何か体の右側だけめっちゃ鳥肌が立ってる。でも今のこの幸せな気持ちを壊されたくないからスルーしよう!


……まだビリビリ視線を感じるけど、でも向けない!今見たらもんのすごい形相と目が合いそう。頼むミス西岡!何でもいいから萌を指名して注意を逸らしてください!


「え〜…じゃあ、ミスター一条!」


ある意味で願いが通じちゃったよ!あと一息でしたね!


「教科書36ページ、丸々リードして!」


立ち上がった俺に満面の笑みを見せたミス西岡は、教科書をバシバシと叩くとそう告げた。


「り、リード?あ、あぁ読めってことですか……って丸々?!」


上から下まで全部ですか?!ワタクシの英語力をナメていらっしゃいますね!

しかし何をどう反論したところでムダだと気づき、渋々教科書で顔を隠しながら読み…リードを始める。


「あ、あ〜…ミセス ブレンダ ワズ……」




約4分をかけてゆっくりと読んだ俺はノックアウト寸前でイスに座った。

もうダメ、途中途中で笑いを堪えた声とか聞こえて来たし、って笑うかフツー?クラスメートが必死にリードしてる様を見て笑ってんじゃないよ!覚えてろ、今度同じようなことしてやるんだから!含み笑いじゃなくて声を張り上げて笑ってやる!


いいだけ疲れてしまったせいで、萌がこっちを見ていたことなんて忘れていた俺は不覚にも横を向いてしまった。


「…」


やっぱり見てたのね。…もしかしてあなた、俺がリードしている間ずっと見てた?は、恥ずかしいぃ!一生懸命がんばっているトコをガン見されてたなんて!


「な、何よミス秋月?」


恥ずかしさを少しでも隠せたら…そう思って何でもいいから口走ってみる。ここで優しい言葉なんてかけてくれるなよ、俺が悲しくなるだけだから。


「消えろ」


ありがとう、でもやっぱり面と向かって言われると悲しい…結局どっちにしろ悲しいんだね。俺の天の邪鬼。


「きえ…授業中だからムリですぅ。そういうことはワタクシじゃなくてミス西岡に直談判していただきたいわぁ」


「怖い、かえれ」


…消えろの方がダメージ少なかったなぁ。ってか還れって、黄泉の国に還れみたいな言い方だね。

怖くてゴメンなさいませぇとウインクを見せるもあえなくスルーされた。


あっそあっそぉっとブツブツ聞こえない程度に文句を言っていると、あかねが俺達の会話を聞いていたらしく、バッチリ目が合った。そんな見つめられたら赤面しちゃいそう。


(萌、いつもよりも冷たくない?)


そう?こんなんいつもと変わらないよ?むしろ弱いくらいだ。いつもなら拳が飛んできてもおかしくないもんね。


(そんなことよりもう一度言わせて!サンキューAKANE!)


(いや、約束だったし。でも萌にだけは絶対にバレないようにしなよ!もしもバレたらあんたのケータイを壊す!そしてあんたも壊す!)


発想が怖いよAKANE!せめて(あんたを殴る)に変えて!

しかしその想いも空しく、あかねは握り締めた拳を見せて俺にムリヤリ頷かせた。そして笑顔を見せてくれる。笑顔で握り拳を見せないで。


笑顔を持続させたまま教科書を持ち上げたあかねとのアイコンタクトもそこそこに、俺はもう一度ケータイを開いた。

件名が『いきなりごめんなさい!』って何?マジで可愛すぎなんですけどぉ!

それから萌の冷たい視線を受け流しながらメールを開いてはニヤニヤが止まらなかった。





さぁさぁ還りましょう…もとい帰りましょうか!萌は既に教室を後にしたし、あかねにも萌と一緒に帰れとか言われなかったし、今日は1人笑顔で帰れるね!


ハフンフンと鼻歌を歌いながら教科書その他を鞄にブッ込んでいると、坊主頭の男性が俺の目の前に現れ、笑顔で見つめてきた。だから軽くスルーした。でもそんなことで諦めるヤツじゃない。


「太郎!帰りにハンバーガー食いに行かねぇ?」


その顔、何かウラがあるな。とっても嫌な予感がする。


「あ〜悪いパス。俺寄らなきゃいけないトコがあんだわ」


「え〜……じゃあ一緒に行くよ」


え、じゃあって何?仕方ないからついて行ってやるよみたいな言い草だな。こっちだって嫌々ついて来られても困るってんだよ。


「1人でハンバーガー食えるお年頃だろ」


「1人は寂しいだろ!……いや、実は相談したいことがあって」


「断る!」


お前が言う相談なんてロクでもねぇの知ってんだよ!誰々が自分のことを話してた、とか誰々が自分のことを見つめてた、とかだろ!いつもそれは気のせいだって教えてやってんのに懲りねぇな!


「頼むよぉ!お前しか相談出来る頼もしい男はいないんだよぉ!」


このっ、微妙に嬉しいことを言いやがる。でも負けたらダメ!


「じゃあ教えてやるよ、気のせいだ!」


「何が?何が気のせいなんだよ?!」


ちょっ、もうこのジャージ洗濯のし過ぎでダルンダルンになってんのに引っ張るな!袖が、袖が左右非対称になってるから!卒業までこれを着る俺の身にもなれ!


「わ、わかったって!だから引っ張らないで!」


「よし!じゃあ行こう!」


「これからすぐはムリだっつーに!夜でいいだろ?ハンバーガー屋で待ち合わせってことで」


え〜とブーたれる彼に「お前がやっても可愛くない、むしろ怖い!」と諭してやった俺は二枚目俳優気取りでポケットに手を突っ込み、グッバイと鞄を持ち上げる。…俺がやってもカッコ良くない、むしろ怖い。しかもジャージだし。


まだつぶらな瞳で俺を見つめ続ける一郎を背に、さっさと教室を出た。

悪いな一郎、きっと俺は人目も気にせずにまたニヤニヤしてしまうだろう。そしてそんな俺を見たお前は何でそんな笑顔なんだよと質問攻めをしてくるに違いない。お前に早希ちゃんからメールが来ちゃった、なんつったら俺にもアドレスその他を教えろとうるさく言われるのは目に見えているのだよ。


ゲタ箱まで行く途中、自分でも気がつかないうちにワハハ笑いを披露していたらしく、先生&生徒からの冷たい目線を浴びた。が、悲しくない!笑いを堪えるのは体に毒だ、笑え笑え!


「シャハハハハハハ……痛い!」


なになに?後頭部に激痛が走ったんですけど!ガツンって音が響いたんですが!


「…っつぇぇぇ!だ、誰だよ!…あっ」


後頭部を優しくなでつけながら勢い良く振り返ると、先に教室を後にしたと思われた萌が立っていた。

まったく、あなたは持ち物全てを凶器にするんだから。そんなに武器を持ちたいなら木刀でも持って登校したら?2本あるんだからおばさんは貸し出してくれるよ?でも本当に持って来たらあなたその日からスケ番決定だけど。


「1人で笑ってんな、怖い」


まだ痛みは治まらず、頭をさすっている俺に向かってキツイ一言を浴びせた萌は謝る素振りすら見せずに落ちた鞄を拾う。

1人で笑って何がダメなの?萌とここまで一緒に来たわけでもなけりゃ一緒に下校するわけでもないのに。俺の勝手でしょ。


「無表情よりはマシじゃありませんことぉ?」


笑顔は人を幸せにするものよ?でも無表情からは何も生まれない、16年間生きてきてわからないの?


「1人で笑ってるよりマシ」


邪魔、と萌は俺に肩をぶつけて自分のゲタ箱へと移動した。しかも肩が当たる直前にヒジ打ちを繰り出しやがった。器用なお嬢様ですこと!


「萌は直行で帰んの?」


「あんたに関係ない」


ヒドイ、ちょっと好奇心を爆発させてみただけなのに。でもその返事は想定の範囲内です。

…でもね、昨日の「また明日…」発言を聞いたからもしかしたら!って思ったんです。少しは女性的になったのかなぁなんて思った僕がいけなかったね。萌は何がどうなっても、地球が滅亡しても萌です。


それからお互い無言で外靴に履き替えて外に出た。そして萌の背中を見ながら歩き始める。


…って何か一緒に帰ってませんか?!

ま、まぁ仕方ないか。何しろ校門は一つしかない、そこまでは一緒に行くみたいになるのは当たり前だ。校門を出たら俺はクリーニング屋、そして萌は(多分)秋月邸。反対方向です。


…………クリーニング代もらうの忘れてたぁぁ!

どうしよ、すっかり忘れてたよ!母ちゃんから金もらってねぇ!さては金を払いたくないから忘れたフリしてたな!どうしよ、あっそうだ!たしか財布に300円強の小銭が入っていたハズ!


………入ってねぇし!

なんで?何でないの?昨日はあったのに!まさか使われたくなくて自力でテレポーテーションしたのか?だとすると誰の財布の中に?!

おあぁぁぁメンドクセー!一回帰ってクリーニング代もらって、一郎とハンバーガー食うのに学生服持参でなんて行きたくないからもう一回家に戻って……疲れる!


あ、そうだ。前をズンズン突き進む金持ちお嬢様に聞いてみようかしら。あの子の財布はチラリと見たことがある。たしか高そうな財布をお持ちでいらした。きっと福沢さんが所狭しと行列を作っているに違いない。次は俺だ、いや俺が使ってもらうんだ!みたいな。


「ねぇちょっと萌……さん?」


「…」


ちょいちょい、いくらなんでもこの距離で俺の声が聞こえてないなんてことないよね?スルーしてんの?


「ちょっ、萌?」


「腐る!」


腐る言うな!それにあなた自身を触ってないよ、鞄にちょっと触れただけじゃんか!


「頼み、というかお願いがあるんですけど」


「…何」


その変なコト言ったらブン殴る、みたいな目つきヤメて頂けませんか。まだ何も言っていないのに。


「いや、実はね?クリーニング屋さんに行かなくちゃいけないんだけど、財布に全くお金が入っていないことに今気がつきまして。ワタシってドジっ娘だよね?テヘッ」


「…」


ごめん俺が悪かった!最後のくだりは忘れて!だから急いでこの場から立ち去ろうとしないで!


「ちょっちょっと!だからクリーニング代をお借り出来ないですか!?」


「断る」


さっきの俺のような返事だね。一郎の気持ちが痛いほどわかる。彼には悪いことをした、ハンバーガー屋に行ったら彼の頭を優しく撫でてあげよう、そしてポテトのSを奢ってあげることにするよ。

お願いだから!と涙目で懇願したのが良かった。萌は溜め息と睨みのダブル攻撃を喰らわせて来ながらも鞄に手を突っ込み財布を取り出してくれた。


わぁお、やっぱり高そうなお財布ですこと。それを質屋に持って行ったら新しい学生服が手に入るかも…俺は何てコトを考えてるんだ!バカ、俺の貧乏!


「…いくら」


ポカポカと自分の頭を軽く殴り続けていると、冷めた目線を続けながら萌が小さく呟いた。

そういえばクリーニング代ってどれくらいなんだろ。300円…いや、500円くらいか?


「ご、500円くらいだと…思う?」


「私に聞くな」


俺だって知らないんだよ!だからここは相談し合って決めようって言ってるんじゃない。

え〜っと、父ちゃんの背広だと………値段知らない。

え〜う〜う〜ん唸っている俺に、萌は待ちくたびれたか財布から一枚の紙幣を取り出した。


「…はい」


「え、ちょっこれ…」


ここここの美しい女性は樋口さんではありませんかぁ!学生服一枚で樋口さんに登場していただいていいの?野口さんか夏目さんにお願いしちゃダメなの?


「クリーニング代って、そんな高いの?」


「知らない」


クリーニング屋に言って足りなかったら恥さらしも良いところだろ、と萌は樋口さんを俺に押しつけて来た。って痛い痛い!顔面に押しつけないで!紙で頬が切れたら痛いんだよ?!


「あ、ありがとぉ萌!今日中には絶対に返すから!もし俺が信用出来なかったら借用書書くよ!」


「後で集金に行くからいい」


あなたは本当に女子高生ですか?集金って、よくそんな言葉がポンと出てくるね。

それでも感謝の意を伝えたくて、絶対に返すから!と言い聞かせた俺に「あんたの部屋にあるDVDを売ってでも返せ」とあまりにもキツイ一言を浴びせてくれた萌はフイと前を向いて歩いて行ってしまう。

今日は一緒に帰ってもいいかなぁなんて思いをよぎったが、秋月邸はクリーニング屋とは反対方向にある。だから校門でありがとう、そしてサヨナラ。


ありがとねぇぇぇと校門を出て行こうとする萌に力の限り手を振っていると、とっても可愛いお声が響いてきた。でも今は聞きたくない、でも素晴らしい美声だった。


「秋月さん?」




朝に更新をしたのですが、93話が2話分として更新されてしまいました。一話分だけ削除しようと思ったのですが、全て削除してしまいまた一から書き始めてやっとこ更新に至りました。と、思って見てみたらまた更新がされておらず、今度はちゃんとコピーしてからもう一度更新をさせて頂きました。本当に私のPCどうなってんだ?と思わされました。


度々更新が遅れてしまい、大変申し訳ございません!

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