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第92話 太郎心もわかって欲しい

またこれかよ、また土下座で一日が始まるんですかい。マジで俺の人生は負けっぱなしだよ。


玄関で俺の名前を全校生徒に聞こえるほどの大声で叫んだのは、考えるまでもなくあかね様でございました。彼女は赤鬼(萌)も驚くほどの怒り心頭な顔で俺の元へと走り寄って来たかと思ったら、不意打ちもいいところの正拳突きが俺の右胸にクリーンヒットした。そして為す術なくその場にしゃがみ込んだ俺は息も絶え絶えで彼女の顔を見上げました。でもすぐに逸らしました。だってとっても怖かったから。


その後、首をガッシリと掴まえられながら教室に連れて来られた俺(となぜか鼻血を出した一郎)は、昨日と同じく教室の隅で正座をさせられて、現在に至ります。

目の前には腕組みをした空手家のあかね、そして自分の席で悠々と何やらご本を読んでいる萌…助けてもくれないんかい!俺を助けてってさっき言ったのにやっぱりスルーですか?


「恭子に聞いた。あんた、マジであたしを怒らせたいみたいだね」


萌の方をチラ見しながらあかねが俺の耳元でめっちゃ小さい声で話し始める。うぅん、これが優しい呟きならばどれだけ嬉しいことか。俺はそれだけで失神出来るよ…今は違う意味で失神を起こしそうだけど。


「ちょっ高瀬に何を聞いたか知らないけど、別におかしいことは言ってませんよ?」


そうさ、別に変なことは言ってはいないんだよ。萌にあかねが好きかって聞かれたから好きって答えただけぇ…なんて理屈は通用しないよね。

横を見ると何もしてないと思われる一郎も俺と同様に正座をさせられている。鼻血を出して正座かい、お前も苦労してんな。ってかなんで正座してんの?何をした?

と、一郎は鼻血を拭おうともしないで腕を組み続けるあかねにタメ口で話し出した。


「あかねぇ。俺は太郎に投げられて苦しんでただけだろ?何で俺が土下座しなくちゃいけねぇの?」


ダメだよ一郎!今のあかねには何を言ってもムダだって!ほら見てよ、何も聞こえませんって目をしてるじゃんか!その前に言葉使いを改めろ!ここはタメ口じゃなくて敬語だよ!

やはり一郎の反撃も虚しく、あかねは彼の坊主頭をパシパシと叩くと世にも恐ろしい顔を披露してくれた。


「じゃあ聞くけど、あんた助けに来てくれた庭田先生にどさくさに紛れて抱きついてたでしょ」


「……ごめんなさい」


アホか。ってその元凶を作ったのは俺だった。ごめんなさい庭田先生、後で謝りに行かせてもらいますから…とか言いながら俺のことだ、騒ぎに乗じて一郎の如く抱きつきそう。そして回し蹴りを喰らう。


「太郎、あんたもあんただよ。一郎を置いてけぼりにして」


うへっ、一郎への怒りも冷めやらぬ前に俺に来たか。

もう何でもいいから殴られるのだけは回避しないと!と考え抜いた末、萌のせいにすることにした。


「でもあの時は萌が勝手に1人でトコトコ行っちゃうから仕方なく!」


「私のせいか?」


話聞いてたの?!こっちを見てすらもいなかったのに、やっぱりミス地獄耳!高瀬なんて目じゃないね!


本を無造作に机へ置いた萌がゆっくりと立ち上がり、こっちに振り向いた。そしてあかねとのダブル赤鬼を披露してくれる。ってか嬉しくない!ダブル赤鬼を見たからってちっとも嬉しくないよ!


「いや、萌は何も悪くないです…」


マジで弱いよ俺!女性に睨まれたからってすぐに謝るなっての!どこまで俺は腰が低いんだ、このままじゃサラリーマンになっても謝り職にしか就けない…そんな部署あるの?

自分への怒りに涙が込み上げてきたのを知られないよう素早く目頭を押さえる。ちくしょ、言いたいことすら言えない僕は弱虫だ!そして一郎はアホだ!


「イテッ!」


一郎の野郎、あかねが見てないスキに殴ってきやがった!なんだその目は、俺のせいとでも言いたいのか?お前が欲望丸出しで庭田先生に抱きつくから正座させられてんだろ!


(一郎テメェこんちくしょう。後で覚えておけよ)


(お前が俺を教室まで背負ってくれてたらこんなことにならなかったんだろ!)


(歩け!)


(何で俺は鼻血出してんだよ!)


(知るか!)


目だけでの会話はもうお手のモノ。俺と一郎は目線だけでのケンカを始める。が、それをあかねが見逃してくれるハズがなかった。


「何やってんの!」


「だっ!」


「っでぃ!」


1人ずつの頭にゲンコツを喰らわせたあかねはものすご〜く重い溜め息を吐き、チラリと萌を見る。と、この騒動の中心人物である茶髪の女王が教室へ入って来た。


「おはよ〜!」


おはよ〜じゃないよ!と心の中で叫びながら近付いて来た高瀬を睨む。しかしそんなことはお構いなしに彼女は笑顔のままこちらへ近付いて来ると、


「朝からどうしたの?」


お前のせいじゃぁぁぁ!お前があかねに余計なことを言ってくれたからこんなんなってんだよ!気づけよ!

奥歯を噛みしめながら見上げるもスルーしてくれた高瀬は困惑顔であかねと萌の顔を交互に見つめる。


「…」


一郎さん、もう高瀬のことは諦めたんじゃなかったのかい?何でちょっと照れた顔してんだよ、怖いわ。ジッと見てやるな!気持ち悪がられるよ!


「なん、なんでもないよ」


キモイよ一郎!とアイコンタクトを送っていると、あかねが冷や汗ダラダラでそう答えた。

あかね、キミのウソは誰が見ても見抜けるほど白々しいね。逆に「あっ騙されてあげよう」って気持ちにさせられるほどにバレバレ。

ブンブンという音が聞こえるほどに両手を振ったあかねを見た高瀬も俺と同じ気持ちになったのか、「そう?」とだけ言うと俺を睨み続ける萌の元へと走り寄って行った。


昨日は傘を貸してくれてありがとう、お礼としてお昼にキャロットパンを進呈してあげるね〜とかもないのね。って俺の傘は返してくれないのかなぁ。ってもボロボロだったから捨てちゃってくれていいんだけどさ。


傘のことを言おうかどうか悩んでいる俺をスルーで高瀬は満面の笑みを浮かべて萌の元へと走り寄って行く。ちょいちょい、やっぱり感謝の意は示してもくれないのね?


「萌、ちょっといい?実は先輩が萌に話があるみたいなんだよね」


「先輩?」


「うん、いつもキャロットパンくれる先輩」


あの萌が好きなのか高瀬が好きなのかわからない先輩か…名前くらい覚えてあげろよ高瀬。きっとキャロット先輩は泣いてるよ。


早く早く!と手を引っ張られ、萌は高瀬の強引な行動にされるがままで教室を後にした。そして残された俺はホッと一息。ふうっ、これで少しは…。


「太郎、萌になんつった?」


安心できねぇ!むしろ萌がいてくれた方が良かった!もう小声ですらない!


「いや、あのね?だから…」

「あたし言ったよね?萌を大切にしろって。何度言わせれば気が済むわけ?」


そんな凶暴な眼差しを向けないでくだされ。前に言ったけど俺は子鹿だよ?怯えちゃうよ?


「萌に誤解させるようなこと言って、今日という今日は…」


何かわかんないけどボソボソ言いながら一歩一歩近付いて来ないで!ホントに怖い、マジに恐怖を感じるから!


「あかね!俺はちゃんと萌に言ったから大丈夫!あなたが心配するようなことは一つとしてないよ!」


「何をちゃんと言った?」


おあぁぁ、その疑惑を含んだ目線にちょっとドキッとさせられる!……変態で結構!


「だから、俺はあかねが大好きだけ、どぉ!」


最後まで話は聞こうよ!どんだけ重い張り手だよこれ!口の中が切れても知らないよ…一郎、もしかしてお前も殴られて鼻血を?


(俺、あかねに殴られた記憶がない…)


記憶が吹っ飛んじゃったんだよそれ!絶対に殴られたんだよ、それか庭田先生の回し蹴りを喰らったかのどっちかしかねぇ!

アホだな!と突き放してみるも、鼻血を垂れ流している一郎がこの上なく可哀相に思えた俺は、自分も口血が出ていたが気がつかず、ポケットからティッシュを取り出してヤツに渡そうとした。が、ヤツは受け取ってくれない。


(一郎、ティッシュ使えって!服につくぞ!)


「いらねぇ」


アイコンタクトで返事しろよ!お前ホントにアホだな、今までのアイコンタクトは何なんだよ?


「いいから使えって!伊藤先生に雑巾掛けさせる気か!?」


「お前が拭いてくれよ!生け贄になってやるんだから!」


俺はもう生け贄になってるわ!正座させられてる時点で生け贄やってんだよ!

バカ一郎!バカ太郎!と罵り合っている俺達を黙って見ていたあかねは何か言いたげに小さな溜め息を漏らした。


ってかヤバい、また足が痺れてきた。このままじゃ昨日の二の舞を踏む。早いトコ切り上げていただこう。

絶対にまた立ち上がり間際にあかねへタックルを喰らわせてしまうと感づき、許しを頂こうと顔を上げる。それと同時に一郎がくしゃみをして鼻血を撒き散らした。でも今はスルーさせてもらおう。だって話が全く進まないからね。


「あの、あかね?」


「なに?」


「えっとぉ、萌は別に勘違いとかしてないよ?ってか気にしてないって言ってたし。……あかねは心配し過ぎなんだよ」


「誰のせいだ!」


「ぐわっふ!」


振り下ろす瞬間が見えないほど速いゲンコツを脳天に喰らい、土下座は終了。というよりも終了せざるを得なかった。だってメチャクチャ痛くてのた打ち回ったから!

痛い痛い!と悲痛な叫びを上げる俺を見た一郎は一瞬にして正座を整え、 深々とあかねに頭を下げる。

テメェ、自分だけ助かろうって魂胆丸見えなんだよ。


「あかね!俺は金輪際、庭田先生に抱きついたりしません!男、野代 一郎!ここに約束を致します!」


「信じたいのは山々なんだけど」


何気にヒドいなあかね!

まぁでもいいか、と笑顔を見せた彼女は最後にもう一度アホ一郎の頭を軽く叩くと「鼻血出てるから」とポケットティッシュを差し出す。

ダメだよあかね、コイツにはティッシュは必要な…


「ありがとうあかね!ありがたく使わせてもらうよ!」


さっきいらねぇって言ったじゃんか!親友である俺からのティッシュは受け取らないクセに!


マジで覚えておけ目線を送り続ける俺を横に、ティッシュを千切ることなく鼻に詰めた一郎は元気良く立ち上がる…も、足が痺れていたらしく倒れた。

罰が当たったね、もうサイコー。


「…ちゃんと誤解は解いたんだろうね?」


シビレと戦う一郎を見守っていたあかねが不意に問いかけてきた。

あっ何ですかその疑惑の目は。俺が大丈夫って言ったんだから大丈夫なのよ。気になるならば本人に確かめてみたらいいよ。でも気にもしてないからって言われるのがオチだからね。


「安心してくれぇ。俺はあかねとは親友だって言ったから。そして戦友になるって言っておいた」


「…………あたしとあんたが親友?」


え??ちょっ、キョトンとした目をヤメて!何言っちゃってんのみたいな顔ヤメて!悲しみが込み上げてくるから!


「お、俺はそう思ってんですけど?」


「…」


無言ヤメてくれぇ!涙が頬を伝うから!と、あかねは突然お腹を抱えて笑い始めてしまった。

俺の泣き顔が笑えるとか言われたらマジで泣きそうなんだけど。ってか、ヒドくね?


「アハハハハ!親友って!」


「えっ?!ちょっ、あかね?!」


「アハハハハハハハ…がっ、げふぉっ!」


戸惑う俺を前にあかねは笑いすぎが祟ったのか、咳き込んでしまった。しかしいい気味だ、なんて思わないよ。親友である彼女が苦しんでいるんだ!背中をさすってあげないと!………ヒヒヒ。


「だ、大丈夫かあかね…いでっ!」


ワシャシャとあかねの背に手を回そうとした瞬間、誰かに後頭部を叩かれた。

この軽い痛みは萌ではないな。じゃあ誰が?と振り向くと同じクラスの女子だった。

おいおい、いくら軽いったってグーで殴ることはないんじゃないの?いいの?彼氏にチクっちゃうよ?…いるか知らないけど。


「あんた懲りないね。そんなあかねに触りたいわけ?萌にチクっちゃうよ?」


チクっちゃイヤァ!

いくらあかねを心配してのことだと言っても冷めた目線で俺を見た女子は素早い動作であかねの背中をさすり始める。お前こそあかねに触りたいんじゃないの?ワタクシ達は同じ女性よ?何を気兼ねしているの?…キモくてすみません。


まだガフガフ言い続けるあかねに心配の眼差しを送っていた俺は、女子からの(消えて!)目線を送られつつも、忘れてはいけない事を思い出した。

そうそうだ、あかねには重大な任務を頼んでいたんだった!


しかしここでまたあかねに近づこうものなら(今気づいたけど相当数の)女子からの冷めた目線を浴びせられると感づき、事が収まるまで教室にいない方がいいと廊下へ出ることにしました。というか、出ることにさせられました。

女子達よ、覚えておきなさい!後で……一郎が何かやらかすからね!





「早希ちゃんのケータイ番号聞きたかったのにぃ…」


廊下へ出た俺は魂が出るんじゃないの?と錯覚するほどの溜め息を漏らしてみた。一郎は昨日と同じく自分の席に直行して泣いてるし。一緒におトイレでも行こうかと思ったのに。

当たり前だけど、廊下に来たからって別にすることは全くないですね。どうしよ、保険室にでも行こうかなぁ。ミエリンと他愛ない会話で盛り上がって時間を潰しましょうかね。あっダメか、あと5分足らずで授業始まっちゃう。


本当にすることがないので、仕方なく1人でトイレへ行こうと歩き出した時、間の悪いことに萌と高瀬が階段を下りて来た。

うわっ目が合っちゃったよ。こんな場合は秘技、出来るだけ見ない!


ピェ〜というヘタクソな口笛と共に目線をそっと逸らす。おし、うまくいった!後はひっそりとトイレへ…。


「バカ太郎!」


「なぜ?!」


廊下でそんな大声を張り上げないでよ!それに呼ぶならバカを省いて。返事する俺の身になって!

萌の大声を聞いた他の生徒達は(あぁ、またいつものか)みたいな顔でスルーし、高瀬は笑いながら萌の肩に手を置いた。みんなヒドい。バカって言われてる僕をスルーってヒドいよ。


何か腹の立つ出来事が彼女を襲ったのでしょうか、萌は無表情だけど怒りを感じる表情で俺の元へと近づいて来る。

キャロット先輩からの愛の告白を受けておきながらその表情かい。先輩の泣き顔が目に浮かぶわ…顔知らないけど。


八つ当たりされるのは目に見えてわかっていたが、萌の眼力により動けない俺は必死に勇樹の姿を探した。いないいないいない!ダメだ、俺を助けてくれる王子がいない!


「…」


強烈な睨みに体を縮こませた瞬間、萌は俺の横をスルリと抜けて教室へと入って行ってしまった。

ってオイ、人をバカ呼ばわりして睨んでおいて最後はスルーかい。お前の思考回路はどうなってんだ。


ケッと強がってみたものの殴られたりしなかったことにホッと胸をなで下ろしていると、一緒に教室へは入って行かなかった高瀬がササッと俺の隣りへ駆け寄って来た。そしてその目は(聞いて聞いて!)と輝いている。

イヤだ、聞きたくない…けど高瀬をスルー出来ない。


「な、なに?」


「萌ね、好きな人がいるから先輩とは付き合えないんだって」


なぜ僕にそれを言う?しかもなんでニヤニヤしてんの?萌に好きな人がいるってことがそんな面白いの?って肩が触れ合ってるけど、いいの?また勘違いしてもいいの?


「へ、へぇ…」


「ニクいねこのぉ!先輩メチャメチャ悔しがってたよ!」


「いだっ!ちょっヒジでグリグリしないでくれる?しかもなんで憎いの?憎まれるようなことはしてないけど!」


「その発言自体がニクいよ」


もう訳わかんねっ。発言自体がニクいの意味がわかんねぇよ。

ギブ!と叫んでも高瀬は攻撃の手を緩めず、むしろ強くグリグリしてくる。一ヶ所だけを重点的に攻めないで!

このこのぉ!と笑う高瀬に痛みを訴えながら逃げようと思った…と、あることを思い出した。傘の事とかはもうどうでもいい。朝から俺をブルーにさせてくれた恨み、晴らさでおくべきかぁ!


「そーだ高瀬!何であんなことあかねに言ったのよ!」


「何が…あ〜昨日のこと?言っちゃダメだった?」


こ、コイツまったく悪いと思ってねぇ。何で俺は真顔なのにあなたは笑顔なんだよ。


「実は昨日の夜あかねとメールしててさぁ。屋上を出てから萌の様子がおかしかったって言ってたから、つい」


「テヘッじゃないよ!頼みますよ高瀬さんよぉ!」


なんでまだ笑ってんだよ!ゴメンとかナシに笑い続けてるよ!


「大丈夫だって。あっもしかして、さっき正座させられてた理由ってそれ?」


そうですよ!ってか気づくの遅っ!

やっとの事で高瀬は「あぁそれはゴメンね」と笑顔で…悪いと思ってないのバレバレだから!謝るならそれ相応の表情して!


「でも萌にはちゃんとあかねの事は好きだけど、恋愛感情じゃないって言ったんでしょ?」


「言ったよ言いました!そして意味不明という返事をいただきました!」


「それ、恥ずかしかったんじゃない?」


「はぁ?恥ずかしがる理由がわからないんですけど!」


キミにも意味不明という返事をして差し上げようか?萌の言い方と俺の言い方はまったく違うけど、それなりにダメージは与えられるよ。


「だって面と向かって気にしてる、なんて言ったら一条のことが好きってバレちゃうじゃん。ダメだね、女心がわかってないよ」


こう見えても僕は男性ですからね!いくら女言葉を連発しようが心まではわからないのですよ。乙女心なら微妙にわかるけど…そう、ワタクシは勇樹を前にすると乙女に変身できますのよ!まぁ別にこれは言わなくてもいいわよね。

でも何か悔しい、何でもいいから言い返してやりたい!


「…そ、そう言う高瀬さんも男心がわかってないわよねぇ」


「うん、わかんない」


即答かいぃぃ!「え?わかってるつもりだけど?」とかじゃないのかよ!俺はどう返答したらいんだよ!


そんなの当たり前じゃん、変な一条と付け加えた高瀬は俺の肩を一度だけポンと叩き教室へと入って行ってしまった。それをボケッと見つめる。

萌は女心なんて持ってねぇでしょうよ。持っているとすれば鬼心だね。あの立ち振る舞いはどう見ても鬼そのものですよ。女性という皮を被った鬼に間違いない。


そうに違いないと1人で勝手に納得し、頷きながら教室へのドアに手を掛ける。もうあかねも回復してる頃でしょうし、戻っても支障はないでしょう。


「どへっ」


勢い良くドアを開けた瞬間、ケータイが鳴った。ヤベッ驚いて変な効果音出しちゃったよ。ってかそれでもスルーですかクラスのみんな。チラ見くらいしてくれても罰は当たらないと思うけど!


「………誰?」


ブツクサ言いながらもケータイを開いて見てみるとメールでしたが、差出人がわからん。このアドレスはあかねでも萌でも一郎でもないよなぁ。


「…ハッ、あかねぇぇぇぇ!」


全てを理解した俺は学校中に響き渡る大声を発した。そして同時に猛然とダッシュしてきたあかねのラリアットを喰らい、廊下に吹っ飛ばされた。


だって、だって嬉しかったんだもん。あかねってばやっぱり約束は守ってくれるお人だったから嬉しかったのよ…。





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