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第90話 写真は作品です


更新がとても遅れてしまい、大変申し訳ございませんでした。

待て!と転ばされた僕は、萌に背中を踏まれたままうつ伏せで倒れています。

でもおかしくないですか?確認されて困ったんだよね?だからあんなに目を丸くして言葉を失ったんでしょ?呼び止めない方があなたの為でもあったろうに。


「あの、足をどけてくだされぇ」


微妙に背骨をピンポイントで踏んでる!しかもカカトで踏んでグリグリしてる!


「さっき言ったことは忘れて!水に流してくれていいから、だから足をどけて!」


「お前が聞いたんだろ」


「そりゃそうですけど、答えたくないんでしょ?」


「…」


ほらほらぁ、やっぱり無言になるんじゃんよ。あなたを思って退散しようとした俺の気持ちをわかってあげて!


お願いだからそのお美しい足をおどけになってぇ、なんて言ったらストンピングの嵐になるからノドの奥で必死に止める。萌は何て言ったらいいのか迷っている最中らしく、カカトをぐりぐりと背中に押しつけてくる。ってかそれならやっぱり呼び止めなきゃよかったよね。


「いだっ!」


最後に一回とばかりに思い切り背中を踏んだ萌は俺から離れ、布団の上にドカリと座り込んだ。それを見届けた後、背中をさすりながら正座する。


「…」


やっぱ無言キライだなぁ。そのまま忘れてた方が俺の為でもあったよ。聞いた僕がバカでした、ごめんなさい。


「炭酸」


「え?」


なんだ?いきなり炭酸?……ごめん、全然意味がわからない。


「あれから炭酸がダメになった」


「へ?…あ、あぁ」


ってか元からダメだったじゃんか。なぜか俺のせいになっちゃってるよ。だけど俺は炭酸好きなんだけどな。

…って違う!今は炭酸のことはどうでもいいんだよ!


「…やっぱり、覚えてました?」


「あんな最悪なこと忘れられるか!」


「だっ!」


枕を武器にしないで!しかも最悪なことって、体を張って助けてあげようとした俺の気持ちは置いてけぼりなの?あの時はありがとうすら言ってくれなかったし。


「いぃっ!痛い、痛いってぇ!」


もうマジでやめてっての!そりゃ飲みなって言ったのは俺だったけど、最終的には萌が自分の意志で飲むって決めたんでしょうよ!


「お、俺だってあれがふぁ…だったんだからさぁ!おあいこでしょ!?」


やっぱり思い出すんじゃなかった。ここまでキレられるとは。

枕が連続で俺の頭に当たる中、涙目で必死にそれを奪おうとするも顔面に飛んでくるモンだから目を開けてられない。


「お前のことなんてどうでもいい!」


「いだっ!ってかヒドい!」


俺のふぁ…の相手がこんな凶暴娘だなんて、人生踏み誤ったわ。こんなことならさっさと誰かとしちゃったら良かったよ!


…相手がいなかった!


「あ、晃には言いませんから!」


「当たり前だ!」


「っぶ!」


怒り大爆発なのを思い知らせる為か、思いっ切り枕を顔面めがけて投げてきやがった。

風呂に入ってサッパリしたのにまた汗を掻いちゃったよ、しかも冷や汗どっちゃり。また風呂に入るのメンドイし、それに洗濯物を増やすなって怒られる。

ってここまで騒音を発してるのに、なぜに母ちゃんは怒鳴り込んで来てくれないんだろう。まさかまだ父ちゃんが帰って来てないってのに寝やがったのか?どんだけ父ちゃんを尻に敷いてんだよ!


母ちゃん来いよ!と必死に願っている俺に向けて萌の睨み光線が飛んできた。


「あかねに言ってないだろうな」


「言ってない言ってない!俺だって今思い出したんだから!」


「…じゃあ今の今までずっと忘れてたわけか」


「忘れてたわけじゃなくて、必死で心の奥に閉じ込めていたの!」


「思い出したくもないってことか」


誤解を解こうとすればするほど墓穴を掘っているような気がするのはなぜ?


ここまで萌が怒り狂う所を見ると、やはり間違いなくふぁ…の相手はノブ君でも勇樹でもなく俺のようですな。あれ?じゃあなんで萌のヤツ保健室で晃達といた時に俺じゃないって言ったんだろ。しかも「誰がこんなヤツとするか」みたいなヒドイ言い方までしてたし。やっぱり…恥ずかしかったから、とかかしらねぇ。


「思い出したくないじゃなくて、覚えてなかっただけ!」


「だから忘れてたんだろ!」


おっしゃる通り!ここまで自分がバカなことを言うなんて思いもしなかった!言えば言うほど萌様の機嫌が悪くなる!


なんとか怒りを静めて頂こうと「誰にも言いませんからぁ!」と必死で懇願する。が、女王様の怒りは止む気配がない。

ここで「でもふぁ…の相手が俺で良かったじゃんか。むしろ感謝して欲しいねぇ」なんて口走ったら今度は毛布が飛んでくる可能性が大だ。どうしたらいいんだ!?もう天使でも悪魔でもいいから出てきて助けて!


(俺はお前で良かったと言うのよ)


誰だお前!?


(私は天使よ)


でもそんなこと言ったら忘れてたクセに、ウソつくな!って怒鳴られないか?


(だから言うのよ!そして殴られておしまい!)


お前は天使じゃねぇ、堕天使だ!神様にゲンコツ喰らって改心してこい!

とは言ったものの何て凌いだらいいか全く思い浮かばない。天使の言う通りにするしかないのか!?


「お…ワタクシ達は女性同士なんだからぁ、恥ずかしがることなんてないわよぉ」


意味わかんねぇ!俺は男だっつーに!しかも(堕)天使のお告げなんて全く無視した発言!


(人口呼吸は回数に入らないと言え)


助言遅ぇよ悪魔!


「誰が女だバカ太郎」


「いや、だから俺を女性だと思って…」

「思えるか!」


「じゃあその時の俺をノブ君だと思って…」

「黙れ!」


「へぶぅっ!」


怒りの平手打ちが俺の左頬を捉えた。手首パンチじゃなかったことは救いだが、やっぱり痛い!しかも微妙に指が目に入ったし!ヘタこいたら爪がめり込んでるよ、失明の恐れだってあるよ!

と心の中で怒ったが言えるわけもなく悩んでいると、天使の高飛車な笑いが聞こえた…ような気がした。


「お、俺は萌で良かったよ!」


「……………は?」


左頬をさすりながら2発目に備えるべく少し後ずさりしてそう叫んでみた。天使のお告げ通りにしてやったよ、嬉しいか!


(まだ殴られてないわ!)


お前はどんだけ俺を痛めつけたら気が済むんだよ!ってかもう殴られたわ!指とか目に入ったから!


なんだかんだと天使の野郎と心の奥で格闘を繰り広げている途中、萌の瞳孔が開きっぱなしになっていることに気がついた俺も瞳孔を開かせた。怖い、どこを見てるかわからないって怖い。全く視線が定まってないけど大丈夫か?


「あの、萌?どこ見てる?」


マジ怖ぇよあなた。どこ見てるかさっぱりわからん。俺を見てそうで見てないよね?なんとか言ってくれ!


「萌ぇ?」


「…え?あ……」


「?」


あれれ、いきなりオドオドし始めたよこの子。目が回りそうな勢いでグルグル動いてるし、挙動不審がバレバレだよ。とか言いながら俺の目もグルグル回ってるけど。

毛布を引きちぎるほどの力でギュギュギュと握り締めている萌は、俺の問いに答えることもなくただ真っ直ぐにどこかを見ている。


なんかおかしいこと言ったかなぁ。少しでも機嫌を直してもらいたくて言っただけなんだけど。ってか天使が言ったことまんま繰り返しただけ。

萌の異常行動に不信感を抱きつつ、ボクサーパンツがチラリと見えているのに気がついて慌てて布団で隠す。ヤべ、セクシーショットを披露してたわ。


と、突然萌が口を開いた。


「…写真」


「え?写真…が、なに?」


ちょっとぉ、主語と述語をはっきりしなさいといつも言ってるでしょ…言ってない、ってか言えないか。

突拍子のない発言に変顔を見せた俺は、ハッと机に置かれた写真立てに視線を移した。萌はまだ微妙な表情で俺の後に続いてそこへ顔を向ける。


「あ〜…写真がどうかした?」


いいぞいいぞ、このまま写真の話で盛り上がらせてふぁ…のことを忘れて頂こう。

布団を腰に巻いた俺は立ち上がり、机に移動する。

あららぁ、いつ見ても無表情だこと。よくこれで男共が寄って来るよなぁ。七不思議もいいところだよ。


「もしかして、焼き増しして欲しいとか?」


「違う」


じゃあ何よ。ふぁ…と何か関係あんの?でもこの写真を撮った次の日から隣りで歩かせてもらえなくなったくらいしか思いつかない。あっこれを撮ったの中学2年の頃だ、しかも萌の誕生日当日。

懐かしいなぁ、でもプレゼントしてあげたシャーペンを使ってるとこ見たことない。まぁこの子のことだから「こんな貧乏くさいの使えるか」みたいなカンジで箱ごとポイ捨てされた可能性はあるな。でも俺だって一生懸命考えたんだからね!

…俺は誰に訴えてる?


「あかねは見たんだろ」


「何?あっ、この写真を?」


無言で俺の質問に頷いた萌はそれからなぜか睨んでくる。あかねは…見たよなぁ。萌に報告してたくらいだし。


「きっと俺が寝てる間に見たんじゃないかしらねぇ」


あかねに電話で助けて発言した時に見られたと思うと付け加えると、何を考えたか彼女は立ち上がると俺に向かってズンズン進んでくる。


「早くこんな写真捨てな」


「は?あっちょっ何すんの?」


何をするかと思えば俺から写真立てを奪い取った萌は、キレイな投球フォームを見せてゴミ箱へ…惜しい!ゴミ箱の中はゴミが一杯だったため、入る隙間がなかった。

ってかゴミ箱に当たって他のゴミが散乱しちゃったよ!拾う俺の身にもなって!


「あぁもぉ何をなさるのよぉ!」


不可解な行動は控えて下さいと叱咤しつつ、お前も拾えとは言えずに黙々と1人で拾い続ける。それを見つめているのか睨んでいるのかわからない顔で立っている萌。捨てろだなんてヒドいわね。


「あなたが何と言おうと写真を捨てるつもりはございませんわ。これはワタクシにとって思い出深い作品なの」


「何が作品だ、気持ち悪い」


気持ち悪い言うな。これでも一生懸命言葉を選んだんだよ。それに俺だってこの写真は結構気に入ってんだ。


「そんなのずっと飾ってたらあかねに勘違いされるだろ」


「えぇ?あかねが何を勘違いすんの?」


意味不明な発言をされた俺は「意味わかんないんですが」と呟きゴミを全て拾い終えた後、落ちた写真立てを元の位置に戻す。

この写真を見てあかねが何を勘違いするっての?萌こそ何か勘違いしてんしゃないの?


「この写真を見たからといってあかねは別にどうもしないと思うけど?」


「あかねの事が好きなのにそんなの飾るなって言ってんだよ」


何で怒り口調?ってか何で命令形?


「あかねのことは好きだけど、それとこれとは別じゃん?」


何おかしい発言してくれてんの?と、おちゃらけたように呟いたその時でした。なぜか高瀬の美声が脳裏をよぎってきたんです。


『恋愛感情じゃないってちゃんと言わないとね』


高瀬さん、あなたはこの場にいなくとも影響力はバツグンですね。顔は浮かんでこないのに声が響いてきたよ。どっかからテレパシーでも送って来てんのか?

まさか!と、辺りに高瀬がいないか確認するも、いるわけがない。


わらわらと頭の中で色々なことを考えてみたけど、整理がつかない。とは言っても高瀬の言う通りに萌にそう言ったからって何かが変わるということもなさそうだし、それに何より「は?意味不明」って返事が返って来そうなんだけどなぁ。でも他に言葉も見つからないし、一か八か賭けるか?


「あ〜あのさぁ…何か勘違いしているようですが、俺にとってあかねは姉ちゃんなんですよ」


「は?意味不明」


どっちにしろ言われた。いいや、ここまで言ったら最後までやってやれだ!


「だから俺はあかねラブだけど、それは親友としてなの!あか姉ちゃんなの!」


「意味不明」


わかれよ!これ以上わかりやすい説明なんて俺にはムリだ!後は自分で考えていただきたい!

めっちゃくちゃ冷たい視線を俺に浴びせた萌は、重苦しい溜め息と共に冷たい言葉を吐く。


「別にバカ太郎があかねをどう思ってようが私には関係ない」


ははぁ左様でございますか。あれこれ悩んで俺はバカだね。でも俺の思い込みかも知れないけど、なんか心なしか萌のヤツ怒ってないか?いや、不機嫌面は毎度おなじみなんだけど…なんていうか……うまく説明できないけど。


「早く出て行け」


「あっ…そうですか。わかりましたわよ」


これ以上何か言ってもムダだと知り、布団を腰に巻いた状態で退散しようとドアへ移動する。

もうどうでもいいわ。俺が萌のふぁ…の相手だったからって何だ。そんなのもう過去のことだし、俺が気にすることなんてないよね。けっ、思い出さなかったらよかった。


「……み」


「は?」


ドアの取っ手に手を掛けた時、めっちゃ小さい声が聞こえてきた。まったく聞き取れなかった。あかねよりも小さい声だったよ。


「なに?」


「………布団、持って行くな」


「あ、あぁ…すんません」


でもここで布団を取ってしまったらまたもセクシーショットをお披露目することになるんだけど、それでもいいのか?

ふと振り向くと萌はもはや寝転がり、俺に背を向けていた。そんなに俺のボクサーパンツが見たくないってのか。


「あ、じゃあここに置いておくから…」


「…」


そっとその場に布団を置き、萌の返事を聞かないうちに退散した。





「あぁ眠い…」


自分の部屋から出た、というより出された俺はそれからお客様用の布団が敷いているであろう和室に行くために廊下をヒタヒタ歩く。と、立ち止まり振り返ってみた。でも萌が部屋から出てくる様子はなく、深い溜め息を吐いて前を向き直す。


なんだよなんだよ萌さんよ。そんなにふぁ…の相手が俺だったのが悔しかったのか?だったらささとノブ君なりとしちゃえばよかったんだよ。それにあかねがどうしたっつーんだ。ってか俺があかねラブだから何だってんだ、高瀬のヤツ変なことを吹き込んで………責任転嫁してる?


あーだこーだ言いながら居間へ入ると、ソファでイビキを掻いている母上の姿が見えた。ちくしょ、俺がボクサーパンツ&Tシャツで萌の怒濤の攻撃を受けたってのにグァ〜グァって気持ちよさそうに寝てやがる。ってか父ちゃんまだ帰って来てねぇ!


悔しさが込み上げて止まらなくなった俺は、さっき萌にしてやったように母ちゃんの傍に寄り、不気味な声を響かせてやろうと屈んだ。


「太郎ぉぉ!せんべい買ってきて!」


夢でまで俺はパシリにされてる!?



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