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第78話 弁慶じゃなくても泣ける

萌に蹴られた俺は彼女をガン見、直秀は俺になんとかしてくれ光線を送り、蹴った萌はなぜか俺をガン見……2人して俺を見てくれてもどうしようもないんですが。


チラリと高瀬の方へ顔を向けるが、まだ鬱憤うっぷんが溜まっているらしく、マシンガントークを繰り広げている。そして何も反論できずにうずくまっている杉なんとか。


「……とにかく、もう私にメールとかしないでね」


最後は可愛くそう締めくくった。でも、それでも杉なんとかは微動だにしない。体育座りを維持して俯いたまま。

いいだけ言われてダンマリか?お前それでも男かよ!


……俺、何でコイツのこと応援してるの?


それじゃね、と立ち上がった高瀬がたじろいでいる俺へ近寄って来る。そして俺の胸に飛び込んで………来るとは思ってない。

言いたいこと言ったからスッキリしたんでしょうなぁ………あれ、違う?


「……ゴメン。ちょっと一条の部屋、貸してくれる?」


「おあ、あぁうん」


チラリとしか見えなかったけど、高瀬の目は少し潤んでいるようだった。

だけど俺にはそれが悲しくてなのか、それとも悔しくてなのか、あるいはしゃべり疲れてなのかわからない。ただ、高瀬が涙を溜めていたのは確かだ。


杉なんとかのことも気になったけど、悪いけど今は高瀬の方が気になる。

てっきりスッキリした顔でもしてるのかと思った俺は、戸惑いを隠すことも出来ずに曖昧な返事をしてしまった。


俺の隣りにいた萌も高瀬が涙目になっているのに気がついたらしく、何も言わず彼女の背中に手を当て俺に目配せすると部屋を出て行った。それを無言で見送った俺と直秀は、ほぼ同時に杉なんとかの方へ視線を移す。


「…に、兄ちゃん」


そう小さく呟いた直秀の目はどうしたらいい?と問いかけているようです。

ってか俺にだってわかんないっつーに。恋人がいたことない俺達(直秀には美奈さんがいるけど)が何を言ってもムダに近いだろ。コイツの気持ちなんてわかりたくてもわからねぇんだよ。……わかりたくもねぇけど!


「直秀、後はお前が何とかしろ」


「え、兄ちゃんは?」


俺を置いて行くのかよと言いたげな直秀が部屋を後にしようとした俺の服を掴んだ。どうしたらいいんだよ、みたいな目をされても困る!ってか俺がこのままここにいた方がマズいだろが。


「高瀬が気になるんだよ」


正直、杉なんとかの顔を真正面から見ていられなかった。俺のことだからこのままここにいたら高瀬よりズバズバ言いたいこと言ってしまいそうだったし。これ以上話をややこしくしたくなんかないし。


「でも…」


それでも食い下がる直秀の肩を叩き、俺は部屋を出た。

後はお前が杉なんとかをどうにかするしかないんだよ。高瀬に会わせたって体育座りしたままだし、友達でも何でもない俺がここに居座ってもどうしようもないから。


頼むな、と言いつつ扉を閉めてから少し思ったことがある。

どうして直秀は杉なんとかを家に呼んだのか、それでどうして直秀は高瀬を呼びやがったのか。アホな弟のことだ、何の考えもなしにきっと連絡取ったんだろうねぇ。俺だったら絶対に高瀬を呼ばないよ。その前に杉なんとかを家に招かないか。


直秀は直秀なりに何か思惑があって家に連れて来たんだと思うけど、それがそもそもの間違いだったんじゃないのか?発見したその場で杉なんとかを殴るくらいしてやりゃあ良かったんだよ。ヘタに甘やかすからあんなんになるんだ。

杉なんとかは家に来て、体育座りして、優しい言葉を掛けてもらうのを待ってたんだよきっと。黙ってれば良いことが起こるとでも思ったのかね。高瀬はそれとは裏腹に厳しい言葉を掛けて退散しちゃったけど。





「あ〜もぉ……」


自分の部屋なのに、扉を開けられないでいる。

理由はカンタン、扉の向こうから高瀬のすすり泣く声が聞こえるからです。

自分の部屋なのに入りづれぇ。やっぱ男は立ち入り禁止なのか?でも萌はあのとき何も言わなかったしなぁ、入ってもいいかなぁ。


なんて悩んでいると、誰かが階段を上がってくる気配を感じた。


「あれ?あんた廊下で何やってんだい」


お菓子(ってかせんべいだけど)とウーロン茶らしきものを乗せたお盆を手に母ちゃんがやってきた。

怪訝そうな顔でそう尋ねた母ちゃんは直秀の部屋の扉と俺の部屋の扉を交互に見る。


「……みんなに嫌われたのかい?」


「何でよ!?」


俺が1人で廊下にいるからか?トイレかい?とかでいいでしょ!どこまで俺を悲惨な状況にしたいわけ?


変な子だねぇと首を傾げつつも母ちゃんは何の迷いもなしに直秀の部屋の前に立った。そしてなぜか深呼吸を2回する。

って何で緊張してんだこの人は。


「直秀〜入るよ〜」


深呼吸はしたのにノックはしないで母ちゃんは扉を開けた。母ちゃんにノックという言葉はない、言うだけ野暮ってものです。


俺は母ちゃんと背中合わせになる格好で自分の部屋を見つめる。耳を澄まさなくても建て付けの悪い扉の向こうからは高瀬のすすり泣きと、それを萌が慰めている声が聞こえてくる。


めっちゃ入りづらいんですけど。どうしよ、あかねに電話して相談した方が……ダメだ!あかねに連絡なんてしたら速攻で家に来て杉なんとかのことを殴りそう!そしてなぜかついでに俺も怒られそう!……その前にケータイを充電しないと!


どうすりゃいいのぉ!と頭をかきむしっていると、てっきり直秀の部屋に入ったと思っていた母ちゃんに声を掛けられた。


「……太郎」


「あっはい?」


驚いて振り向いてみると、母ちゃんの手にはまだお盆が乗っている。

直秀の部屋には入ったんだよな?何でまだお盆持ってんの?………あっ俺(というか萌と高瀬)に持ってきてくれたのか。そういや萌達は俺の部屋にいるんだ。


萌達は俺の部屋にいるから〜とお盆を受け取ろうと手を伸ばす。が、母ちゃんは渡してくれない。俺をガン見している。


「直秀の友達、どうした?」


母ちゃんのドスの効いた低い声はきっと俺にしか聞こえていない。

ってか直秀の友達って、部屋で体育座り決め込んでるだろ。俺の知ったことじゃねぇよ。


「あ〜………もうそろそろ帰るみたいですよ、うん」


母ちゃんの睨みが恐ろしくて「知ったことか」なんて言えやしない。ここは事を荒立てずに静かに答えた方がいいんです。


俺の言葉をジッと聞いていた母ちゃんは、おもむろにお盆を俺に差し出してくる。でも目は据わったままでいる。

う、受け取っていいんだろうか。


見ると何枚かのせんべいが美味しそうに並んでいる。これは母ちゃんが好きな唐辛子たっぷりせんべいだ。俺は辛いモノ好きだし……萌はダメだけど、高瀬は大丈夫だろ。


「あ、ありがとぉ」


「萌と恭子ちゃん、だっけ?」


恐る恐るお盆を受け取った俺に、母ちゃんの低い声が突き刺さった。何で高瀬にだけ「ちゃん」をつけた?いつもの母ちゃんなら初対面だろうが何だろうが呼び捨てするのに。


何を言われるか待っていると、俺を見上げた(睨んだ)ままで母ちゃんが近付いて来た。そして一言、


「お前、二股とかしてないだろうね?」


「はいぃぃ!?」


有り得ないことをズバッと言ってくれるね母ちゃん。


「いや、二股とかの次元じゃないから」


二股とか以前のハナシだっつんだよ。萌と俺は恋人でも何でもないの母ちゃんだって知ってんだろ。萌様のご機嫌を損ねるような態度を取ったら勘当だって良く言ってたじゃんか。恋人同士で何でご機嫌取りすんだ。


ないないないと首を高速で振り、身の潔白を証明した俺はドアの方へ振り返る。

まだ高瀬は泣いてそうだったけど、ここで母ちゃんと一緒にいたら何が起こるかわからん。「あたしも混ぜろ」とか言って部屋に殴り込みをかけてきそうだ。ここはさっさと入ってバタンと閉めた方がいい。


はいさよならぁと言ってドアノブに手を掛けようとした時だった。不覚にも慌てていたから急いで手を掛けようとして突き指をしてしまったのだ!

あまりの痛みにせんべいが1枚、お盆からするりと落ちる。


しかし!母ちゃんのケタ外れの動体視力のお陰で床に落ちずに済んだ。ってか素早すぎていつの間に取ったか見えなかった。


まだいたのかよ!ってかせんべい食わないで!あっ、お盆に乗ってるウーロン茶まで飲み干しやがった!きっとそれ俺のだろう?ってか辛いなら食うなよ!ちょっ、他のせんべいまで食うな!持って来てくれた意味ねぇし!


「ってか、もう居間に戻ってよ!」


せんべいを食べたことに関しては何も言ってはいけない。言ったら「あたしのせんべいを食おうがどうしようがあたしの勝手だろ。食べたいなら買って来な」とか言うに決まってる。負け戦とわかって戦地へ赴くほど俺はバカじゃないのさ。


ウーロン茶しか乗っていないお盆を持ったまま、突き指に苦しみながらもドアノブに手を掛ける。もう母ちゃんのことは見て見ぬフリをしよう。このままここにいたら夜が明けてしまう。


ガチャリとドアノブを開けてチラリと振り向く、そして母ちゃんと目が合う。いつもなら俺のことなんか無関心のクセに、こういう時だけ見るのヤメて!


「さっきも言ったけど、人の道に外れるようなことは………」

「してないし、しないから!」


意味のわからない会話を続けないで!お願いだからもう降りてぇ!と言った俺に、「後でせんべい買って来な!」と捨て台詞を残して母ちゃんは階段を下りて行った。

ってか自分がせんべい食ったんじゃんかよ!食いたいなら自分で買いに行って!





ムダな時間を過ごしてしまったが、それが良かった。

部屋に入ると、高瀬はもう泣きやみつつあった。が、部屋にあったティッシュ箱は底をつき、机の上にあるポケットティッシュまで使ってやがった。ってか萌、持ってなかったのかよ!


部屋のド真ん中(布団は母ちゃんがちゃんとたたんでくれています)で2人は地べたに座っていた。高瀬はティッシュを鼻に押しつけたまま動かない。萌は高瀬の背中に手を添えたまま微動だにしない。


まさか俺の部屋って臭いのか?萌まで何だか渋い顔してるし。……窓開けるよ!ってか開けてよ!


これ飲んでぇとお盆を小さなテーブルに置いた俺は、その足で窓を開けるために移動した。しかし2人は俺の存在なんか知らないように無言を貫いている。しかしそのような対応は慣れっこだったので、(涙目で)ケータイを充電器に差した。


そして机のイスに座り、ジッと高瀬を見つめてみる。近くにいたら萌に睨まれるのは確実ですからね。


(太郎、直秀達は?)


おわっいきなりのアイコンタクトかよ。

萌からのアイコンタクトなんてまったく予想していなかったので少し驚いたが、俺は親指を突き立てて(もう帰ると思う)と返事した。


「………」


お願いだから何か送って!(そう、わかった)とかアイコンタクト送ってよ!

しかし萌はそれから何も言わずに高瀬の背をさすっていた。


………こんなときに不謹慎だけど、俺の部屋に女性が2人いる。この汚いを絵に描いたような部屋にべっぴんさんが2人いる。本当に不謹慎だと思いつつも萌と高瀬の顔をジッと見つめてしまった。


ブブブブブブブブ。


「おわっ!」


充電器に差して数分、ケータイが暴れ出した。いつの間にやらマナーモードにしてたのか?全然気がつかなかった。

見るとケータイの液晶画面には『親友』の二文字。


……タイミング悪いなマジで。


出ようかどうしようか迷っていると、萌が俺に視線を移し(出ないの?)とアイコンタクトを送ってくる。

でもこの状況で電話に出たらヤバイだろ。電話の主はきっと飛んで来るよ?それでもいいの?


「……も、もしもしぃ?」


萌の(出ろ)という無言の命令に渋々出ることにしました。どうなっても俺は知らないからね!


『あ、太郎?やっと繋がった』


ヤケに急いでいるような口ぶりでそう言った後、電話の向こうであかねが溜め息を吐いた。

マジでこんな時に電話されるとマズイ。高瀬が俺の部屋で泣いてる、なんて知ったら俺の命が危ない。


「ど、どしたのぉ?」


俺の話し方から相手はあかねだろうと勘づいた萌は、高瀬の背をさすりながらこちらに視線を向けている。……ガン見されたら話しづれぇ。

でもそんな状況になっていることなんて知るわけのないあかねは、騒がしい周囲の音に負けないように大声を張り上げる。ってか今どこにいるんだよ。部活の帰り道か?


『実は恭子からメールが入っててさぁ。あんたの家にいるんでしょ?』


「えぇ?!」


高瀬ぇ!お前わざわざ鬼神であるあかねにメールしてたのぉ?!なんでそんな戦争引き起こすようなことを!

うえぇぇ!と高瀬の方へ顔を向けると萌が苦い顔をしている。キミにもヤバイ状況になっていると理解できたのね?


『恭子いるんでしょ?』


「え?いや、あぁ、うん」


『なに?どした?』


ヤバイよヤベェって!おかしなこと言えない!なんとか誤魔化してさっさと電話を切るしかねぇ!


「あっ、で、でももう帰るトコだけど」


ナイス俺!ふとみると萌も(よし!)という顔になっている。このまま突っ込むしかしねぇ!


『ウソつくな』


「へ……?」


バレバレなのねぇ!?さすがあかねだ、俺とラブラブなだけのことはある!……殴られるから言わない!


どうしよどうしよ!と萌に助けて光線を出す…………こっち見てねぇし!俺を見ろよ、ガン見してよ!さっきまでいいだけこっち見てたのに!

これ以上ヘタなこと言ったら絶対に自転車をスッ飛ばして家に来そうだ。今夜はゆっくり眠りたいのに………どっちにしても萌は今日うちに泊まるんだっけぇ?!逃げ道ナシ!


何も言えずに固まっている俺に不信感を募らせたらしく、あかねが低い声を発する。


『何かあっただろ?』


ダメだ、もう逃げようがない。本当のことを言ってしまおうか。

と、その時でした。いつの間にやら萌が俺の目の前に立っていた。ってか忍者かお前は!少しくらい音を立てて!


「貸して」


スイと手を差し出してきた萌は無表情にそう呟いた。さっきまでは俺の一言一言に一喜一憂してたのに、ここにきてまさかの無表情かよ。

ふと萌の背後にいる高瀬に視線を向けると彼女まで真っ赤な瞳で俺を見ている。……こんな泣き腫らした高瀬をあかねが見たら、家が潰される。


「た、頼む」


神に祈る気持ちで萌にケータイを預ける。キミのことだ、なんとか凌いでくれると信じているよ!

無表情のままで受け取った萌は俺をチラ睨みしてから電話に出た。


「あかね?私」


俺の祈りなんて知らんという顔で萌は電話しながら高瀬の元へと戻って行く。ってか何で睨んだんだよ。


「今?太郎の部屋にいるけど」


いいぞ、その調子でうまく凌いでくれ!もしも成功したら……えっと、え〜……サラミ買ってあげる!


「え、き、恭子?かわ、代わるの?」


お前もタジタジかいぃ!クール萌が見る影もねぇよ!

萌は何やら代われと言われているらしく、挙動不審な対応をしながら高瀬の方へ視線を泳がした。

まだ鼻声の高瀬に代わったりなんてしたらダメじゃないか?ダメだよ!?


「う、うん。代わる」


ダメだってぇぇ!何を言われたか知らんが言い負かされてんじゃないよ!あかねの性格あなたも知ってるでしょ?!高瀬が泣いてるなんて知ったらあかねはゼッタイに一条家に乗り込んで来るって!

高瀬が杉なんとかせいで俺の胸ぐらを掴んで泣いたとき、それを見たあかねの鬼神ぶりにはマジで驚いた。何でそこまで!?って思うほど強すぎるタックル喰らわされたし。


嫌な予感が頭をかすめた俺は萌からケータイを奪おう、そして充電がなくなったフリして切ろう!と手を伸ばす。


「いっづぅ!」


突き指した手を叩き落としやがった!……ケガした方の手を出した俺も悪かったけどさぁ、何も言わずにバチンはないんじゃない?


右手中指を優しくさすっている間にケータイは高瀬の手の中へ移動してしまった。

ダメだ、今日明日中に俺は最低でも2回は殴られる。突き指したからカンベンしてって言っても逆の手を叩かれる。

もうこれは天に祈るしかないと高瀬を見つめた。


「もしもし?ごめんね、変なメールしちゃって」


わかってるならメールしないでほしかったなぁ、なんて祈っていると萌が俺の元へ近寄って来た。そして高瀬に聞こえないようにしてか、顔を近づけてくる。


………電話しながらも高瀬見てるからね!


「写真は?」


「は?」


意味がわからん!あかねの現在状況を報告してくれるんじゃないのかよ。

はぁ?な顔をしている俺の足を微妙に踏んだ萌はおもむろに机を指差した。攻撃しないで言葉にしろってんだよ。


……写真って、あっ中学の時のか?ってか今はそれどころではないのでは?


「え〜っと、ここにあるでしょ……だぁ!」


おかしいと思いつつも机の上のマンガを掻き分け写真立てを取り出した。と同時に右足のスネを思い切り蹴られる。

あなたが写真は?って聞いたんでしょうが!


「いづづ……何すんのぉ?!」


俺は弁慶じゃないけど泣くよマジで!

泣きながら萌に視線を移すと、何もされていないハズなのに彼女は頬を赤く染めていた。ってか何で?蹴られたのは俺だよ?笑いでも堪えてんの?


チラッと高瀬を横目で見た萌は俺から写真を奪うと、勝手に机の引き出しを開けてそれを隠した。

だから、思春期の男子高校生の机を勝手に開けちゃダメだろ!ベッドの下しかり、机もしかりだよ!


「黙れ」


何も言ってないんですけどぉ!これから何か言おうか悩んでたけど。


余計なことを言ったら殴る、と近距離でアイコンタクトを送られた俺は素早く頷く。高瀬はまだあかねと楽しく電話している。ってか泣いてたんじゃなかったの?


「うん、ありがと。それじゃあ………太郎?あっ一条?うん、ちょっと待ってて」


いいよいいよ高瀬!代わらなくていいから!ってか代わりたくないから!

あかねとの談話を終えた高瀬が立ち上がり、俺の元へ近付いて来る。それをジッと見ている萌、にヘルプを頼んでいる俺。


「話があるみたい」


「マジ?!」


苦々しい顔でいる俺に可愛い笑顔でケータイを渡された。こえぇ、出たくねぇ。助けて萌……また無視かい!いいよ、死ぬときはお前を道連れにしてくれるわ!


「もしもしラブラブあかねぇ?!ワタクシの愛するあかねちゃぁぁん?!」


『ップ、……プープー』


明日の俺、大ケガ確定!でも今はそれでいい、これからあかねに家に来ると言われずに済んだから良しとしようじゃないか。……明日ガッコ休みたい。


エヘヘッと不気味な笑顔を見せた俺を萌はやっぱりスルー、高瀬は首を傾げて「何言ってんの?」という顔を見せる。あなたのお陰だよ!


「それじゃあ、私帰るね」


あかねと何を話したか全くわからなかったが、何か吹っ切れた様子でそう言った高瀬は自分のケータイを取り出すと、目にも留まらぬ速さでどこかへと電話を掛けた。


「あっお姉ちゃん?迎えに来てほしいんだけど。え?さっきピアスあげたじゃん。うん、じゃあ待ってるから」


高瀬、お前はお姉ちゃんすらも手玉に取っているのか?ピアスでつられる姉ちゃんも姉ちゃんだと思うけど。

お願いねーと(空?)元気で返事をした高瀬は電話を切り、俺と萌の顔を交互に見つめてきた。

何を言われるか萌と無言で待っていると、ドアをノックする音が聞こえる。もう何度もノックしなくても聞こえるって!直秀のバカ、タイミング悪いんだよ。


あいよ〜と返事をすると、やっぱり直秀だった。しかし彼の顔は暗く、重い雰囲気を醸し出していたため誰も声を掛けようとする者はいない。ってか俺を見るな直秀さん!


「あの、高瀬さん?」


俺を見てたクセに高瀬を指名ですか?

直秀の声に反応した高瀬の瞳にはもう涙は見えなかった。ただ、泣き腫らした後だけあって目は赤くなっていたけど。


「杉原、帰りました」


「あ、そう?」


おいおいおいぃ、いちいち報告しなくていいから!萌も「いらない報告……」と言いたげな表情で直秀を見ている。


それに相反して高瀬は笑顔で「私も帰るから」とだけ言うと立ち上がる。それを暗い顔で見る俺達3人。





それから約数十分後、高瀬のお姉ちゃんが迎えに来てくれた。でも車から降りてくれず、顔を拝見することが出来なかった。


「それじゃあ今日はありがとね!」


バイバーイ、なんて笑顔でそう言った高瀬はそそくさと助手席に乗り込み、瞬く間に車は見えなくなった。

絶対に速度オーバーしてるから!


ふいぃと溜め息をついた俺と萌は車が去っても動こうとしなかった。直秀にはお前がそんな顔してたら高瀬の姉ちゃんが不信感を抱くだろ!と強く言ったから家から出て来なかった。


大きく伸びをしてから辺りを見回してみる、と秋月邸が目に入った……イヤでも目に入るんだよ!

あぁそういえば萌、今日うちに泊まるんだっけ。メンドくせぇけど仕方ないか、萌には高瀬が泣いてたとき側についててくれてたし。俺だけだったらどうしていいかわからずに変顔とかするしかなかっと思うし。


「萌、うちに泊まるんでしょ?」


「……帰る」


喜んでいいのぉ?!





































更新が遅れてしまい、大変申し訳ございませんでした。

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