第77話 狭い部屋で男女が5人
更新が遅れてしまい、大変申し訳ございません。
それと前の番外編を(萌の部分のみですが)修正させて頂きました。それと三点リーダー等も前の話より改正いたしました。一話ずつ直していきたいと思います。お手数をお掛けしますが、読んでいただけたら幸いでございます。
出て来いやぁぁ!と叫びそうな勢いの萌は現在、目が血走っております。辺りが暗くなってきている中でのこの形相、夢に出て来そうでかなり恐ろしい。
ここにあかねがいたら何とか静めてもらえると思うが、なにしろ僕しかいないわけでございまして。だから見なかったことにさせてください。
そぉっと怒り心頭中の萌から視線を外そうと試みた瞬間、鞄を投げつけられた。見ないようにしてあげた俺の心を悟ってよ!
でも萌は俺の必死の涙目に目もくれず、相変わらず辺りを見回している。…何で鞄を投げつけてきたのか理由すら教えてくれない。
「恭子!どこにいるの!?」
「萌、ちょっと声デカいってぇ」
よく大きい声出すと近所迷惑だとか俺に向かって言ってたクセに自分はいいのか?
シー!と人差し指を口元に持っていき(萌のじゃないよ、俺の口元だよ!)ウインクを3回見せた。頼むからトーンを下げて!
「うるさい!お前は黙ってろ!」
「いだっ!」
忠告してあげたのに蹴ることないでしょうよ!ご近所さんに怒られても知らないからね!
でもまたしても萌は俺を無視&辺りを警戒。高瀬と何かあったのか?
「え?!車?何の?どこ?」
なにやら慌て最高潮の萌は疑問形を連発。なんだってそこまで。
「……!」
何で俺を睨む?!近所迷惑だよって教えてあげたのに。
「ってか高瀬のヤツどこに隠れてんの?」
俺を睨み続ける萌は質問に答えてくれない。というか聞いてすらない。バッチリ目が合ってんのにスルーすんな!
う〜ん、俺の家は秋月邸の隣りだから迷うとかはないと思うんだけど。
空腹になってきた腹を押さえながら辺りを注意深く見てみると、さっき俺達に突っ込んで来た車が遠くに止まっているのが見えた。
また突っ込んで来たりしないよなぁ、逃げた方が安全か?いや、ここは男らしくガン見するのがいいか。
バレないだろうと遠くから車を思い切り睨みつけていると、萌がやたらと赤い顔を継続させて「あっ」と呟く。それと同時に彼女の視線は俺と同じ方向へ……すなわちあのスポーツカーへ。
まさか、あの車に高瀬が乗ってんの?なんてこった、友達を危険な目に遭わせるとは!ホイコーロー作ってもらわなきゃ許せん!
「…うん、わかった。じゃあ太郎の家の前で待ってる」
電話を終えた萌は深い溜め息を吐く。そして鞄返せと言われた俺は素直にそれを差し出す。俺はお前の執事かよ!鞄持ちをやらせないで!
「恭子来るって」
疲れが倍増したらしい萌はケータイをポケットへしまうと、思い切り溜め息を吐く。電話してただけなのにそこまで疲れる人もいないでしょうに。
「やっぱあの車に高瀬が乗ってたんだ?」
あっ待てよ。高瀬が来るなら萌は帰るのか?それならその方がいいに決まってる!もう卵食われたくねぇ!……きっと八宝菜は作ってくれないだろうが。
「萌は関係ないから帰った方が、イデェ!」
ニヤニヤしながらそう言ったのがマズかったのか、もう一度溜め息を吐こうとした彼女が俺の右足スネを狙って攻撃してきた。
なんでまた鞄アタック?あなた攻撃のレパートリー少なくなったんじゃないの?
「私にだって一応は関係ある」
そうボソリと呟いた萌に覇気がない。俺を攻撃したクセにゴメンとも言わずに俯いた。
あ、そうか。全くないってこともないか。でもせっかく高瀬が初めて一条家に来るってのに萌がいたらなぁ……いや、別にやましいことを考えてるわけじゃないですよ?ただ初めて家に来るってのに萌もいたんじゃ和気あいあいと話も出来ないってだけだよ?
俺、誰に言い訳してる?
「あっ来た」
え?と萌と同じ方向に視線を移すと、徐行しながらスポーツカーが近付いて来た。もう少しでぶつかるトコだったんだからね!初めから徐行お願いします!
「ごめんね突然来ちゃって」
俺達の前で停車した車の助手席から、私服姿が輝く高瀬が出て来た。ミニスカート、いいね。それに比べて俺達はまだ学生服に身を包んだままです。しかも右の袖が破れてきてる。
「萌も来てくれるんだ?」
「うん」
笑顔の高瀬と萌の会話を聞き流しながら運転席を覗いて見たが、窓が黒張りでよく見えない。俺は車の免許持ってないから詳しいことはわかんないけど、パトカーに見つかったら捕まるよね?
ってか高瀬、杉なんとかの次は車持ちの彼氏か?お前も現金なヤツだなぁ……俺じゃダメ?だよねぇ。
「あっお姉ちゃん、終わったら電話するから」
おね、お姉ちゃん?ちょっもうちょいよく見せて!あっ行かないで!なんか挨拶させてぇ!
辛うじて車内から手を振る影が見えた。顔が全然見えねぇ!少しでいいから窓を下ろしてください!ダメだ、行っちゃった。
バイバ〜イ!と走り去った車に手を振った高瀬は、萌をチラリと見る。そしてなぜかアセる萌。
アセる意味がわからんがわざわざ聞いて殴られたくないしなぁ。まぁいいか、話したくなったら勝手に言ってくるだろ。それより今は腹減って仕方ねぇ。
「あ、じゃあ立ち話もなんだから入りましょうか?」
このままだと萌に「お前は来るな」とか言われそうだ。自分の家に入らせてもらえないなんて悲しすぎる。
「そうだね!入ろ入ろ!」
上機嫌な高瀬はそう言うと萌の背中を押した。
そこまで機嫌が良いと逆に不安なんですがね。まさか俺達に気を使ってくれてんのかな。
そんなことを考えながら玄関のドアを開けると、鬼……もとい母ちゃんが立っていた。しかもなぜかめちゃくちゃ怒っていらっしゃる。
ドアの取っ手に手を掛けたまま固まった俺は、後ろにいる萌にどうこの状況を伝えようかマジで考えた。
これは絶対に杉なんとかのせいだな。あの野郎、家に来て何をやらかしやがった。
「太郎、おかえり」
「あ、た、只今戻りました…」
仁王立ちで腕を組んで立っている母ちゃんに見下ろされ、意味もわからずオドオドとした態度を取ってしまった。
うわぁめっちゃ怒ってるよ。目が据わってますよ。ここまでキレてる母ちゃんを元に戻す方法を俺は知らない。
どうしようか悩んでいると、ふと母ちゃんの後ろに人影が見えた。あれは直秀か?
目を細めてよぉく見てみると、彼はデカい体を縮こませて立っていた。そして母ちゃんに見つからないよう、俺にアイコンタクトを送ってくる。
(ゴメン兄ちゃん、何とかして)
無理だろ、どう考えても無理だろが。理由すらわからんのに爆発寸前の母ちゃんをなだめることは不可能だろ。弟なんだからわかるだろ!
固まったまま動かない俺を不審に思った萌が学生服の裾をキュッと掴んだきた。ダメだ、この状態の母ちゃんを女性2人には見せられない。頼むから何も言わずダッシュで秋月邸に避難してくれぇ。
「遅かったねぇ」
目が全く笑っていない母ちゃんがそうボソッと呟く。腕を組んだままだったが、何か変なことを言ったらその拳が俺を捉えそうで怖い。
ハッ!まさか、原因は俺なのか?家に帰って来ただけなのに、俺は一体何をやらかしたんだ!?
まだ縮まっている直秀に視線を移す……いねぇ!逃げやがった!
何とか言えよ、という目でいる母ちゃんに呪われそうになった俺は、全て一郎のせいにしようと考えました。
「じ、実は弁当を一郎に食われちゃって。それでお腹空いたからハンバーガーを食べて来ました……から遅くなりましたぁ」
「…それ、誰の金で食った?」
だ、誰のって……ちょっ睨み過ぎだよ母上様ぁ! 言っておきますが萌に奢らせたりしてないよ!そこまで男を捨ててません!
「安心してくれ母ちゃん。俺が自分の金で…」
「あんたの金じゃないだろ!」
「えぇぇぇ!?」
どういうことよ!?俺の金じゃないって、俺の財布に入ってた金だよ?俺のでしょうよ!
「2千円返しな」
「にっ…」
あれかぁぁぁ!?ってか母ちゃんがくれたんじゃんか!気分良いからってくれたんだよね?なんで今更?!
ズイと手を差し出してくる母ちゃんは俺の言い訳を聞いてくれそうにない。いや違う、言い訳じゃない。本当のことを言うしかない!
「あれは母ちゃんがくれたんだろ!」
「あたしはハンバーガーを買わせるためにやったんじゃないよ!」
じゃあポテトなら良かったんかい!って俺がもらった金をどうしようと俺の勝手でしょ!言っておくが参考書なんて頭をかすめもしなかったから!
「た、太郎?おばさんどうしたの?」
裾を掴んだままの萌が恐々そう聞いてきた。萌の後ろにいる高瀬は高瀬で家の中を見回しいる。
この状況でその図太さ、お前はどこにいても生きられるよ。
「それとあの直秀の友達なんとかしな!」
2千円は全て使い切っていたからどう誤魔化せばいいかと、萌に相談しようとしたらありがたいことに話が逸れた。
ってか唐突すぎ。
そうか、杉なんとかのせいで頭に血が昇りすぎてんだな。そんでもって今はとにかく何でもいいからいちゃもんをつけたい気分なんですね。しかも直秀じゃなく俺に。
絶対に今の今まで金やったこと忘れてたっぽいし。
「な、なんとかって?」
「うちが暗くなって仕方ないんだよ!」
く、暗くなってんの?そんな気配は全然しないんだけど。嫌なら杉なんとかを無視してせんべいでも食ってテレビ見てりゃいいじゃんか……そんなこと言えない。
「友達って、直秀の部屋にいんの?」
「そうだよ!お菓子持って行っても挨拶ひとつもしないで!そんな子に育てた覚えないよ!」
育ててないから大丈夫!怒り最高潮すぎて意味不明なこと口走ってるよ!
うぅむ、あの普段は温厚な(と思い込んでおく)母ちゃんをここまで怒らせるとは。杉なんとかも侮れねぇなこりゃあ。
……そういや俺も思いっ切り腹立てたことあったなぁ。温厚な(と思い込んでおく)俺があんなに腹立てたんだから、母ちゃんがこんなんなっても不思議はないか。
なんて思いつつもとにかく怒りを鎮めていただこうと俺は靴を脱ぐ。…靴脱ぐくらいしか思いつかねぇ。
片方の靴を脱ごうかどうか迷っていると、突然母ちゃんが素っ頓狂な声を上げた。
「あらあらあら!萌じゃないか!」
今更?!
ってか俺のすぐ後ろにいたのに気がつかなかったのかよ。怒りで我を忘れ過ぎだよ。
「あっ、こ、こんばんは」
突然のご指名を予想していなかった萌は慌てて挨拶を返す。ってか俺の時と待遇がまるで違うじゃんかよ。遅いとか金返せとか言ったのに萌には笑顔で挨拶ですか。
なんて考えていると、母ちゃんの目が輝いた。そう、視線の先には高瀬がいたんです。
「そっちの子は?もしかして太郎の…」
「違うからぁ!」
彼女かい?とか言うつもりだろ!違うからね!…でも速攻で違うと言うのもなんだか寂しい。「へ、変な誤解すんなよぉ!」とかでよかったかもしれない。
「なんだ、友達じゃないのかい?」
「え?あ、あぁそう友達…」
慌てた俺、アホなんですけど。そこは勘違いしてよ母ちゃん!
今の俺マジでバカじゃん!顔まで赤くしてアホじゃん!と、この上ない怒りを増幅させていると、高瀬が隣りにやって来た、そしてスマイル。
「高瀬 恭子です、初めまして」
そう爽やかな笑顔で挨拶する高瀬を見て思った。
これから杉なんとかと戦う……会うってのに、なぜそこまで陽気でいられるんだ?その前に杉なんとかと何を話すつもりだ?
作り笑顔なのか、そうじゃないのか見極めようとしていた矢先にとんでもない言葉が飛んできた。
「こりゃベッピンさんだね。あたしの若い頃にソックリだよ」
全力で否定してぇぇ!
爪が手の平に食い込むほど拳を握り締めたが、言えない。言ったら「金返せ!」っていきなり話を戻される。
悪い、と高瀬に目配せすると、笑顔で彼女は母ちゃんの有り得ない話に乗ってくれた。
マジでありがとう。母ちゃんはベッピンさんに向かって必ずそう言う悪い癖があるんだよ。中学の時にあかねにも言ってたし。遡っていくと小学生時代には萌にまで言ってた。
そんなイザコザもあったがいつまでも玄関にいるのもアレでしょうと母ちゃんは俺達を居間へ案内……違う違う!直秀の部屋に行くんだよ!
「ちょっ高瀬は直秀の友達に会いに来たんだよ!」
萌と高瀬の手を引き、歩き出そうとする母ちゃんを止める。ってか何で誰も止めようとしないんだよ。当たり前のようについて行くなよ2人とも!
つーか何て勝手な人だ。高瀬がうちに来た理由くらい推測できないかね。
俺の意見を聞いた母ちゃんは振り向くと一瞬だけイラッとした顔を見せる。「何だってぇ?」みたいな?……知るか!
ってかひでぇなオイ。正論を言った俺に対してそりゃひでぇ。
あっすいません、そうなんです。と高瀬は笑顔を継続させて謝らなくていいのに謝った。って俺を睨むな母ちゃん!
「なんだそうなのかい。………わかった、後でお茶持って行くからね」
今の一瞬の間は何だ?何を考えてんだかさっぱりわからん。
頑張りなよと高瀬と萌の背中を叩き、階段を上るよう命じたと思ったらいきなり振り向いた母ちゃんが俺の首根っこを掴んできた。
見てもないのにピンポイントで俺の首を掴むとは、タダ者じゃねぇ!
首を掴む手に力を入れているから放せと言いたくても言葉が出て来ない。実の息子に向かってこの仕打ちはないだろ!
「お前、くれぐれも人の道を外すようなことをするんじゃないよ」
人の首掴んでおいてソレはないんじゃないの?!その言葉そっくり返してもいいかい母ちゃんよ!
「ぐぎぎ…は、は?」
人の道?真剣な顔で凄まれても理解不能なんだけど。ってか頼むからもう放して!
「い、意味わかんねぇ…」
「テレビに映りたくないよあたしは」
「いや、だからわかんないってぇ…」
いざとなったらお前達を潰す!と耳元で囁かれた。そして「直秀にも言っておきな!」と捨て台詞を吐いて高瀬達の背中を見つめる。
全く意味が通じない。
と、とにかく人の道に外れなきゃいいんだな。………外れた覚えなんてないんですけどね!
それから母ちゃんの睨みを背に階段を上がった俺達は、直秀の部屋の前に到着した。ドアからは異様な雰囲気が醸し出されているので誰もノックしようとしない。母ちゃんが言った「暗くなって仕方がない」の意味が少しだけわかった気がする。
いでっ、足踏むなよ萌ぇ!口でノックしろって言って!
「な、直秀ぇ!」
萌に文句を言ってやりたかったが、ここはもうヤケクソでドアを3回ノックして返事も聞かずに勢いをつけて開けた。
「うわぁっ!返事してないのに!」
開けた瞬間、ドアの前に突っ立っていた直秀の引きつった顔が目に飛び込んでくる。さっさと自分の部屋に帰った罰じゃ!お前の変顔、萌と高瀬がしっかりと見届けたからな!
「返事が聞こえないから開けたんだよ」
「返事するヒマなんてなかったよ!」
うっせうっせ!お前に用はないんだ、俺は部屋の隅っこで小さくなってる男に用があんだよ!
……俺からの用はないが。
やんややんやと兄弟ゲンカをしていると、背後から誰かがひょっこり顔を出した。あっシャンプーの香りだー……これは高瀬だな?
「おじゃましま〜す」
やはりそうか。萌とは違う香りだったからすぐにわかったよ。俺って鼻がすごい利くかもしれない。
……その前に俺って変態かもしれない。
笑顔全開で高瀬は直秀に挨拶すると部屋の中へズンズン入っていく。怖いもの知らずって、恐い。
呆けている直秀を横目に高瀬は有無も言わせず杉なんとかの元へ歩み寄る。当の杉なんとかは高瀬を直視できないのか、体育座りで俯いている。
ってか高瀬がわざわざ来たってのにその態度はないんじゃねぇの?おい、聞いてんのかよ!ってイタッ!直秀君イタイってば!
まだ俯いたままでいる杉なんとかに一言文句を、と思ったら直秀に腕を掴まれて引っ張られた。
「何すんだ……」
「邪魔しちゃダメだって!あっ高瀬さん、俺達兄ちゃんの部屋にいるんで!」
気安く高瀬さんて言うな!高瀬先輩とかにしろ!慣れ慣れしいんだよ!……俺もだけど!
放せやぁ!と暴れたが、さすが俺より長身&力持ちだ。軽く腕を捻られたよ。
痛い痛い!とマジで訴えていると、キョトンとした顔で高瀬が振り向いた。
「え?私は別にいいよ?」
「いや、でも」
いいって言ってんじゃんか!放せよほら!
イッテェなぁ!と兄の威厳を保とうと直秀の足に軽く膝蹴りを喰らわす。
…あれ?なんか1人足りないような気がするのは気のせいですか?
「…」
ふと視線を感じて振り向くと、萌がドアの隙間からジッと中の様子を観察していた。いや違う、その目はしっかりと俺に向けられている。
ってか何で俺を見てんの?頼むから俺を睨まないで!
「萌、何で入ってこねぇんだよ?!」
ここはツッコミを入れさせてください!だっていつものあなただったら俺を吹っ飛ばして部屋に入って来るでしょ!俺なんて見えてないみたいに扱うはずなのに!
しかし俺のそんな思いとは裏腹に、彼女はジッと隙間から様子を伺っている。マジで何か言ってくれ。隙間から片目しか見えてないんだよ。
萌に睨まれて固まっている一条兄弟、杉なんとかに近づいている高瀬、俯いたままでいる杉なんとか。…なんの構図だよこれは。
高瀬がどう口火を切るのか待っていると、杉なんとかの真正面に立っていた彼女がしゃがみ込んだ。
そこで「私、あんたのせいで被害を被ってんだけど」なんて言ったらすげぇんだけどなぁ。まぁ見た目に似合わず良いヤツだからな高瀬は。いくら何でもそこまでは。
「いい加減にしてくれない?」
それはそれで厳しいお言葉!
まだ俯いている杉なんとかなんて気にせずに高瀬は続ける。
きっと腹に溜まってるものを全て出してしまおうというお考えなんでしょうな。ここは立ったままで固まっているのが無難だ。わかったか直秀!
「悪いけど私はもう何とも思ってないから。だからメールとか電話されても困るし」
「…」
まだ杉なんとかは俯いたままピクリとも動かない。その異様な雰囲気に背中を押されたらしい萌が俺と直秀の間に入ってきた。一瞬だけ萌の方へ目を奪われたけど、すぐさま高瀬の方へ視線を戻して行方を見届ける。
「それに直秀君に迷惑掛けてるってわかんない?父親が金持ちだから俺に怖いモノなんてないとか調子いいことばっかり言ってたクセに、私にフラれたからってそれ?その前に金持ちだから何だっていうのさ。年下のクセに何でもプレゼントしてやるとか言っちゃって。自分で働いたお金でもないのによくそんなこと言えたよね」
まだまだ続く高瀬のマシンガントークを聞きながら、ちょっと話が逸れてないか?と萌に視線を移す。彼女も俺が何を言いたいのかわかってくれたみたいで、小さく頷く。
しかし話題が金持ちの話になってしまっているせいか、それから萌は居心地が悪そうに俯いてしまった。
大丈夫だ、お前のことじゃないのは確かだ。
(兄ちゃん、何とかならない?)
気づいてもらえないアイコンタクトを萌に送っていると、なぜか直秀が返事をしてきた。
てめっ、こうなったのは何の考えもなしに家に連れてきたお前のせいだろが!俺に責任転嫁するな!
(無理!お前が何とかしろ)
兄弟だから練習せずともアイコンタクトは出来ます。冷や汗掻いてもダメ!ムリなものは無理!
(も、萌ちゃん)
萌に言うな!それこそこの部屋が戦場と化すぞ!
(…)
「イデッ!」
何でこの状況で俺を蹴る?!