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番外編3 俺僕私、私の近況

大幅に改正をさせていただきました。

「美咲ぃ、頼むからメールとかじゃなくて普通に会話してくれよ」


「…」


なんだよコイツ、妹のクセして無視か?ケータイばっか見てて電柱に当たって転んでも知らねぇかんな!意地でも助けてやらないから!……誰か俺を助けて!


勝手にハンバーガーショップに入って、秋月と太郎の会話の中に勝手に入って、そんでもってジュース片手に勝手に店を後にした美咲を、俺は睨まずにいられなかった。


慌てて出てきたから残ったハンバーガー置いて来ちゃっただろ!俺の金だと思って甘く見んな!


「あっメール…うるさい?お、お前なぁ!」


並んで歩いてんだから普通に会話してくれよ!送信料とか考えろ!料金は親父の給料から払ってんだろが!そこんとこちゃんと考えてケータイ使え!


ふざっけんな!と、ポケットに手を突っ込んで威嚇しながら歩く。

太郎とかと話してる時は笑顔振りまいてんのに、何で俺と2人になると途端に無言になんだよ。


あれか、脱衣場でお前のハダカ見たからか?ってアホか!妹のハダカなんざ見たって嬉しくとも何ともねぇんだよ!まったく、色気づきやがって…俺のハダカ見てもいいから何か話して!


なんて念力が通じるはずねぇか。いいよ、俺が勝手に話し始めるからお前はそれに乗っかるカタチでついてこい!


「…あ〜あ、お前がしゃしゃり出るから円ちゃんのこと怒るに怒れなかったじゃねぇかよ。その前に何でお前ついて来たんだよ、お呼びじゃねぇのに」


強く言えないから小声でまくしたてるようにそう言った。でも、美咲はケータイしか見てない。そこまで俺のこと嫌いか?!もういいよ、今日から俺とお前は兄妹でも何でもねぇ、ただの同居人だ!


「…お腹空いたね、美咲ぃ」


「…」


お願いだからケータイから目を離して何か言ってーーーー!





 ――――――――





「…はぁ」


一条君達と別れてから、出てくるのは溜め息ばかり。なんであんなことを言っちゃったんだろう。僕ってヤツは本当に情けない。


校門で2人に手を振り、走って塾まで来たはいいけど全く身に入らない。開いたノートも真っ白だ。

そんなやる気の出ない僕に塾の講師が鋭い視線で睨んでくる。だけど今の僕にとっては怖くもなんともない。溜め息しか出てこない。


「佐野!だらけるな!そんなんじゃ志望校へ行けないぞ!」


「あ、すみません」


謝りながらも暗くなりかけた窓の外に目線を移し、会社帰りのサラリーマンや寄り道中であろう学生達が行き交うのをぼうっと見つめる。


今頃、一条君と秋月さんは2人で帰ってるんだろうな。と、僕は彼女の顔を思い浮かべた。


秋月さんのことは入学式の時から気になっていた。そして入学当初から、彼女は人気があった。でもそれはお金持ちだからとか、綺麗だからとかじゃなくて(確かに綺麗だけど)、クールを装った彼女の本当の笑顔を見たら好きにならずにはいられなくなってしまうような、そんな魅力があった。


秋月さんとお近づきになりたいなんて言う男子は数知れずいる。けど、彼女の隣りにはいつも一条君がいて、それでてっきり皆は2人が付き合っているものだと信じて疑わなかった。毎日のように2人は一緒に帰っていたし、休み時間も授業中だって、チラリと見れば何かと話をしていたし。


そんな秋月さんを影から見守る集団と出会い「何で一条なんだ!?」と、一緒に叫ばされた記憶もある。

だけど彼女本人はそう思っていないらしく、少しでもその話をしようものならものすごく真っ赤な顔を見せて怒ってたっけ。


でも、僕は知っているんだ。


この前、秋月さんは一条君に向けて誰も見たことのないような優しい微笑みを見せていた。でもそれは一条君が遠くにいるときだけで、彼が近くに来ると不機嫌そうな顔に戻していたけど。


あれは僕に対していつも見せてくれる笑顔とは違う微笑み。一条君を見る秋月さんの瞳は、恋をしているそれと同じだ。ただ一条君が気づいてないだけで。


「好きだからわかるんだ、かぁ」


自分で言って後から恥ずかしさが込み上げる。秋月さんに告白すると一条君に宣言してからというもの、真正面から彼女を見られなくなってしまっていた。

会話をしても何をしても、目を逸らさずにはいられない。告白をして断られたらどうしようと考えるだけで、僕は前に進むことができなくなった。


でも、それでもあの微笑みを僕に向けて欲しいと思ってしまうのは、やっぱり諦められないからかな。


文化祭の準備を一緒にしてくれたときの彼女の笑顔は、今でも忘れられない。それまであまり話なんてしたことがなかった僕に、「一緒に頑張ろう」と言ってくれた彼女の笑顔。

一条君に向けられる笑顔とは違うけど、僕にはそれで充分だった。


そして僕はそんな彼女に恋をした。この笑顔をずっと見ていたいと思った。


でも僕は………。



講師に見つからないように携帯電話をコッソリと出し、「秋月 萌」と表示された画面をジッと見つめる。

いつもここから勇気が出ない。このボタンを押せば秋月さんに繋がるのに、押せないでいる。


ダメだ、僕じゃ秋月さんとは釣り合わない。誰かに言われたんじゃなく、僕自身がそう思う。


「あぁ、僕って本当にダメ人間だ」


「佐野!自分で自分を卑下するようなことを言うな!」


「あっすみません」


「頑張れば何とかなる!為せば成るだ!」


「…はい」


頑張れと言われても、勇気が出ないんだから仕方がないじゃないか。…勉強のことか。


熱心に語ってくれる講師に感謝しつつ、携帯の電源を切った僕は机の横に掛けてある鞄にそれを放り投げた。





 ――――――――





「もしもし?」


今日は自分で言うのもなんだけど、珍しくナンパされに行かず自分の部屋でくつろいでいた。家には誰もいない。

お父さんは仕事、お母さんは…お隣さんと会話が弾んでるのかな。


やることもないのでベッドに寝そべっていると、携帯電話が鳴った。メンドくさがりながらも表示を見ると、「一条 直秀」の文字。

あっそっか。この前私のクラスに来たとき教えてたっけ。でもこんなに早く連絡をくれるなんて、私のことが気になってるのかなぁ?


一条とはあまり似ていない直秀君は身長も高くてカッコ良い。まぁ私から言わせてもらうとまだちょっと幼さが残ってるかなぁ。そこいくと一条がとても大人っぽく見えるんだよね……似てないけど。

あっでも一条だってソコソコはカッコ良いと思うんだけど、あの性格じゃね。それに萌に悪いし。


『あっ高瀬さんですか?一条ですけど、今大丈夫ですか?』


「うん、どしたの?」


一条と声だけは似てるから、なんだか敬語で話されると可笑しい。っていうか、こそばゆい。


『あの、杉原のことなんですけど』


「…杉原?」


そういえば学校休んでるって聞いたなぁ…でもあれ以来アイツとは顔も合わせてないし、行きそうな所だって知らないんだから聞かれても困るんだけど。


「杉原がどうかしたの?この前も言ったけど、私アイツが行きそうな所なんて知らないよ?」


『あ、いやそうじゃないんです。実は今、杉原のヤツうちに来てるんですよ』


「うちって、直秀君の家?」


直秀君の家、ってことは一条の家だよね。秋月邸の隣りにある小さな家……ゴメン一条。

でもどうして私に報告してくるんだろ。もうアイツとは何の関係もないってあの時直秀君に言ったハズなのに。


少し混乱して言葉に詰まっていると、とても言いづらそうな声で直秀君は話し始めた。


『あの、もし良かったらなんですけど、今から家に来てもらえませんか?』


「え?」


はっきり言って、イヤだ。どうしてわざわざ別れた男の元へ行かなくちゃいけないのかわからない。

来られたらそれはそれで困るけど。それにいつまでもウジウジしてる男、私嫌いなんだよね。


『学校の帰りに一人でゲーセンにいるとこムリヤリ連れて来たんです。でもずっと黙ったままで何にも話さなくて。だから高瀬さんが来てくれたら何か変わるかもしれないって思って…』


「ふぅ〜ん」


ホントに男らしくない、私をフッたくせに。あれからやり直したいってメールとか何度も来てたけど、全部ムシしてたから学校休んでるんでしょどうせ。


「ごめんね直秀君。私行けないや」


『え、あの、そこをなんとかお願いします!杉原が高瀬さんにしたこと、全部アイツから聞きました!俺だってそんなヤツの肩を持つのイヤですけど、友達なんです!あんなに暗くなってるアイツを放っておけないんです!』


直秀君の必死の願いを聞いた私は、やっぱり一条の弟だなぁ、なんて感じてしまった。


一条ってオネェ言葉とか使ったりして萌のことよく怒らせたりしてるけど、根はすっごく良いヤツなんだよね。いつも周りに気を使ってたりして……私にとっては良いヤツ止まりだけど。


きっと直秀君は一条のそういう所を見てきたんだ。だから杉原みたいなヤツのコトそんなに心配できるんだよね。


あ〜あ、付き合う人を間違えたかもしれない。


「…今から行けばいいの?」


『え、あっ来てくれるんですか?』


「そこまで言われたら行かないわけにもいかないでしょ。でもこれだけは言っておくけど、私は杉原に会いに行くんじゃなくて、直秀君の為に行くんだからね」


ちゃんとここは言っておかないと。


これは貸しだからねと強く念を押した私は、玄関のドアが開いた音を聞いた。と、同時にバタバタと階段を上がる音も聞こえる。

この無意味な慌ただしさはお姉ちゃんが仕事から帰って来た証拠だ。


あっそうだ、もう外も暗くなってきたし、お姉ちゃんに送ってもらおっかな。イヤって言われたら私のお気に入りのピアスをちらつかせれば飛びついてくるよね。あれお姉ちゃん欲しがってたし。


『じゃ、じゃあ待ってます!』


「うん、それじゃ後で」


電話を切り、ふと思いついてケータイをいじる。そしてデータフォルダに残っている杉原と一緒に撮った画像を見た。


お金持ちにも良いヤツとそうじゃないヤツがいること、私は身をもって体験した。男はお金じゃないよね、ハートでしょ。うん、そうに違いない。


私は躊躇することなく画像全てを消去した。




直秀君からの電話を受けて数十分、私のお気に入りのピアスをつけて、ルンルン気分な姉が運転する車で秋月邸の近くまで来た。と、萌と一条を見かけた。


一条達まだ帰ってなかったんだ?っていうか、やっぱりあの2人はどう見ても恋人同士だよね。

なんて思いながら見ていると横からお姉ちゃんが、


「夜道に男と女が2人、こりゃあ絶好の機会じゃない?」


何が?と、聞く前にシートベルトが胸に思い切り食い込む。突然スピード出してどうしたの?


「お、お姉ちゃん危ないって!」


「行けぇ!」


ギリギリのところで一条が萌を引っ張り一緒に道路の端へダイブした。

危うく姉の運転する車で友達2人とサヨナラをさせられるところだったよ。


突然のことで少し息が上がった私は恐る恐るバックミラーで一条達を確認する。よかった、2人とも無事みたい。


でも。


バックミラーに映った2人は、とっくに車は走り去っているというのに抱き合っていた。そしていつまでも離れることなくお互いがお互いを抱き締め合っている。


「ね?私の言った通りでしょ?」


何が?


「私の推理では、あれはまだ恋人になれてないね。だから私のお陰」


だから何が?





 ――――――――





「萌ぇ!」



情けないことに、私は固まって身動きが取れなくなっていた。


後ろから猛スピードで突っ込んで来た車に気づく前に、太郎に抱きかかえられたまま道路の端に飛んだから。


そして思いがけず、太郎の背に手を回してしまっている私がいる。少し厚い胸板が私から自由を奪っていた。何度かこういうことがあったけど、あれは全て事故で……今回もそうだけど。でも、ヤバイかもしれない。今、頭を上げたら太郎の顔が目の前に………殴ってしまう。


……ってちょっと待ってよ、何で慌ててんの私。別に太郎の顔が近くにあるからって別に、別に、別に……なんか腹が立ってきた。


「萌、大丈夫か?」


頭上から太郎のやけに震えた声が聞こえてくる。私は声を発することが出来ずにただ頷いた。

ダメだ、ここで顔を上げたらきっと笑われる。絶対に今の私、顔が赤くなってる。意味がわからないけど、絶対に顔赤くなってる。そんなの太郎に、バカ太郎に見られたくない。見られたら一生の恥だ。「何で顔赤くなってんの?」とかって何も考えずに言いそうだし。


でも、何とか太郎から離れたい………でも、なぜか離れたくない。いい匂いもしないし、憧れてる人でもないのに。


「ち、ちょいぃぃ!」


身動きが取れずにそのままでいると、太郎の耳をつんざくような絶叫が辺りに響いた。

本来ならここで太郎を蹴っているところだけど、顔の赤みが取れたか判断出来ずにいたからそのまま流すことにした。というか、うるさいけど。


「あっ、も、萌?あの」


何とか離れて欲しいという太郎の気持ちが読める。でも、もう少しくらい待てないわけ?こんなことになったのお前のせいなんだから……車のせいでもあるけど。


それに、なんでかわかんないけど、まだもう少しだけこのままでいたいと思っている私がいる。……な、何で?何でこのままでいたいとか思ってんの?ば、バッカらしい…。


………でも。


「黙れ」


こう言っておけば太郎のことだからそのまま黙ってくれるに違いない。鏡で自分が今どんな顔になっているか確かめたかったけど、それはムリな話で。


私は太郎にバレないよう顔を彼の胸にうずめた。そして少しの間、無言のままで考えた。



太郎はいつでも私の言うことに対しておちゃらけた返答をしてくる。それは本当に私のことをからかっているのか、わからない。変な女言葉とか使うし……どう考えても私のことをバカにしてるとしか思えないけど。でも、それを聞いて彼を蹴ったりしてしまうけど、心からイヤとは思っていない自分がいることも確かだ。いや、女言葉はイヤだけど。





「あの、ちょっと?」


黙れと言ってから数十秒、いいと言っていないのに離れようとするから太郎の背中に回している手に力を込めた。それに伴い、太郎が痛がる素振りを見せる。


「もう、は、離れた方が良くないですか?」


だからもう少しくらい待てないの?力を込めてるんだから気づきな。


「…嫌だ」


自分でもおかしいくらいに小声になってしまった。きっとバカな太郎のことだ、絶対に聞き返してくる。


「今、何て言ったのん?」


「嫌だ」


きっとまだ顔は赤い。絶対に太郎なんかに顔を見られたくない。見られたら有無を言わさず蹴りそうだ。


「もう少し黙って固まってろ」


「はいぃ?」


そう素早く言ってまた力を込める。太郎はそれから本当に固まったかのように動かない。

最初からそうしてくれたらよかったのに、鈍感太郎。


……わっ!なんで?固まってろって言っただけなのに何で太郎が力入れて抱き締めてくるわけ?!…許せない。


「ぐえぇぇ!」


渾身の力を込めて太郎を抱き締め返す。プラス額で思い切り胸を押して攻撃。私に逆らおうなんて百年早いんだよ。


「ちょ、ぐる、苦しいぃ」


ぐぇぇと苦しむ太郎の声を聞いて我に返り、ふと力を緩めた。

あ、今のでもしかしたらもう顔の火照りも冷めたかもしれない。もう離れても…いいか。


その時、もう力は緩めたというのにまだ苦しんでいる太郎の顔をチラリと見て、ふとあることを思い出した。


ノブ君とハンバーガーを食べていたとき、偶然会った私に向かってやけに太郎が突っかかってきたんだ。変な(というよりは気持ち悪い)言葉とか使って、よりにもよって私のこと知らない人なんて言って腹立たせてくれた。その時の彼の顔がフラッシュバックする。……今思い出しても腹が立つ。


どうしてあのとき太郎はそんなことしたんだろうと考えて、その日の夜はよく眠れなかったのを今でも覚えている。直接電話して問いただそうとも思ったけど、なぜか掛ける勇気がなかった。

まぁ、次の日に思い切り殴って、言いたいこと言ってやったから少しはスッキリしたけど。


でもあの一件で良くわかった。太郎は私が嫌いだ。

あの時そう聞いたら、アイツはただ私に「は?嫌い?」とかなんとか聞き返してきただけだったし。図星だったから何て言えばいいかわからなかったんでしょどうせ。

私とノブ君が付き合ってるって勝手な誤解までして………ってどうして訂正したんだろ。別に太郎にどう思われてようが関係ないのに。


関係、ないハズなのに。


「太郎」


そう言って私は彼から離れる。


コイツはこんなことされても困るって思ってるに違いない。私も太郎のことが嫌いだって彼はそう思ってる。じゃあもし、もしも私が太郎のことが好きだって言ったら、コイツはどうする?慌てる?それともまた変な行動を取るかな。


「…もしも」


言ってみようかと心の中で誰かが囁いた。それは自分でも思ってもみない言葉で。言ったらどうなるんだろう、何かが変わるのか。


「も、もしもって?」


意味がわからないという顔でいる太郎に、言ってしまえと誰かが背中を押してくる。そうだ、聞いてみるだけなんだから、深く考えずにさらっと言ってしまえばいい。


「もしも私が、太郎…」


…やっぱり無理、駄目だ。言ってもどうしようもない。

それにそんなことを言ったら絶対に引かれる。変な顔とかして誤魔化される。そんなことで太郎のこと蹴りたくない。


「俺がなに?」


何を言われるかと恐れている太郎に、私は何も言えなかった。言ったら全て終わってしまいそうな、そんな感覚にも襲われた。


「…何でもない」


それが精一杯だった。やっぱり無理してこういうことを言ってはいけない。顔がまた赤らんでいくような気がして、私は顔を伏せた。


…どうして、こんな簡単な言葉が出ないんだろ。「好き」なんて、たった二文字なのに。


自分の短い人生を振り返って、私は人に向かって「好き」と言ったことなんて皆無に等しいことに気がついた。ノブ君のことは大好きだったけど、口には出してなんかなかった。それに、今はもうその気持ちは薄らいでる。


じゃあ、今は誰が好きなんだ?と、誰かが呟いた。


誰がって、そんなのいない………。

いないでしょうと、囁いてきた誰かに返す。自分のことは自分が一番よくわかってる。そう、今の私に好きな人なんていないんだ。


じゃあ、どうして太郎と離れたくないと思った?


離れたくないなんて、そんなこと思ってない。そ、そう私はただ顔が赤くなってるのを見られたくなかっただけで……。


じゃあ、どうして顔が赤くなった?


それは、突然だったから驚いて………それがなに?それだけで、顔が赤くなっただけで私が太郎を好きとか言うわけ?有り得ない、こんな女言葉連発するようなヤツ。絶対にないから!


じゃあ………。


じゃあじゃあってうるさい!あんたどっか消えろ!もう私の中に入って来るな!





それから自分の中にいる『誰か』を消し去りたくて、女言葉とは到底思えない太郎の話に付き合っていると恭子から電話が掛かってきた。


この時間に電話が来るなんて珍しい。というか、メールじゃないのが珍しい。いつもならメールで済ますはずの彼女から電話なんて、イヤなことしか思い浮かばないんだけど。


何かあったのか尋ねると、太郎に電話したが繋がらないとのことだった。


恭子が太郎に何の用事だろう?しかもこんな時間に、急ぎの用でもあるのかな。なんて思いながら私は内心の冷や汗を隠し、太郎へ携帯電話を投げつける。


ちょっと待った。冷や汗を掻く意味がわからない。しかも内心て、なに?あぁもう自分に腹が立つ!『誰か』のせいで自我が崩壊寸前だから!


消えろ!と『誰か』を追っ払いつつ微妙に太郎の話に耳を傾けていると、どうやら杉原のことで恭子が近くまで来ているらしい。

恭子のヤツ、もしかして杉原とヨリでも戻したのかな。でも学校じゃ「メールとかされて困ってるんだよね」とか言ってたのに。しかも本気でイヤそうな顔しながら。


「離れた?」


と、太郎が意味不明な発言をはじめた。離れたって、どういう…あっ!


「離れたって、どういうだぁ!」


話をしている太郎の顔面めがけて思い切り鞄を振り回した。大丈夫、コイツはまだ何もわかっていない。今しかない!


「ケータイ返せ!」


痛がる太郎から無理矢理ケータイを引ったくり、辺りを見回しながら恭子に叫ぶ。


「ちょっと恭子!どこにいるの!?」


見られた、絶対に恭子のヤツ見た!早く誤解を解かないとマズい!噂好きなあの子のことだ、あかねとか、もしかしたら宮田とかにも報告する!そして私は太郎を殴る!………殴ることに意味はないけど。


顔面に鞄攻撃を喰らった太郎が涙目で私を見てくる。悪いけど今はそれどころじゃないんだって!


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